有給休暇取得の義務化における実務のポイント

有給休暇取得の義務化における実務のポイント

Mami Onishi

Mami Onishi

こんにちは。LIGの経営企画室に所属しております、きゃしー大西と申します。

最近、中1の息子が野球部に加入したのはいいのですが、夕飯直前にカップラーメンを食べるほどの大食いに成長して困っています。

さて、今日のお話は「有給休暇取得の義務化」についてです。

有給休暇取得の義務化とはその名のとおり、有給が付与されている社員に対して、有給を取らせなければいけない法律のことです(具体的な要件はのちほど)。

経営者にとっては、有給取得が義務化されると、負担ばかりが増えて大変な面も多いでしょう。しかしルールをしっかり理解し、自社にあった正しい制度を導入し、運用していくことで、その負担をできる限り軽くすることは可能です。

この記事を読むとそのあたりのことがわかるようになります。ぜひ参考にしてみてください。

なぜ有給休暇取得が義務化されたの?

そもそも、なぜ有給(年次有給休暇)取得が義務化されたのか、その背景には3つの理由があります。

ひとつは「働き方改革」です。日本は少子高齢化の時代に突入し、労働力はどんどん低下しています。少ない労働力ですから、一人ひとりの社員にかかる負荷は大きくなります。結果的に、休みづらい→疲労がたまる→メンタル不調、となるような流れが社会的にも大きな問題となっています。

ふたつめ。日本は世界的に見ても、有給休暇の取得率が低いといわれています。取得率としては先進国では常に最下位です(ただし日本はもともと他国と比べて祝日の日数が多いという話もあり、これだけではなんとも判断しにくい側面はあります)。

そしてさいごは、有給休暇が取りづらい空気感の緩和です。国が主体となって有給取得を先導することによって、いち企業だけでなく、日本全体が有給を有意義に使える国になることが最大の目的です。

休むときにはきっちり休み、仕事をするときにはきっちり仕事をして成果を出す。日本はそういう国になっていきたい、というのが政府の考えであると思っています。

有給休暇取得の義務化、実務のポイント

どの社員が対象となるか把握する

有給義務化は「有給が年10日以上付与された社員」が対象となります。また、有給休暇は正社員にだけ付与されるものではありません。パート社員や有期雇用者にも付与されます。

有給休暇が年10日以上付与される原則条件

  • 雇い入れ日(入社日)から6ヶ月継続して雇われている
  • 全労働日の8割以上を出勤している


(厚生労働省:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説より)

例外:パートなど労働日数が少ない社員の有給休暇の付与


(厚生労働省:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説より)

上記のように、いわゆる正社員であれば、入社半年後から有給が10日間付与されますのでそこから有給義務化のスタートとなります。

また、パート社員(アルバイトなど含む)の場合は、同じように有給休暇は入社半年後から付与されますが、1年間に付与される日数が10日に満たないので有給義務化の対象にはなりません。パートタイムの場合で有給休暇取得の義務化の対象となるのは、週4日以上勤務し、かつ勤続年数が3年半以上の場合です。

正社員の場合は入社半年後からほぼ全員が対象となるので把握がしやすいですが、パート社員の場合などは対象者がわかりづらいので注意が必要です。

取得期限を把握する

有給義務化は、有給を付与した日から1年以内に5日以上取得させなければいけません。

さきほど、有給休暇は「入社半年後に10日」といいましたが、それは労働基準法による最低ラインですので、それよりも前から有給を付与することは可能です。

たとえば、入社と同時に有給を10日付与する会社の場合は、入社から1年以内に有給を5日間取得させなければいけません。そしてその翌年も10日以上の有給が付与されますから、そこから5日間の取得義務が発生します。

有給義務化は「年10日以上付与した日から1年以内に5日間取得が義務」と覚えておきましょう。

有給休暇取得の義務化には罰則がある

有給休暇取得をさせなかった場合には以下のような罰則があります。中小企業でも適用されます。


(厚生労働省:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説より)

罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。つまり、会社で10人未取得者がいた場合は、30万円×10人=300万円の罰則です。

