シフトブレイン浦川さんが、ブランディングにおいて大切にしていること。

シフトブレイン浦川さんが、ブランディングにおいて大切にしていること。

Mako Saito

Mako Saito

 
「ブランディングって、いったいなに?」
 
……と聞かれたら、みなさんはなんと答えるでしょうか。

抽象度の高い言葉だからこそ、きっと回答はさまざまだと思います。そこで今回は、

「ブランディングのプロって、実際どのようにプロジェクトを進めているの? その過程で、なにを大切にしているの?」

という素朴な疑問を、株式会社シフトブレインの浦川航さんにぶつけてみました。

過去に浦川さんが手掛けてきたプロジェクトのエピソードを聞きながら、ブランディングとはいったいなんなのか、一緒に考えを深めていきましょう。

ico 講師:株式会社シフトブレイン プランナー / コピーライター 浦川 航氏日本大学芸術学部卒。広告制作会社などを経たのち、株式会社シフトブレイン入社。好奇心とおせっかいを原動力に、様々な企業のアウター/インナーブランディング、プロモーションのコンセプト設計、コミュニケーションデザインに従事。最近の参画プロジェクトは、スタディサプリ、ジコリカイ、ニットブランド『cucumu』など。Red Dot Award: Communication Design、Awwwards SOTDなど受賞歴多数。
ico SHIFTBRAIN Inc. デジタル領域を中心にブランディング戦略の設計、コミュニケーションプランニング、デザイン、テクノロジーまでを一気通貫で行うデジタルクリエイティブエージェンシー。ミッションは「FEEL DRIVEN」。物事の価値を変え、人の心を動かし、世の中をより良くしていくために、企業/製品/地域のブランディング、採用、キャンペーンなどを中心に、紙/デジタル/映像など幅広く制作を行っている。
https://shiftbrain.com/

※浦川さんには、弊社LIGが運営するWebクリエイタースクール「デジタルハリウッドSTUDIO by LIG(デジLIG)」の「リーダーズ講座」にも登壇してもらっています。

case1. 東京システム開発株式会社様

https://shiftbrain.com/work/tsd-branding/

 
創業35年目の節目におこなわれたブランディングプロジェクト。存在意義や強みをともに言語化し、ミッションやロゴ、Webサイトを作成した。あわせて、MAGAZINE(社内報)を創刊。プロジェクトから5年経ついまも毎年欠かさず発行している。

 
――ブランディングプロジェクトの一環として 「社員の声をまとめた冊子」を作ろうと考えたのは、どうしてですか。

浦川:社長の相田さんが社員をとても大切にする方で、その想いをなにかしら形にできないか? と考えたことがきっかけでした。もちろん、福利厚生を充実させたり、交流の場を設けたりすることも想いの表れの一つです。

ただそれだけでは伝わりきれない、目には見えない空気感やつながりを表現したかった。そこで僕から「社内報を作りませんか?」と提案しました。

社内報にはあえて、「あなたのアルバイト経験を教えてください」「あなたの好きなゲームを教えてください」といった、人柄が感じられるテーマで話してもらった内容を盛り込んでいます。

「あなたの仕事はどう会社のミッションにつながっているの?」といった真面目な質問だけだと、どこか他人事に感じられてしまう可能性がありますからね。

――実際に社内報を作ってみて、どのような反響がありましたか?

浦川:定量的な成果を測ることは難しいのですが、5年経っても発行し続けていることが、価値を感じてもらえている証拠なのかな、と思っています。毎年新入社員にインタビューをして、社員やクライアント、これから入社予定の人たちに配っているんですよ。

とくに新卒社員の親御さんから「いい会社だね」と言ってもらえているようで、クライアントの情緒的な魅力を伝えられているのではないかと感じます。

case2. ニットブランド「cucumu」

https://shiftbrain.com/work/cucumu/

 
「天然素材にこだわり、肌にも環境にもやさしいものを作りたい。」「良いものを、なるべく低価格で届けたい。」といったクライアントの強い想いに感銘を受け、ECサイト制作だけではなくブランドのネーミングから自主提案。その後、一部商品開発にも携わっている。

 
――もともと「ECサイト制作」の相談をしてきたクライアントが「ブランディング」プロジェクトに乗り気になってくださったのは、どうしてでしょうか。

浦川:最初のヒアリングでクライアントから商品に対するこだわりを聞いた直後から、自分のなかにアイデアが生まれていたんですよ。「ただECサイト制作を提案するのではなく、ブランドづくりから提案するのはどうかな」と、同席していたアートディレクターとともに帰りの特急電車のなかでもうイメージを作り始めていました。

提案時、「こんなブランドを作りませんか」と具体的なアウトプットまで勝手に作って持っていったので、「たしかにこれならやってみたい」とクライアントも思ってくださったのではないかと思います。

case3. LCMサービス「UTORITO」

https://x.com/SHIFTBRAIN/status/1805133790202962198

 
法人向けMac運用業務のアウトソーシングサービスを提供していたが、「事業内容がわかりにくい」という課題を抱えていた株式会社Too社。「社外に向けて自分たちの価値を明確にしたい」というご要望のもと、ネーミングやロゴの策定を支援した。

