「休職」を就業規則に盛り込む実務のポイント(記載例付き)

「休職」を就業規則に盛り込む実務のポイント(記載例付き)

Mami Onishi

Mami Onishi

みなさんこんにちは。LIGの経営企画室のきゃしー大西です。

今日は「休職」、お仕事をお休みすることについてのお話しです。

休職とは、労働者が自分の都合で、会社に雇用されたまま、長期間の労働義務が免除される状態のことをいいます。

まず大前提を申しますと、就業規則を作成するにあたって基準となる「労働基準法」や「労働契約法」には、休職に関する規定はありません。つまり、休職や復帰に関する制度を設けることは、国によって義務付けられてはいないのです。休職や復帰に関する制度を設けるかどうかや、休職の定義、休職期間の制限、復職等は、会社の判断で自由に決められます。

では、なぜ法律で定めることが決められていない休職制度を、わざわざ就業規則に盛り込まなくてはいけないのでしょう。

それは、従業員を守るためだけではなく、会社を守るためでもあります。

今回は昨今とくに増えている「メンタルヘルス不調」に備えるためにも、就業規則の休職規程の実務的ポイントについてお話しします。あわせて就業規則の記載例も載せますので、ぜひ参考にしてください。

なぜ「休職」について就業規則に定めないといけないのか

冒頭で、休職について就業規則に盛り込まなくてはいけないのは、従業員を守るためだけではなく、会社を守るためという話をしました。

極端な例ですが、入社して1ヶ月しか経っていない社員が休職の申し込みをしたらどうしますか?

もし就業規則に休職に関する規程がなければ、その社員をどう取り扱ってよいか会社側も判断できないですし、仮に入社1ヶ月で休職した社員を出した場合、それ以降の社員たちも同様に扱わなければいけなくなるリスクがあります。もし就業規則のないまま1ヶ月で休職を申し出た社員を解雇した場合、不当解雇で訴えられるリスクもあります。

このように、不測の事態に備えて会社できちんと取り決めを作っておく、というのはとても大事なことです。

「休職」を就業規則に盛り込む実務ポイント8つ

以下が、休職を就業規則に盛り込むときの実務的なポイントです。

  • どの社員に休職を認めるのか
  • 社員がどんな状態のときに休職とするのか
  • 休職期間をどれくらい設けるか(延長の有無)
  • 休職中どう過ごすのか
  • 休職期間中のお金に関すること(給与の有無、社会保険料、傷病手当金など)
  • 休職期間中の受診義務や診断書提出義務など
  • どういった場合に復職させるのか、復帰後の待遇について
  • 休職期間が満了した場合の取り扱いについて

ひとことに「休職」といってもこれだけのことを考えなければいけません。できることなら社員を休ませてあげたい、と思っても決めなくてはいけないことはたくさんあります。

休職者が出る前にあらかじめ決めておいて、会社も社員もしっかり守っていくことが大切です。

どの社員に休職を認めるのか

まず気をつけなくてはいけないのが、どの社員に休職を認めるかです。

たとえばまだ入社が浅く試用期間中の社員が休職を申し出たときにはどうするのか、パート・アルバイトなどが申し出たときも認めるかどうかを取り決めしておく必要があります。

基本的には休職はいわゆる「正社員」にだけ認めている会社の方が多いようです。ただパート・アルバイトでも長年勤めてくれている人には認めたい、などもあると思いますので……

パート・アルバイトについては、勤続年数などを考慮し個別に定める。

のような文面を就業規則に盛り込んでも良いでしょう。

社員がどんな状態のときに休職とするのか

次に社員がどんな状態のときに休職を認めるのかを定める必要があります。

これを定めておかないと「なんとなく調子が悪いので休職したいです」のような自己申告によるあいまいな申し出でも休職とするのか、などが問題となることがあります。

以下のように休職を認める状態を具体的に記載しておくとよいでしょう。

 

