オンラインスクールの参入が相次ぎ、競争が激化する教育市場。そんな中、LIGの教育事業が5年で売上6倍という驚異的な成長を遂げた背景には、数々の戦略がありました。
一つは、校舎展開の加速です。コロナ禍での需要増加を見据え、2年間で4校舎を新設。二つ目は、「一歩秀でた人材」の育成にこだわった”質”重視の展開。そして三つ目が、独自のコンテンツマーケティング戦略です。
今回は、急成長を可能にした戦略と、その立案から実行を主導してきたデジタルエデュケーション部・部長のペイさんに、事業拡大の舞台裏を聞きました。
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株式会社LIG デジタルエデュケーション部 部長 林 隼平(ペイ)日本大学芸術学部卒業後、テレビ、ラジオ、Webメディア、プロスポーツイベント等、複数の媒体にてディレクター職を経験。2018年9月にLIGへ入社。現在は「デジタルハリウッドSTUDIO by LIG」の事業企画・運営を手掛け、クリエイター育成をミッションとしている。 |
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- ▼LIG教育事業の歩み
- 2016年1月:STUDIO上野 by LIGオープン
2018年5月:STUDIO池袋 by LIG オープン
2018年9月:ペイさん入社
2021年2月:STUDIO大宮 by LIG オープン
2021年10月:STUDIO北千住 by LIGオープン
2022年3月:STUDIO川崎 by LIG オープン
2022年11月:STUDIO町田 by LIGオープン
2023年6月:LIG Creator HUBオープン
2023年11月:リスキリング補助金採択
2024年2月:リグアカリリース
2024年7月:ReNew by LIG Agentリリース
2024年9月:Deview!(デビュー)リリース
2024年12月:リグアカ for Businessリリース
手探りの中で見えてきた方向性
―― 入社当時(2018年)の教育事業の状況を教えてください。
当時は在籍受講生が月に100名前後、STUDIO(教室)内には1〜3名ほどの受講生という状況でした。スタッフも少なく、アットホームな雰囲気の中での手探りの運営でしたね。
教育の質については、意欲的な受講生にとってはコスパの良い満足度の高いスクールでしたが、そうではない受講生に対して、なかなかフォローアップしきれていない環境だったのは事実です。
宝塚のスクールに通えば全員が宝塚にデビューできるわけではないように、スクールに通うだけでクリエイターになれるわけではなく、受講生側の努力も必要であることを目の当たりにしました。教育事業に携わる上で、どのようなサービスであるべきなのか、入社当時は模索していく日々でした。
―― 現在は「一歩秀でた駆け出しWebデザイナーを輩出するスクール」として確立されつつありますが、その方針を決めたきっかけは?
転職を目指すスクールとして、「ゴール=転職」に行き着かないと意味がないという感覚がありました。企業やエージェントの話を聞くと、未経験者の採用は難しいという風潮が強くあったんです。
ただ「他のスクール生より秀でている」「一歩進んでいる」というポテンシャルがあれば採用を検討するという声もあって。そこで、より高い基準を持つスクールを目指すことで、受講生と採用企業の双方にとって価値のある存在になれると確信したんです。
追い風を味方に、6校舎体制へ。
―― 事業規模の拡大において、どのような転換点がありましたか?
規模拡大の大きな要因は、校舎の展開をスピーディに進めたことです。基本的には校舎が増えれば売上が伸びるビジネスなので、校舎展開は計画していましたが、コロナ禍でニーズが高まる中、2年間で4校舎を新設するなど、受け皿づくりを加速させました。
コロナは社会全体のキャリア観を大きく変えるきっかけとなりました。飲食や観光をはじめ、さまざまな業界の方が、オンラインで働けることやサービスができる環境に注目しはじめたんです。
それまではクリエイターになりたい人だけが通うスクールでしたが、新しいキャリアへの手段としてクリエイター職を選ぶ人が増えてきました。
―― 一昨年の「リスキリング補助金※」の採択も事業拡大の追い風になりましたね。
- ※リスキリング補助金(リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業)
- 2023年から始まった経済産業省による支援制度のこと。キャリア相談やリスキリング講座の提供、さらに転職支援を一貫してサポートする取り組みで、受講料金の補助が受けられる。
はい、実際に事業規模も約120%成長しました。ただ、補助金をきっかけとした新規参入の増加については課題も感じています。
教育機関として大切なのは、確固たるポリシーと受講生としっかりと向き合う姿勢です。もちろん本当に育てようという気概のある事業者であれば良いのですが、補助金目当ての参入は、必ずしも業界にとって良い影響とはいえないと考えています。
―― 競合が増える中で、デジLIGはどのような差別化を図ってきたのでしょうか?
