こんにちは。エディター兼ディレクターのケイ(@yutorination)です(※アイキャッチの写真は本記事の書き手の僕ではなく、弊社マーケターのまこりーぬさんです)。LIGではクライアントのWebメディア/サイトの編集・運営サポート、コピーライティング、それとLIGのYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」の制作を担当しています。
さて、毎週土曜日に更新されるこの連載(そもそも連載なのだろうかというのはさておき)では、一つのコンテンツを取り上げて紹介・批評し、そしてオマケとして、自分がこの会社(=LIG)で制作している動画の紹介をおこなっています。
しかし、そもそもなぜコンテンツに触れることが必要なのでしょうか。今回はまず、そこから考えてみたいと思います。
序論:コンテンツ消費と仕事の関係
私はこれまで編集者・ライターの仕事をしてきたのですが、この仕事を始める前、2010年前後までは、本当にいろいろなインプットをしていました。映画、ドラマ、アニメ、書籍はもちろん、国内外問わず様々な「現場」に足を運んで見聞を広めるということをしていたのです。
自分の好奇心を満たせる、知らない世界に触れることができる、「諸国漫遊」的な人生が送れるかな〜という気持ちがあってこの仕事を始めたのですが……いざフルタイムで仕事してみると、忙しすぎてそんなことやってる時間がない! という課題に直面するようになりました。
ちなみに、「え、そもそもコンテンツって仕事に役立つの?」と聞かれたら、確かにすぐに役立つというものではないですが、編集やライティング、プランニングなどの仕事をする上で、さまざまなものの見方を知っておくことは、基礎/土台として大事なことではないかと考えています。
過去のコンテンツに触れることで現代に生きる自分とは違ったものの見方を手に入れることができますし、現代のコンテンツに触れることによってトレンドの尻尾を掴むこともできます。どういった背景があってこの企画が生まれたのかまで、想像を巡らせるようになるとよりよいかと思います。
ただその一方で、「仕事に役立てよう」という邪(よこしま)な気持ちを持っていると、そのコンテンツを純粋に楽しむことがだんだんできなくなってしまいます。好きだったはずのことがだんだん「修行」になっていくわけですね。これは「好きなことは仕事にすべきでない」と主張する派の人々の、有力な論拠の一つにもなっています。
結局のところ、仕事のネタ入れとしてのコンテンツ消費と、純粋に楽しむためのコンテンツ消費のバランスをうまく取っていくのが良いのかな、と思っています。
そんなわけで、この連載は
- 毎週書かなければいけないので、「忙しくてインプットできない」という言い訳を自分に与えない
- その一方で、自分が楽しみつつも読者の方々にコンテンツに触れることの楽しさを伝えていけるようなものにする
というものにしたいと思っています。
Netflixオリジナルドラマ『宇宙(そら)を駆けるよだか』について
さて今回取り上げてみたいのは、Netflixオリジナルドラマ『宇宙(そら)を駆けるよだか』です。
宇宙を駆けるよだか | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
少女漫画誌「別冊マーガレット」(集英社)にて連載された川端志季さんによる同名の漫画を原作とし、2018年8月にNetflixオリジナル作品としてドラマ化されました。
僕は最近までこの作品の存在を知らなかったのですが、インターネット上の評判が非常に良いのを見て興味を持ちました。しかし口コミが盛り上がっている一方、どこか大きなメディアで特集されたりしているわけでもないようなので、「知る人ぞ知る作品」という感じでしょうか。全6話、各話30〜40分程度なので、比較的さくっと見終わります。
大まかにはこんなお話です。
- 『宇宙を駆けるよだか』あらすじ
- 美人で明るい性格の高校生、小日向あゆみ(清原果耶)。大好きな幼なじみの公史郎(神山智洋)に告白され、幸せの絶頂にいた。しかしある日、クラスメイトで容姿に恵まれているとは言えない海根然子(富田望生)に、心を入れ替えられてしまう。然子の姿になってしまったあゆみは、自分があゆみであることを周囲に訴えるも誰からも相手にされず、失意のどん底に落ちる。そんななか、クラスの人気者・火賀(重岡大毅)だけがあゆみと然子の「入れ替わり」の事実に気付いて――?
