本編は見ないでデザインする
─ MontBlanc.さんはどんなデザインを担当されていたんですか?
最初は製品カタログやDVDパッケージが中心です。途中でWebデザイナーがいなくなっちゃって、代わりに自分がサイトやバナーの制作担当になりました。中学のときにHTMLちょっと触っていた程度だったんですが。
で、そのまま女優さんの特設サイトや、イベントサイトの開設などにも携わるようになりました。最後のほうは女性向けのアダルトコンテンツも担当していましたね。
─ デザインするときって、本編は全部見ているんですか?
ほとんどの場合は見ません。企画から店頭に置かれるまで3ヶ月のスパンしかないんです。
まずキャスティングから撮影まで1ヶ月。次にジャケットとかで1ヶ月。その半分ぐらいの時期からデザインに入るので、完成前に監督やプロデューサーと打ち合わせしてデザインを作る。だから映像編集と同時進行ですね。
─ デザインの方針は誰が決めているんですか?
プロデューサーですね。女優さんをどう撮るかは決まっていて、それを「こういうイメージで」というのを話すので、それを咀嚼して3案ぐらい出して決めます。
パッケージの裏面のダイジェストシーンなんかは、監督が選んで抜き出しています。
─ AVのパッケージって独特ですよね。
そうですね。単体女優ものは、シンプルで綺麗なデザインを制作することが大半ですが、企画ものは内容によっては、綺麗なデザインでいくわけにはいかない。バラエティでウケているパッケージはかなりごちゃごちゃしています。
僕は「デザインとはシンプルであるもの」と思っているタイプだったので、あんなに余白なしにギチギチに文字を入れる作業は勉強になりました。
─ ああいう文字組の定型などは、どうやって伝承されているんですか?
「とにかく盗め」という方針でしたね。まず「これやって」と先輩に言われ、やって戻されて、の繰り返し。先輩が作ったパッケージを見て参考にして、と。そういう意味では職人の世界ですね。
顔のレタッチは……ある
─ パッケージで、女優の顔はレタッチしているんですか?
うーん……。
結論から言うとレタッチはしています。ただ、僕がいた制作会社に関しては、元々女優さんが綺麗なので、特に大きな加工はしていませんでした。
実際は可愛いのに写真だとイマイチだったり、角度の問題だったり、いろいろ理由はあります。
パッケージとのギャップに引っかからない対策としては、表と裏を見比べること。AVは予算がないので、裏表紙の細部までは回らない場合が多い。表と裏で、明らかに顔が違うやつはレタッチのしすぎかもしれません。予算があるものは照明がかなりきちんと組まれているので、あまり差がないですね。
─ デザイン上のこだわりは?
「インパクト」ですね。魅力的な写真を選ぶ。文字をうまく配置する。単体は単体で、企画ものは企画もので、インパクトのつけ方があります。
「エログラデーション」という考え方もあります。パッケージの上下で、上は映像本来のストーリーを見せて、下にいくほど過激なものにするとか。
「緩急をつけろ」と上司によく言われました。最初からエロではなく、だんだん脱いでいくというか、そういうストーリーの描写になるよう気をつけていました。
─ ネットだと「後ろを向いている車を前に向かせてほしい」というようなクライアントからの無茶な要求話を聞きますが、そういうのはありましたか?
うーん(言いにくそうに)。
「BカップをFカップにしてくれ」というものはありました。キャスティングミスで、巨乳ものなのにBカップの子がきたんです。でも、「やっぱりなしで」というわけにもいかないので、そのまま撮ったんです。
デザイン的なバランスはとれましたが、違和感はありましたね。
─ 表現として、気をつけていたことってありますか?
AVの場合、審査機構があって、入稿の前に「審査」があるんです。「これはマズい」というのがあると審査で弾かれる。
パッケージの文字の表現も厳しいんです。伏せ字にしたり、漢字を入れ替えたりしています。
映像の内容が法律に触れることもあります。一番わかりやすいものが公然猥褻罪。外でしているものに関しては、ギリギリのラインを攻めています。渋谷を走るトラックの荷台で撮影していたら、捕まったケースがありましたね。
あとは肖像権や著作権。たとえば個人店舗が映っていると全部許可が必要。でも公共のものについては逆にセーフだったりする。あの辺の基準は専門家でないとわかりません。
キツかったのは男性ものの切り抜き
─ エロばかり見ていて、飽きたり気持ち悪くなったりはないですか?
まわりはAV見すぎていると、刺激が普段以上でないと、ってなるみたいですけど、僕は今も普通に見ますよ。
─ デザイン仕事でキツかったことは?
入社して初めて作ったものがゲイものだったんです。でも、内容じゃなくて、髪の毛ですね。
男性は短髪なので切り抜きが大変なんです。パスがすごく増えて、差し戻しもすごかったですね。
─ 女性向けのアダルトコンテンツも担当していたそうですが、男性向けとどんな違いがありますか?
女性は行為そのものよりも、その行為にいたるまでのプロセスを重視する傾向があります。内容も「トレンディなものにしたい」と女性プロデューサーはよく言っていて、ひと昔前の月9のような、ちょっとコテコテなストーリーでした。
だから、デザインで重視するのはインパクトではないですね。「これはエロすぎる」という理由でのNGが出たりします。
─ ひと月にどれぐらいのクリエイティブをリリースしていましたか?
DVDパッケージだと、月に8、9本ぐらい、最高で15本。特設サイトやLPは10〜15、バナーだと100以上ですね。
Webデザイナーが自分だけになったときは、一番キツかったです。半年続きました。忙しすぎて新しいWebデザイナーを採用する面接すらできませんでした。