詰まったときは文型を振り返る
ここで、先ほどの“我輩は猫である。”を品詞分解してみましょう。英語の授業で習ったアレです。
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我輩は(S) / 猫(C) / である(V)。
Sが主語、Vが述語、Cが補語です。このあたりの文法用語は、学術的に正式な使用方法とは異なることがあるかと思いますが、今回は過不足のない文章を書くための考え方ということで、許してください。
英語の5文型をざっくりおさらいすると下記のようになります。
- 第1文型(SV):Sが Vする
- 第2文型(SVC):Sが Cだ
- 第3文型(SVO):Sが Oを Vする
- 第4文型(SVOO):Sが O1に O2を Vする
- 第5文型(SVOC):Sが Oを Cに Vする
英語だとこうですが、だいだい“Sが Vする”か“Sが Cだ”と言っているのがおわかりいただけるでしょう。
これを踏まえて、省略が可能で懐の深い日本語の実践的な文型は下記にまとめられます。
- Sが Vする
- Sが いる / ある
- Sが Cだ
身の回りのほとんどの文章が、日本語であればこの3つのパターンに大きくわけられるので、みなさんも試してみてください。文型というくらいなので、これが文章を形作る骨格になります。
ここで、村上春樹さんの『海辺のカフカ』を品詞分解してみます。
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その猫は(S) / 自分はこの近くでゴマ(1歳、三毛猫、雌)の姿をみかけたことがあると思うと / いった(V)。
しかしながら / 猫は / ーーナカタさんの立場からすればということだがーー / かなり奇妙なしゃべり方を / した(V’)。
文字数に対して、SVの文型の数が少ないことがわかるかと思います。このうち、文章の骨格にならないものが修飾語、あるいはいわゆるレトリック(修辞技法)の部分です。
レトリック【rhetoric】
修辞技法。修辞学。文彩(ぶんさい)、あやとも言われ、スピーチおよび文章に豊かな表現を与えるための技法のことを表すことが多い。(出典:はてなキーワード)
このように、文章をより趣き深くするためにレトリックがありますが、それは文章の必須の要素ではないのです。
ちなみに、ざっと調べてみるとレトリックにもたくさんありました。完全に余談なのでザッと見してください。
- 比喩法(直喩 / 暗喩)
- 擬態法(擬態語 / 擬⾳音語 / 擬声語)
- 擬人法
- 倒置法 / 反復法
- 同語反復 / 首尾同語
- 体言止め
- 反語
- 呼びかけ
- パラレリズム
- 対句 / 押韻
- 語句の挿入
- 省略法 / 対照法
- 緩叙法 / 漸層法
- 敷衍(ふえん)
- パロディ
- 畳語法 / 畳句法 / 畳音法
- 疑惑法 / 誇張法
- 修辞技法(レトリック)とは
- 列挙法 / 列叙法
- 折句
- 史的現在
- 撞着語法
- 頓降法/漸降法
- 黙説
- 冗語法
- 転用語法
調べるまで知らなかった技法もあるのですが、ここまででわかるのは、文章はいくらでも修飾できる、つまり原稿の文字数は多くなりがちということです。
おさらいをしてみると、原稿の文字数とは、
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原稿の文字数 = 文章の骨格 × 情報 × レトリック
でした。この公式において、文章の骨格と情報以外のレトリックの割合が大きくなるほど、一定の原稿の文字数であれば、文章の骨格と情報の割合が少なくなることがわかります。
先の宮脇さんの“読み手を意識して文章で物事を伝える仕事”というライターの定義においては、この“文章の骨格 × 情報”の部分が“物事”であり、僕は文章の厚みだと思います。つまり、レトリックは最小限に抑えつつ、物事を伝える文章が、過不足のない文章だと言えるのです。
もう一例、名作から実例を挙げてみましょう。
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メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。
笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
『走れメロス』太宰治
品詞分解をしてみます。
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メロスは(S) / 激怒した(V)。必ず、かの邪智暴虐の王を(O) / 除かなければならぬと(C) / 決意した(V)。
メロスには(S) / 政治がわからぬ(V)。メロスは(S)、 / 村の牧人(C) / である(V)。
笛を吹き、羊と遊んで暮して来た(V)。けれども邪悪に対しては(O)、 / 人一倍に / 敏感であった。(V)
『海辺のカフカ』と比較して、文字数はそんなに変わらないのですが、SVの文型の数がとても多いことがわかります。
つまり、『走れメロス』はライター、企画書や報告書、ポートフォリオ・ビジネスメール向けの文章だと言うことができるでしょう。