生成AIを業務に活用したいものの、どのような場面で取り入れられるのかがわからないという方も多いのではないでしょうか。
近年、ChatGPTやmidjourneyの誕生により、生成AIは非常に注目を集めています。生成AIを活用したCMやカスタマーサービス、AIアナウンサーなど、日常でも目にする機会は非常に増えました。
実際に、総務省の「令和6年版 情報通信白書」によると、業務において生成AIを活用する日本企業(トライアル中を含む)は、全体の70%と非常に多いことがわかります。
生成AIを活用することで、業務効率化やコスト削減に繋がるだけでなく、自社では出せないようなアイデアの創出にも役立ちます。
自社の業務に適した生成AIを選ぶためにも、他の企業がどのように活用しているのかがわかる事例で学ぶことも大切です。
本記事では、「生成AIコンサルティング」事業の立ち上げに伴い、日々生成AI関連の情報収集をおこなっている筆者が、実際に生成AIをビジネス(事業)で活用している企業の例や、各企業が社内業務においてどのようにAIを活用しているか実例を紹介します。
また、弊社LIGにおける具体的な活用事例もあわせて、12のAI活用事例をまとめました。
※以下をクリックorタップで該当箇所へジャンプします
生成AIを活用した新規ビジネスの事例
社内業務における生成AIの活用事例
LIGにおける生成AIの活用事例
そのほか、生成AIを使うメリットや注意点についてもまとめていますので、ぜひ最後までお読みください。
- 生成AIってそもそもなに?
- 自社の業務でどう活用できるかイメージできない
- ChatGPTを社内に導入したが活用できていない
このようなお悩みは生成AIコンサルティングのプロである弊社LIGにぜひご相談ください。戦略アドバイザーとして10社以上の顧問に従事している弊社の顧問・梶谷建人氏ともコラボレーションし、生成AIを使った業務マニュアル策定など定量的な効率化をサポートいたします。
そもそも生成AIとは?
生成AI(Generative AI)とは、データを基に新しいコンテンツや情報を自動的に生成したり、学習する能力を持つ技術のことです。
2022年にOpenAIのChatGPT、midjourneyといった革命的なサービスが誕生しており、近年もっとも注目を集めている技術体系と言えるでしょう。
例えば、ChatGPTは条件によって文章を「生成」するだけでなく、新たなデータを学習できるため、生成する文章の精度を高められます。
Microsoftのビル・ゲイツ氏、ソフトバンクの孫正義氏など、ビックテックの方々も強い興味をしめしており、この流れはさらに加速していくと思われます。
昨今、AIを使ったビジネスがいくつも生まれていますが、私はそれらの多くに共通するのは「AIが超高度な効率化であることを生かしたビジネス」だと感じています。
現時点では、
- 「人力では採算が合わなかった量のタスクをこなす」
- 「人力では対応できない速度でこなす」
- 「ユーザー1人に対して複数人体制の対応者がいるようなタスク量をこなす」
というようなサービスが生まれている印象です。
このようなサービスでは、特にAIによる効率化は不可欠と言えるでしょう。
生成AIの仕組みについては、下記記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
生成AIの仕組みをわかりやすく解説。機械学習の種類や活用例も紹介
生成AIを活用した新規ビジネスの事例3選
まず、ビジネス(事業)においてどのようにAIが活用されているか、3つの実例を紹介します。
【事例1】ライブドア:AIによる自動ニュース配信「ライブドアニュース24」
出典:ライブドア(https://ldcorp.livedoor.blog/archives/21659277.html)
1つ目のビジネス事例は、ライブドアニュース24です。
“■「ライブドアニュース24」とは
ライブドアニュースの記事を元に、Chat GPTや自動音声などのAI技術を駆使したキャラクターによる24時間ニュース配信サービスです。配信元各社から許諾をいただいているニュース記事をピックアップし、原稿の作成から音声による読み上げ、動画配信までの一連の流れを自動で行い、最新のニュースをユーザーへお届けいたします。VTuber文化が浸透してきた今、人間ではなくキャラクターを用いることで、デジタルネイティブ世代やテクノロジーに関心を持つ新たなユーザー層へアプローチします。β版リリース段階においては、「速見」がニュースキャスターを務めます。今後は配信元各社や当社が運営している各メディアと連携し、さまざまなジャンルへの展開と、それぞれのユーザーのニーズに応えられる情報を発信してまいります。また、日本だけではなく海外ユーザー向けに、ライブドアニュース24をその国の言語でお届けする予定です。”
(引用:「ライブドアニュース24」β版、公開スタート!
