ドリーくんの家に遊びに行った
「このあと、どうするんですか? 観光?」
「ドリーくんの家に行くんですよ」
「え、ぼくの家!? ・・・なんで? 岡山旅行に来たんじゃないんですか?」
「いや、ドリーくんとゆっくり話すのが岡山に来た目的だから」
「あの、僕の家って実家なんですけど・・・友達を呼ぶのも数年ぶりなんですけど・・・」
「バイト始めて、家に友達を呼んで、ってすげぇ親喜びますよ」
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ドリーくんの部屋で話そうと思っていたんですが、親が「汚すぎて見せらない」「応接間ならOK」と通してくれました。
まぁ、確かに僕も引きこもってたから分かるんですが、何年も引きこもっていた人間の部屋って・・・ね。
「ドリーくんが引きこもり始めたきっかけって何だったんですか?」
「大学中退ですね。遠いし、授業も面白いと思えなくて。すぐ辞めちゃいました。2回も」
「2回も。僕も高校中退がきっかけです。人って中退すると、引きこもっちゃうみたいですね」
「やることないですからね。家でインターネットやっていて・・・それでブログも始めてみたんです」
「ブログを始めた理由って?」
「承認欲求です。もう、それしかない。菊池さんもそうでしょ?」
「そう。反応があると『生きてる』って感じがしますよね。社会との唯一の接点だから」
「麻薬みたいですよね。村上春樹のレビューのときはすごかった。あれで壊れちゃいました」
「あのレビューは笑いましたよ。書籍化の話はすぐ来たんですか?」
「けっこうすぐ来ましたよ。編集者から本を出さないかって言われて。未だに会ったことないんですけど」
「一緒に本を作ったのに、会ったことないんですか」
「1回、電話で話しただけですね。あとはメールです」
少しだけ部屋も見せてもらえました。床に本が敷き詰められていて、本当に足の踏み場もなかったです。歩いたら「パキッ」って何か割れる音がしました。
「本が出たときはやっぱりテンション上がりました?」
「上がったんですけど・・・周りの反応が薄くて。親に言っても『あー、そう』みたいな」
「自分から親に言ったんですね」
「『こんなんなっているけど、どうするよ?』って言ったら、『へぇ』って。それだけ」
「僕も本を出したとき、ビックリするほど反応がなかった。無風。完全にスベったなと」
「死にたくなりますよね。ツイッターで少しでも言及があれば、リツイートしちゃう。そうしなきゃ自我が保てない」
「村上春樹の新作が出たら、横に並ぶんじゃないですか」
「ファンの人が読んだら怒るんですよ。もうホント、怒られた」
「次回作ってどうなんでしょうか」
「進んでいますよ。上手くいけば来年出る予定です」
「え! 進行中なんですか。それなのにブログはあんなにテンション低いんですね。僕なんて2冊目の話、1ミリもないですよ。ブログのあれは何、ネタなんですか?」
「本音ですよ。変わんないですよ・・・本出しても、2冊目が決まっていても・・・」
せっかくなので本棚も見せてもらいました。ナンシー関、中島義道、車谷長吉をよく読んでいるんだそう。心理学や社会学の本も並んでいます。「ナンシー関、1冊だけ読みました」って言うと、「全部読まないと」と叱られてしまいました。
「菊池さんの方はLIGに入ってどうなんですか。周りの人とはどんな感じですか。楽しいですか」
「いやー、LIGなんてくだらない人間ばかりでウンザリですよ。特に上司の寺倉そめひこってやつを筆頭に」
人物紹介:寺倉そめひこ LIGのエグゼクティブ・マネージャー。菊池の上司。すごく仕事をする人。 |
「ブログを見ても浮いてますけど、くだらないんですか、周りは」
「特にそめひこがダメですね。ちっとも面白くないですよ。顔だけじゃないですか、あんなの」
人物紹介:寺倉そめひこ LIGのエグゼクティブ・マネージャー。菊池の上司。すごく仕事をする人。 |
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「あの・・・もう帰ってもらえます? 晩ご飯の用意を手伝うのが日課なんですよ」
「えっ!? 引きこもりなのに毎日家族と食卓囲んでいるって、すごい精神力ですね」
「親に良い顔してないと、居づらくなるんで」