就業規則作成の実務のポイント(導入編)

就業規則作成の実務のポイント(導入編)

Mami Onishi

Mami Onishi

こんにちは。LIGの経営企画室のきゃしー大西です。私は今、就業規則の見直しをしています。

というのも、LIGの就業規則は、ずいぶん前に見直して以来、改定されていなかったんですね。

弊社は実に多様な業種や柔軟な制度、働き方をしていてとても素晴らしいのですが(自画自賛)、それが就業規則にきちんと落とし込めていなかった。これは反省点です。ですがそこを、業務が忙しくてなかなか手をつけられていなかった、というのがホンネのところです。

実際、そういう社長さんが多いのではないでしょうか。今回、この記事を見てくださっている方の中には……

「そろそろうちも就業規則をつくらないとな。でもどうやって? そもそも就業規則ってなに?」

という疑問をもたれている方もいると思います。ですので、まずは就業規則とは? というお話から。

就業規則は深堀していくと非常に奥の深い内容となっていますので、ここでは「就業規則ってそもそもなに?」という方向けの導入編としてお話ししています。ぜひ参考にしてみてくださいね。

就業規則(しゅうぎょうきそく)とは

就業規則とは、会社のルールの部分(服務規程)と、待遇を定めた部分(労働条件)とが記載されたものです。従業員を常時10人以上雇用している会社は、就業規則を作成し、労働基準監督署への届出が原則として義務づけられています(労働基準法第89条)。

ただ就業規則を定めればどのような取り決めも効力を発揮するわけではありません。就業規則に定めていても、労働基準法を下回っている内容のものは無効ですし、社会通念上、合理性に欠く内容も無効になる場合があります。

なぜ就業規則を作るのか

会社にとって就業規則を作成する最大のメリットは「労務トラブルの回避」です。就業規則があることで、万が一従業員と労務トラブルが起こったときでも、会社を守ることができます。また、就業規則を作成する中で、会社が今まで気づいていなかった課題が「見える化」し、あいまいだった社内ルールを明確にできるメリットもあります。

就業規則作成の実務ポイント

次に就業規則作成のポイントについてお話しします。

就業規則作成の6つのポイント
  1. 就業規則には「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」がある
  2. 法律で決まっている最低基準を下回る内容のものは作れない
  3. 法律的に優先される順位がある
  4. 労働条件が異なる社員を雇用している場合はそれぞれ就業規則を作成したほうがよい
  5. 厚生労働省のモデル就業規則だけでは自社にあった完璧な就業規則は作れない
  6. 最終的には専門家に内容を確認してもらい「法的に効力のある就業規則」にする

上記は就業規則を作成するにあたって「大前提」となる作成のポイントです。細かい内容についてのポイントは、ここでは書き切れないほどたくさんあります。

失敗のない就業規則を作る上での土台となる考え方となるので、以下で順にお話ししていきます。

1. 就業規則には「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」がある

就業規則には「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」があります。

絶対的記載事項は、就業規則に絶対に記載しなければいけないことに加え、「書面」で明示する必要があります。具体的には入社時の「労働条件通知書」や、解雇時の「解雇通知書」などです。

相対的記載事項とは、決めても決めなくてもよいけれど決めたのなら就業規則に載せないといけない事項です。基本的には載せた方が良いと思います。

以下、絶対的記載事項と相対的記載事項の簡単な説明です。

絶対的記載事項

勤務形態 正社員・契約社員・アルバイト・パート・業務委託など
労働時間 実際に働いた時間。勤務時間が10:00〜19:00で休憩1時間なら、労働時間は8時間になります。
労働賃金 給料、手当、賞与など。名称を問わず労働の対償として支払われるもの。
休日・休暇制度 休日とは労働義務を負わない日で「法定外休日」「法定休日」があります。就業規則でいう休暇には「法定休暇」と「任意休暇」があり、法定休暇には年次有給や育児休業などがあります。
退職手続き 退職時のルールを定めたもの。退職願の提出、1ヶ月前までに申し出る、など。
解雇条件 会社側からの解雇というのはよっぽどでないと認められません。どのようなときに解雇になるのかを就業規則でしっかり明記する必要があります。就業規則に書かれている事由でしか解雇はできません。
定年の規定 定年の年齢、再雇用条件など。

相対的記載事項

退職金制度 定年退職もしくは一定期間在職した者社員を対象に退職金を支給する制度ですが、必ずしも法律で支給しなければならないとされているものではありません。
賞与・一時金制度 原則として社員の勤務成績に応じて支給され、その額があらかじめ定められていないもの。賞与を支給しなければならないとする法的義務はありません。
安全衛生 会社には「安全配慮義務」というものがあります。具体的には、長時間労働やハラスメント、健康診断などです。
懲戒処分について 懲戒処分をしたい社員がもし出てきた場合、懲戒処分とされる事由と処分の程度が就業規則等に明示されていること、社員に周知されている必要があります。
食費・作業用品などの負担 これは会社が負担する話ではなく、社員に負担してもらう金額がある場合は就業規則で記載が必要です。
職業訓練 特定の資格や研修等の受講が昇格などの必須要件である場合は、就業規則に記載が必要です。
災害補償 労災事故にあった時に会社が補償するもの。労災が支給されたのであれば災害補償を別途行う必要はありません。ですが、その旨を明記しておかないと両方請求される場合があります。

