「100%を目指さない」デザインマネージャーのあり方とは?―メルペイ 鈴木伸緒|CREATIVE X INTERVIEW #1

「100%を目指さない」デザインマネージャーのあり方とは?―メルペイ 鈴木伸緒|CREATIVE X INTERVIEW #1

須田 允(まこと)

須田 允(まこと)

こんにちは。株式会社LIG取締役 兼 Web事業部部長のまことです。昨年から、「CREATIVE X」というクリエイター向けイベントを開催しています。僕自身も運営として携わっているのですが、嬉しいことに毎回大盛況となっています。

そのCREATIVE Xのスピンオフ企画として、イベントに登壇してくれるクリエイターたちのインタビューを、連載形式でお届けしていきます。狭義のデザイナーに限らず「デザイン」という概念を深く考えたい方に役立ててもらえるような記事をお届けできればと思っています。

初回は、メルペイの鈴木伸緒さんにお話を伺っていきます。

 

鈴木伸緒(すずき・のぶお)

株式会社メルペイ

Design Manager / Product Designer

京都工芸繊維大学を卒業後、ニューヨーク・パーソンズ美術大学に留学。帰国後、WEB制作会社を経て、2012年サイバーエージェントに入社。『Ameba Ownd』など複数のCtoCスマホサービスの立ち上げに従事。2015年11月より株式会社メルカリに入社し、US版のプロダクトデザインを担当。2017年よりUK版の立ち上げ・グロースを担当し、2018年1月からはメルペイの立ち上げに携わる。

自分たちが作ったサービスが、自分たちの生活を少しでも便利にできたら

まこと:今日は伸緒さんのクリエイターとしてのキャリアや、大事にしていることを聞いていきたいと思います。そもそもLIGブログって特にデザイナー記事の評判がいいんですね。デザイナー志望者や、若手でキャリアを積みはじめたデザイナーの方が多いんだと思っています。

鈴木:僕も制作会社に入っていたときに読んでいました。デザイナー2〜3年目の人がLIGブログを見ているような気がしますね。

まこと:僕は入社するまでLIGブログのことを知らない人間で、でも入ってからどういうものかわかってきました。この連載では、LIGブログの読者にいろいろなクリエイター像を伝えたいなと思っているんです。CREATIVE X本編では海外での展開の話を聞けたんですけど、今回はメルペイが向かう方向に対して、伸緒さんがどういう役割でどんなお仕事をしているのかを聞きたいなと。

鈴木:そもそも僕が3年前にメルカリに入ったのは、自分たちの生活を少しでも便利にできるサービスを作ってみたいと思ったからなんです。メルペイに入ってからは「現金ってもっと便利にできるな」というようなことを考えています。現金ってひとつのテクノロジーだと思うんですけど、なくしたらもう終わりなんで危ないじゃないですか。そのあたりは中国なんかだとすごく進んできているし、それを日本でもチャレンジしてみたいなと。日本でお金というテクノロジーが変わる瞬間に立ち会えたら最高だなって思います。

ちょうど去年の1月にUKから異動してきたとき、4名のデザイナーとともにメルペイの立ち上げに入ったんです。そのとき実は、何を作るのか、何を目指せばいいのか全体像はまだわからなかった。代表の青柳も入ったばっかりだったので、急ピッチでいろいろなことを決めていたフェーズでした。そもそもメルペイって、メルカリとは別アプリで出すと思っていたメンバーもいたぐらいです。だからまず、立ち上げたデザイナーで「全体像」を作るところがスタートでしたね。

ワクワクするビジョンを、どう落とし込むか


まこと:その全体像というのは、どういうものなんですか?

鈴木:だいたいこんな感じのモノを作るというイメージをみんなに持ってもらうところですね。自分たちも手探りの中キャッチアップして、それを1月2月でわーっと作ったんですけど、組織からありがたがられるアウトプットがあったからこそデザインチームのポジションを認めてもらえたと思っています。デザイナーは、スタート時の入り方がとても重要だなと改めて感じました。

あとでエンジニアから「あのイメージがあってありがたかった」と言われてものすごく嬉しかった。みんなに感謝されるようなところを泥臭くやろうと決めてたので。困っていたらすぐにデザイナーがストラクチャーを作って「どうですか?」って見せて、「なるほど、こんな感じなんですね」っていう形で、コミュニケーションが円滑になるように意識していました。そうしたらしだいに「資料をもっと伝わりやすくしたいから協力してほしい」とか、「カルチャーを社内外に伝えたいので採用サイト作ってほしい」とか、「リリースされた世界観を作ってほしい」とか、いろいろと頼まれるようになってきたんですよね。会社の文化作りに関われるようになり、いい流れを作り出すことができました。

