Web編集者・メディア運営担当が知っておきたいリスクマネジメントと危機管理

Web編集者・メディア運営担当が知っておきたいリスクマネジメントと危機管理

LIGブログ編集部

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こんにちは、LIGブログ編集長の朽木(@amanojerk)です。先日ちょっと疑問に思うことがあったのですが、みなさんには“バール”と“バールのようなもの”の区別がつくでしょうか。
別に「神あるいは神々そして神的なもの」についての形而上学的な議論ではなく、僕がしたいのはリスクマネジメントと危機管理の話です。

つまり、“バール”は特定の製品名を指し、正式名称ではないため、たとえばニュースになるような事件で現場に残された痕跡や特徴から犯行に使用されたのがバールであることは予想できるが、実際にバールが使用された証拠はなく、バールであると断定するには至らない状況下において、犯行に使われた工具を指し示すときに“バールのようなもの”という曖昧な言葉が選ばれるわけです。

ああ、めんどくさい!

でも、ネットを取り巻く空気が乾燥し、見慣れた物まですべからく可燃性を帯びる昨今、発信者はこのような意識を常に持ち合わせておくべきなのではないでしょうか。
そこで今回は、コンテンツを編集したり、メディアを運営したりする立場であれば知っておきたい、リスクマネジメントと危機管理についてご紹介します。

 

▼目次

そもそも、リスクマネジメントと危機管理って同じ意味ですか

いいえ、違います。

なんとなく混同されがちですが、この2つは別の意味の言葉です。しっかりした企業や、医療現場などでは周知かと思いますが、ネットで炎上騒動がある度に身につまされることでもあるので、説明します。

まず、リスク(Risk)とは

リスク(Risk)
未だ発生していない危険の可能性

を指し、危機(Crisis)とは

危機(Crisis)
既に発生した危険な事態

を指します。

つまり、“危機管理”は、既に事故や事件が起きており、そのダメージをなるべく減らそうとする受動的な姿勢です。たとえば大きな災害や事故の後には、政府や自治体に「危機管理室」や「危機管理体制」などが発足することからイメージしやすいと思います。

一方、“リスクマネジメント”は、未だ起きていない事故や事件を低減したり、回避したりしておこうとする能動的な姿勢です。逆にリスクをマネジメントできない場合、それが未来において危機になる、と認識しておくとよいでしょう。

メディアにおけるリスクマネジメントと危機管理の違い

では、メディアにおける危機管理とリスクマネジメントとは何かと言えば、わかりやすいのは炎上対策であると思います。

公序良俗を乱したり、特定の誰かを否定するような表現を使用したことで、関係各所からお叱りを受けて当該部分を変更する、あるいは記事を取り下げるというのは、危機管理になります。
あるいは、編集者やメディアの運営担当が事前にエロや差別があればそれを校閲し、当該部分を編集しておくことで、炎上そのものを発生し得なくさせるのが、リスクマネジメントです。

したがって、メディアに関係する立場、特に編集者であれば、より重要なのは危機管理よりも、リスクマネジメントであると言えるのではないでしょうか。
※危機が起きてからの行動にこそメディアの見識が問われる場合は往々にしてあるので、危機管理ももちろん心に留めて置きたいことです

“To Err is Human”

いきなりの横文字ではありますが、これはリスクマネジメントを考える際にみなさんにもぜひ知っておいてほしい、18世紀のイギリスの詩人アレキサンダー・ポープの言葉で“誤りは人の常(つね)”と訳されます。
よりわかりやすく言い換えると、“人は誰でも間違える”。“Err”は“間違う”という意味の動詞で、名詞形は“Error(エラー)”。ちなみに、医療安全に関して持ち出されることわざのようなものです。

