こんにちは。エディター兼ディレクターのケイ(@yutorination)です。LIGではクライアントのWebメディア/サイトの編集・コンサルティング・コピーライティング、それと密かに更新し続けている自社YouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」の制作を担当しています。(アイキャッチの写真は本記事の書き手の僕ではなく、Webディレクターのあいりさんです)
ところでみなさんは「週刊少年ジャンプ」は好きですか?
僕は小学校1年生のとき、『ドラゴンボール』を目当てに「ジャンプ」本誌を読み始めました。アニメでも放映されていた『幽☆遊☆白書』や『SLAM DUNK』も好きになり、さらには『ジョジョの奇妙な冒険』や『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』なども好きでよく読んでいました。週刊漫画誌にもかかわらず最大で650万部を売り上げたという、90年代のいわゆるジャンプ黄金期というやつです。
その後も読み続けてはいたのですが、しかし、青年漫画や少女漫画なども読むようになって、2000年代半ばぐらいから次第に「ジャンプ」を読むのがつらくなっていってしまいました。
「ジャンプ」で描かれてこなかった「主人公の尊厳の破壊」
というのも、「ジャンプ」の少年漫画には、本当の意味での「挫折」がほとんど描かれていないように感じたのです。「挫折」というのは、単純に「強大な敵に敗北する」とかそういうことではありません。主人公の少年が尊厳を破壊されるような描写がない、ということです。
『ベルセルク』のガッツ、『BANANA FISH』のアッシュ
たとえば、これは「ジャンプ」ではなく青年誌「ヤングアニマル(連載開始時は「月刊アニマルハウス」)」で30年にわたって連載されている『ベルセルク』(作・三浦建太郎)という作品があります。この作品の主人公のガッツ、そしてもうひとりの主人公であるグリフィスは、完膚なきまでに尊厳を破壊される描写があります。ガッツは育ての親に「売られ」ますし、グリフィスは自分の出世のために体を売ったりしています。グリフィスは自らの欲望と迂闊さのせいで一度は完全に身を滅ぼしますし、ガッツは身の毛もよだつ惨劇を経験し、大切な仲間を無惨にも奪われ天涯孤独の身となります。
また、『海街diary』などで知られる吉田秋生が、80年代後半〜90年代半ばにかけて「別冊少女コミック」で連載していた『BANANA FISH』という作品(2018年にはフジテレビ「ノイタミナ」枠でアニメ化もされました)がありますが、この作品の主人公、アッシュ・リンクスもやはり、完膚なきまでに尊厳を奪われています。
しかしガッツもアッシュも、どれだけ自分の尊厳を破壊されたとしても、それでも立ち上がっていくところに、少年漫画が描くべき理想の「強靭さ」があるように感じたのです。
しかし「ジャンプ」はそれを描かない――強いて言えば、『SLAM DUNK』で主人公・桜木花道が、一方的にライバルと見做している流川楓にあるとき1on1を挑み、そこで完膚なきまでに破れて己を知る、という「痛い」描写がありましたが、それほどの「痛み」は、他のジャンプ作品ではなかなか描かれていないと思うのです。
もちろん、そこはやはり小学生も読む少年漫画ですので、あまりにも「痛い」とか、読者が「傷つく」ような表現は避けられているのかもしれません。
そして多くの場合、主人公の少年の「イキリ」が、そこまで徹底的に傷つけられることのないまま、全体としては肯定される作品が多いように感じているのです(もちろん、異論は認めます。むしろ『ベルセルク』や『BANANA FISH』並みに主人公の尊厳の破壊があるジャンプ作品があれば、ぜひSNSとかで教えてください)。
『Vガンダム』のカテジナさんの名言
この種の話でよく思い出すのが、1993〜1994年に放映されたTVアニメ『機動戦士Vガンダム』です。主人公で13歳の少年ウッソ・エヴィンは、いわゆる「宇宙世紀ガンダム」シリーズでも、おそらく最強のキャラクターです。ほぼ子供なのに、訓練された大人のパイロットたちをどんどん破って「無双」しています。今風にいえば「なろう小説」における「俺TUEEEE」系主人公のようなものです。
そのウッソ少年が思いを寄せる年上の美少女、カテジナ・ルースというキャラクターがいます。ウッソはめちゃくちゃ強いので作中でハーレム状態を築き、「え? なんだって?(女性キャラクターの告白を聞き逃すときに主人公が言いがちなセリフ)」を連発しそうなものですが、カテジナさんだけはウッソ少年に超厳しいのです。
カテジナさんは「男の子のロマンスに、なんであたしが付き合わなければならないの!?」と、徹底的にウッソ少年を拒絶します。さらにはそこからエスカレートしてウッソを殺そうとし、最終的にはラスボスと化します。ジャンプ作品の主人公の少年たちは、ここまでの徹底的な拒絶を、なかなか受けないと思うのです。
『チェンソーマン』の画期性
というような話を、とある出版社の編集者としていたら、「ちょっと前からジャンプでやってる『チェンソーマン』(作・藤本タツキ)は、そういうところに挑戦してるかもしれないですよ」ということを教えてもらいました。
そして実際に読んでみたら、確かにこの作品はこれまでの「ジャンプ」にはない、画期性をもった作品だと感じました。以下、本当に最初の部分のみネタバレしますが、紹介していきたいと思います。
『チェンソーマン』の設定
