ブランディングは表層のイメージではない、体験の集積だ―アクセンチュア清水 武穂|CREATIVE X INTERVIEW #4

ブランディングは表層のイメージではない、体験の集積だ―アクセンチュア清水 武穂|CREATIVE X INTERVIEW #4

須田 允(まこと)

須田 允(まこと)

僕が「CREATIVE X」を通じて出会ったさまざまなクリエイティブ業界の方々にお話を聞いて、クリエイターのキャリアパスやこれからのクリエイティブの形を伝えていく本連載。

4回目となる今回は、カンヌライオンズの審査員も務めるアクセンチュア株式会社の清水 武穂さんにお話を伺いました。これまでのキャリアや、コンサルティングにおけるクリエイティブの可能性について聞いていきます。

清水 武穂

アクセンチュア株式会社 デジタルコンサルティング本部
アクセンチュア インタラクティブ シニア・マネジャー

総合広告代理店のクリエイティブからキャリアをスタート。前職はデジタル・クリエイティブ・エージェンシーAKQAにてデジタル時代のブランド体験戦略、コミュニケーション戦略立案・実施に従事。2015年アクセンチュアに参画。ブランド エクスペリエンス デザインのチームを立ち上げ、事業変革・新規事業開発・新会社設立時におけるブランド戦略の立案、ブランド体験の設計と実際の施策の実現に従事。机上論や資料上で終わらせない「実現」がモットー。

「変革」に対してクリエイティブができること

まこと:今日はよろしくお願いします。僕はもともと5年くらい、このアクセンチュアという会社に勤めていました。そのときといまとでは、だいぶ雰囲気も変わっているんですよね。世の中のコンサルティングファームがデザインエージェンシーをどんどん取り込んで来ているなか、クリエイティブができることはなんなのか、そして、そのなかでの清水さんがいま感じていることについて、お伺いできたらと思っています。

清水:よろしくお願いします。僕がいまいるアクセンチュアのミッションは、「変革」そのものなんですよね。企業を変革するときって、往々にして新しいビジネスを創出するという側面があります。その際に、新しい事業のブランド、そしてそれに付随するブランド体験を創るというような仕事をしています。アクセンチュアで初めてブランド戦略チームというものを創りました。

僕は、広告代理店のクリエイティブというバックグラウンドを持つ人間です。アクセンチュアは、従来、経営戦略立案やITソリューションなどを通じて、変革を実現することを生業にしてきました。でも、そのアクセンチュアがやっていることに実は大きな空白、ホワイトスペースがひとつあると思い入社しました。それが「ブランド」です。要は、ソリューションという技とビジネス体質という体はあっても、心がなかった。

まこと:「心・技・体」が揃っていなかったということですね

清水:そうです。その企業にしかできない価値をエッセンスとして加え、ブランドづくりができれば、心・技・体のすべて揃って、アクセンチュアはもっと強くなるという確信がありました。

そこからブランド戦略のチームを創ったんです。いまではアクセンチュアのなかで、ブランドといえばこのチームというふうになっています。

ブランディングはもはやイメージの話ではない

まこと:そのブランドづくり、ブランディングってけっこう大きい、広い意味があるように思っています。僕が知ってるブランディングの世界って、コーポレートアイデンティティを決めようみたいなところからはじまるんですよね。

コーポレートスローガン、ボディコピーを決めて、それに基づいてロゴを決めていく。でも、それ以外にたくさんあると思うんですね。清水さんは、どこまでの領域をやられているんでしょうか。コンサル的な感じで恐縮なのですが(笑)、もし体系的なものがあれば知りたいです。

清水:まず前提としてあるのは、世の中でいわれてるブランディングって、イメージの話ばっかりしているんですね。でもいまそれは「体験の集積」に変わっていってるんです。そしてその体験を生み出す経営こそがブランディングだと思っています。

たとえば iPhoneっていうプロダクトがありますよね。このなかに「iOS」っていうOSがあり「iTunes」っていうサービスがあります。さらに「Apple Music」っていうサービスがある。まずプロダクトとしてのサービスが存在するんです。

で、これを売っているアップルストアがありますよね。ストアにいる店員ってハイタッチするじゃないですか。ハイタッチってほかの通信会社の店員がやったらおかしいことになるんですよ。ほかには真似できない体験がそこにある。