ライブドアニュース24は、上記のようにAIによって記事をピックアップ→原稿作成→Vtuberによる読み上げ→動画配信までを一連でおこない、多言語展開も可能としています。
ライブドアニュース24におけるAI活用のメリット
- 効率的な情報配信
- 個別のユーザーニーズへの対応
ライブドアニュース24が提供しているサービスの中核は、ニュースの自動収集・原稿の作成から読み上げ、動画配信までの一連の流れを自動化している点にあります。
これにより、従来は人のリソースを必要としていた作業が大幅に効率化され、24時間体制でのニュース配信が可能となります。
AI技術の進化により、ユーザーのニーズに応じたカスタマイズやパーソナライズが容易になっています。今後の展開で、各ユーザーの興味や好みに合わせた情報提供が実現される可能性が考えられます。
将来的には、ユーザーが気になるトピックのニュースだけを取り上げ読んでくれる「自分だけのニュース配信サービス」が誕生するかもしれません。
リスクや懸念点について
一方、別の視点としては、下記のような点にも考えを巡らせる必要があります。
- 信頼性と公平性の問題
- 情報の深みと質
- 人間の役割
AIがニュースの選定や原稿の作成を自動でおこなう場合、どのようなアルゴリズムや基準でそれが行われているのか、透明性を持っているかどうかが問題になります。
特定のトピックや視点が過度に強調されたり、逆に無視される可能性も考えられます。特定の政治主張や事件への見方など、デリケートな分野は特にアウトプットへ配慮する必要があるでしょう。
AIが生成する内容は、インプットのデータソースや生成アルゴリズムに依存します。また、洞察や背景情報、専門家の意見といった要素が欠落する可能性もあります。
AIで生成させる場合、エビデンスチェックの観点では不確実性が伴うでしょう。ただし、ライブドアニュース24に関してはエビデンスを伴った記事をインプットソースとし、要約して読み上げているので、ある程度その点が担保されているように感じます。
AIがニュースの生成や配信を自動化するなかで、人間の記者やエディターは何をするべきなのかは避けては通れない問題でしょう。人間の役割が縮小するのか、それともより質の高いコンテンツ作成や分析に注力する方向にシフトするのか、その方向性は検討が必要です。
現時点では、専門家の持つ体系だった知識などは、AIでの代替が難しいと感じますが、将来的にはどうなるか予測できません。
【事例2】アサヒビール:画像生成AIを活用した体験型プロモーション
出典:アサヒビール(https://www.asahibeer.co.jp/news/2023/0926.html)
2つ目のビジネス活用事例は、アサヒビールの広告施策です。
「Create Your DRY CRYSTAL ART」は、テキストと自分の画像をアップロードすると、そのシチュエーションの自分がAsahi Dry Crystalを楽しんでるアートが出てくるプロモーションサービスです。
“アサヒビール株式会社(本社 東京、社長 松山一雄)は、生成AI(人工知能)によりオリジナル画像が作成できるサービス「Create Your DRY CRYSTAL ART」を、『アサヒスーパードライ ドライクリスタル』のブランドサイト内で9月26日から展開します。今回のサービスには、Stability AI(スタビリティ・エーアイ)社が提供する世界で最も高性能なツールの一つとされる画像生成AI「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」を採用しており、体験型プロモーションに活用するのは日本初となります。
「Create Your DRY CRYSTAL ART」は、任意のテキストと自身の画像をアップロードするとオリジナル画像が作成されるサービスです。場所やその時の気分などに加えて、「水彩画風に」「アニメ風に」といった指定をすると、アップロードした画像を生成AIが加工してアート化します。満20歳以上であれば誰でも作成可能で、より多くの方の体験を促進することで「スーパードライ ドライクリスタル」の世界観を感じていただき、商品の認知拡大や購入喚起を図ります。”
