AVのパッケージってどんな人が作るの?元制作会社のデザイナーに聞く

菊池良


AVのパッケージってどんな人が作るの?元制作会社のデザイナーに聞く

こんにちは、ライターの菊池(@kossetsu)です。

kiku_ico 人物紹介:菊池良
株式会社LIGに所属するライター。ブログ記事の企画・執筆を担当している。

先日、Facebookにこんな投稿をしました。

すいません!スマホでよく表示されるエロバナーを作っているデザイナーの人と知り合いの方いませんか?顔出しなし、匿名でいいのでインタビューしたいです。Posted by 菊池 良 on 2015年12月5日

すると、エロバナーがメインではないけれど、以前アダルト制作会社で働いていたデザイナーの方と繋がることに成功!

予定を変更し、AVのパッケージの作り方や業界について聞きました。約6,000字のインタビューです。

お話してくれたのはこの人

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MontBlanc.(@MontBlanc04)さん。大学を卒業後、新卒でアダルト制作会社に入社。約4年間、デザイナーとしてDVDのパッケージやサイト制作に従事する。現在は転職し、スマホアプリ系の会社でUI、UXの設計を担当。

イラストに挫折してアダルト制作会社に入った

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─ MontBlanc.さんは新卒でアダルトのデザイナーになられたとのことですが、まずデザインに興味を持ったきっかけは?

アニメやイラストなどが好きで、将来はイラストレーターになりたかったんです。ただ、クリエイティブ系の大学に入ったんですが、周りとの実力差に打ちのめされました。

じゃあ、自分はデザインのほうに行こうと。イラスト集の装丁やWebサイトの作成など、そういう活動にすぐシフトしました。

 

─ そこから、なぜアダルト業界に?

レンタルビデオ店でバイトしていたんですが、コーナー担当がアダルトだったんです。棚卸しでパッケージを見ていたら「すごいデザインだな」と。これを盗めたら技術が上がるんじゃないかと思いました。

それで、たまたまアダルト制作会社のデザインをやる子会社が採用をしていて、そこにエントリーしました。

 

─ 家族の反対はなかったんですか?

「ほんとにいいの?」みたいなことは一応聞かれましたけど、もともとそういうのがオープンな家庭で。

アダルト業界の慣習なのか「親の同意書」を入社前に提出させられるんですよ。だから、両親が納得したうえでの入社ですね。

 

─ 友人の反応は?

「AV男優になるの?」っていうのが一番聞かれましたね。親しい人たちは「がんばれ」と言ってくれました。

現場は空気がピリッとしたプロの世界

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─ 実際に入ってみたら、どうでした?

僕も最初、「怖い人いるのかな」「すごく殺伐としているのかな」と思っていたんですが、入ると普通の制作現場でした。ちゃんとプロセスがあってデザインを作って。

男女比率はグループ全体で7:3ぐらいでしたね。女性の監督やデザイナーもいました。

あと研修がちゃんとしていました。入社3日目にはJALのマナー研修があって。やっぱりどうしても世間に厳しく見られる業界なので、マナーや言葉遣いはきちんとしろ、という会社の意思がありましたね。

 

─ こういう業界の研修はキツそうだな、という印象があります。

厳しかったですね。めちゃくちゃなのだと、山を開拓するんですよ。竹を切って山の上まで階段を作ったりしました。今はもうやってないと思うんですけど。

あと印象に残っているのが、AV撮影のロケ体験。自分がユーザーとして見ていたものとは全然違いました。現場は空気がピリっとしていて、みんなプロだなって。

例えば、女性との絡みで男性の下半身だけが映っている場合、男性は女性を見てないんですよ。ずっと監督のほうを見てアイコンタクトで意思疎通をしている。

コンドームを渡すときにもちゃんとした渡し方があって、それがダメだと怒られたりするんです。

 

─ オフィスで「アダルト制作会社ならでは」という光景は意外と少ない?

制作社員ものの撮影ですかね。あれ、セットだと思われがちですけど、ほんとに実際のオフィスでやっています。普通に働いているところに、監督やスタッフが入ってくる。たまに自分がちょっと映っていたりします。

あと、職場で隠語が普通に飛び交うことですかね。別に変な意味でなく、業界用語なので、女性も普通に。打ち合わせに来たお客さんはギョッとしていますが。

 

─ 同期っているんですか?

グループ全体でいえば15〜20人ぐらいいました。デザイナーで一緒に入ったのは2人。あとは営業やディレクターですね。

 

─ 同期はどういうモチベーションで入ってきているんですか?