店舗だけでなく、アップルのコールセンターってめちゃめちゃ素晴らしいんですよね。困ったときに、IDを伝えるだけで、ぱぱぱっとぜんぶ調べてくれる。

そして、ロジスティクス。オンラインで買ったときの配送や、届いたあと、絶妙なタイミングで「セットアップいかがですか」っていうメールが来る。

あとは、プライシングもそうですよね。Appleっていう独自のプライシングがありますよね。安すぎず、そこそこ高い。経営陣まで見ると、ティム・クックCEOがいて、その前のスティーブ・ジョブズも魅力的ですよね。中にいる人も含めて、経営そのものがブランディングだと定義をしています。

まこと:なるほど。ブランディングって外側だけ格好良くすればよいって話になりがちですが、違うんですね。

清水:そのとおりです。コンセプトがどうとか、キャッチコピーがどうとか……でもそれはすごく表層の話。本当はブランディングって、経済的価値を産まなきゃいけない。

つまり、ブランディングは、売上貢献へのエンジンのひとつだと僕らは捉えていますね。

あとはタグラインについても、「ファンシーなキャッチコピーを作るだけなんでしょ」みたいに言われることがあります。でも、その企業の行動指針そのもの、明日からその言葉をもとに動くことができる言葉、というふうに僕らとしては定義をしている。

日本企業はどうしても「豊かな社会を」とか、「生活者を豊かに……」とか、そういったあいまいなものを置いてしまう。でもそうなると受け取る方はわかんないんじゃないですか。でも、Googleのミッションは「世界中の情報を整理して役立つ形にする」とやるべきことがすごく端的になっている。

僕らはそれを経営戦略と一緒に考えるんです。たとえばオムニチャネル関連のプロジェクト内で「店舗補完」という言葉があります。それを聞いてもみんな何をしたらいいのかわからない。「デジタル、リアルを横断し、商品を通して、顧客とのコミュニケーションに昇華させること」とするとイメージしやすくなって、行動しやすくなる。

具体的なアクションができるところまで昇華させることが必要なんですよね。経営そのものであったり、企業って、外側からどうこう言っても変わんないんです。やっぱ内側からどう変えていくかなので。その内側から変えていくためのキーワードを作ることがまずあって、そこからビジュアルや可視化できるものに落とし込むとこうなるとか、その体験ってこうだよね、と具体化を進めていくんです。

「技」も「体」もいつかコモディティ化する

アクセンチュア株式会社 清水 武穂さん

まこと:いま僕も Webの制作会社に入っていて。企業さんのコーポレートサイトをつくりなおそうって場面によく立ち会っています。そこでは、企業理念とか社長の言葉っていうのがやっぱり重要になってくる。

最近、コピーライターをどんどんアサインさせているんですが、彼は、コピーライティングは外向きだけじゃなくて、内側についても考えなきゃだめだと言うんですね。僕らはその言葉を決めるときに、じゃあ社員一同が、この言葉があるから仕事するんだって意味やミッションを生み出さないといけない。対外的にも、だからこの会社と一緒にやるんだ、やりたいんだっていう気持ちにする言葉にしなきゃいけないよねって言ってるんですね。

ここ1〜2年ぐらいでようやく僕もわかってきました。清水さんがおっしゃっているとおりだなと感じています。

ただ僕ら制作会社にできないところって体験をつくるところなんです。やっぱりアクセンチュアでは、技術とかノウハウなどいろんなアセットがあるなかで、ブランド体験っていうのが実現できてるんだろうなっていう。

清水:たとえば「ロジスティクスの最適化」だと、無機質な言葉になっちゃうんですけど……じゃあこのブランドにしかできないあるべきロジスティクスは何かとか。そこまで突き詰めて考えると、ぜんぜんアプローチが変わってきますよね。

いま、モノって1日で届いて当たり前の時代じゃないですか。逆に1日じゃなくてもよいのでは? という考え方もあるし、1日だと遅すぎるという考え方もあるだろうし、ブランドの人格に照らし合わせれば、あるべきロジスティックスの体験設計まで考えられる。

あとはやっぱり先ほど話した心・技・体っていうところでいうと、「技」も「体」もいつかコモディティ化すると思っています。将来的に「心」でモノを買う時代となる

なぜこの企業を支持するのか、そこをどう体系化するか、ビジネスとして売りやすいようにするか、ということに対して日々チャレンジをしています。

コンサルタントの数字づくりに、クリエイティビティを感じた

まこと:なるほど……。では、清水さんご自身がなぜこのアクセンチュアというフィールドを選ぶようになったんですか?