2. 法律で決まっている最低基準を下回る内容のものは作れない

就業規則は、法律(労働基準法など)で決まっている「最低基準」を下回る内容のものは作れません。

たとえば有給休暇ですと、最低ラインは以下のようになります。

年次有給休暇

採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、10日の年次有給休暇を与える。その後1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、下のとおり勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。

もし社長が「入社半年の社員に10日有給休暇をあげたくない!」と思っても、それはできません。たとえ従業員が10名以下で就業規則の作成義務がなかったとしても、有給休暇については入社半年後から自動的に付与されます。

さらに、「年10日以上有給が付与されている人が年に5日以上有給消化」が新たに新設されました。有給が付与されるということは、有給消化義務も同時に発生するため、注意が必要です。

反対に、「もっと有給をあげたい!」というのはまったく問題がありません。たとえば有給休暇ですと、入社半年後にしか付与されませんから、入社1ヶ月で風邪を引いて休んだ場合、欠勤になると給与から控除しなければなりません。しかし、風邪を引いたり体調不良で休むことは誰にでもあります。こういったケースに配慮して、有給休暇の付与開始を入社時にすることも可能です。

もしくは上記の付与日、付与日数は変えず、入社時から半年間は「特別休暇」を付与することで対応することも可能です。有給休暇以外に特別休暇を付与するぶんにはいくらでも付与できますし、この特別休暇の取り扱いは自由に決めることができます。たとえば入社時から半年間で消化できない場合は半年後に消滅する、といった決まりにすることも可能です。

このように、法律より下回る就業規則は作れません(作ってもその部分は無効とされます)が、それを上回るような就業規則についての作成は可能です。

3. 法律的に優先される順位がある

就業規則の作成時に、内容を優先しなければならない順番があります。

(1)労働基準法
(2)労働協約(労働組合と会社間で結ばれた協定)
(3)就業規則
(4)労働契約(労働条件通知書)

(1)が一番優先される事項です。下位のものは上位の決まりに従わなければいけません。

(1)労働基準法

労働基準法とは、カンタンにいうと「労働条件の最低基準」を定めている法律のことをいいます。

労働基準法が労働条件の最低ラインですから、それの定める基準を下回る取り決めをしても、法律上無効となります。無効となった部分については、労働基準法で定める基準が適用されます。

また、労働基準法には罰則があります。労働基準法違反の行為については、刑事罰(罰金刑、懲役刑)が科せられる場合があるため、注意が必要です。

(2)労働協約(労働組合と会社間で結ばれた協定)

労働組合と会社で結ぶものが「労働協約」です。

労働協約は、就業規則とは違った内容の労働条件を定めることができます。労働協約と就業規則は、定めた内容が重複することがありますが、重複した箇所については労働協約が優先されます。

(4)労働契約(労働条件通知書)

会社と従業員との取り決めが労働契約(労働条件通知書)です。

労働基準法では、労働契約そのものについて規定してはおらず、「こういうことを労働者に伝えてくださいね」ということが書いてあるに過ぎません。

具体的な内容は労働条件通知書に記載されています。たとえば労働契約の期間であれば、無期限なのか、使用期間があるならまずは3ヶ月契約なのかなどを記載します。

4. 労働条件が異なる社員を雇用している場合はそれぞれ就業規則を作成したほうがよい

正社員だけでなく、契約社員やパート社員、アルバイトなど、労働条件が異なる社員を雇用している場合には、それを反映した就業規則を作成したほうが良いとされています。

ただ、パート社員を雇っているからといって絶対作らなくてはいけないわけではありません。作成は任意です。

なぜ作ったほうが良いかというと、正社員とパート社員では待遇などが違うからです。

正社員とパート社員で違う主な待遇
  • 賞与(ボーナス)
  • 昇給
  • 休職制度(正社員のみに限定しているところもある)
  • 退職金
  • そのほかの手当など

労働条件通知書には待遇のすべてを記載するわけにはいきませんから、そのほかの部分においては就業規則に記載されていることが適用されます。

もし、パート社員の就業規則を作成しておかなければ、正社員の就業規則が適用されることになります。就業規則には「この就業規則は正社員に適用し、パートタイマーは別途定める。」のような文面をいれておくと、正社員にのみの待遇を適用することが可能です。就業規則の適用範囲を明確にするためにも作成したほうがよいでしょう。

