LIGブログ編集長代理のMakoです。
2022年、LIGはCI(Corporate Identity)をリニューアルしました。
リニューアルプロジェクトは創業者かつ現会長の吉原ゴウが責任者として指揮を執り、ブランドコンサルティング会社・B&Hさん全面協力のもと進めています。
今回はWebサイト公開を記念し、B&H代表・今村玄紀さんとLIG吉原ゴウの特別対談を実現。プロジェクトの過程を振り返りながら、ブランディングとはどうあるべきかを語り合いました。ぜひご覧ください。
B&H代表 今村 玄紀(Genki Imamura)さん経営学者・哲学家としてブランドの戦略立案・理念体系の整理・CI策定・CM制作・プロダクトデザイン・建築・R&D・サービス開発等を担当。経営戦略に美意識やアート、建築の思想を融合させる事によって企業がどのように変革するかを研究。 |
強烈に、徹底的に変える
ゴウ:新しいロゴ、やっぱり好きだなぁ。黒背景にただ置くだけですげえパワフル。俺っぽいと思えたし、俺もこうありたいと思ったし、会社もこうあるべきだなと思えた。このロゴの前だと「背筋伸ばしてハキハキしゃべんなきゃ!」って気持ちになるもんね。
Genki:たしかに、ボソボソしゃべる人はもうLIGに応募してこないかもしれませんね(笑)。
ゴウ:俺や他の経営陣が潜在的に持っていた “アウトロー” っていう人格が反映されているからこそ、心からいいなぁと思えるんだろうな。B&Hさんの分析とデザイン力のおかげです。いままで何度もロゴを変えてきたけど、今後は軸がブレることがなさそう。
ーーゴウさん、6回目のロゴ変更、そしてCIリニューアルに至った背景を教えてもらえますか。
ゴウ:「LIGという会社を経営していて……」と自己紹介すると、「知ってますよ、おもしろブログの会社ですよね」「Web制作の会社ですよね」というリアクションがほぼ8割。いまのLIGはDXコンサルティングやシステム開発事業を拡大させているのに、それがまったく伝わってない。このギャップをどうにかしなきゃいけないと思ったのがまず一つ。
もう一つは、いままでずっと「みんなLIGブログで好きに発信していいよ」というスタンスでやってきたけど、会社が大きくなるにつれてそのやり方がうまくハマらなくなってきたと感じていて。情報発信の方向性があまりにバラバラでコントロールが効いていないから、一度強烈に整えたほうがいいんだろうなっていう課題感があったんだよね。
ちょうど大山さん(当時副社長・現代表)に経営をバトンタッチして俺の手が空いてきたから、このタイミングでCIを見直しましょう、と今回のプロジェクトが始まった感じかな。
Genki:最初は社名を変える検討もしていましたよね。
ゴウ:そうそう。社名変更なんて俺は考えたこともなかったんだけど、COOのコージさんに「本当にLIGのままでいいんですか? リニューアルするなら徹底的にやってください」って問いただされてさ。結局は変えなかったけど、5年後10年後、いまの社名やロゴで本当に戦えるんだっけ? って改めて考える機会になったかな。
ーー自社のブランディングを内製ではなく、B&Hさんへ依頼したのはなぜですか?