清水:前職の海外オフィスメンバーで辞めていった人たちが、コンサルに行ってたんです。2014年のことでした。そのときの肌感で「これは何か来るかもしれない。次の潮流かもしれない」とは思いました。

そのうち、自分自身も転職活動を行うようになったとき、ほかからもいろんな声がかかっていたんですけど、いままでのキャリアにはなかった挑戦的なフィールドという意味で、アクセンチュアを選びましたね。

まこと:入ってみてどうでしたか?

清水:もうぜんぜん違う国に来た、ぐらいのインパクトがありました。ぶっちゃけ戸惑うことも多かったですね。戸惑いながらも、多くの案件を自分なりのかたちでサポートをしていました。

そこでコンサル独特の考え方に触れて、とても面白いと思いました。圧倒的な上位レイヤーの話をしている。こういう人たちが戦略の道筋を作ってたんだなっていうのが徐々にわかってきて。

まこと:たしかに、予算のコントロールなどは、コンサルならではですよね、実務の仕組みの部分とかも。

清水:そうそう、実現するための組織づくりとか。あとは、いわゆるデジタル化を推進する部署をどうやって作り出すか、とかそれまででは考えられないぐらいダイナミックな動きをしていたんです。

アクセンチュアでは企業と並走して、変えようとしてる人たちがいるんだって事実を知って、もしかしてここに入るといろいろと得るものがあるかもしれないなって思いました。

プロジェクトに入っていくなかでも、コンサルタントの方が数字の作り方にクリエイティビティを持ってるなって感じましたね。そこに、自分たちのバックグラウンドを合わせるとどうなるんだろうと想像していました。

誰もがわかる言葉に変換できる強み

まこと:自分の力が発揮できたと初めて感じたのはいつでしたか?

清水:ある会社からの依頼で、健康サービスを変革させるという、ビジネストランスフォーメーションのプロジェクトでプレゼンすることになって。そこでアクセンチュアのいう変革を噛み砕いて、そのプロジェクトの理想と現状に照らし合わせたんですね。As-Is To-Beとよくいわれているものです。僕はFromToという言い方をしていましたが……このブランドはこう変化していく、提供価値も大きく変わると伝えたんです。そのプレゼンの場で役員の方も「これだ!」ってなったんですよ。自分自身で鳥肌が立ちました。

そのアイデアが採用になった理由としては、従来のコンサルでは提案できない、ビジョナリーかつ行動できるキーワードに落としたっていうところがありましたね。そのキーワードは、次の週にはもう現場に浸透していました

そこから、いろいろなプロジェクトにメンバーとして呼んでもらえるようになったんです。

コンサルっぽい言葉じゃなくても、誰もがわかる言葉や絵に変換することで、お客様が理解して、共感して、前を向けるんじゃないかなって。そこは広告代理店出身などの、クリエイティブバックグラウンドを持つ人間がやっぱり圧倒的に活躍できるんですよね。

まこと:清水さんは、次はどこを目指していらっしゃいますか?

清水:アクセンチュアで、まだ少人数であるブランドエクスペリエンスデザインチームをある程度の規模にする目標があります。ブランド戦略やブランドデザインをやることで、ちゃんとバリューを出したいと思います。せっかく来たんだし何かしらの爪あとを残さないとなっていうのはありますね。

インターブランドが毎年発表しているブランドランキングから、いまどんどん日本企業が減ってきているんです。そこに今後、1社でも多くの日本企業が入るように支援することが、僕がアクセンチュアに入っている間のミッションだと考えています。

あとは、自分に子供がいるんで……彼らが成人になったときに入りたい日本企業がたくさんあるように、いかに手助けし、後世に残せるかというところは、すごく意識をしています。

自分の琴線に触れた部分を分解する

まこと:これからの将来を担っていくいまの若いクリエイターや現場の人々が身につけるべき力って、一体どんなものがあると思いますか?