就業規則の記載例
① 業務外の傷病による欠勤が継続して1ヶ月を経過し、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき
② 精神上の疾患による欠勤が継続、断続を問わず1ヶ月を経過し、なおも労務提供が不完全であると医師もしくは産業医が認めたとき
③ 従業員の都合により欠勤し、その欠勤が1ヶ月を超え、なお就業できないとき
④ 在籍出向等により、関係会社又は関係団体の業務に従事するとき
⑤ 公務に就任し、相当の期間就業できなくなったと認められるとき
⑥ 法令により、逮捕、拘留又は起訴され、会社業務に支障をきたすとき
⑦ 前各号のほか、特別の事情があって休職させることを適当と認めたとき

休職期間をどれくらい設けるか(延長の有無)

次に、休職期間をどれくらい設けるのかを決めます。これを決めないと、社員が申し出るまま延々と休職を認めることになりかねません。

休職期間をどれくらい設けるかですが、3ヶ月から長くて3年までが一般的といわれています。

さきほどの休職理由により期間を別々に定めることも可能です。とくに休職理由が「精神疾患」の場合は、たとえ復職してもまた同じ精神疾患で休職を申し出ることは多々起こりえます。その場合は……

同一事由による休職の場合は、休職期間を通算する。

のように規程しておくと良いでしょう。

また、休職期間をたとえば3ヶ月と定めた場合、もし休職を延長させてあげたい社員だったとしても、延長の規定がなければ延長させることができなくなる場合もあります。もし仮に特別に一人の社員だけを延長させることになった場合、後続する社員にも認めざるを得ません。特別扱いというのはできる限り避けたほうが無難です。

ですので、その場合は……

会社が特に必要と認めた場合は休職期間を延長することがある

とし、

延長期間は1ヶ月ごととし、最長で1年間とする。

などと定めるのも良いでしょう。

 

就業規則の記載例
(休職期間)
休職期間については、次のとおりとする。
① 前条第1号及び第2号のときは欠勤が1ヶ月を経過した日の翌日から起算して3ヶ月間(勤続期間1年未満の者を除く)
② 前条第3号及び第5号から第7号のときは会社が従業員からの申出を承諾した日の翌日から起算して必要と認める期間
1 勤続期間が1年未満の者においては、前項に定める期間を上限として個別に定める。
2 同一事由による休職の中断期間が6ヶ月未満の場合は前後の休職期間を通算し、連続しているものとみなす。また、前条第1号及び第2号の休職であって、その症状が再発した場合には、再発後の期間を休職期間に通算する。
3 休職者が前項の休職期間満了前に復帰し、再び同一又は類似の事由により欠勤した場合で、復職後の出勤日数が30日に達しないときは、当該欠勤は復職前の休職期間の延長として取り扱う。
4 前項にかかわらず会社が特に必要と認めた場合は休職期間を延長することがある。延長期間は1ヶ月ごととし、最長で1年間とする。但し、状態に応じてその期間を短縮することがある。

休職中どう過ごすのか

次に休職期間中をどう過ごすのかを定めます。これを定めないと、たとえば休職期間中に旅行に行ってしまうなどが起こりえます。

休職期間中であっても会社に所属し、会社からの命令をうけての休職であることをわかってもらう必要があります。ですから、休職期間中は療養に専念してもらうことを義務付けましょう。

そして休職期間中の療養の状況や症状、回復状況などを報告してもらうようにします。とくに精神疾患の場合、報告の義務を設けることで、その後に復職が可能かどうかの判断基準のひとつにもなります。会社への報告がきちんとできない状態ではまだまだ復職は難しいとの判断ができます。また、産業医や主治医の定期的な面談も義務付けましょう。

このようなことを就業規則にきちんと定めておかないと、休職期間中にどう行動しても良いことになりかねませんし、また医師の診断を拒むことも可能になってしまいます。

 

就業規則の記載例
(休職期間中の義務)
1 休職期間中、従業員は療養に関する医師の指示を忠実に遵守する等、健康回復のため療養に専念しなければならない。
2 従業員は定期的に、さらに臨時の会社の求めに応じ、療養の状況や症状、回復状況、休職の必要性等につき、これを証する診断書を添えて会社に報告しなければならない。
3 会社は、休職中の従業員に対し、産業医又は他の産業保健スタッフによる定期又は主治医の診断書による臨時の面接を行うことができ、従業員はこれを拒んではならない。
4 会社が必要と認めた場合、会社は従業員の同意を得たうえ、産業保健スタッフと結果記録票主治医への意見照会及び情報交換を行うことができる。