引用:画像生成AI「Stable Diffusion」の体験型プロモーション活用は日本初「Create Your DRY CRYSTAL ART」
Create Your DRY CRYSTAL ARTにおけるAI活用のメリット
Create Your DRY CRYSTAL ARTのAI活用には、下記のようなメリットが考えられます。
- テクノロジーとアートの融合
- インタラクティブな体験
- SNSシェアの促進
昨今ではAIでのアート生成に広く興味が持たれており、アサヒビールが「Stable Diffusion」という先進的な技術を取り入れたことで、新しい顧客層をターゲットにすることも可能となります。
また、AI自体がバズワードなのでお祭り感が演出できる点も、プロモーションとしては強みとなるでしょう。
ユーザーが直接参加できるプロモーションとすることで、ブランドとのコミュニケーションが活発化し、ブランドロイヤリティの向上が期待できます。
生成されたオリジナルアートはSNSなどでシェアされる可能性が高く、それにより口コミやブランドの認知度の向上が期待できます。
ただし、一時的な話題性は得られるかもしれませんが、長期的なブランドの強化や、その後の継続的な関わりを持つキャンペーンへの展開に影響が生じる可能性もあります。
リスクや懸念点について
一方、下記の点がプロモーションの懸念点となります。
- 生成コンテンツの品質
- データの取り扱い
本来、このように生成される画像が一貫した品質かどうかはプロモーションとして重要です。ユーザーの期待に応えるものであるかは不明確で、期待を裏切られたり不快になったりすると、ユーザーはブランドに対する信頼をなくすかもしれません。
データの取り扱いアップロードする画像がデータ保護されるのか、プライバシーに影響ないかなどに懸念をいだくユーザーもいるでしょう。
また、データの漏洩や不適切な利用があれば、企業のイメージダウンに繋がります。前提として、データが学習されないような設計で作るのが望ましいでしょう。
【事例3】港区:行政主導の子育て世帯サポート「まちの子育てAIパートナー」
出典:PR Times(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000096169.html)
3つ目のビジネス事例は、行政でのAI活用として、港区の「まちの子育てAIパートナー」を紹介します。まちの子育てAIパートナーは、従来の行政サービスをAIで効率化しようというサービスです。
“プレッシャー、孤独、不安、時間的な制約を抱える子育て世帯に対して、行政が講じることができる施策やアイデアを、テクノロジー企業がオンラインサービスとして異次元の速さで実装します。
具体的には、港区LINE公式アカウントに、子育てを一緒に並走してくれる対話型のAI機能を実装し、子育て関連の行政手続きを網羅的にオンラインで受け付けられるよう窓口機能を集中的に実装していきます。月齢やタイミングに応じたスケジュール管理やアラート機能、病院や施設予約などあらゆる手続きが、説明書を必要とせず誰もがすぐに利用できるサービスを目指します。
本取り組みを通して、港区LINE公式アカウントは、子育て世帯全員のパートナーとなり、行政手続のナビゲーターとしてはもちろん、精神面での寄り添いを実現します。相談窓口とも連携し、保育士などの専門家への相談も容易に行えるように機能を構築していく予定です。”
(引用:港区とBot Express、生成AIを用いた「まちの子育てAIパートナー」開発のための連携協力協定を締結
行政がAIを導入するメリット
まちの子育てAIパートナーに見られるような行政のAI導入は、下記のようなメリットが考えられます。
- テクノロジーと行政の連携
- 利便性の向上
- 精神面のサポート
