こんにちは、LIGの取締役をしています、須田允(まこと)です。
クリエイター向けイベント「CREATIVE X」のスピンオフ企画として、イベントに登壇してくれるクリエイターたちのインタビューを連載形式でお届けしている「CREATIVE X INTERVIEW」。
前回は、メルペイのデザインマネージャー・鈴木伸緒さんにお話を伺いました。 「100%を目指さない」デザインマネージャーのあり方とは?―メルペイ 鈴木伸緒|CREATIVE X INTERVIEW #1
「CREATIVE X INTERVIEW」の第二回目となる今回は、広告業界出身であり、現在幅広いプロジェクトで活躍する玉木穣太さんとお話ししてきました。
玉木穣太(たまき・じょうた)
株式会社XCOG代表取締役CEO、dpdc.design 代表 2017年7月まで機械学習・深層学習ベンチャーにてクリエイティブリードを担当。その後眼科の遠隔治療診断ヘルステックスタートアップであるMitasMedicalにてストラテジスト、DNX Venturesの新名称開発・CI開発、Fintechベンチャー・OLTAへのプロジェクト参画、JapanDigitalDesignでのクリエイティブアドバイザーなどを歴任。現在ではdpdc.design 代表を務めるほか、2019年3月より「非認知能力を認知する」をミッションにしたXCOGを設立、代表取締役CEOに就任。 |
デザイナー同士が1pxで盛り上がっている間に、伝えるべきこと
まこと:今回、広告出身でありさまざまなスタートアップ支援をされている玉木さんに、クリエイターやデザイナーはどう生きていくべきか、という話を聞きたいんです。
クリエイティブが創造性という意味だとしたら、それを作り出すための設計をしていくのがデザインだと思っています。そうすると、デザインの対象は組織やビジネス、グラフィックなど、多岐に渡りますよね。
デザイナーって呼んだ瞬間にグラフィカルなものを作らないといけない、というイメージもあります。でも僕はそこで終わらせたくないと思っているんです。
玉木:ありがとうございます。最近思うのは、多くのデザイナーが研究者っぽいということ。たとえばカタツムリの粘液の話をする研究者がいたとして、僕たちには、日常の生活とどう関わっているかすぐに想像できない。デザイナーが1ピクセルうんぬんで盛り上がっているのって、それとそんなに変わらないと思うんですよ。自分たちが大事にしていることを、「どう翻訳して伝えるのか」を考えなければいけないんです。
たとえばいまは「〇〇デザイナー」というように、誰もが自分で定義していける。自分で語るのはいいんだけど、客観的に見たときに、誰もそうとは思ってなかったりします。研究分野によっては数式で伝えられるかもしれないのですが、デザインはそうじゃない。そこから相手の言語に合わせて喋るような力が大事なんじゃないかなと思っていて。
まこと:あー、確かにそうですね。
玉木:たとえば、そこら辺を歩いてるおばちゃんに、デザインやってますって言っても「あら、ファッションの?」みたいな言葉に捉えられる。それはもうしょうがなくって、その人を変える、というよりは、どういう風にその人に自分が何者であるかを伝えるかっていうところが重要なんじゃないかなと。それでいうと、翻訳力と編集力とか書記力が、自分に今一番必要な能力だと思っています。
綺麗に作った資料を、「捨てろ」と言われた瞬間
まこと:玉木さんは最初のキャリアってどう積まれたんですか?
玉木:新卒のときは大手広告代理店に入ることがよいという、世の風潮みたいなものがあって。大学のときに、広告代理店に入るための学内選考に参加したんですね。そのときはあえてプレゼンを一切しなかったんですよ。プレゼンを聴いている人も疲れているだろうし、僕の順番前後の人の印象をかき消してやろうと思って、全身タイツで臨んだりしていました。戦略を立てるのが、とても好きだったんです。
まこと:マジですか、なんかすごいですね。
玉木:でも、何が正解かわからないまま、社会に出ました。まだWebとかイケイケじゃない時期に、ゴリゴリのtableやFlashでWeb制作を行ったりして。肌に合わないことも多く、企業を転々としました。
まこと:そのあたりのキャリアのなかで、脱皮した瞬間とかってあります?