不純な動機の人もいましたけど、デザイナーは2人とも「デザインやるぞ」みたいな感じで。全体で言うと、最初の数ヶ月でかなり辞めちゃって、残った人たちは職種問わずポリシーある人だけですね。

本編は見ないでデザインする

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─ MontBlanc.さんはどんなデザインを担当されていたんですか?

最初は製品カタログやDVDパッケージが中心です。途中でWebデザイナーがいなくなっちゃって、代わりに自分がサイトやバナーの制作担当になりました。中学のときにHTMLちょっと触っていた程度だったんですが。

で、そのまま女優さんの特設サイトや、イベントサイトの開設などにも携わるようになりました。最後のほうは女性向けのアダルトコンテンツも担当していましたね。

 

─ デザインするときって、本編は全部見ているんですか?

ほとんどの場合は見ません。企画から店頭に置かれるまで3ヶ月のスパンしかないんです。

まずキャスティングから撮影まで1ヶ月。次にジャケットとかで1ヶ月。その半分ぐらいの時期からデザインに入るので、完成前に監督やプロデューサーと打ち合わせしてデザインを作る。だから映像編集と同時進行ですね。

 

─ デザインの方針は誰が決めているんですか?

プロデューサーですね。女優さんをどう撮るかは決まっていて、それを「こういうイメージで」というのを話すので、それを咀嚼して3案ぐらい出して決めます。

パッケージの裏面のダイジェストシーンなんかは、監督が選んで抜き出しています。

 

─ AVのパッケージって独特ですよね。

そうですね。単体女優ものは、シンプルで綺麗なデザインを制作することが大半ですが、企画ものは内容によっては、綺麗なデザインでいくわけにはいかない。バラエティでウケているパッケージはかなりごちゃごちゃしています。

僕は「デザインとはシンプルであるもの」と思っているタイプだったので、あんなに余白なしにギチギチに文字を入れる作業は勉強になりました。

 

─ ああいう文字組の定型などは、どうやって伝承されているんですか?

「とにかく盗め」という方針でしたね。まず「これやって」と先輩に言われ、やって戻されて、の繰り返し。先輩が作ったパッケージを見て参考にして、と。そういう意味では職人の世界ですね。

顔のレタッチは……ある

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─ パッケージで、女優の顔はレタッチしているんですか?

うーん……。

結論から言うとレタッチはしています。ただ、僕がいた制作会社に関しては、元々女優さんが綺麗なので、特に大きな加工はしていませんでした。

実際は可愛いのに写真だとイマイチだったり、角度の問題だったり、いろいろ理由はあります。

パッケージとのギャップに引っかからない対策としては、表と裏を見比べること。AVは予算がないので、裏表紙の細部までは回らない場合が多い。表と裏で、明らかに顔が違うやつはレタッチのしすぎかもしれません。予算があるものは照明がかなりきちんと組まれているので、あまり差がないですね。

 

─ デザイン上のこだわりは?

「インパクト」ですね。魅力的な写真を選ぶ。文字をうまく配置する。単体は単体で、企画ものは企画もので、インパクトのつけ方があります。

「エログラデーション」という考え方もあります。パッケージの上下で、上は映像本来のストーリーを見せて、下にいくほど過激なものにするとか。

「緩急をつけろ」と上司によく言われました。最初からエロではなく、だんだん脱いでいくというか、そういうストーリーの描写になるよう気をつけていました。

 

─ ネットだと「後ろを向いている車を前に向かせてほしい」というようなクライアントからの無茶な要求話を聞きますが、そういうのはありましたか?

うーん(言いにくそうに)。

「BカップをFカップにしてくれ」というものはありました。キャスティングミスで、巨乳ものなのにBカップの子がきたんです。でも、「やっぱりなしで」というわけにもいかないので、そのまま撮ったんです。

デザイン的なバランスはとれましたが、違和感はありましたね。

 

─ 表現として、気をつけていたことってありますか?

AVの場合、審査機構があって、入稿の前に「審査」があるんです。「これはマズい」というのがあると審査で弾かれる。

パッケージの文字の表現も厳しいんです。伏せ字にしたり、漢字を入れ替えたりしています。

映像の内容が法律に触れることもあります。一番わかりやすいものが公然猥褻罪。外でしているものに関しては、ギリギリのラインを攻めています。渋谷を走るトラックの荷台で撮影していたら、捕まったケースがありましたね。

あとは肖像権や著作権。たとえば個人店舗が映っていると全部許可が必要。でも公共のものについては逆にセーフだったりする。あの辺の基準は専門家でないとわかりません。

キツかったのは男性ものの切り抜き

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─ エロばかり見ていて、飽きたり気持ち悪くなったりはないですか?