休職期間中のお金に関すること(給与の有無、社会保険料、傷病手当金など)

休職期間中に関するお金のことは一番大事なことといっても過言ではありません。

休職期間中の給与は、基本的には無給にしている会社が多いです。ただ問題なのが、無給にしていても社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)や住民税の支払いは免除されない、ということです。

給与から控除される税金関係は、健康保険、介護保険(40歳以上の人が支払い対象)、厚生年金、住民税、そして所得税と雇用保険があります。このうち、所得税と雇用保険に関しては、その月の給与額と連動して金額が設定されるので、無給の間はゼロになります。

しかし健康保険、介護保険、厚生年金、住民税は、その月の給与の支給有無と連動していません。基本的にはその月に在籍している限りは支払いの対象となります(細かい話は省略します)。

つまり、休職期間中に給与が支払われなかったとしても、健康保険、介護保険、厚生年金、住民税については社員から徴収しなくてはいけません。この場合、手段は二つあり、一つは会社から請求書を発行して振り込んでもらう方法、もう一つは傷病手当金と相殺する、という方法です。

傷病手当金とは、休職中に健康保険から支払われるお金のことです(ちなみに国民健康保険には傷病手当金はありません)。

傷病手当金の支給条件は以下のとおりです。すべてを満たす必要があります。

傷病手当金の支給条件

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  • 仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

傷病手当金の支給額は、1日当たりの金額=【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)、つまりおおよそ7割弱くらいになります。

休職してから4日目からが支給対象となりますので、最初の3日間は支給されません。この傷病手当金は、振込先を会社に指定することも可能です。

振込先を会社口座に指定しておいて、社会保険料や住民税を相殺した金額を休職した社員に振り込めば、社員からわざわざ徴収する必要もありません。ただ、傷病手当金は請求してから振り込まれるまでに時間がかかりますので、その間は会社の持ち出しになることが注意点です。

基本的には請求書を発行して社員から振り込んでもらい、傷病手当金は傷病手当金として社員に直接振り込む形にするほうがよいでしょう。

そして上記に関することは就業規則にきちんと盛り込んでおくことが大切です。お金に関することはとくに問題となることが多いのできっちり定めておきましょう。

 

就業規則の記載例
(休職期間の取扱い)
1 休職期間は、原則として無給とし、会社の業務の都合による場合及び会社が特別な事情を認めた場合を除き、勤続年数に通算しないものとする。
2 休職期間中の健康保険料、厚生年金保険料、住民税等であって、従業員の月例賃金から通常控除されるものについては、会社は従業員に対し予め請求書を送付する。従業員は当該請求書に記載された保険料、税額等を指定期限までに会社に支払わなければならない。

休職期間中の受診義務や診断書提出義務など

怪我や病気が原因で休職する場合、医師の受診義務や会社の産業医との面談、そして診断書を提出することなどを盛り込む必要があります。

もしこれを定めておかないと、「病院はお金がかかるから行きたくない」「産業医には会いたくない」などと言われた場合の強制力がありません。あらかじめ休職する社員の義務としてこれらを定めておくと安心です。

 

就業規則の記載例
(休職期間中の義務)
1 休職期間中、従業員は療養に関する医師の指示を忠実に遵守する等、健康回復のため療養に専念しなければならない。
2 従業員は定期的に、さらに臨時の会社の求めに応じ、療養の状況や症状、回復状況、休職の必要性等につき、これを証する診断書を添えて会社に報告しなければならない。
3 会社は、休職中の従業員に対し、産業医又は他の産業保健スタッフによる定期又は主治医の診断書による臨時の面接を行うことができ、従業員はこれを拒んではならない。
4 会社が必要と認めた場合、会社は従業員の同意を得たうえ、産業保健スタッフと結果記録票主治医への意見照会及び情報交換を行うことができる。