玉木:外資系の広告代理店に入っていたときですかね。
社会に出てからずっと、かっこいいデザインとは何かを考えるのに必死だったんです。『ブレーン』だとか、デザイン系の雑誌を本屋に通って漁って、それを真似したりしていたんですが、実際には答えが出なかった。
そんなとき、あるプロジェクトで上司から重要なデザインを任されて、自分のなかでは最高に綺麗なモノを作ったと思ったんです。そうしたら上司に突然、デザインを「捨てろ」と言われて……。とてもショックでした。親にもぶたれたことないのに! という感じです(笑)。
振り返ると、その作品はキャンペーンのターゲットが絶対反応しないものだったんです。そこから東急ハンズに駆け込んで、コンセプトだったリゾート地の世界観にありそうな材料を組み合わせて制作をはじめたんです。毎日徹夜しながら手作りしました。この写真にあるような冊子を70冊作ったりして。
これが、上司にもクライアントにも好評だったんです。これじゃなかったら採用しなかったとまで言ってくれました。クライアントにとっては、そもそもクオリティやかっこよさは関係なくて、没入できるかどうかが大事なんですよね。もっというと、アイディアのほうが大事だと学んだ瞬間でした。
広告は、問題提起までしかできない
まこと:いま広告の仕事はぜんぜんされていないですよね? どうしてですか?
玉木:広告の世界も楽しかったんです。でも、プロモーションは企業の代表がビジョナリーに何かを伝えるわけではなく、代理店が代理でものを伝えていくことが多いですよね。次第に自分が満足できなくなってきたんです。
たとえば清涼飲料水メーカーがプロモーションでソーシャルグッドなこと、社会的に良いとされていることを発信したとしても、それは彼らのメッセージのひとつであるだけで、フルコミットでその問題解決に向き合っているわけではない。清涼飲料水を売る彼らには、本業がある。清涼飲料水の缶をコミットして売らなきゃいけないということがメインのミッションなわけだから、社会的な問題解決に対しては全力で向き合えないわけです。
まこと:そうですよね。
玉木:そうすると、言っていることとやっていることが違ってきちゃうんですよね。広げるだけ広げて、プロモーション期間が終わった2週間ぐらい経ったらもう知らない、みたいなのは、ちょっと今後きついんじゃないかと思いはじめました。問題提起まではしてるんだけれども、それってひょっとしたら、無責任なこともしてるのかもしれない。
広告は、適切な人に適切な情報を伝えるツールです。そこから、他人のドメインを侵食し問題提起だけをする広告プロモーションをしてしまうのは無責任だと思います。また、どんな組織でどんな人が社長で、どういう計算をしながら、どういう数字を回しながらやっているのかを目の当たりにしたかった。そんな思いもあって、広告の世界を飛び出して、ベンチャーの世界に来たんです。
まこと:ベンチャーに入ってからは、何をされていたんですか?
玉木:AIのベンチャー「Cogent Labs(コージェントラボ)」は、Ph.D(博士号)を持った博士や天文物理学の博士、物理学、工学、統計学博士などが所属するような会社だったんですが、そこではクリエイティブリードをしていました。会社を世の中に向けて可視化することがミッションで、そういう漠然とした出口に向けてだったら何をやってもいい。正解がない。そんな環境にいました(笑)。
まこと:おおー。任されてますね。
玉木:グラフィックデザインだけをやっていたわけじゃないんですよね。アプリのデザインももちろんやるんですが……。たとえていうならデザインって1,000個あるタスクのうちのひとつなんです。
そのプロジェクトを成功させることが僕のミッションなんで。グラフィックデザインはどちらかというと、部分のみの役割に近いと思っています。
ファシリテーション能力よりも、書記力
玉木:固有のグラフィックデザインのスキルというよりは、「書記力」が大事だなと常々思っています。たとえばまことさんは、アクセンチュア時代って最初書記ばっかりやってたじゃないですか?