しかし、いきなりそのような形で罰則がくるわけではなく、原則として、労働基準監督署の監督において有給休暇取得の改善に向けて指導されることになっています。

有給休暇を社員に取得させる3つの方法

有給休暇を付与しても、自主的に効率よく取得する社員ばかりではありません。なかには、仕事が忙しくてなかなか取得できなかったり、場合によってはあまり有給休暇を取得したがらない社員もいます。

そういう社員であっても、会社は取得させることが義務ですから、なんとかしなければいけません。その場合に、取得させる方法は以下のようになります。

有給休暇を社員に取得させる3つの方法
  1. 社員自らの請求・取得
  2. 会社による時季指定
  3. 計画年休

順番に説明します。

1. 社員自らの請求・取得

これが一番オーソドックスな形ですし、本来の有給休暇のあるべき姿です。基本、有給休暇には申請理由はいりません。「私用」で休むことが可能です。

ただし、いくら権利とはいえ、いきなり連続して何日も休まれては業務に支障をきたすこともあるでしょうから、基本的には有給休暇は事前申請制にしている場合が多いです(病欠など止むを得ない場合除く)。

この場合は、就業規則に以下のように申請方法を記載しておくと良いでしょう。

有給休暇申請の参考例

  • 従業員が年次有給休暇を取得するときは、原則として1週間前までに、遅くとも前々日までに所定の手続により、会社に届け出なければならない
  • 従業員が年次有給休暇を取得し、休日を含めて1週間以上勤務から離れるときは、原則として1ヶ月前までに、遅くとも2週間前までに所定の手続により、会社に届け出なければならない。
  • 突発的な傷病その他やむを得ない事由により欠勤した場合で、あらかじめ届け出ることが困難であったと会社が承認した場合には、事後の速やかな届出により当該欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。

2. 会社による時季指定

会社による時季指定とは、会社側から社員に「いつ有給を取得しますか?」と聞き、社員が「○月○日に休みたいです」と申し出ることにより有給休暇を取得させる方法です。


(厚生労働省:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説より)

会社による時季指定が自主的な取得と違う理由は、本人が自ら有給休暇をとりたがらない場合、もしくは有給が取りづらい空気などのときに、会社からの働きかけができるという点です。

ただし、会社側から強制的に日にちを指定できるわけではありません。あくまで本人に「いつがいいですか?」と意見を聞き、本人が「いつがいいです」と希望をいう、という方法です。

会社による時季指定のメリットは、「会社がきちんと有給休暇取得の義務化について指導、管理している」ということが客観的にわかることです。会社側は、たとえ本人が有給を取得したがらない場合であっても、有給を取得させる努力をしなくてはいけません。そういう場合に、会社はきちんと指導、管理していますよ、ということがわかります。

3. 計画年休

計画年休とは、会社側が計画的に取得日を定めて、有給を与える制度です。

計画年休のメリットは、有給の付与日がバラバラの会社の場合に、計画的に取得日を定めることで管理がしやすくなるという点です。また、会社が取得日を定めてしまうので、有給をとりづらいという空気感もなくなります。

計画年休には3つの方法があります。

計画年休の定め方の3つの方法

  • 全社一斉に特定の日を有給休暇とする方法
  • 部署やチーム、グループごとに有給休暇を取る日を決める方法
  • 有給休暇を取る日を1人ずつ個別に決める方法

しかし、計画年休を導入するにあたり、いくつかの注意点があります。

計画年休を導入する場合の注意点

  • 就業規則に記載が必要
  • 労使協定(労働者と会社間で取り交わされる約束事を書面契約した協定)が必要
  • 労使協定にて定めた有給取得日を会社側の都合で変更することができない
  • 社員が自ら請求・取得できる有給を最低5日残す必要がある

一番さいごの「社員が自ら請求・取得できる有給を最低5日残す必要がある」というところですが、ここが少しややこしいところです。


(厚生労働省:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説より)