どういった場合に復職させるのか、復帰後の待遇について

怪我や病気が治ったら復職になりますが、これもどういった状態になれば復職とさせるのかを決めておく必要があります。定めておかないと、まだ復帰するのに充分に回復していないのに、社員が「復帰したい!」と強く望めば復帰させないといけなくなる可能性があります。

復職させる場合は、必ず医師か産業医からの「復帰しても大丈夫ですよ」というお墨付きと、職場の上司などとの面談を経て復職させるフローにします。そして復職時に大事なのが、復帰後の給与や仕事内容についてです。

基本的に、復帰後は復職前と同じ職務に復帰させるのが原則です。しかし実際には復帰後にいきなり復帰前と同じようにバリバリ働けるとは限りません。その場合は仕事や時間をセーブして働くことになりますが、そうなると給与も満額を支給することができなくなります。しかしお金に関することは大事なことですから、そのあたりはきちんと定めておかないとトラブルになりかねません。

原則として休職前の職務に復帰させるとしつつ……

復職時の従業員の心身の状態等から、休職前と同程度の業務ができないと認められる場合には、業務の軽減・労働時間の短縮・責任の軽減などの措置をとる。

などと定めておくと安心です。

 

就業規則の記載例
1 従業員の休職事由が消滅したと会社が認めた場合、又は第○条に定める休職期間が満了した場合は、原則として休職前の職務に復帰させる。
2 復職後の職務内容、労働条件その他の待遇等に関しては、休職直前の時を基準として定める。但し、復職時の従業員の心身の状態等から、休職前と同程度の質・量・密度、責任の度合いがある業務に服せないと認め、業務の軽減・労働時間の短縮・責任の軽減などの措置をとる場合には、その状況に応じた降格・配転のほかの異動、給与の減額等の調整を行うことがあり、労働条件その他の処遇について新たに決定することがある。
3 休職中の従業員が復職を希望する場合には、所定の手続により会社に申し出なければならない。
4 休職事由が傷病等による場合は、休職期間満了時までに治ゆ(休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復することをいう。以下同じ。)、又は復職後ほどなく治ゆすることが見込まれると会社が認めた場合に復職させることとする。また、この場合にあっては必要に応じて会社が指定する医師もしくは産業医の診断及び診断書の提出を命じる場合がある。
5 会社は、原則として休職者を医師へ受診させ、この診断をもとに復帰の可否を決定する。この場合、従業員は正当な理由なく、この受信を拒否することはできない。

休職期間が満了した場合の取り扱いについて

休職しても期間内に病気が完治しないこともあります。その場合は「休職期間の満了」となりますが、満了した場合の取り扱いについても記載しておく必要があります。

考え方として、休職期間というのは派遣社員の派遣期間と同じような取り扱いになります。つまり「自主退社」でも「解雇」でもなく、期間が満了したことによる自然退職です。

手続き上の話でいいますと、自主退社の場合は「退職届」が必要ですし、解雇の場合は「解雇通知」が必要になります。しかし休職の場合は期間が満了になっただけですので、本人からの届出も不要ですし、会社からの通知も不要です。

ただ、丁寧な対応としては「休職期間満了通知書」を本人に手渡しておくとより良いでしょう。

 

就業規則の記載例
第○条に定める休職期間が満了しても復職することができないときは、原則として、休職期間満了日をもって自然退職とする。

さいごに

昨今「メンタルヘルス不調」による休職が非常に増えています。規程があるということは、社員を守ることと同時に会社を守ることにもつながります。こういう規程をいちいち定めるのは非常に面倒ですが、なにかあってからでは遅いのです。会社として社員を大事にしていきたいと思うのであれば、こういった規程はきちんと定めておきたいですね。

そして、就業規則に盛り込む際には、必ず社労士や弁護士など専門家のチェックもお忘れなく!

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1978年生まれ。新卒で明治安田生命にて一般事務を経験。その後DTPデザイナーに転職。結婚、妊娠、出産を経て税理士法人のバックオフィス業務全般を担う。LIG入社後は人事労務のスペシャリストとして勤怠給与、制度設計、評価報酬、研修など、現在も人事のみに限らず人生経験を活かして幅広く業務を担当している。

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