オンラインスクールの増加で、安価な学習機会はたしかに増えています。その中でデジLIGは、比較的高額な授業料で、じっくりと学んでいただくスクールとして展開しています。
とりわけ僕たちが徹底してこだわり続けているのが、運営スタッフとトレーナーの質です。キャリアの転換期にある方々にとって、どのスクールで学ぶかは人生を左右する重要な決断です。
制作会社LIGの一員として、業界への深い理解と数多くの受講生の成功体験を持つ運営スタッフが、受講生一人ひとりの状況に寄り添い、たしかな信頼関係を築いていく。
そしてトレーナー採用においては、豊富な実務経験を持つ現場のプロフェッショナルであることを必須条件としています。単に教材の質問に答えるだけでなく、トレーナーの経験値から1つの質問に対して10も20も有益なフィードバックが生まれる。
そんな厚みのある教育環境こそが、「一歩秀でた人材」を育てる鍵だと考えています。
―― その体制は、具体的にどのような成果として表れているのでしょうか?
他のスクールとの明確な違いが現れているのは、卒業時、そして2年後、3年後、5年後の卒業生の姿です。
規模の大きなスクールであれば、当然その中から一人二人、SNSで話題になるような優秀な人材も出てくるでしょう。しかし教育機関として重要なのは、実際にどれだけの割合の方が現場で活躍できるレベルになれるかということ。
デジLIG修了者の多くが企業から求められるレベルに達していることは、大きな強みになっています。
関連記事:「スクール卒の未経験Webデザイナー」はどれほど転職できるのか
―― その価値を市場に伝えていくために、どのような取り組みをされてきましたか?
スクール名の呼び方から見直しました。正式名称の「デジタルハリウッドSTUDIO by LIG」は長く、SNSでの発信や検索がしづらい。
そこで「デジLIG」という呼称に統一し、受講生にも協力を呼びかけました。その結果、SNSでは「#デジLIG」のハッシュタグを通じて、受講生の声が自然と広がっていきました。
また、コンテンツマーケティングに力を入れ、自社メディア「LIGブログ」による情報発信を愚直にやり続けてきたことも、成功要因だったと感じています。
▲未経験からここまで!Webデザインスクール卒業制作サイト22例を紹介
デジLIGの卒業生たちの実力を広く知っていただくため、学びの集大成ともいえる卒業制作やポートフォリオの作品例を積極的に発信しています。また、受講生自身にもSNSでの情報発信をすすめており、その投稿が大きな反響を呼ぶケースも少なくありません。
デジLIGの卒業制作として、
イラストレーター STAZ さんのWebサイトを制作しました!素敵な作品の世界観をできたらと思いながら制作させていただきました!
お時間ある時、ぜひみてください!#デジlig https://t.co/rxXYq1npRn pic.twitter.com/AOy4Z1XoOp— ひとみ (@kl14560) January 31, 2025
ほかにも転職やキャリアアップに成功した卒業生たちへのインタビューをおこない、キャリア事例としてまとめています。
2016年の開校当時から続けてきたことで、現在では100以上の成功体験が蓄積され、転職のタイミングやポートフォリオ制作など、実践的なノウハウとして新たな受講生の指導にも活かされています。
このように、ブログやSNS発信を通じてデジLIG卒業生が持つ高い実力を可視化することで、「一歩秀でた」というブランドの確立につながりました。
同時に、ターゲット層にリーチするSEOコンテンツやデザイン学習者向けのノウハウ系コンテンツなど、地道にコンテンツ展開を行ってきました。デザイン学習者が読者に多いLIGブログとの親和性の高さも、大きな追い風となりましたね。
―― 直近の事業展開についても教えてください。スクール事業の拡大、動画学習、人材事業と、サービスを広げていった判断基準は?