計画年休は労働者が自由に取得できる有給を5日間は必ず残さないといけないルールとなっています。

しかしながら、たとえば全社一斉にこの日を有給にしましょう、としたときに、新卒や中途入社など、まだその時点で有給が付与されていない社員であっても、全社一斉の計画年休と定めた場合は休ませないわけにはいきません。その場合は、有給とは別に「特別休暇」を付与するなどして対応します。

特別休暇については、このあとに詳しくお話しします。

以下、就業規則等への記載例は「厚生労働省:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」より抜粋・引用しています。

【就業規則記載例】
(年次有給休暇)
第○条
・ 前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。

【労使協定の例(一斉付与方式の場合)】
○○株式会社と○○労働組合とは、標記に関して次のとおり協定する。
1 当社の本社に勤務する社員が有する○○○○年度の年次有給休暇のうち5日分については、次の日に与えるものとする。
○月○日、△月△日・・・・
2 社員のうち、その有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた日数が5日に満たないものについては、その不足する日数の限度で、前項に掲げる日に特別有給休暇を与える。
3 業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は組合と協議の上、第1項に定める指定日を変更するものとする。
○○○○年○月○日    ○○株式会社 総務部長 ○○○○
○○労働組合 執行委員長 ○○○○

【労使協定の例(交替制付与方式の場合)】
○○株式会社と従業員代表○○○○とは、標記に関して次のとおり協定する。
1 各課において、その所属の社員をA、Bの2グループに分けるものとする。その調整は各課長が行う。
Aグループ ○月×日~△日
Bグループ ○月×日~△日
2 各社員が有する○○○○年度の年次有給休暇のうち5日分については、各グループの区分に応じて、次表のとおり与えるものとする。
3 社員のうち、その有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた日数が5日に満たないものについては、その不足する日数の限度で、前項に掲げる日に特別有給休暇を与える。
4 業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員代表と協議の上、第2項に定める指定日を変更するものとする。
○○○○年○月○日 ○○株式会社 総務部長 ○○○○
○○株式会社 従業員代表 ○○○○

【労使協定の例(個人別付与方式の場合)】
○○株式会社と従業員代表○○○○とは、標記に関して次のとおり協定する。
1 当社の従業員が有する○○○○年度の年次有給休暇(以下「年休」という。)のうち5日を超える部分については、6日を限度として計画的に付与するものとする。なお、その有する年休の日数から5日を差し引いた日数が6日に満たないものについては、その不足する日数の限度で特別有給休暇を与える。
2 年休の計画的付与の期間及びその日数は、次のとおりとする。
前期=4月~9月の間で3日間 後期=10月~翌年3月の間で3日間
3 各個人別年休付与計画表は、各期の期間が始まる2週間前までに会社が作成し、従業員に周知する。
4 各従業員は、年休付与計画の希望表を、所定の様式により、各期の計画付与が始まる1か月前までに、所属課長に提出しなければならない。
5 各課長は、前項の希望表に基づき、各従業員の休暇日を調整し、決定する。
6 業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員代表と協議の上、前項に基づき定められた指定日を変更するものとする。
○○○○年○月○日 ○○株式会社 総務部長 ○○○○
○○株式会社 従業員代表 ○○○○

休日と休暇の違いとその種類

これまで有給休暇の話をしてきましたが、実は会社のお休みには「休日」と「休暇」があり、これは明確に違います。違いをよく理解しておきましょう。

休日 労働者が労働義務を負わない日のこと。法定労働時間を超えないよう設けられている。

  • 法定休日・・・労働基準法のルールのもと定められた休日(日曜日など)
  • 法定外休日・・・法定休日以外の休日(土曜日など)
休暇 労働者が労働義務を負う日に、会社が独自でその労働義務を免除している日のこと。

  • 法定休暇・・・労働基準法のルールのもと定められた休暇(有給休暇や育児休業、介護休業、看護休暇など)
  • 特別休暇・・・会社独自のルールで定められた休暇(慶弔休暇やリフレッシュ休暇などさまざま)