まこと:そうですね。1年目はとくに、議事録を書きまくっていました。
玉木:すばらしいと思います。書記力はファシリテーション力よりも大事だと僕は思っているんです。
ファシリテーションは、プロットに落とし込んでいけば最悪誰でもできるんですよ。台本読みながら「次は……」って言えばいい。一方で、書記をするときは、次の一手がわからない。この瞬間に何が出てくるかわからないじゃないですか。インプットする演算能力とアウトプットする表現能力が求められます。しかも即興です。わかりやすく伝えるためだったら、グラフィック言語でも良い。手段は無限にあるんですよね。書記のセンスで、物事がどういう風に伝わるかが大きく変わるんです。
まこと:なるほど。
玉木:書記力はデザイナーにだって役立つし、鍛えるべき部分です。自分はよくさまざまな企業の経営会議に呼ばれるのですが、その理由って、その場で書記をしてわかりやすく説明する力があるからじゃないかなと思っているんです。
みんなめっちゃくちゃなことを言っているけど、書記をした結果綺麗にまとまっている、みたいなものがたぶん必要なんですよね。
「私の作品です」と言う前に、どの惑星に行きたいかを考える
玉木:ロゴを作るという依頼を受けたら、ただただ制作しちゃうだけの人もまだいらっしゃると思うんです。でも、その依頼が来た背景が何なのかを考えないといけない。
30万でロゴを作って、「私の作品です」って言うだけになってしまうと、とてももったいないなって思うんです。
ロゴを作りたい背景には、イメージを刷新したいのかイメージを定着させたいのかっていう問題があったりしますよね。どちらかによって大きく方向性が違ってくる。最終的には、方向性を間違えずに進めて、目的である惑星にたどり着けばいいだけ。航路はなんでもよいんです。そしてその手段は、ロゴ制作だけじゃないかもしれない。
まこと:お客さんの求めているゴールが一体何なのかを明確にすると同時に、ひとつの手段ですべて解決できるわけではないことを自覚する、ということですよね
玉木:そうです。発注側はどうしても、「ロゴが作りたい」っていう頼み方になっちゃうんですよ。このデザインをして欲しいとか、アプリ作りたいとか……。でもそれは発注側が答えを作っている。問題は、そのできあがったツールを使って、何をしたいかなんです。たとえばアプリじゃなくてWebを使うべき、っていうのはこちらから提案しなければいけない。
その企業や事業が失速するんだったら、そのUXデザインもUIデザインも時間をかけないほうがいいし、お金もかけないほうがいい。その事業が成功するためだったら、いま自分が何をすべきかのストラテジーを考えるわけですよね。どういう風に売り先を攻めていくのかをすべて作れる。
まこと:ファジーなことに対して、現状のユーザーとかデバイスとか含めて、いまこのサービスだったらこう実現できますよって提案する立場でもあるってことですよね。
玉木:おっしゃるとおりです。さらに、ブランドポジションというレイヤーについても考えなければいけない。そのサービスがうまくいったとしても、ブランドに魅力がなければ、ユーザーはほかのブランドに浮気しちゃうんですよ。同じようなものがあった場合に、自分たちのプロダクトをどういうポジショニングに持っていきたいのか。それを見極めるために、ヒアリングを何回も何回もするんです。
親バカになる機会を提供する
まこと:最近、玉木さんはどんなプロジェクトに関わっていますか?
玉木:いまはXCOGという事業を起ち上げて、社会の問題に挑んでいます。一方で個人事業主としてはベンチャーを手伝っていることが多いですね。直近ではoltaという企業のロゴを作りました。そこで、その場で一緒にデザインを作るということをやりましたね。「モブ」と呼んでいます。「モブプログラミング※」って言葉はご存知ですか?
まこと:1台のPCを使って、みんなでワイワイしながらプログラミングしていく手法ですか?