役者陣の基礎知識
まずはキャストについて。ヒロインの小日向あゆみを演じる清原果耶さんは、NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』『なつぞら』などに出演、そして2021年度前期に放映予定の『おかえりモネ』での主演が決まっている気鋭の若手女優で、然子役の富田望生さんも演技派としていま注目されています。
そして男性側の重岡大毅さん、神山智洋さんは2人ともジャニーズWESTのメンバーです。なかでも重岡大毅さんは、2016年公開の映画『溺れるナイフ』での演技が好評を博していたのだそう。
ジャニーズドラマとして
ここ20年ほどの間、テレビドラマの名作と言われるものには、ジャニーズのメンバーが出演したものが非常に多いと思います。特に「SMAP以降」の人たちですね。
こうした潮流の一番最初に位置するのが、1995年に放映された堂本剛主演・堤幸彦演出の『金田一少年の事件簿』です。その後、宮藤官九郎が脚本を担当した『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』『流星の絆』にも、それぞれ長瀬智也、櫻井翔、岡田准一、二宮和也、錦戸亮が主役級として出演しています。堤幸彦、宮藤官九郎が関係しない作品でも、松本潤主演の『花より男子』、亀梨和也・山下智久主演の『野ブタ。をプロデュース』、そして主演ではありませんが錦戸亮がメインキャストとして出演する『ラスト・フレンズ』など、名作といわれるジャニーズ出演ドラマは数多くあります。
ドラマ評論家の成馬零一氏は、堤幸彦や宮藤官九郎が2000年代以降に牽引してきた「マンガの感覚を取り込んだドラマ」のことを「キャラクタードラマ」と命名しています(成馬零一『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』宝島社新書、2010年)。
翻ってこの2020年に、一昨年のドラマ『宇宙を駆けるよだか』を観て思ったのが、「久しぶりにジャニーズドラマを観た」という感想でした。というのも、男性側で主演するジャニーズWEST・重岡くんと神山くんの存在感が素晴らしかったからです。同時に、こういうことを今まで把握していなかった自分のアンテナの低まりを感じました。
キャラクタードラマというのは、演出技法的にいえば長回しではなく、細かなカット割りと効果音を活用してテンポよく繋ぐのが特徴で、それによって実写でありながらマンガ的なケレン味を再現しているわけです。そして「なぜキャラクタードラマとジャニーズ出身俳優の相性が良いのか」という疑問が湧いたので色々調べていたところ、ジャニーズ事務所はデビュー前はレッスンでダンスしかやらないのだそう。演技や歌より、何よりもダンスなんですね(参考:太田省一『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』双葉社、2016年)。
そういったダンスで身につくリズム感を基本的な身体感覚として持っているがゆえに、テンポ感を重視するキャラクタードラマとの相性が良い、と言えるかもしれません。
ちなみに『宇宙を駆けるよだか』に関しては、キャラクタードラマの「伝統」は生かしつつもケレン味のある演出は抑え気味に、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』的なリアリズムとバランスさせながら、ドラマとしてうまく成立させているように思います。
作品のテーマは「美醜」
さて、この『宇宙を駆けるよだか』はあらすじだけ見てもわかるとおり、「美醜」を主題にしています。近年、フェミニズムのなかでも問題となっている「ルッキズム」の問題ですね。
- ルッキズムとは
- 外見的な美醜を重視して人を評価する考え方。容姿による差別をいう。(コトバンクより)
然子の体に入ったあゆみは、自分が今まで容姿でどれだけ得をしていたか、そして容姿が変わると周囲からの扱いが大きく変わることに気づきます。一方、あゆみの体に入った然子は、もともと好きだった公史郎と付き合うことができ、温厚な両親も得て、幸せになれるはずだったのに……? というお話になっていきます。
人は外見なのか、中身なのか。これは簡単には答えが出ないテーマです。あゆみや火賀などの美男美女は「中身が大事」を体現し、一方で然子は「そんなのはあんたらが美男美女だから言える綺麗事でしょ!」と言うわけですね。
フィクションの役割
ちなみに現実がどうであれ、フィクションが伝えるメッセージは綺麗事の方が多いです。
この作品であれば、メッセージは「中身が大事だよね」ということになるわけですが、フィクションは道徳的にならないことが重要なのかな、と思っています。フィクションは、現実でできることをやってもしょうがない。かといって、道徳の教科書みたいになってもダメだし、簡単に共感できるようなものはつまらない。
この作品におけるヒロインのあゆみは、容姿がよくスクールカースト上層、性格もよくクラスの人気者という人物ですが、全知全能なわけではありません。然子の身体になってようやく、自分がそれまで見落としていたたくさんのことに気づき、それが視聴者にも追体験されていきます。