休日とは

休日とは、労働基準法による「労働者が労働義務を負わない日」を指します。

会社は、週40時間の法定労働時間を超えないように、休日を設ける必要があります。

休日には「法定休日」と「法定外休日」があり、カレンダーどおりの会社では土曜日が法定 “外” 休日、日曜日を法定休日としているところが多いです。

労働法上で、週1回以上、もしくは4週に4回以上の休日を与えなければならないという決まりがあり、これを法定休日といいます。法定休日に勤務する場合、35%以上の割増率での割増賃金の支払いが必要になります。法定外休日に勤務する場合は、25%以上の割増率です。

休暇とは

休暇とは、労働者が労働する義務がある日に、会社が独自で労働義務を免除する日のことです。

休暇には「法定休暇」と「特別休暇」があります。

法定休暇とは

法定休暇には、有給休暇や育児休業、介護休業、看護休暇があります。労働基準法に定められた休暇で、所定の要件を満たすことにより付与されます。

労働法では付与日数などの最低ラインが定められているので、それを下回る内容のものは認められませんが、反対にそれを上回る「労働者有利」な内容のものであれば会社の独自で定めることが可能です。

特別休暇とは

特別休暇とは、法律で決められた休暇とは違い、会社が特別に付与した休暇です。有名なのは慶弔休暇やリフレッシュ休暇などですが、会社の独自性を出すために面白い休暇制度をつくる会社もあります。

特別休暇はかなり自由度が高いので、有給無給はもちろん、付与のタイミングや繰越、消滅なども会社が独自に決めることが可能です。

特別休暇の活用例:入社半年間だけの病欠休暇

さて、計画年休により全社一斉の休みを定めたときに、入社直後などまだ有給休暇が付与されていない社員に対しては、有給とは別に「特別休暇」を付与するという方法がありましたね。この計画年休のケースに限らず、特別休暇は会社独自のルールで定められるという点から、次のように活用することができます。

法定で定められている有給休暇は、入社半年間は付与しなくてもよい決まりとなっています。つまり入社半年間は、会社をお休みすると欠勤になり、給与が減ることになります。

しかし人間はだれしも病気になることはあります。もし新入社員であれば、給与が少なく、欠勤になると生活に困ることもあるでしょう。この場合、有給休暇の付与日を入社日にすることも可能です。その場合考慮すべきこととして(あまり考えたくはないですが)、たとえば入社3ヶ月の社員が突然辞めることになった場合であっても、10日間の有給を消化して辞めることが可能となってしまうことが挙げられます。

この場合に有効な手段として「入社半年間だけの病欠休暇」を付与することで対応することが可能です。

  • 入社日に「病気による休みのときにだけ認められる」特別休暇を5日間付与(日数は何日でも構いません)
  • いわゆる「私用」による休暇には認めない
  • 使用しなかった分に関しては半年後に消滅
  • 半年後からは法定どおりの有給休暇が付与される

このように規程しておけば、病気による欠勤控除もなく、また半年後に消滅するので管理もしやすくなります。

このように、特別休暇と有給休暇を組み合わせることで、自社にとって最適な休暇の付与ができます。

注意:特別休暇を取得させても有給義務化とは関係がない

特別休暇は会社が独自に認めた、有給休暇以外に付与する休暇です。

会社をお休みすることには変わりはないので、特別休暇を年に5日以上取得させればそれでいいのでは? と思うかもしれませんが、「特別休暇」と「有給休暇」は残念ながら違います。

たとえ特別休暇を5日以上取得したとしても、有給休暇取得の義務化には関係がありませんのでご注意ください。

おわりに

いかがでしたか。有給休暇取得の義務化は、経営者にとっては管理することが多く、とても大変ですよね。

一番は、いちいち管理をせずとも、社員が自主的に5日間を取得することだと思います。会社の雰囲気や仕事の状況などを考慮し、会社自体が取りやすい環境にしていくことも有効な手段ではないでしょうか。

 

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1978年生まれ。新卒で明治安田生命にて一般事務を経験。その後DTPデザイナーに転職。結婚、妊娠、出産を経て税理士法人のバックオフィス業務全般を担う。LIG入社後は人事労務のスペシャリストとして勤怠給与、制度設計、評価報酬、研修など、現在も人事のみに限らず人生経験を活かして幅広く業務を担当している。

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