 
――このプロジェクトはどのようなプロセスで進めたのでしょうか。

浦川:「UTORITO」というサービス名も「はたらくを、らくに。」というタグラインも、社員のみなさんと一緒に「あれがいい」「これがいい」と話し合いながら作り上げていきました。試合前にみんなでユニフォームを作っているときのような、熱気ある時間でしたね。

このワークショップを通じて、営業やマーケ、物流など部署を超えた社員同士のつながりがより強まったのではないかと思います。

自分たちのサービスの強みが形になっていないと、なかなか仕事に前向きになれないし、横のつながりも作っていけない。そんなことを僕も再認識する機会になりました。

浦川さんにとって、ブランディングって?

――ここまで3つの事例をうかがってきました。あらためて、浦川さんにとってブランディングって、いったいなんでしょうか。

浦川:「ブランディング」という言葉って、どこか高貴なもの、崇高なもののように感じてしまうところがありますが、僕はもっと地に足ついたものだと思っています。

「大きな傘を作り、そこに社員を位置づけたり事業を紐づけたりする」というよりは、「社員みんなが好きに自由にできる公園を作る」もしくは、「土壌を作る」感覚に近いと考えています。

とくに、これから作るものが “社員” の人たちにどう作用していくのかは意識しています。いくら外側がカッコよくても、中身とギャップが大きければ周囲はガッカリしてしまう。

だから、その会社で働いている人やその家族など、中にいる人たちがちゃんと仕事に前向きになれたり、この会社で働いていて良かったと思えたりするアウトプットになっていることが、とても大切だと思っています。

そのため僕は、いろんな人の声を聞きます。社長の声も、営業の声も、お客様の声も聞きたい。実店舗があるならそこにも行きたい。いろんな声を混ぜ合わせて作ったほうが、より育つ土壌になると考えています。

――いざたくさんの人の声を聞くとなると、収拾がつくのかなという不安もあります。浦川さんはいつもどうやって “みんなの声” をまとめているのでしょうか?

浦川:正直、自分でも説明しきれないんですよね。おおまかなフローはありますが、正直それにハマらないことも多い。アウトプットに至るまでの過程は毎回違います。

だから楽しいし、すごく大変。毎回「思いつかなかったらどうしよう」って思いながら作っています(笑)。それでも、最終的にはなんとか形になって毎度「ほっ」としています。

どちらかというと、型にはめすぎることで声を取りこぼしてしまうことをいつも気にしています。ある種の「形骸化」というやつですね。

なるべくそうならないように、フラットな状態でインプットして、すべてが揃った段階で初めて編集していくようにしています。

――……浦川さんのそのやり方って、他人にも教えられるものでしょうか?

浦川:とても難しいかもしれません。ヒアリングやインプットの段階でどう考えるか、みたいなことは共通しています。

たとえばヒアリングのとき、その会社の「強み」を聞くだけで終わらせずに、その強みが具体的にどのような効果を生み出しているのか、強みを生み出せる理由はなにか、誰が支えている強みなのか、など深掘りして、多面的に理解していくことなんかは意識しています。

僕はこれを「スコップとライト」と呼んでいます。スコップで深掘りし、ライトでいろんな角度から照らしていく。ある視点から見た強みは、別の視点から見ると弱みになったりすることもあります。そういった多角的な視点を持つことが大切だと思っていますね。

――ブランディングにおいて、浦川さんのようなヒアリング力は必須だと思われますか?

浦川:いえ、全然そんなことはないと思いますよ。僕はたまたま、人の話を聞くのが好きなんです。おばあちゃんの昔話を聞くのが好きだったし、本を読むのも好きです。世の中にある「不思議だなぁ」と思うことにもっと飛び込んでみたいという気持ちがあります。

ブランディングにはいろんな解釈があっていいし、いろんなプロセスがあっていい。傘を作るようなアプローチを否定しているわけではなく、むしろそれを見て勉強になることもあります。

しいてあげるなら、あまり周りのやり方に固執せずに、最終的には自分だったらどうするかを考え、自分なりの道筋を立てていくことがもっとも大切なのかなと。“ぜんぶあなたが決めればいい” と思っています。これ、前回のインタビューでも同じこと言ってますね(笑)。

 
――最後に、浦川さんが仕事において大切にしていることを教えてください。

浦川:受託の仕事をするときはつねに、「誰かのために作る」という意識を持ち続けることを大切にしています。僕は「クリエイティビティ」って、「想像力」だと思うんですよ。

あとは、「新しくて大きな仕事」が称賛される世の中ですが、「古くて小さな仕事」も僕は認めてあげたい。目の前の相手が喜んでくれるもの、愛おしく感じられるようなものを、これからも作っていきたい。そんなことを思いながら、いつも仕事をしています。

――浦川さん、今日は貴重なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

 
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そんな浦川さんの講座も含め、今後もクリエイターのみなさまに役立つイベントを実施予定です。本気でクリエイターを目指すみなさん、デジLIGにてお待ちしております!

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Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

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