卒業生の声に耳を傾けていく中で、スキル習得からキャリア形成まで、一気通貫した支援が必要だと実感したんです。
また、変化の速い時代において、スクール事業だけに依存するリスクも感じていました。そこで、複数の事業を持ち、相乗効果を生み出せる体制を目指そうと考えたんです。
▲クリエイターのための転職エージェント ReNew by LIG Agent (リニュー)
たとえば人材紹介事業「ReNew」は卒業生のキャリアサポートという側面と、LIG社内の採用課題の解決という二つの目的を持っています。デジタルエデュケーション部門としてLIGに貢献するには、優秀な人材プールを構築する仕組みが必要だと考えたためです。
▲動画学習サービス「リグアカ」・リグアカ for Business | 法人向けWebマーケティング研修・講座の決定版
また動画学習サービス「リグアカ」「リグアカ for Business」は、卒業生の継続的な学習ニーズと、法人研修の需要に応えるために生まれました。
さらに、キャリア初期の不安解消を目的とした駆け出しデザイナー向けメンタリングサービス「Deview!」も展開しています。各サービスの連携により、理想としていた一貫したサービスの形が実現しつつあります。
「いいものを作りたい」クリエイターとしての原点
―― 売上の成長を支えたのはチームワークが効いているからこそ。デジタルエデュケーション部はLIGのなかでも低い離職率を誇り、ペイさんを中心にどんどん若手が育っていますが、その秘訣は?
「是々非々」を徹底しています。良いことは良い、悪いことは悪い、そこに個人的な感情を入れない。組織のトップが率先してやらないと、個人の感情に寄り添った事業運営になってしまいますから。
チームのリーダーには、メンバーの成長機会を作り、期待し続けることを求めています。頑張っていることはしっかりと承認し、期待もかけていく。組織として継続的に成果を上げていくには、メンバー全員が成長し続けることが不可欠だからです。
そして、個人に依存しない持続可能な組織を作るためにも、リーダーには現場作業ではなく、育成と仕組みづくりに注力してもらっています。「自分がいなくても結果が出る体制」、それが僕たちの目指す姿です。
―― 離職率の低さは、マネジメントに対する明確な方針があってこそなんですね。もともとマネジメントの経験があったのですか?
マネジメントの経験は実はほとんどありませんでした。ただ、結果を出すためにはマネジメントが必要だった、というのが正直なところです。
もともと僕はクリエイターとしてキャリアをスタートしました。物作りがしたくてクリエイターになり、それが事業開発という形になっていった。ただ、根底にある「いいものを作りたい」という気持ちはまったく変わっていません。
―― これまでの経験から、事業成長のために大切だと感じていることを教えてください。
運営、講師、そして受講生がみんな一つのチームであるという感覚を持つことです。単なるサービス提供者とお客様という関係ではなく、デジLIGをともに作り上げていく仲間だと考えています。
僕たちが良いサービスを提供し、受講生が共感して努力し、素晴らしい成果を出す。その姿を見た次の受講生がさらに高みを目指す。そうして確立されたデジLIGの基準が、市場での評価につながっていく……。
このサイクルを守り続けることが大切だと思います。時代は変わっても、この本質は変わらないと信じています。
さいごに
今回取材した会議室は、ペイさんがいつも作業に没頭する場所。そこで黙々とパソコンに向かいながら、教育事業の未来を見据え続けています。新規事業の立ち上げに次々と挑戦する姿勢は、メンバーたちの深い信頼を集め、LIG随一の誠実な組織文化を築いてきました。
人生の転換点に寄り添う仕事だからこそ、妥協は許しません。クリエイターの夢を支え、一人ひとりの未来を築く。チームとともに教育事業のさらなる高みを目指す、ペイさんの挑戦は続きます。
そんなペイさん率いるデジタルエデュケーション部では、新たな仲間を募集しています。クリエイターのキャリアを支える教育事業に興味のある方は、ぜひ以下より詳細をご覧ください!