『82年生まれ、キム・ジヨン』経由で韓国社会のいまを勉強してみました。そしてアカウントプランナーの発想法について

『82年生まれ、キム・ジヨン』経由で韓国社会のいまを勉強してみました。そしてアカウントプランナーの発想法について

中野 慧(ケイ)

中野 慧(ケイ)

こんにちは。エディター兼ディレクターのケイ(@yutorination)です(※アイキャッチの写真は本記事の書き手の僕ではなく、弊社アカウントプランナーのノブさんです)。LIGではクライアントのWebメディア/サイトの編集・運営サポート、コピーライティング、それとLIGのYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」の制作を担当しています。

さてこの連載は、毎週なにかひとつのコンテンツを課題として設定してそれについて書き、そして記事後半では本文と何の関係もないけど今週LIGのYouTubeで公開した動画について紹介する、というものです。うーん、わかりにくいですね。

 

こぼれ話
ちなみにアイキャッチが社員の顔写真になっているのは、毎日出さないといけないLIGブログの社員記事が足りておらず、毎週サクッと出せるちょっとコンテンツ性のある読みもの記事を出してラインナップを安定させたい、でもデザイナーにアイキャッチ制作を依頼してる暇がない、一応その社員が出ている動画を後半で紹介しているし、という事情でこうなっているだけでした。
本文ではほぼ関係ない話をしているのに社員に申し訳なさすぎるので、来週からはちゃんと内容に沿ったアイキャッチになる予定です!

これまでの連載を少し振り返ります

先週までに10本出し、うち2本(『ゲーム・オブ・スローンズ』、『テネット』を取り上げた回)がLIGブログ殿堂入り(殿堂入りの基準は公開2週間で5,000UU(ユニークユーザー)以上です)したりして、お遊び的な性格の強い企画にしては一見それなりに成功しているように見えます。

今回は最初に、簡単に数値を振り返ってみようと思い、これまで公開した10本のうちPV下位TOP3(と、平均滞在時間 ※11/7までのデータです)を紹介します!

どどん!

 

PV数 平均滞在時間(分)
(1位)

アメリカ大統領選の季節に見てみてほしい映画『オール・ザ・キングスメン』、そして記事広告の作り方について

642 1:35
(2位)

『風と共に去りぬ』と差別とフェミニズム、そして小さな事業部を成長させるために必要なこと

749 4:07
(3位)

『激動の昭和史 沖縄決戦』と、フロントエンドエンジニアの生きる道

885 2:33

というわけで、先週公開した「アメリカ大統領選と『オール・ザ・キングスメン』」をテーマにした記事が第1位となりました。

PVと平均滞在時間をどうみるか

ちなみにPV数は、もちろん内容を測る一つの指標にはなりますが、基本的には「タイトルとアイキャッチが魅力的か」が重要です。

でも「タイトル詐欺」「アイキャッチ詐欺」でうまく記事をクリックさせたとしても、内容に魅力がなければ読者はすぐ画面を閉じてしまいますよね。なので平均滞在時間も重要です。平均滞在時間は、要は「その記事を開いた人がどれぐらいちゃんと中身を読んでくれたか」を測る指標になるのです。

平均的なLIGブログの記事は2分30秒〜3分ぐらいですね。

そして、だいたい4分を超えると偏差値60ぐらい、4分30秒を超えると偏差値70ぐらいの記事、というイメージです。これは他のメディアやブログでも同じように考えてよいと思います。

今回、栄えある1位に輝いた「『オール・ザ・キングスメン』とアメリカ大統領選」の記事は、PV数、平均滞在時間ともに低いですが、なかでも滞在時間が驚異の1分35秒を記録しています。これは「タイトルとアイキャッチで読者の関心を惹きつけられなかった上に、記事をクリックしてくれた読者もすぐに閉じた」ということだと考えられます。

一方、2位の「『風と共に去りぬ』と差別とフェミニズム」は、「タイトルとアイキャッチでアテンションを高められていないが、記事をクリックしてくれたユーザーの興味はかなり持続させられた=そこそこ内容にも興味を持ってもらえた」ということになります。

3位の『激動の昭和史 沖縄決戦』の記事は、なんとも微妙な数字で評価に困る、というのが正直なところですが、『オール・ザ・キングスメン』の惨敗に比べ、「50年前の」「今はそれほど有名でない作品で」「悲惨な戦争映画である」ということを加味すると健闘したのかもしれません。

逆に数字のいいもの

気を取り直すため、上位TOP3も載せたいと思います!