従来、行政はIT技術の利活用への取り組みが遅いと思われがちです。その点からも、行政が積極的にAI技術を活用していく姿勢は評価されるのではないでしょうか。
一方で、行政が直接関与している点からも、サービスの信頼性や安全性が高いものが求められるでしょう。
港区LINE公式アカウントを通じて、子育て関連の手続きや相談がオンラインで容易におこなえるため、多忙な子育て世帯の利便性が向上します。また、子育てに関する手続きやサポートを一元的に提供できることで、利用者の手間や認識のミスも減るでしょう。
なお、従来は区民へのサービス提供を心掛ける反面、操作の不明点など手薄になる部分も存在していました。こちらの事例ではAIを活用したQ&Aを設ける予定で、区民に対しての手厚いサポートの提供ができるのではないかと期待されています。
こちらのサービスには子育て世帯に対する精神的サポートや相談機能も組み込まれる予定で、行政としての総合的な支援がおこなえるようになる見込みです。
子育てに対して不安や孤独感を感じる子育て世帯に寄り添うことで、よりよい行政サービスを実現できるのではないでしょうか。
リスクや懸念点について
一方、下記が懸念点となります。
- サービスの持続性とアップデート
- プライバシーとセキュリティ
- 実際のサービス提供の質
- 効率化と生産性の向上
- コールセンター
- 営業
- マーケティング領域でのアイデア立案
- サービス開発のプログラミングサポート
- 業務レベルの標準化
- 安全・安心な業務利用
- AIの倫理的・ガバナンスの問題
- 業務の過度な依存
- 活用例
- 新規システム開発案件で、AWSとAzureのどちらを採用すべきかを判断するため、クライアントへの設問項目を作成。
- ▼活用例
-
- コーディングに行き詰ったときに、AIに設計を相談
- GitHub Copilotを導入して効率的なコーディングを実施
- ChatGPT-4Vを使い、AWSの要件を伝えて、対応するクラウドフォーメーションのyamlを書いた
- ▼活用例
-
- ログイン時の入力フォームのエラーパターンの洗い出しをおこない、テストケースを作成
- 設計書をインプットして、対応するテストケースを作成
- ▼活用例
-
- Code Interpreterを使った、データ分析、可視化
- NarrativeBIを使った、AIによるGAのデータ分析
- 業務の一部を自動化・効率化できる
- 人材不足の解消やコスト削減に繋がる
- 新しいアイデアを創出できる
- 生成された情報が必ずしも正しいとは限らない
- 情報漏洩のリスクがある
- 著作権を侵害するリスクがある
- ▼フェイク情報の事故例
- 【金融記事のフェイク情報事例】
アメリカのテクノロジーニュースサイト「CNET」は、AIを使って作成した金融記事を公開していましたが、これらの記事に多くに誤情報が含まれていました。住宅ローン・貯蓄・投資に関する内容でしたが、誤った計算や誤解を招く内容が含まれており、最終的に批判を受けました。
【AIが間違った学習をした事例】
Microsoftが開発したチャットボット「Tay」は、Twitterユーザーとの会話を通じて学習する設計でしたが、悪意あるユーザーの影響を受け、攻撃的で人を傷つける発言を繰り返すようになりました。その結果、わずか16時間でサービスが停止されました。 - ▼情報漏洩の事故例
- 【機密情報がChatGPTから流出した事例】
Samsungでは、社員がChatGPTに社内機密のソースコードを入力し、流出させるという事件が起こりました。この問題を受け、Samsungは生成AIの使用に関する社内規則を改め、機密情報の保護を強化する方針を打ち出しました。
- ▼著作権侵害の事故例
- 【無断で新聞記事を学習され著作権問題に発展した事例】
ニューヨークタイムズは2023年12月に、オープンAIとマイクロソフトを提訴しました。報道機関がコストをかけて取材した内容を、十分な対価を支払わずに利用している点を問題視しています。また、アルデン・グローバル・キャピタル傘下の8紙も、OpenAIとMicrosoftの両社を「AIのデータ学習のために、許可なく数百万本にのぼる新聞記事を利用し、著作権を侵害した」として提訴しています。