ゴウ:過去の経験上、顧客案件を抱えながら自社案件をやってもらうとどうしても優先順位が下がる。これはしょうがないんだよね。いまは顧客対応に集中してほしいという現場の意向もあって、今回は外部のプロにお願いしようという話になった。外部だからこそ客観的にLIGを表現してもらえるだろう、という期待もあったね。
なかでもB&Hさんにお願いした理由は明確で、Genkiさんなら自分と同じ感覚で話せると思ったから。一緒に飯食いにいっていろいろ話して意気投合して、「ぜひお願いします」ってその場で発注したかな。
命を削る3時間
ーーいざプロジェクトが始まり、どのように進んでいったのでしょうか。
ゴウ:「まず3時間のワークショップをやって、それをもとに2週間ほど考えてブランド戦略を提案します」って最初に言われたときは驚いたね。マジか、CIを提案するのにヒアリング3時間で本当に足りるの!? って(笑)。
でも実際にやってみるとめちゃめちゃ洗練されたワークショップで、たしかに3時間である程度分析されるなと思った。ヒアリングされる側の俺ですらドッと脳が疲れたから、ファシリテートしてるGenkiさんは相当だと思うよ。
Genki:ありがとうございます、毎回命削ってます(笑)。ワークショップはたったの3時間ですが、ここには約1,500冊の本から得た知識と10年分の試行錯誤のすべてが詰まっているので自信があります。ブランディングに対する僕なりの “答え” でもあるんです。
Genki:僕はあまのじゃくな性格なので、「このブランディング手法って本当に正しいんだっけ?」といつも疑っていたんですよ。現に3C分析のような一般的なフレームワークを使っても全然しっくりこないし、みんなでワークショップをやってもアイディアが発散されすぎて非効率で。
そんなときに入山章栄さんの「世界標準の経営理論」に出会い、頭の中でごちゃごちゃになっていた理論やフレームワークがすべて線でつながったんです。なので僕のスタイルは入山さんの教えがベースになっています。
ーーワークショップではいったいどんなことをやっているのでしょうか? 可能な範囲でぜひ教えてください。
Genki:会社のイデオロギー(主義、思想)とこれから会社が進むべき方向性をアウトプットするために、経営者に参加してもらい5つのマイルストーンを一つずつ進めていきます。
まずは「会社の人格」「経営者の人格」を主観的に表現します。会社の理想と現状のギャップ、経営者間にある認識のズレもあわせて洗い出します。次に見るのは「企業にある習慣」。思想って、結局無意識な行動にあらわれるんですよね。続いて「お客様の人格」「競合企業の人格」まで出して、勝ち筋を見つけにいきます。
もう一つ、うちならではの隠し味として「経営者の好きなブランド」も聞きます。習慣と同じく無意識に意思決定している部分なので、その人の思想が出るんですよ。LIGさんの場合は自然やアウトドア系のブランドが経営者間の共通点として出てきましたね。
ゴウ:今回B&Hさんと一緒にプロジェクトをやってすごいなと思ったのが、「いや、そういうことじゃないんですよ」というコミュニケーションが1回もなかったことなんだよね。ワークショップを通じて俺自身気づいてなかった人格まで整理されて腹落ちしてるから、あとから出てくる戦略やデザインの提案に大きなズレがない。すごく安心感がある。
いわゆる見た目だけのデザイン提案だと、「なんかキレイだけど本当に自分たちの言いたいことなんだっけ?」って腹落ちさせるのが大変で、結果コミュニケーションコストがかかっちゃう。だからイデオロギーの理解にノウハウと労力を投下するのは、すごく理にかなっていると感じたな。
ーーGenkiさんがブランディングにおいてイデオロギー(主義、思想)を強く重んじるのはなぜですか?
Genki:ブランディングって、大きく2つの流派に分かれます。市場から逆算してポジションを考える、経済を起点に考えるもの。もう一つは既存資源を活かして事業発展を考える、人や文化を起点に考えるもの。どちらの観点も持つべきなんですが、世に出回っているフレームワークは前者に偏っています。後者はデータで測りづらく曖昧で、心理学や社会学、文化人類学などの学問に近い。
僕はこの後者が好きなんですよね。
Genki:Appleは「Think different.」を掲げるから違う携帯を作りたいと思うし、違うことをしていたい奴らが集まる。だからiPhoneのようなプロダクトが生まれるし、さらにはiTunesのような経済合理性のあるサービスも備えているので企業としてめちゃめちゃ強い。
一方で他のメーカーは、スマホの需要が伸びているからスマホを作るというふうに、顧客のニーズからしか商品を考えることができない。思想がないから、個性がないんです。
ーーなるほど。イデオロギーとは顧客や求職者を惹きつける “自社ならではの魅力” につながるんですね。
違う、見ているところが。
ーーこのCIプロジェクトを成功させるために今後我々がやるべきことはいったいなんでしょうか?