まわりはAV見すぎていると、刺激が普段以上でないと、ってなるみたいですけど、僕は今も普通に見ますよ。

 

─ デザイン仕事でキツかったことは?

入社して初めて作ったものがゲイものだったんです。でも、内容じゃなくて、髪の毛ですね。

男性は短髪なので切り抜きが大変なんです。パスがすごく増えて、差し戻しもすごかったですね。

 

─ 女性向けのアダルトコンテンツも担当していたそうですが、男性向けとどんな違いがありますか?

女性は行為そのものよりも、その行為にいたるまでのプロセスを重視する傾向があります。内容も「トレンディなものにしたい」と女性プロデューサーはよく言っていて、ひと昔前の月9のような、ちょっとコテコテなストーリーでした。

だから、デザインで重視するのはインパクトではないですね。「これはエロすぎる」という理由でのNGが出たりします。

 

─ ひと月にどれぐらいのクリエイティブをリリースしていましたか?

DVDパッケージだと、月に8、9本ぐらい、最高で15本。特設サイトやLPは10〜15、バナーだと100以上ですね。

Webデザイナーが自分だけになったときは、一番キツかったです。半年続きました。忙しすぎて新しいWebデザイナーを採用する面接すらできませんでした。

AV女優に名刺を渡したらクビ

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─ アダルト業界のトップデザイナーっているんですか? 佐藤可士和のような。

いない……ですね。わかりません。誰が作っているのかってわからないんです。内製でやっているか、フリーに業務委託していて、基本は公表しません。いるとしたら当時の上司ですかね。

 

─ 女優とプライベートで交流は?

女優さんと接点を持つのが禁止なんです。そもそも名刺交換したらクビ。僕も何人かお会いしましたけど、マネージャーさんとしか名刺交換しませんね。

 

─ 他の業界のデザイナーとの交流はあるんですか?

そういう時間が取れなかったですね。下っ端なので、やらなきゃいけないことのうち、100%中の70%までしか達成できなかったりして。そういうのを解消するためには会社に泊まり込んだりしていました。

去年ぐらいまでずっとそんな感じでやっていたので、これからやっとそういう人たちと交流できるかな、と。

 

─ 転職の理由は?

尊敬していた上司が辞めちゃいまして。僕にとってはその上司が全てだったんです。面接のときに、その上司の靴がカッコよくて、思わず「靴カッコいいですね」と言ったら、入社後にその靴をくれまして。

理論的な人で、僕にとっては影響がすごく大きかった。話し方も似てきちゃっているなぁ、と。それぐらい大きかった。

だから、その人がいなくなって、会社にいる理由がなくなったな、という。その上司は現在はフリーでデザイナーやっています。今でもたまに飲みますよ。

 

─ 今はどんなお仕事を?

スマホアプリのUIデザインとUXデザインなどを担当しています。未経験だったんですけど(笑)

スマホ事業に特化したBtoBに取り組んでいる会社で、ユーザーの動きなどを考えて、ゼロベースでデザインさせてもらっています。

 

─ アダルト業界のノウハウは今の仕事にも生かされていますか?

採用理由が「文字組がうまい」だったらしいので、パッケージに文字を詰めていた経験が活きました(笑)

 

─ 最後に、これからアダルト系デザイナーになりたいという人にメッセージをお願いします。

とりあえず大前提として下心でエントリーするな、あったとしてもそれを補えるぐらいのポリシーや考え方を持て、と。「アダルトだからってバカにするな」みたいな気概ですね。

第1希望で入るなら大丈夫だと思うんです。何か確固たるポリシーを何かしら持っていると思うので。第2、第3希望くらいの滑り止めとかネタとかで入るなら他の業界に行ったほうがいい。生半可な気持ちでやれるほど、この業界は甘くないと思うし、甘くなかったので。

まとめ:プロはやっぱり真面目だった

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完全に興味本位でインタビューをお願いして、「隠語を言いまくる破天荒な人がくるのかな」と失礼なことを思っていたのですが、MontBlanc.さんは想像以上にデザインに対して真摯で、真面目な方でした。

どの業界にもプロフェッショナルがいて、切磋琢磨しているんだな、と感慨深い気持ちになりました。翻って「自分はどうなのか?」と考えると、あんまりできていないかもしれません。

MontBlanc.さん、インタビュー本当にありがとうございました。

■MontBlanc.さんのブログ「montblan9.net」
http://montblan9.net/

【ヨルリグ】

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