- 10社以上の顧問をつとめる生成AIのエキスパート・梶谷建人氏などパートナーとコラボ
- 自社でもコーディング工数を20%以上削減するなど社内活用も実践
- 各種生成AIツールの導入支援から自社システム開発部門と協働したプロダクト開発も可能
AIはまだまだ発展途上の技術であり、技術的な問題や予算の制約などにより、サービスの持続や定期的なアップデートが難しくなる可能性があります。
これはどのIT技術でも同じではありますが、AIは特に予測が立てにくい印象が強い技術です。サービスを導入する際は現状のみならず、今後の動向へ思いを巡らせる必要があるでしょう。
とくに行政などのインフラに近い部分での提供サービスの破綻は、住民にとってリスクとなるため、慎重な検討が必要となります。
行政がおこなうサービスである以上、個人情報の取り扱いやデータの保護に関して高いセキュリティを維持する責任があります。当然ながら、情報流出やセキュリティの脆弱性があると、行政の信頼性が大きく損なわれます。
今回のサービスは、実験的な側面があるとは思いますが、現時点ではAIが提供する情報やサポートが、実際の子育ての現場で役立つものであるかどうかは未知数です。とくに、一部のユーザーにとっては、AIの応答が不適切や不快に感じられる場合もあるでしょう。
間違った情報の提供や対応が思わぬ事象を生じる可能性もありますので、作って終わりではなく、実態を確認していかなければいけません。
AI活用新規ビジネス事例のまとめ
ここまで紹介した「ライブドアニュース24」「Create Your DRY CRYSTAL ART」「まちの子育てAIパートナ」の3つの事例を見てみると、AIを活用した新規ビジネスには下記のようなメリットや注意点があることがわかります。
▼AIを活用した新規ビジネスのメリット・注意点
メリット | 効率的なサービス提供 ・AIは大量のデータを迅速に分析し、個別のユーザーの要求に合わせた情報やサービスを提供できる ・今までのような「特定ターゲット層へのサービス」の枠を超えて、「あなたのためのサービス」を展開できるようになるポテンシャルを秘めている |
---|---|
手間の削減 ・行政手続きのような煩雑な作業も、AIを活用することでスムーズに進行させられる |
|
新しいモデルのサービス提供 ・個人へのアートの生成や、1:1の対話型サービスなど、従来の方法では実現しづらかった新しい体験をユーザーに提供できる。 |
|
注意点 | データの取り扱い ・個人情報の保護やデータのセキュリティは非常に重要 ・データの不適切な取り扱いは法的リスクやブランドの信頼性低下を引き起こす可能性がある。 |
過度な期待 ・AIは万能ではないため、過度な期待を持たせることは避ける必要がある ・ユーザーニーズの把握や課題解決に真摯に取り組む姿勢が求められる ・エビデンスやファクトに基づくデータであるか、正しい対応であるかも、精査する必要がある |
これらのメリットや注意点を踏まえ、AI系新規ビジネスを展開する際には、ユーザーのニーズや課題解決を中心に、継続的な技術のアップデートやデータの適切な管理、そして社会的・倫理的な側面も考慮して事業を進める必要があります。
社内業務における生成AIの活用事例2選
ここまでは、ビジネスやサービスにおけるAI活用事例について紹介してきましたが、次に社内業務効率化を目的としたAIの導入事例も2つ紹介します。
AIによる業務効率化が行われれば、本質的なタスクに集中することができるようになると期待されており、近年はAIを使ったシステムやSaaSなどを導入する企業も増えています。実際にどのように使われているか、事例をご紹介します。
※AIを使ったシステム開発をおこないたい方は、こちらのページで紹介しているAIシステム開発が得意な会社一覧もぜひご覧ください!