この作品では、「入れ替わり」というSFまたはオカルト的、非現実的なギミックを通じて、現実にはできないはずの「他者への共感」がシミュレーションされていくわけです。
逆に言えば、「入れ替わり」という非現実的な仕組みがないと、現実には人と人が理解し合うのは難しい。だからこそ、理想と現実の蝶番(ちょうつがい)になるものとして、フィクションというものの存在意義があるのかもしれません。
◇
この『宇宙を駆けるよだか』は、サスペンスものとしても、青春ものとしても面白いですし、それだけではなく「美醜」や「スクールカースト」といった現代においてしばしば議論になっている問題にも切り込んでおり、非常に批評性の高い作品として成立しています。
ちなみに原作漫画とドラマの比較で言うと、漫画は少女漫画的な柔らかい線で描かれている一方、ドラマは夜のシーンが多くサスペンスフルになっています。あとは、ドラマの方が、中島唱子さん演じる然子のお母さんが怖いですね。
そしてなんといっても、若い役者陣の演技が光っています。特に然子役の富田望生さんは、全編の大半で、「あゆみの心が入った然子」を演じているわけですが、「結局、中身が大事」を全身で体現しています。非常に薄い感想ですが「どんなときでも笑顔を絶やさないって地味に重要だな」、と思わされてしまいました。
最近は『逃げるは恥だが役に立つ』や『さよならミニスカート』など、少女/女性向け漫画の世界でも、社会性や批評性のあるものが、以前よりさらに多く出るようになっている気がします。ちなみに黄金期ジャンプでいえば、いじめ問題を正面から扱った『元気やでっ』なども印象的です。『元気やでっ』やそれを元ネタにした『幕張』などについて書きたい気もしますが、長くなりそうなのでこのへんで。
というわけで、『宇宙を駆けるよだか』、エンターテイメントとしても社会派の作品としてもおすすめなので、興味をお持ちの方はぜひ見てみてください!
では、今週LIGちゃんねるで公開した動画3本を紹介していきたいと思います!
そして本文とは全然関係ありませんが、実は僕が担当している会社のYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」では週3本、月水金の朝8時に動画を更新しています!
週替りでLIG社員に登場してもらい、1つのテーマを決めてショートインタビュー&LT(ライトニングトーク)形式で話してもらうというものです。では今週出した3本を紹介していきます!
LIGのマーケターってどういう仕事?:まこりーぬ(マーケター)
今週登場するのは、マーケターのまこりーぬさんです。最近は、しばしばマーケターの先輩たちへの取材記事をたくさん書いてよくTwitterでバズっていますね。
ところが幸か不幸かその副産物として、「記事を書く人(=つまりライター?)」として認知されていることも少なくないのだそう。そこで、普段のまこりーぬさんがLIGでどんな仕事をしているのかを話してもらいました。
ビジネスで信頼を勝ち取る、たったひとつの冴えたやり方:まこりーぬ(マーケター)
まこりーぬさんといえば、アウトプットが多いわりに、定時にスパッと切り上げて帰っているイメージがありました。「あれだけたくさんの仕事をしているのにすごいなぁ」と思っていたのですが、どうやらそれは若干違ったようです(笑)。
とはいえ、動画の中で語られている、彼女が仕事上で気をつけていることは、まず“それ“を守るようにするだけでも、生産性にかなり違いが出てくるかもしれないですね。
俺より強いマーケターに会いに行く:まこりーぬ(マーケター)
この回では、好評のマーケター先輩取材シリーズについて聞いています。記事がバズるたびにまこりーぬTwitterのフォロワーが激増したり、Twitter経由で受注したりするのを見て「すごいな〜!」と思っていたのですが、本人がこの企画をやっていて一番良かったと思うことは、そういった部分ではないのだそう。確かに、それ大事ですね……!
まとめ
今週のLIGちゃんねるには、マーケターのまこりーぬさんに登場してもらいました。
僕は引き続きインプットについて考えています。好きなものを楽しむのも大事だし、一方で「仕事に生かせるといいな」と思ってコンテンツに接することも悪いわけではない。いろんなコンテンツに接することも、誰かに取材にすることもインプットという意味では同じですが、そればかりではなく取材記事を書いたり、自分の考えをまとめる意味で批評を書いたりと、アウトプットもしっかり行っていくことが、それと同じくらい重要なんじゃないかと思う今日この頃です。
というわけで引き続き、LIGのYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
「LIGちゃんねる」はこちらから
(チャンネル登録、ぜひお願いします!🙇)
また毎週土曜日に、今回のような謎の記事が引き続き更新されていく予定です!
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