5. 厚生労働省のモデル就業規則だけでは自社にあった完璧な就業規則は作れない

厚生労働省サイトには「モデル就業規則」というものがあります。

もちろん内容は労働基準法を網羅したものになっています。このモデル就業規則をベースにして作成すると安心です。Wordデータがダウンロード可能で、自社に適した就業規則に修正しながら作成することができます。

ひとつひとつの項目に対し、注意点や参考にすべき法令なども一緒に記載されています。きちんと読み込んでいくと、かなり就業規則について詳しくなります。

しかしながら、それでもこのモデル就業規則をもとにして作ったとしても、これだけでは自社にあった完璧な就業規則を作成することはできません。もちろん、この就業規則をそのまま労働基準監督署に提出すれば受理されますし、労働基準法を下回っていないので適用もされます。

(余談ですが、労働基準監督署に就業規則を持っていっても、中身の確認はされません。必要書類が整っていれば受理されるだけです。たとえば就業規則に適さない内容があったとしても提出時に指摘されるわけではありません。あくまで「効力発生日」として受理されるだけです)

会社にはその会社の独自のルールがあり、それをきちんと反映した就業規則を作成しないと、就業規則がただのお飾りになってしまう可能性があります。会社の独自ルールが法令に合っていない場合は、法令にあう形にルールの方を直す必要も出てきます。すでにある会社の独自ルールをきちんと法令にあう形で就業規則に反映させること、そしてそれを全社員に周知し、規則として守ってもらうようにするところまでが就業規則の役割です。

6. 最終的には専門家に内容を確認してもらい「法的に効力のある就業規則」にする

就業規則に会社のルールを反映したところで、最終的には専門家に内容を確認してもらい「法的に効力のある就業規則」にすることがもっとも大切です。

就業規則の内容は、基本的には労働基準法を下回らない内容であれば、会社独自に自由に決めることが可能です。とはいえ、就業規則にまつわる法律は労働基準法だけでなくさまざまなものがあります。

就業規則にまつわるさまざまな法律関係
  • 労働契約法
  • 健康保険法
  • 母子保健法
  • 育児・介護休業法
  • 最低賃金法
  • 公益通報者保護法
  • 労働安全衛生法
  • 健康増進法
  • パートタイム労働法
  • 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
  • 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
  • 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
  • 個人情報の保護に関する法律
  • 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
  • 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
  • etc……

ざっくりあげただけでもこれだけの法律があります(まだまだあります)。

労基法を下回らないのは最低限として、上記の法律のことも考えつつ就業規則を作成する必要がありますが、素人がそのすべてを網羅しながら就業規則を作成するのはかなり難しいでしょう。

また、作成時には「法的に効力のある表現(文章)」である必要もあります。たとえば、「○○を行わなければならない」「○○だけに限る」といった断定的な表現をしてしまうと、それ以外には適応されなくなる可能性がありますし、逆にあいまいな表現にしてしまうと抜け道のようなものを作ってしまう可能性もあります。「こういうときにはある程度幅を持たせた表現の方がいい」や「こういう場合は抜け道を作らないように断定的な表現の方がいい」という判断は、専門家でないとわからない場合が多いと思います。

就業規則を作成するにあたり相談すべき専門家は弁護士社会保険労務士(社労士)です。インターネットで検索して探すこともできますし、会社に顧問税理士がいる場合はそこからの紹介でもよいでしょう。

依頼の仕方には2つあります。会社の状況や経営者がこういう会社にしたいという内容をお伝えして専門家に一から作成してもらう方法。もうひとつは、ある程度自分で作成したものに関してチェックしてもらう方法です。

前者の専門家にヒアリングしてもらって一から作成してもらう方が確実ではありますが、この方法だともう一方に比べ、お金がかかります。就業規則作成料金は10〜30万円くらいが相場です。とはいえ、法的に無効な就業規則は作成するだけ無意味ですから、必ず専門家の意見を取り入れて作成しましょう。

おわりに

今回のお話はあくまで就業規則を作るための前段階の知識にすぎません。実際には、「こういうときにはどうしたらいいの?」というような、さまざまな事柄が発生します。

就業規則は社員10名以上の会社は作成が義務ですが、本来なら社員をひとりでも雇ったら作成すべきです。なぜならそのほうが、会社と社員との労務トラブルが防げるからです。

就業規則がなくても社員は労働基準法などの法律で守られますが、会社を守ってくれる存在は就業規則しかありません。会社の永続的で安定的な存続のためのに、社員を雇うことになったら、就業規則の作成をおすすめします。

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1978年生まれ。新卒で明治安田生命にて一般事務を経験。その後DTPデザイナーに転職。結婚、妊娠、出産を経て税理士法人のバックオフィス業務全般を担う。LIG入社後は人事労務のスペシャリストとして勤怠給与、制度設計、評価報酬、研修など、現在も人事のみに限らず人生経験を活かして幅広く業務を担当している。

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