まこと:メルペイが始まった当初に、みんなが共有できるイメージを作ったからこそコミュニケーションが生まれて、「それならこういうのができるんじゃないの」となってきたと。

鈴木:そうですね。社長の青柳もCTOの曾川も、夢がとても大きいんですよ。ワクワクするビジョンがある。そのワクワクが具体的にどうなるかを探るために「何かを作らないと」と思って、デザイナーたちで画面や世界観をゴリゴリ作っていったんです。

まこと:理想と現実を埋めるような役割ってことですよね。経営者のビジョンと他のメンバーとの中間に立って、みんなに伝わるように「こういうものなんだよ」という翻訳をしたと。

鈴木:そうですね。実際に作るもののイメージがなんとなく掴めてくると、エンジニアもプロダクトをイメージして工数を見積もりやすくなってきたと思いますし、ビジネスデベロップメントやセールスの方々に世界観をイメージしてもらいやすくなりました。メンバーもどんどん増えてきて、2018年11月からデザインマネージャーという役割を担っています。今は、自分で手を動かすというよりは、どうやってバリューを最大化できるかに注力しています。

 

自分ひとりで作れるものなんて、たかが知れている


まこと:数ヶ月前にデザインマネージャーになった伸緒さんにひとつお聞きしたいんですが、伸緒さんの考える「マネージャー」ってどういう存在なんですか?

鈴木:僕自身まだ、マネージャーがなにかという確固たる答えはないんですが、今は「デザイン組織のPM」かなと思ってやっています。個々のデザイナーが全力で走れるようにディレクションする、という言い方もできますね。少ない情報でやったほうがすごくパフォーマンス出るんだったら余計な情報を省いて伝えるし、たくさんインプットしたい派だったらいろいろと情報を渡す。その人ごとに伝え方・情報を分けて、全員が100%のパフォーマンスを出せるようにするPMです。

マネージャーになると、全体を見ているなかでどこが抜けているかに一番気づきやすい。そこから、本人にやってもらえそうだったらそうするし、無理だったら誰かを連れてくる、それか自分のリソースを入れるとか、そういう判断をする立場だと思います。

まこと:なるほど。だとすると、なぜ伸緒さんがデザインマネージャーになれたのかが気になりますね。

鈴木:「チームのことを考えているから」と言ってもらったので、それは大きな理由だと思います。

まこと:ふむ……なぜ、「チームのことを考える」ようになったんですか?

鈴木:前職のサイバーエージェントのとき、あまりチームでデザインするという機会はほとんどなかったんですよね。それぞれのサービスにデザイナーがついていて、それに対してアートディレクター的な感じで、クオリティのレビューをしていました。チームで動く感じではなかったんですね。だからなのか、ずっとデザインチームを組んで何かやりたいなと思っていました。

まこと:そこからメルペイに入って、「チームを持つ」という自分が今までやってきたキャリアで経験をしたことがない部分を渡されて、自分に火が付いた?

鈴木:そうですね。「自分ひとりで作れるものなんて、たかが知れている」っていう前提が僕のなかにはあるんです。だからこそ1人で完結するような作り方はスケールしないので、あまりしたくない。なので、チームビルディングにはコミットしたいなと、自然と思いました。

「気づかれなくていい」デザインを志向する集団

まこと:メルペイのデザイナーチームで、ここが特徴的だなって思う部分はあります?

鈴木:メルカリ・メルペイだと「どうやったら使いやすくなるのか」とか「どうやったら目立たないか」とか、そういう「気づかなくていいよ」みたいな作り方をするデザイナーが多いですね。

一般的には世に出したアウトプットとして、ドーンと花火が打ち上がっている方がデザイナーとしてはうれしいと思うんですよ。でもメルペイでは、たとえば3画面が地味な画面だとしても、初めて見た人が一発で使えるような形になっていたら喜ぶんだろうな、という人たちが多いです。

まこと:なるほどね。

鈴木:かなり玄人というか、アウトプットとして控えめにならざるを得ないところを、気にせずにやる人が多い印象です。ほぼ全部のパターンを考えるぐらい、可能性を全部考えた上で意思決定しています。アウトプットとして最後に3画面しかなかったとしてもそこに至るまで100画面以上作っていることは多々あります。