まず、『チェンソーマン』の主人公・デンジは完全なる「持たざる者」です。ジャンプ主人公にありがちな「実は、偉大な/伝説の○○の息子で〜」という、貴種流離譚的な設定もないですし、おそらく今後もそのような設定が出てくることはなさそうです。
- 貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)とは
- 説話文学や口承文芸における重要なモチーフ。幼い神や身分高く若い主人公が、都(もしくは生まれ故郷)を離れて放浪を続け、種々の艱難辛苦(かんなんしんく)に遭遇し、動物の援助や知恵の働き、財宝の発見などによって、試練を克服して英雄となったり尊い地位につくという、説話の一類型。(コトバンクより引用)
第1話の時点でデンジは、人間の友達もいなければお金もない生活を送っていて、さらには唯一の愛するペット(?)で悪魔である「ポチタ」すらも失い、デンジ本人も殺されてバラバラに切り刻まれ、無惨にも死体をゴミ箱に打ち捨てられます。主人公の尊厳の破壊が徹底されているわけです。
しかし、ポチタの悪魔の力を借りて奇跡的に生き返り、少しずつ、ささやかな幸せを、戦いながら取り戻していく……というお話なのですが、現時点でまだコミックス化されていない最新話では、さらにまた徹底した尊厳の破壊が行われます。
「ジャンプ」のタブーに挑む作品
さらに『チェンソーマン』では、戦闘シーンもいわゆるゴア描写(暴力的・猟奇的な表現)が、これまでのジャンプ作品と一線を画した、「やりきった」ものになっています。
前述の『ベルセルク』や、その雛形ともいえる永井豪の『デビルマン』などは、トータルのお話の筋立てとしては少年漫画として成立してもおかしくないものでしたが、これまでのジャンプ作品ではああいったゴア描写や、性的な描写はなかなか掲載されなかったと思います。
しかし『チェンソーマン』においては、ジャンプが自らに課していたはずの軛(くびき)を打ち破っているように思えるのです。かといって少年漫画的ではないかというと、今までになかった作品だけれども、少年漫画の王道を行っている気もします。そして、あらかじめ言ってしまえば、その王道とは、どれだけ絶望的な状況に立たされたとしても諦めないこと、なのだと思います。
「誰も傷つけない」というものが良しとされる傾向が強まっているなかで、メジャー中のメジャーである「ジャンプ」で、こういった「傷つく」作品が掲載され、そして大人気を博しているという状況に、時代の潮目の変化をちょっと感じています。
では、今週LIGちゃんねるで公開した動画3本を紹介していきたいと思います!
そんなこんなで、こういったカルチャー/コンテンツ批評を書きつつ、会社のYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」で週3本、動画を更新しています。では今週出した3本を紹介していきます!
インターン経由でLIGに新卒入社し(てしまっ)た理由:あいり(Webディレクター)
今週登場するのは、学生時代にLIGでインターンをしていて、今春の大学卒業と同時にWebディレクターとして入社したあいりさんです。ベンチャー企業でインターンしたあと新卒時には大企業に入っていく、というのが王道だと思っていたのですが、チャレンジングなことにLIGに新卒入社を決めたあいりさんに、その理由を聞いてみました。
「意識高い系」と呼ばれて:あいり(Webディレクター)
あいりさんは高校生の頃から社会貢献活動をしていたり、学生時代に様々な業種のインターンをしていたりしていて、「意識高いよね」と言われることも多かったそうです(インターンとして働いていたときからそんな話を聞いていました)。
そこで、「意識高いよね」と言われることに対してどう思うのかを聞いてみた回がこれです。あいりさん独特の「意識が高い」ということの定義に、なるほどなぁと思わされました。
新卒入社したらいきなりリモートワークだった件:あいり(Webディレクター)
今年の新卒社員は入社して5秒でリモートワークだったので大変だった、という話はマスメディアでもけっこう報道されていましたね。じゃあ、うちの会社の新入社員は大丈夫だったの? ということを聞いてみました。
あと、僕はエディターなのですが、他の職種で、若手社員に対してどんな研修をやっているのかをあまり知りません。そこでLIGのWebディレクターユニットが、どんな研修をやっているのかについて聞いてみています。頑張って研修体制つくってるんだな、すごいなと思ってます。
まとめ
今週のLIGちゃんねるには、新人Webディレクターのあいりさんに登場してもらいました。少年漫画の主人公には尊厳を破壊されてもそれでも立ち上がる強靭さを求めたいですが、現実はもうちょっと甘くていいと思っています。ある程度の挫折は必要かもしれないですが、そんなときに周囲の助けがある環境を作っていけたらいいんだろうなと思います。
というわけで引き続き、LIGのYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
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また、毎週土曜日に、今回のような謎の記事が引き続き更新されていく予定です!
先週書いた記事
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』と、Webディレクターの仕事について