清水:若いときって、正直いうと局所的にしかモノを見れないって思っているんです。実際僕もそうでした。僕はもともとデザイナーていうキャリアからスタートしていて。最初、フルフラッシュのサイトばかり作ってたんですよ。本当に。アクションスクリプトとか。AdobeのFlashじゃなくてmacromediaのFlashだった。

まこと:懐かしいですね……!

清水:当時は局所的で。でも、だんだん欲が出てきたんですよね。途中から広告代理店でいうとプランナーが考えたものを作らなきゃいけないことなどに、対抗心が生まれてきたところがあります。

いろいろ考えて自分はここにいちゃだめなんだ、もっと上の視点で物事を考えないとダメなんだなって思ったときに、キャリア感が変わっていったと思います。

この前、後輩とラーメン屋で偶然会ったんです。近況の話をするなかで、ブランディングは経営そのものなんだよな、って話をしたら、たけおさん、10年以上前から同じこと言ってないですか? って言われたんですよ。10年以上前からずっと、表層だけがブランディングじゃないっていう思いがあったんでしょうね。早い段階でそういう意識を持てたというところは、僕はラッキーだったんだなって思いますね。

あとは、越境してほしいっていう話はよくしてますね。デザイナーだったらここしかやらないっていうんじゃなくて。デザイナーだったらビジュアルだけじゃなくてもっとほかにも琴線に触れてる部分があると思うんですよね。それを分解していくと、この要素と要素が掛け算されてるから自分は琴線に触れてるんだって思うはずなんですよね。分解することで、自分がどの領域まで越境すればいいのかということもわかる。

Amazonで頼んだものが1日で届くってことが衝撃だったりとか、Uber Eatsで料理が本当に届いた瞬間に「わーっ」て感動したりするじゃないですか。アプリのデザインが美しいだけじゃなくて、そういった裏側の仕組みがどうなっているのか、誰がどうやって指示出してんのかなとか、それを一個一個分解していく。想像力を働かせて越境していくことが大事かなと思います。

まこと:確固たる信念を持つこと、いまが正しいと思うなっていうこと、そして自分の領域を超えていくことなのかなと思っています。自分の視野を広く持って、正しさを検証し続けていくことなんですね。

大人になった瞬間、変化しなくなる

清水:そうです。僕は最近、記憶の原体験に戻ることもよくしています。自分が中学生のときだったら、これってイケてるのかって考えるんですよね。たとえば小学校の6年間って日々ライフステージが変わるし、感覚も変わります。でも大人になるともう1年前も3年前も最近になっちゃう。でも本当はもっと変化させていかないといけないんですよね。大人になった瞬間に変化しなくなるのが、すごく嫌で。

子供を見ていると、1年で好きになるものがどんどん変わってくるし、好きの順位もまったく変わってくる。本当はそういう生き物なんだって思うんです。いま、大人になってから当たり前になっちゃってることが、そのままになっているのが嫌だなと思うんです。

まこと:いまが正しいと思うなってことですよね。

清水:そうですね。ずっと理想を思い求めているところはありますよね。アクセンチュアでも正直まだやりたいことがたくさんあって、ぜんぜん満足していなくて。まだ全体が100あったら3くらいしかできていないです。まだ97もやりたいことがある。この先も、楽しみです。

まこと:今後もぜひ、いろいろやっていきましょう。ありがとうございました。

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須田 允(まこと)
須田 允(まこと) BiTT開発事業部長 / 須田 允

1986年生まれ。約15年の海外生活を経て早稲田大学に入学し、ロンドン大学へ留学。 2010年に株式会社サイブリッジに入社。オウンドメディアのデジタルマーケティングを統括し、課長に就任。 2012年、アクセンチュア株式会社に入社し、通信や放送メディア領域における戦略立案・デジタルマーケティング業務/施策のコンサルティングを担当。 2018年より株式会社LIGの取締役に就任し、Web制作、BiTT開発、メディアの3事業部門を統括し、LIG PhilippineのCEOも兼務。 社員におにぎりを食べさせるべく、寝る間を惜しみ日々疾走中。

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