これは、人間は間違える生き物なのだから、はじめから間違うことを前提にした運用体制を構築しよう、という文脈で語られます。

ちょっと毛色の違う事例ですが、もし、編集部のメンバーが、下書き状態の記事について、誤って公開ボタンを押してしまったとしましょう。
可及的速やかに、未完のままインターネッツに投げ出された記事を非公開に戻す作業が、前述の“危機管理”です。
ただし、「下書きの状態の記事は絶対に公開ボタンを押さないように」と注意することは、しかし、効果的なリスクマネジメントとは言えません

では、効果的なリスクマネジメントとはどのようなものかと言うと、“公開ボタンを押し間違えるような位置に置かない”ように、WordPressの仕様をエンジニアさんにいじって貰うことです。
あるいは、公開ボタンを押したときに、「本当に公開しますか」というダイアログが表示される仕様でもいいかもしれません。
重大な部分に誤りがあり得るような構造になっていることそのものが、リスクマネジメントの失敗であるということです。

ここからは、リスクマネジメントについて、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

どうしてリスクマネジメントが必要なのか

“リスクマネジメント”が日本語として定着したのは、2001年頃であるようです。同年3月20日には、経済産業省がJIS規格(またかよ)『リスクマネジメントシステム構築のための指針』を発表しました。
これが日本でも取り沙汰されるようになった背景は、序文で以下のように説明されています。

現代社会においては、一組織の活動によって引き起こされる被害が関係者にまで及び、更には社会的損失にまで波及していくこともまれではない。このような状況において、組織は、リスクヘの適切な対応を行い自らの組織運営の安定化を図るとともに、リスクの顕在化によってもたらされる影響を極小化し、社会的損失をできる限り発生させないような行動をとるよう求められている。

参照:JIS Q 31000:2010 リスクマネジメント-原則及び指針

リスクマネジメントの概念が急速に浸透した背景には、当時インターネットの普及がはじまり、組織にとってのリスクが多様化したことも要因としてあるのではないか、と思ったり思わなかったり。
最近はコンビニでアイス売ってる冷蔵庫に入った写真をソーシャルに投稿しないまでも、個人にも情報発信のリスクマネジメントは必要ではないでしょうか。

もちろん、リスクを冒すからこそ、チャンスが訪れるものですし、一概にリスクを回避、低減すべきとも言い切れないのですが、前提としてリスクの把握は絶対的に必要であり、リスクを把握するステップもまたリスクマネジメントです。

メディアを運営していて思うこと

というのも、このご時世にメディアを運営して来て思うことではあるのですが、

A.
わかってやったのだけれど、やっぱり怒られた。ごめんなさい。
B.
わかってないからやってしまったのだけれど、予期せず怒られた。ごめんなさい。

のどちらがより批判されるかと問われれば、意外にもB.だからです。

“わかってやったこと”にはそのような品性が下劣であることへの批判しかできないし、叩けば叩くほど狙い通り注目が集まるとわかっているので、インターネットのみなさんも一定以上のアクションをしようとしません。
一方、“わかってないからやってしまった”ことは、それをわかっていなかったことの責任について、「わかってなかったなんて、ありえない」「どうしてわかってなかったの」「わかったふりをしているのではないか」と、インターネットのみなさんからの際限ない追求がはじまります。

このことからも、“わかっている”つまり、リスクを把握していることが、メディアにおけるリスクマネジメントの第一歩だと思います。

リスクマネジメントの実際

では、実際にどのようなフローでリスクマネジメントをすればいいのかについて、前述したJIS Q 31000:2010 リスクマネジメント-原則及び指針を参照してまとめます。

まず、リスクマネジメントの行動指針としては、

  • 組織に与えられた社会的評価を高める
  • 組織を構成する人々の安全・健康・組織の経営資源の保全を図る
  • 被害が生じた場合には、速やかな回復を図る
  • 関係者の安全、健康及び利益を損なわないように活動する
  • リスクが顕在化した場合には、責任ある行動をとる