Genki:品にこだわること、ですね。看板一つとってもどこまでのクオリティを追求できるのか。高いクオリティが新たな習慣となれば、ブランドは強くなります。
いいブランドって、自分たちがやりたいこともお客様にしてほしいことも全部一緒でウソがないんです。あっちで言ってることとこっちで言ってることが違うと信頼がなくなっちゃうので、約束を守ることが大事です。
ゴウ:クオリティのOKラインを引き上げるのはめちゃめちゃ意識したいね。基準がゆるいと質なんて絶対に上がらないから、俺自身が「これじゃダメです」ってちゃんとフィードバックしていくことがすごく大事なんだろうな。ブランドポリシーを社内に説明して回って、みんなが美意識を持って取り組めるようにしていかなきゃいけないと思うね。
Genki:美意識が低い人は、違うんですよね。見ているところが。その一線で走ってる人たちが見ているものから吸収していかないと美意識は上がりません。たとえば今回のCIリニューアルは海外のデジタルエージェンシーをベンチマークにしましたが、これを知ってるか知ってないかでアウトプットの質は大きく変わります。
ーー 一方で、ブランディングに失敗するケースの共通点はなんでしょうか?
Genki:短期的な利益に引っ張られちゃうケース。美意識よりも欲望を抑制できないケースですね。最近よくあるCMは、わかりやすいけど品がない。その企業に入りたいか? と聞かれたときになんとも言えない。品がなければ品の高い人たちは入ってきません。
でも、品がなくても利益はでるし成長できるんですよね。だからこそ美意識がなかなか上がっていかないんだと思います。
ゴウ:たしかに、儲かってる会社はいっぱいあるけど、カッコいい会社ってあんまないよね。
ゴウ:ある時社長の大山さんから「いつまでも俺たちは “若い兄ちゃんがやってる会社” じゃないんだから」って言われて、たしかにその通りだなと思った。25歳で起業してがむしゃらに仕事して、おもしろおかしく成り立たせるスタイルでここまでやってきたけど、40代目前にもなって、専門性や洗練さがなければカッコよくないし淘汰されるよね。
15年かけてLIGが与えてきたイメージを巻き返さなきゃいけないと思うと相当大変だけど、それをどれだけ短い期間で意図的に変えられるかが、これからの勝負かな。
カッコいい日本を作ろう
―― 最後の質問です。ずばり企業にとって、ブランディングは必要でしょうか?
ゴウ:起業した当時は目の前の仕事にどれだけ爆速で応えられるかしか意識してなかったから、ブランディングと言ったところで、だった。でもLIGはもう15年続いていて、規模も大きくなって、みんなで同じ船に乗ってやってかなきゃいけないよねっていうタイミングだから、時間とお金をかけてでもブランディングはやるべきだと思ったし、やってよかったと思ってるよ。
Genki:社会民主主義思想がベースにある北欧では、みんなが教養を身につけられるような環境が整っていて、みんなが知性を蓄え、品を上げようとしています。その結果いろんなもののスタンダードの基準が本当に高い。
一方で日本は、権威主義が強いので上の人が下の人を救ってあげるという精神が根強い。全員のレベルが上がっていかないので、スタンダードの基準が低い。カッコいい街もカッコいい建築もない。これらを見て次の世代は育ちます。
だからこそ、すべての企業がブランディングをやるべきだと思っています。経済学的な視点じゃなくて、文化的な視点から自分たちがどうあるべきかを考え、品を上げていってほしい。気づいた人が、そのときからやってほしい。
ブランディングに携わる者として、僕はそう思います。
―― Genkiさん、本日はありがとうございました。B&Hさんが作ってくださった基準を落とすことなく、さらに高めていきながら、今後もLIGとして走り続けていきます!