 

PV数 平均滞在時間(分)
『ゲーム・オブ・スローンズ』と多極化する世界、そしてアカウントプランナーの成長について 8,973 5:46
クリストファー・ノーラン最新作『TENET テネット』について書くのが辛くて俺はもうダメかもしれない。そして登場する陽気なテクニカルディレクター 7,411 5:32
『チェンソーマン』で描かれる「傷つく」物語、そして新卒でベンチャー企業に入社するということ 3,111 2:50

上位2つは滞在時間はなんと5分30秒を超えているので、内容としてはかなり良かったと言えそうです。一方、『チェンソーマン』を取り上げた記事はクリックはしてもらえたものの滞在時間が長くないので、読者の興味をうまく持続させられなかった、ということになります。

 

総じて、50年以上前のコンテンツは関心が低く、最新のヒット作を扱うと関心が高いというあまりにも当たり前な結論が導かれますが、とはいえ、『風と共に去りぬ』のように80年前の作品をテーマにした回でも滞在時間4分を超えているものもあるため、僕のライターとしての筆力次第というところもありそうです。

正直、下位1位の『オール・ザ・キングスメン』は、作品としてはめちゃくちゃ面白いと思うので、それを僕が面白く紹介することができなかったということです。「戦前が舞台の」「外国の」「政治劇」をどう興味を持ってもらえるように書けたのか、もう少し考えてみたいと思います。

今週は公開中の韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』です

さて今回は公開中の韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を取り上げてみたいと思います。

映画オフィシャルサイトはこちらへ

韓国文化というと、日本ではK-POPアイドルや、『愛の不時着』『梨泰院クラス』などの韓国ドラマが大人気で、世界的にも『パラサイト 半地下の家族』が非英語作品としては初めてアカデミー作品賞を受賞しましたよね。

『82年生まれ、キム・ジヨン』とは

『82年生まれ、キム・ジヨン』は2016年に出版された小説で、韓国では130万部を突破したそうです。韓国は人口5000万人で日本の半分弱ですので、日本でいえば『もしドラ』級のヒットということですね(『もしドラ』は250万部を超えています)

『もしドラ』とは全然違う点は、『82年生まれ、キム・ジヨン』はかなり社会派の作品であるということです。

 

あらすじ
結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言う。「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり、夫にアドバイスをする。「体が楽になっても気持ちが焦る時期よ。お疲れ様って言ってあげて」。ある日は祖母になり母親に語りかける。「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」――その時の記憶はすっぽりと抜け落ちている妻に、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが・・・。(映画オフィシャルサイトの「Story」より引用)

『キム・ジヨン』は、映画になる前に小説が邦訳され、こちらが日本でも15万部を超えるヒットとなりました。

現在のフェミニズムの盛り上がりとも共振し、河出書房新社の文芸誌『文藝』が「韓国・フェミニズム・日本」という特集を組むと文芸誌としては異例の3刷を記録、現在は単行本としても刊行されています。

ちなみに『風と共に去りぬ』の回でもフェミニズムについて触れたのですが、僕がなぜなぜフェミニズムに興味があるのかと言うと、もともと出版業界の周辺で仕事をしていて、そこにいた女性の編集者やライターさんたちの影響が大きいです。

で、当時の僕は、彼女たちの言っていることがあまりよく理解できなかったので、「自分でも勉強してみよう」と思って勉強し始めたんですが、男性として生きていて考えもしなかったような発想、着眼点がたくさんあって、それを一つひとつ知って自分で考えるということがとてもおもしろいなと感じています。

「20代女性の57%が結婚する意思がない」

『キム・ジヨン』では、主に主人公が韓国社会で女性として生きていくうえでぶつかってきた様々な壁が、かなり具体的に描かれます。「女の子なんだから」とさまざまな行動を抑圧され、痴漢やつきまとい・暴言などを男性たちから受け、出産で仕事をやめなければいけなくなり、子育ても孤独で、夫の実家に行ったら気遣いで疲れ、働きに出ようと思っても周囲がそれを許してくれない――。そういったなかで、映画でキム・ジヨンの周囲が「ほんの少しだけ変化していく」ということが、ぼんやりとした希望として出てくるわけです。

映画を観終わったあと、韓国社会のいまが強烈に気になって、いくつかの本を読んでみました。そこで得た気づきは正直めちゃくちゃあるのですが、総じて感じたのは、「日本社会にも共通する歪みが、韓国ではより極端なかたちで出る」ということです。

まず、日本の合計特殊出生率(1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当)は2020年現在で1.36ですが(出典:出生数は過去最少86万5,239人、合計特殊出生率1.36…厚労省 | リセマム、韓国は2019年時点で0.92と、過去最低を記録しています。

人口維持には合計特殊出生率2.1以上が必要であるとされています。つまり韓国では、日本すらも大幅に上回るスピードで人口が減少していくことを意味します。

また、結婚に対するネガティブイメージがかなり強まっているらしく、韓国人口保健福祉協会が2019年に行った調査によれば、20代女性の57%が結婚する意思がない(男性は37.6%)のだそうです。大企業と中小企業間での大きすぎる格差、超高学歴社会で一人の子供に平均で日本円にして2600万円の教育費がかかる、兵役の問題、女性の家事育児負担の大きさ、儒教由来の家父長制の根強さ、これまでの政策の失敗など、複合的な要因が積み重なって、上記のような状況になっているようです。