【事例1】ソフトバンク:セキュリティを担保した社内向けAIチャットの導入
1つ目の社内活用事例は、ソフトバンクでの社内チャットボットの導入です。
“ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、生成系AI(人工知能)を活用したソフトバンク版AIチャットを社内向けのサービスとして構築し、全従業員約2万人を対象に2023年5月29日から利用を開始しましたのでお知らせします。
ソフトバンクは、2023年2月ごろから生成系AIの業務利用を開始するなど、業務効率の向上などをはじめ、広く生成系AIの利用を推進してきました。このたび構築したソフトバンク版AIチャットは、ソフトバンクの全従業員が生成系AIをより積極的かつ安全・安心に業務で活用することを目的に、セキュアな環境で構築された社内向けAIサービスです。ソフトバンクの従業員は、このAIサービスを安全な環境で最大限に活用することで、文章の作成や翻訳などの既存業務の効率化や生産性の向上につなげることができる他、営業・マーケティング領域での企画・アイデアの立案やサービス開発における各種プログラミングのサポート、コールセンターの業務など、あらゆる業務に応用することを目指しています。”(引用:ソフトバンク版AIチャットの利用を開始~全従業員約2万人を対象に、セキュアな環境で生成系AIの業務利用を促進~ | 企業・IR)
ソフトバンクのみならず、社内向けAIを導入している事例は多くあります。社員の業務効率化は利益に直結しうるので、重要な視点です。
AIチャット導入のメリット
社内向けチャットAIの提供は、下記のようなメリットが考えられます。
まず、文章の作成や翻訳といった既存業務の効率化が可能となります。
以下のように、多岐にわたる業務で適用が可能です。
もはやAIの影響を受けない範囲はほとんどないでしょう。
普通、会社では知識や経験など様々な要素の影響もあって、社員一人一人の習熟度や能力に差があります。AIに相談することで、アウトプットのレベルを一定に保つことが可能になります。
人力だとどうしても取りこぼす点を考えると、一人一人が個人で活用できるチャットボットは非常にインパクトがあります(みんなにOJTがつくようなものです)。
社内システムとしてAIを導入しない場合、社員がその便利さに勝手にChatGPTを契約して使用し、そしてデータが漏れるなんてことが発生するかもしれません。このように、社員がITツールなどを無断で業務に使用することを「シャドーIT」と言い、近年問題視されています。
もちろんセキュリティの厳しい環境ではそのようなことはないかもしれませんが、AI活用自体を制限してリスクが発生するくらいなら、社内でセキュアな環境を提供し、AIの活用を促進するのがいいかもしれません。
リスクや懸念点について
社内でAIを使うのであれば、コンプライアンスへの配慮が必要です。入力していいデータやいけないデータの規定、使っていい業務など、会社としての方針を定める必要があります。
AIは有効ではあるものの万能ではないので、業務に過度に依存することは望ましくありません。
属人化ならぬ属AI化してブラックボックス化したり、従業員のスキルや知識の低下が生じる可能性があるため、気を配る必要があります。
【事例2】東京都:ChatGPTの全部局での導入
出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230715/k10014130661000.html
2つ目の社内活用事例は、東京都での社内チャットボットの導入です。
“東京都は、8月にも生成AIをすべての部局で導入し、資料づくりの参考などに活用していくことにしています。
利用者の求めに応じて文章や画像などを自動的に作り出す生成AIについて、都はプロジェクトチームを立ち上げ、業務に活用できるか検証作業を進めています。
こうした中、都は対話式AIの「ChatGPT」について、8月にも職員が安全に利用できるネット環境を整備した上で、全ての部局で導入し利用を始める方針です。”
(引用:東京都 生成AI「ChatGPT」 8月にも全部局で導入し利用開始へ | NHK | AI(人工知能))
東京都はChatGPTの導入に際し、生成AI活用ガイドも示しています。生成AIの活用を検討する際は、ガイドラインも併せて考えていきましょう。