あたりがメディア運営には参考になると思います。“組織”を“メディア”に置き換えると、それがそのまま編集部の役割にもつながることもわかります。

実際のフローは、1)リスクを分析する、2)リスクを評価する、3)リスクマネジメントの目標を設定する、4-A)リスク対策を選択する、4-B)リスクマネジメントプログラムの策定をする、の4つのステップからなりますが、それぞれの細かなポイントについては参照元に任せます。

一部、リスクマネジメントの際に意識するべきとされていた、下記のポイントが印象的でしたので、ご紹介しておきます。

  • 守るべき対象を明確にしておく
  • 関係者との約束を守る
  • 関係者に悪影響を与えるリスクを低減する
  • 法的要求事項
  • 社会通念
  • 組織内外の関係者が容易に理解できる
  • 費用対効果を考慮し最大限に経営資源の活用がなされる
  • 実行可能である

「こんなの遵守していたら面白いメディアなんて実現できない!」と仰る向きもあるかとは思うのですが、そこらへんはやはりリスクを把握した上での判断になるのではないでしょうか。
そこに責任を負うのが編集長という立場なのかもとも、ひよっこながら思います。

リスク対策の方法

実際のリスク対策には、「リスク低減」「リスク回避」「リスク移転」「リスク保有」の4つがあります。
これらを踏まえたメディア運営をすることで、かなりリスクマネジメントへの意識が向上するのではないでしょうか。

それぞれについて説明して、リスクマネジメントの実際についての紹介を終わりたいと思います。

リスク低減

特定のリスクの発生確率や、好ましくない結果を低減することです。
つまり、記事公開ボタンを気軽に押しにくい場所に設置するような場合。

リスク回避

特定のリスクのある状況に巻き込まれないようにする意思決定、又はリスクのある状況から撤退する行動のことです。
つまり、記事公開ボタンを押す権限を、そもそも編集長にしか与えないような場合。

リスク移転

特定のリスクに関する損失の負担を他者と分担することです。本質的な解決ではない、とも言われています。
つまり、画像転載が望ましくないので、Google画像検索のリンクを貼るような場合。

リスク保有

特定のリスクに関する損失の負担を受容することです。
たとえば、問題視され得る表現のリスクを把握した上で、その表現による効果を優先し、低減・回避・移転の方法をとらないことになります。
つまり、怒られそうだけど、そのまま残すような場合。

世界はリスクで溢れている

リスクが危機の可能性であるなら、リスクを生み出す環境や要因のことは“ハザード”と定義されます。しかし、そんなことを言い出せば、メディア運営、すなわち外部に向けて情報を発信すること自体が、そもそもハザードです。

ハザードからリスクが発生するのはどのようなメカニズムによるのかと言うと、有名なのが“ハインリッヒの法則”になります。
要約すると、“1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する”。
リスクの発生メカニズムはピラミッド構造をしているとも言えるでしょう。

建設業界や医療業界では、重大な危機を結果的に伴わなかった事故や事件を、擬態語をそのままに「ヒヤリ・ハット」という用語として使用しています。この「ヒヤリ・ハット」には、さらに数千のハザードが背景にあると予想できます。
つまり、「ヒヤリ・ハット」の段階でハザードを発見できる感性こそが、メディア運営者にも要求される時代なのではないでしょうか。

その感性を養うためには、自分の運営するメディアと日々真摯に向き合いつづけることが、最善の方法なのではないかと思いました。

一番の危機管理は、許すこと

ちなみに、“To Err is Human”にはつづきがあります。それは“to forgive, divine”、つまり“許すは神の御業(みわざ)”という意味です。
つなげると、“To err is human, to forgive, divine.”、“誤りは人の常、許すは神の御業”となり、誤りがちな人を許すのは神のような行為であるということ。

たとえ1日に3件ほど立て続けに誤字脱字やリンク切れを指摘されても、思慮が足りずに何かしらに火をくべてしまっても、できるだけ自分を許してあげたいし、許してくれればいいのにと思う今日この頃。(ごめんなさい)
読者様は神様!ということで、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

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