文在寅(ムン・ジェイン)政権の政策と男性の意識

『キム・ジヨン』で描かれるような女性が一方的に不利益を被る社会を変えねばということで、これまで韓国政府はさまざまな政策を講じてきました。

ひとつ象徴的な例として挙げられるのが、兵役を終えた者に公務員試験などで加算点を与える「軍加算点制度」が1999年に、女性運動団体の反対で廃止になったことです。現在、兵役は男性のみに課される制度で、2年程度の期間、学業やキャリアに穴が空いてしまうことに対して男性からの不公平感は根強くあるようです。

一方で、男女間の制度的な不公平を解消しようということで、現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権は改革をより加速させています。

2020年8月の調査で、文在寅大統領への支持率は、20代女性が51%、20代男性が29%と、20ポイントもの開きがあります(出典:20代に異変…文大統領の支持率、1週間で10%ポイント下落 | Joongang Ilbo | 中央日報

実は政権支持率は、他の世代では男女でそれほど差が出ないなかで、20代男女ではハッキリ分かれるという傾向が出ており、これは若い男女間で意識の分断が広がっていることを示していると考えられます。

『82年生まれ、キム・ジヨン』のヒットも、多くの女性から共感を持って迎えられた一方、特に若い男性の反発が根強くあるそうです。「女性たちはどんどん権利を拡大しているのに、自分たちはいまだに兵役義務をこなさなければいけない」ということが大きいと考えられます。

日本には兵役はありませんが、特に男女平等に関連した話題では、若い男女ほど意識の分断が広がりがちであるということが、韓国の事例でわかります。日本に置き換えて考えてみたとき、男女平等の問題を論じる際には、対立や分断にはならないようなやり方が必要とされていくのかもしれない――そんなふうに思いました。

韓国の文化にはおもしろいものがたくさんありますが、華やかな世界の裏側にはなかなかハードな状況が広がっているようです。この記事だけでは、まだまだ深いところには行けていないので、ぜひみなさんも、映画などを入り口に、書籍などを読んで触れてみるのはいかがでしょうか。参考文献だけ挙げておきます。僕のイチオシは『韓国社会の現在』です。かなり総合的・俯瞰的に、韓国のいまが理解できるかと思います。といったところで今回は以上です!

では、今週LIGちゃんねるで公開した動画3本を紹介していきたいと思います!

そして本文とは全然関係ありませんが、実は僕が担当している会社のYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」では週3本、月水金の朝8時に動画を更新しています! 

週替りでLIG社員に登場してもらい、1つのテーマを決めてショートインタビュー&LT(ライトニングトーク)形式で話してもらうというものです。では今週出した3本を紹介していきます!

クライアントに響く企画提案書を作るには:ノブ(アカウントプランナー)

今週登場するのは、Web制作の営業を担当するアカウントプランナーのノブさんです。制作の受注をとるために極めて重要な「企画提案書」ですが、提案書を作る際に気をつけているポイントをノブさんに聞いてみました。

企画案を大量に作るには?そしてブレストのやり方について:ノブ(アカウントプランナー)

「企画提案には量が必要」って言われるけど、実際に大量の企画案を作るにはどうすれば?そして意味のあるブレストをするには? を話してもらいました。ブレストについての考え方、けっこう参考になるのではないかと思います。

提案前なのにアイデアが出ない!そんなとき試すべき具体的行動3選:ノブ(アカウントプランナー)

もうすぐクライアントへの提案日なのに、なかなか良いアイデアが浮かばない…そんなときどんな「行動」をすればよいのか、できるだけ具体的な行動レベルまで落とし込んだものを教えてもらいました。こういうことが気軽にできる会社が増えると、よりよい社会になるのではないだろうか……!

まとめ

今週のLIGちゃんねるには、Web制作の営業を担当するノブさんに登場してもらいました。アイデア出しって楽しそうでいて難しいですが、だからこそノウハウを知ることが重要だと感じます。

前半のコラムパートは分析メインでした。実は「最新のヒット作を扱うと関心が高い」というのは最初からわかっていたことでして、それはそれとしてやりつつ、違うボールもたくさん投げてみたいのです。

そして正直、最近動画の伸びなさが半端ないんですよね……実は、今週のノブさんの回はいままでで一番内容が濃いと思っているんですが……。このままだと、この動画のプロジェクト、終わりそうです。

記事の編集や執筆に関して僕にはいくらでもノウハウがあるんですが、動画のノウハウが本当になかったんですよね。でも、それでも、今からでも急いでもっとノウハウをつけてトライ・アンド・エラーしなければなりません。この記事のシリーズぐらい自由に、ホームランか三振かぐらいのことをしないといけないです。

というわけで(……?)、引き続き、LIGのYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

「LIGちゃんねる」はこちらから
(チャンネル登録、ぜひお願いします!🙇‍)

また毎週土曜日に、今回のような謎の記事が引き続き更新されていく予定です!

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エディターのケイです。 これまでWebや書籍の編集・ライティングをやってきました。 政治・宗教・野球の話が得意です。 アイドルと一緒にネット番組に出たこともあります。 現在は「暴力」というものについて、 理論的な理解を深めるべく日々研究しています。 知識欲や考える力の強い人たちとチームを作って、 よいコンテンツを世の中に出していく仕事をしたいと思っています。

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