さきほども行政がAIを使うメリットをあげましたが、従来のITへの取り組み事情を考えると、行政のAIへの取り組み速度は例がないほど早いと感じます。
これらは行政や政府がいかにAIに期待しているかの裏返しと言ってよいでしょう。
また、東京都という大きな行政主体が先に活用事例やガイドラインを出したことで、ほかの行政も追随し、日本の行政システムは大きな転換点を迎えるかもしれません。
生成AIの社内活用事例のまとめ
「ソフトバンク」「東京都」の2つの事例を見てみると、AI活用事例には下記のようなメリットがあることがわかります。
社内業務にAIを活用するメリット
▼社内業務にAIを活用するメリット
業務効率の向上 | 文章の作成、翻訳、有識者会議の報告書の要約など、多岐にわたる業務の効率化が期待される |
---|---|
新しいアイディアやサービスの創出 | 営業・マーケティング領域での企画・アイデア立案やサービス開発にAIを利用することで、新しい取り組みやイノベーションが生まれやすくなる |
※デメリットに関してはおおむねビジネス活用と同じとなるため、割愛させていただきます。
LIGにおける生成AIの活用事例8選
ここまで、さまざまな企業の生成AI活用事例を挙げてきましたが、当然弊社LIGでもChatGPTをはじめとしたAIを活用しています。どのような使い方をしているか、具体的にまとめました。
【事例1】各種ヒアリング項目の洗い出し(ディレクション)
通常、案件を進める際には様々な項目で決め事がありますが、AIを活用することでその設問項目のたたき台を作ることが可能です。
【事例2】スライドの作成
▲AIが生成したスライドの例
スライドの作成はスピーディに行う必要があるものの、構成や構成を考えなければならず、時間がかかってしまいます。しかしスライド生成に特化したAIツールを活用すれば、プロンプトを入力するだけで、スライドの自動作成や、既存のスライドのデザインを自動で修正できます。
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【事例3】スライドやプレゼン資料に使う画像作成(ディレクション)
▲▲DALL-E 3を活用してUbarEatsのようなフードデリバリーのサービス体験を示す一貫したストーリーボードを作成した例
従来はフリー画像やイラストを検索して探すか、デザイナーに発注するしかありませんでした。生成AIによる画像作成は、現時点では融通が利かない部分もありますが、ディレクターが自分で画像を用意できることは、かなりの利点と言えるでしょう。
【事例4】デザイン案の案出し(デザイン)
▲midjourneyに花屋のサービスのイメージを作成してもらった例
AIはデザイントレンド、色彩理論を基にした、多様なデザイン案を生成することができます。
アイデアをそのまま使うことは難しいかもしれませんが、様々な方針を検討することや、自分があまり得意でないテイストなどでも案出しに使えるのが魅力的です。インスピレーションを得るためには有効な手段です。
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画像生成AIで思い通りの画像を生成するプロンプトのコツ
【事例5】カンプの作成(デザイン)
デザインの方向性やイメージを示す参考画像としてカンプを作成してもらうことが可能です。上記の画像は「採用募集用の写真」の撮影時に、参考画像として用意するカンプを、midjourneyで作成したものとなります。
【事例6】コーディングや設計への活用(開発)
AIはコーディングの自動化、コードの最適化、あるいは設計の最適化の提案をおこなえます。
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【事例7】テスト設計書の検討(開発)
AIを使用して、設計などに対して効果的なテストケース生成や、パターンの網羅的な洗い出しなども可能です。また、改修に伴う影響範囲の分析と必要なテスト項目の作成などもできます。
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AIを使ったJestテストコードの書き方
【事例8】データ分析(マーケティング)
AIは数字を扱うのが得意で、データ分析も可能です。データを入れるだけでAIに観点を考えてもらい、グラフ化することもできます。