玉木:そうです。そのモブを、デザインでもやるんです。僕は、モノを納品するんじゃなくて、体験を納品しているつもりでやっています。宿題として作ったものを持ってこられても、納品される側はあんまり愛着がわかないんですよ。
当事者たちが見ている前で、カタカタカタってタイピングしたり、Illustratorをガーッって動かしながら作り上げていく。「これどうですか?」って問いかけながら、自由に意見を言ってもらうんです。
「ここ、青だったらどうなる?」とか言うと、けっこうみんな乗ってきてくれて。「赤に変えるとこんな感じですけどどうですか?」「めっちゃいい!」って盛り上がるんですよ。
そうするとみんなが愛着を持ちはじめるんです。で、それをそのまま届けてあげると、めちゃくちゃ満足度が高いんです。完成したものに自信を持ってるから、自分たちのお客さんにも「僕たちが作ったんです」ってどんどん自慢するんですよ。それでいいと思っていて。むしろ、そうじゃなきゃいけない。
親バカになる必要があるなと思っています。でき上がった作品に対してクライアントが親バカになる機会を作るわけですよね。
まこと:いまの話を聞いて、LIGのスタイルでもひとつ共通点があるなと思っていて。
言い方が正しいかどうかわからないんですけれども、ワークショップと同じかなと思っています。
玉木:あ、近いですね。
まこと:Webサイトのデザインを作るときに、いきなりデザインを持っていっても何でこのデザインなのかって納得感がない。だから、僕らはあえてプロジェクトのはじめに、ワークショップをやるんです。企業側の人たちが何を伝えたいのか、コンセプトのキーワードって一体何だっけっていうのを、みんなで話し合う。その導き出したキーワードって、すごい納得感があるんです。「キーワードってみんなで考え出したものだから正しいよね。だからこれでいいんだよね」って互いに思える。
玉木:今後重要になってくるのは、その納得感をつくる力かもしれないですね。たとえば先ほどのoltaの例でいうと、最後の足の色までみんなで考えていました。あとは、Webサイトに載っているイラストの人の服の色までみんなで決めていましたね。
あとは、「Draper Nexus Ventures」という、BtoBスタートアップへの投資を行っているベンチャーキャピタルファンドがあるのですが、そこの新名称を決めるプロジェクトでも、ほとんどのプロセスでモブを使いました。一部のアイディアや発想は、彼らの思考を反映していたりします。
こちら側がなんとなくのイメージを持っておいて、コンセプトさえ歪んでなければ、彼ら自身の発言を尊重します。相手の口から出てきた言葉を、できるかぎり採用する。結果「DNX Ventures」という社名になり、ロゴもできました。それはもう僕だけの作品じゃないんですよ、僕たちの作品。でもすーっごく満足いただけたんです。
自分たちが作ったという誇りを持ってくれたんですよね。プロセスを含めて「一緒に作った」という経験が大事なんです。
コンサルティングと、デザイナーの接近
玉木:インターネットとテクノロジーは「最適化」「効率化」が大好きだからこそ、デザインのマーケットもシュリンク(縮小)していっていると感じています。でもシュリンクしてるのは、デザインの職人的、道具的な部分。一方で広がってるのはビジネス側のデザインだと思っています。
まこと:僕もそうだと思います。加えて、コンサルタントとデザイナーという職種はどんどんくっついていっていると思うんです。
コンサル企業って、ストラテジーまで作るんだけど実践してみてアウトプットを出そう、というところまではやってくれないんですよね。コンサルティングって言葉の意味って、「相談」だけであって。相談相手になって、じゃあ何かアウトプットや前に進むものがあるのかっていうと……たぶんそうじゃない。
コンサルティングの世界と、ものづくりをしてきたデザイナーの世界が一緒にタッグを組んで、領域を相互に超えはじめている部分があるのかなって思っています。むしろデザイナーがコンサルの領域を喰い始めているんじゃないかって。
玉木:デザイナーの、プロジェクトを引っ張っていく力ってとても重要ですよね。それがなければ、書記力とかもなくて物事を正確にアウトプットすることができなくなって、情報インプットの力もなくなって学習の範囲が狭くなり、人も動かなくなってしまう。それらの基礎力が根底にあった上で、スキルセットを磨けばいいんです。TwitterのDMでも「UXデザインを学ぶためには、どのイベントに行ったらよいですか」みたいな相談をいただくことも多いんですが……イベントに参加するというよりは、ふだんから身近にできる「書記」の訓練さえしていれば、UXデザインどころかUIをはじめどんなデザインでも使える根底の力が身につきますよ。それが一番の近道だと思っていますね。
まこと:フレームワークに依存することなく、クライアントやユーザーが何を求めているかをしっかり受け止めて課題解決する。そしていろいろな領域を越境していく。そんなクリエイターがひとりでも増えたらよいですね。
今日はたくさんお話が聞けて楽しかったです。ありがとうございました。
玉木:ありがとうございました。
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▼過去のCREATIVE X INTERVIEW はこちら。 「100%を目指さない」デザインマネージャーのあり方とは?―メルペイ 鈴木伸緒|CREATIVE X INTERVIEW #1
それではまた、次回のCREATIVE X INTERVIEWでお会いしましょう!
今回の撮影場所は、ライフスタイルホテル「The Millennials Shibuya(東京都渋谷区神南1丁目20番13号)」にある、コワーキングスペース「andwork」様。ホテルゲストが24時間使えるほか、ゲスト以外でもドロップインでの利用が可能です。
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