与えられた情報を待っているだけだと「気付かれない」デザインは作れないんです。仕様がわからないと、さりげなく次の画面に移るようなデザインは作れない。実現したい状態を創るために、自分で必要な情報を取りにいける人たちじゃないとできないですね。自分からコミュニケーションをしていける人が、いいプロダクトを作っている印象です。

 

事業会社のデザイナーに求められること


鈴木:ただ、そうはいってもバックグラウンドが違ったりすると、とまどいはあるみたいですね。もともと制作会社にいて、いわゆる「言われて作っていた」ような環境にいた人からすると、コミットの仕方に対して「意味がわからないです」という感じにもなっちゃう。ちょっと悪い言い方をすると、「いいじゃんできたんだから」みたいな考え方。

でも、そういうときには「誰に届けたいのかわからないデザインは、果たして人のためになるの?」とか「こういう人に誤解与えちゃうんじゃないの?」っていう視点を伝えています。いろいろなパターンを検証することこそ、事業会社のデザイナーに求められることだと思うんです。そこはチームで徹底しているところですね。

まこと:わかります。僕が見ているLIGのWeb制作事業でも、「クライアントって、本当にそれを求めているんだっけ? クライアントの課題はなんだっけ?」というところを突き詰められるかどうかで、そのチームの受注率もリピート率も変わってくるんです。相手のことを思い、考え抜ける力が重要なんですよね。

鈴木:そうですね。たとえばPMから「ひとつ文言を変えてほしい」というリクエストがあったとしても、普通なら「じゃあやっときますね」ってなると思うんです。そこで「なんで変えるの?」と問えるかどうかじゃないかなと。PMからの話を紐解いていくと「こういう問題があって、誤解が出ちゃったから変えたい」ってことだったりするんです。それさえ聞ければ「え、でもそれだったらこっちの画面を変えたほうがいいんじゃない?」という提案ができますよね。お医者さんの問診みたいに話していくと、課題がすごく出てくるんです。それはクライアントワークでも一緒だと思うんですよ。

まこと:一緒ですね。

鈴木:だから、相手の言っていることを鵜呑みにしないことが大事なんです。こちらもしっかり考えて作らないと、意味がわからなくなっちゃう。こちらで責任を持てないし。そういったところも含めて、チームでの目線合わせは重要だなと思います。

マネージャーを目指すなら、自分の仕事の影響範囲を意識する

まこと:なるほど。今後デザインマネージャーってもっともっと増えてくると思うのですが、そこを目指す人たちに対して、必要となるスキルについてアドバイスがあればぜひ。

鈴木:まず、優秀なデザイナーであることと、マネジメントがうまいことは、ぜんぜん関係ない軸の話なんです。むしろ優秀なデザイナーだったらそのままデザイナーでいたほうがいいんじゃないかなって思いますし、やってみて感じたのは、マネージメントは一つのスキルセットで、習得したいと思うモチベーション次第だと思います。

そこからマネージャーを目指したいのであれば、自分の仕事の影響範囲を意識することかなと思います。自分と隣に座っている人までの影響範囲だけではなく、チーム全体とか周りの人のことを考えてくれそうな人だと、マネージャーを「やって」と自然と言われるだろうなと思いました。

まこと:なるほど。じゃあ、マネージャーになってからはどうですか? たとえば僕は個人的に、管理しているだけならマネージャーじゃないなって思ったりするんですよね。結局その人が手を動かしてどんなものを作るのかを見ないかぎり、人はついてこないと思うんです。指示だけしていても、「こいつ何ができるんだよ。ただオフィスにいてメールしているだけじゃん」っていう印象になりますよね。でも何か自分が資料を作ったりすると、「あ、ちゃんとこの人はこういうものが作れる人なんだ」と思ってもらえる。

鈴木:そうですね。僕自身、作らないマネージャーの言うことは聞きたくないなって思います(笑)。だから自分は絶対作らなきゃダメだなっていうのは大事にしています。説得力がぜんぜん違うので。その前提がありつつも、僕が思うのは「100%を目指さない」のが大事なんじゃないか、ということですね。

まこと:ほう。

鈴木:自分で100%やらないってことです。いままでぜんぶ自分で100%やっていたと思うんですけど、それを60%に抑えないとチームが120%、150%といったパフォーマンスにならないと思うんです。一番意識しなきゃいけないのは暇になろうとすることだろうなとは思います。これは今まさに取り組んでいる課題のひとつで、もっと成長しなきゃな、と思うところです。

 