生成AIを活用する3つのメリット
生成AIを活用することで、以下のようなメリットが得られます。
では、これらのメリットについて解説していきます。
業務の一部を自動化・効率化できる
生成AIを活用することで、業務の一部を自動化・効率化できます。
内容生成 | 対話型サービス | |
---|---|---|
特徴 | テキスト・画像・音楽・動画などのマルチメディアコンテンツを自動的に生成できる | Chatbotや対話型AIとして、ユーザーとのコミュニケーションを円滑に行い、必要な情報提供やサポートが行える |
活用例 |
・ユーザーの入力に応じて文章を作成する ・特定のテーマやスタイルに基づいて画像や音楽を生成する |
・Chatbotで営業時間外の顧客の問い合わせに対応する ・AIオペレーターを活用し、顧客の問い合わせ待ち時間を短縮する |
生成AIは多岐にわたる機能を持ち、業務の質や効率を向上させます。それだけでなく、新しいビジネスのチャンスやクリエイティブな活動を支援する強力なツールとなっています。
人材不足の解消やコスト削減に繋がる
AIによって業務を自動化・効率化することにより、人材不足が解消できる可能性があります。
たとえば、生成AIによって指定したテーマの画像を作成することで、画像素材を探す時間や作成する時間を短縮できます。
また、Chatbotなどの対話型サービスを導入することで、カスタマーサポートの人材不足を解消したり、配置する人数を減らしたりすることも可能です。
その結果、人材不足の解消やコスト削減に繋がります。
新しいアイデアを創出できる
前述したように、生成AIを活用することでテキスト・画像・音楽・動画を創出できます。
それらは、収集した膨大なデータを基に作られるため、社内では思いつかないような斬新・画期的なアイデアを生み出すために役立てられるでしょう。
生成AIを活用する際の3つの注意点
生成AIの利用には多くのメリットがありますが、同時に以下のようにいくつかのリスクも伴います。
では、これらのリスクについて、詳しく見ていきましょう。
生成された情報が必ずしも正しいとは限らない
AIによって生成された情報は。必ずしも正確であるとは限りません。また、誤った情報や偏見を含む可能性もあります。
なぜなら、AIは学習データの中にある情報の真偽を判断できないからです。そのため、フェイク情報を生成してしまう可能性があります。
このように、AIによる生成物が必ずしも正しいとは限りません。そのため、生成されたものをそのまま活用するのではなく、フェイク情報が含まれていないかなどのチェックが必要です。
情報漏洩のリスクがある
生成AIによって、機密情報や業務上重要な情報が外部に漏れる可能性があります。
生成AIは使用者が入力するデータを学習します。そのため、機密情報や個人情報のようなデータを入力してしまった場合、それらが外部に流出する可能性があるのです。
社内で生成AIを活用する場合、入力してはいけないデータを明確にするなど、あらかじめガイドラインを策定しておくことが大切です。
著作権を侵害するリスクがある
AIが生成したコンテンツが、著作権や他の法的な問題を引き起こすリスクがあります。著作権のある新聞記事の内容や小説、イラストなどのデータをAIが学習することで、それらの表現を使用したコンテンツが生成される可能性があるからです。
これらのリスクを管理・軽減するためには方針やガイドラインの策定、社内教育が必要です。AI導入の際は、東京都の文章生成ガイドラインをはじめ、いくつかのガイドラインに目を通すのがよいでしょう。
▼参考資料
文章生成AI利活用ガイドライン(東京都デジタルサービス局)
AI利活用ガイドライン(消費者庁)
生成AIの利用ガイドライン(一般社団法人 日本ディープラーニング協会)
さいごに
弊社含め、さまざまな企業の生成AI活用事例を紹介しました。
生成AIの活用を検討している場合、潜在的なリスクや、実際にどのようにサービスに活用するか、システムへの実装、社内への導入や社内教育など、総合的に考える必要があります。
ときには生成AI活用を専門とする外部パートナーやコンサルタントに頼りつつ、導入を進めていくとよいでしょう。
社内で生成AI活用を検討したいとお困りなら、生成AIコンサルティングのプロであるLIGにご相談ください。
「マニュアル策定を相談したい」「活用事例を聞きたい」など、どんなご相談でもお気軽にご連絡ください。