もうひとつが、暇は暇のままで過ごすんじゃなくて、暇になったから本来やるべきことを見つけられるようになることです。仕事をどんどん渡すと基本は暇になるはずじゃないですか。だけど「意外と暇にならないな」っていうのが、なってみたあとの感想です。仕事を見つけて増やすわけじゃないんですけど、いままで目が行かなかった部分にいろいろな仕事があるのがわかりました。

 

自分が面白そうだなと思ったことに対して、最初に首を突っ込める

鈴木:みんなマネージャーのことを誤解しているし、自分も誤解していたんです。前は、「周りのみんなのために自分の時間を使って、自分のやりたいことができない」みたいになるイメージでした。でも、実際なると、プレイヤーでやっていたときよりもいろんな情報が飛び込んでくるので、自分が面白そうだなと思ったことに対して最初に首を突っ込める

マネージャーって、特に新しいもの好きな人に向いているんじゃないかなと思うんです。「やっていい」というコトを前に進める権利が与えられているわけだし、うまくポジション使ったらいいんじゃないかと。須田さん(まこと)も相当好き勝手にやっていると思いますけど(笑)。

まこと:ははは(笑)。まあでも僕は好きだから。結局、プロダクトをどれだけ愛しているかだと思うんですよ。どういう風に具現化させようかと、ドライブさせる力があるかないか。で、自分だけじゃできないから周りを巻き込んでやれる力が必要。定性的には、愛が重要だと思う。

僕はCREATIVE X大好きだし、今の自分の仕事も会社も大好きだし、全部好きだから、だから全部いっしょにやっちゃおう! と思っています。このインタビューの場合は、今ここに一緒にいる編集も撮影もそうですけど、社内を巻き込んでやってますね(笑)。

鈴木:わかります。僕も、結局人に近い距離のサービスをやりたい、いいプロダクトを作りたいということしか考えてないんです。そのために必要なことをぜんぶやりたいっていうのを、素直に周りにも伝えています。そこは今のチーム全員が、いいプロダクトを作りたいと思えているんじゃないかなと感じています。

信頼の積み上げなしには、任せてはもらえない

まこと:経営層であるとか、もう一個上のレイヤーを目指すために、いまの時点で必要なスキルってなんだと思いますか?

鈴木:直近で意識してやっていることがひとつあって。デザイナー以外のポジションや領域のひとたちが、自分の仕事をどう捉えているかを踏まえて、伝え方をぜんぶ変えているんです。「この人はいま、何を一番気にしているのかな」っていうのはすごく考えるようにはしています。同時に、彼らと同じフィールドで話さなきゃいけないので、彼らがやっていることを理解しようとしています。

まこと:じゃあ、伸緒さんがたとえば経営側のメンバーに入ることになった場合、何が必要だと思いますか?

鈴木:単純に個人としてやりたいんじゃなくて、うちとしてはこれやった方がいい、と根拠とともに言えるかどうかが必要かなと。それ自体が技術的にもビジネス的にも実現できるのか、そもそもその会社に合っているかが必要ですよね。それに付随して数字についてどれだけ話せるかということが入ってくる。

まこと:入ってきますね。

鈴木:でもそれは本質ではなくて、ほかの人と会話をする手段なんですよね。

まこと:基礎知識として必要にはなりますよね。ひとつの言語というか。

鈴木:そうですね。その上で、最終的に何かを任せたいかどうかを判断するラインって「こいつに任せとけば大丈夫だな」って思ってもらえるかどうかなのかなと思います。信頼の積み上げなしには任せてもらえない。そのために今あらゆるパターンを検証するのは当然求められるでしょうし、その上でちゃんと事業を会社に提案して前に進めることができるというのが、必要な力だと感じています。

まこと:なるほど、時間が来ちゃったので今回はここらへんにしましょうか。またお話を聞かせてください。今日はありがとうございました。

鈴木:ありがとうございました。

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須田 允(まこと)
須田 允(まこと) BiTT開発事業部長 / 須田 允

1986年生まれ。約15年の海外生活を経て早稲田大学に入学し、ロンドン大学へ留学。 2010年に株式会社サイブリッジに入社。オウンドメディアのデジタルマーケティングを統括し、課長に就任。 2012年、アクセンチュア株式会社に入社し、通信や放送メディア領域における戦略立案・デジタルマーケティング業務/施策のコンサルティングを担当。 2018年より株式会社LIGの取締役に就任し、Web制作、BiTT開発、メディアの3事業部門を統括し、LIG PhilippineのCEOも兼務。 社員におにぎりを食べさせるべく、寝る間を惜しみ日々疾走中。

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