運用型広告歴約20年の大ベテラン・キーワードマーケティング滝井氏からのメッセージに励まされた話。

運用型広告歴約20年の大ベテラン・キーワードマーケティング滝井氏からのメッセージに励まされた話。

Mako Saito

Mako Saito

みなさんこんにちは、LIGのマーケターのまこりーぬ(@makosaito214)です。

本日は「うざい広告」記事でご一緒した株式会社キーワードマーケティング代表取締役・滝井さん(@hidenoritakiiにふたたびお時間をいただき、改めて真面目な取材を実施しました! マーケターの大先輩取材シリーズ第15弾です!!!

代表取締役/広告事業部長 滝井 秀典 さん2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ1,000社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。

……私は実はふだん広告運用も担当しておりまして、「広告運用って大変! 成果がはっきり出るのでシビア!(涙)」なんて思いながら日々管理画面とにらみあっています。

そこで今回はGoogle AdWords(現Google広告)が日本に上陸するころから運用型広告に携わっている、大ベテランの滝井さんにしかお聞きできないような運用型広告の歴史、そして成果を出す広告運用者になるためのポイントについて取材することで、日常業務のヒントを得たいと意気込んでいます。同じく広告運用に携わるみなさま、ぜひじっくりとご覧ください!

はじめに:運用型広告の変遷図

記事前半では、2000〜2020年の運用型広告の変遷についてお話しいただきました。図にまとめましたので、ぜひこちらを参照のうえ本編をお楽しみください!

運用型広告、約20年の歴史を振り返る

上陸したばかりのGoogle AdWordsで大当たり

まこりーぬ:滝井さん、本日はよろしくお願いいたします! 滝井さんはもともとどのようなきっかけで広告運用のお仕事をスタートされたのでしょうか?

滝井:約20年前、30歳手前だった僕は今でいうスタートアップ企業で働いていました。しかしITバブル崩壊の影響を受けて組織が解散することになり、仕事を失ってしまったんです。転職も考えましたが、年齢的に独立する最後のチャンスだと思い、ECサイトを立ち上げ起業することにしました。

ちょうどそのときGoogle AdWordsが日本に上陸して、「ECの集客に効くらしい」という話を耳にしたんですよ。これが運用型広告との最初の出会いです。

いざ自分で出稿してみると、嬉しいことに少ない資金でコンバージョンが急増し大当たりしました。当時はGoogleに出稿するとYahoo!の検索結果にも広告が出る仕様になっていて、クリック単価7円程度で大量に検索広告を配信できました。このすばらしい仕組みを世の中にもっと届けたいと思い、EC運営から運用型広告を広く知らしめる仕事へシフトしたのが2003年のことです。

まこりーぬ:自分自身で広告を運用することに最初抵抗はありませんでしたか? 私の場合、管理画面を開いた瞬間「あぁ、難しそう……」と億劫に感じてしまったのですが……。

滝井:まこりーぬさんと同じように感じる方が多いと思いますが、僕の場合は平気でしたね。もともと文芸学科で小説家を目指していたような人間なんですが、数字の羅列を見るのは好きなんですよ(笑)。数字から背景を推測したり、改善策を考えたりするのは得意なほうですね。

まこりーぬ:そうでしたか! 広告運用の仕事は滝井さんの強みにマッチしたのですね。

波風を立てるのは景気よりも広告媒体

まこりーぬ:運用型広告が日本で普及し約20年経ちますが、その間どのような変遷がありましたか? 直近ですと2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大によって広告業界にも打撃があったかと思います。やはり景気の上がり下がりには強く影響を受けているものでしょうか?

滝井:実はインターネット広告って、あまり外的要因の影響を受けないんですよ。現にリーマンショックでもコロナ禍でも、マイナス成長ではなく微増という結果でしたからね。景気よりもむしろ、主要媒体であるGoogle・Yahoo!・Facebookの仕様変更のほうが影響を受けやすいと思います。たとえばその昔、「Panama事件」というのがあってですね……

まこりーぬ:じ、事件……!?

滝井:「Panama」とは2007年にYahoo!が採用した広告プラットフォームの名前です。それまで検索広告の仕組みはとてもシンプルで、ツボを押さえれば広告出稿も容易でしたし、売上も伸ばしやすい状況だったんですが、Panamaの登場により広告運用が急激に高度化・複雑化したんですね。その結果、利益だけを追い求めていたような代理店は、軒並み成果を出せなくなり撤退していきました。第一次代理店撤退ブームです(笑)。

まこりーぬ:撤退ブーム! そんなに影響があるとは恐ろしいですね!!!(震)

滝井:現在はGoogleもYahoo!も殿様商売しようものならすぐに叩かれます。そのため理不尽な仕様変更はなくなりましたが、昔はかなり急激な変化もありました。Googleにも2013年ごろに「エンハンストキャンペーン事件」というのがありまして……

まこりーぬ:またしても事件が……!

滝井:エンハンストキャンペーンとは、デバイス別の配信調整ができなくなるといった、運用者のコントロールできる部分が大幅に減ってしまう仕様変更だったんですよ。当時の運用者からは批判の声が多く上がり、結局その仕様は撤回することになりました。今ではなかなか考えられませんよね。

まこりーぬ:Googleもそんなやんちゃをした時代があったんですね(涙)。

代理店は専業から総合支援へ揺り戻し

まこりーぬ:それら広告媒体の仕様変更を受けつつ、この20年で代理店にはどのような変化がありましたか?

滝井:2000年代は、広告もSEOもLP制作もなんでもやる代理店のほうが主流だったんですよ。それがPanama事件に代表される運用の高度化・複雑化と、インターネット広告市場の拡大に伴い、広告専業でも事業として成り立つようになりました。当時僕は「え、広告だけでお金をもらっていいんですか?」と戸惑いましたね。

ただ、ここ1〜2年は改めて「さすがに広告だけではなく、LP制作やCVポイントの設計まで一緒にやらなきゃ成果が出ないよね」という傾向が強くなっていると感じます。広告の遷移先であるLPがどうあるべきかって、広告に精通した運用者がリードして作るほうが当然いいものになるじゃないですか。専業から一転し、周辺まで手を伸ばして支援するような流れに戻りつつあると思いますね。

まこりーぬ:総合支援→専業→総合支援、という流れだったんですね! 代理店=広告専業のイメージが強かったので、もともと総合支援タイプが多かったのには驚きです。

給与は倍!?運用者の存在感が向上

まこりーぬ:業界の変遷がつかめてきました。この業界で働く広告運用者にはどのような変化がありましたか?

滝井:もっともわかりやすい大きな変化は運用者自身の給料じゃないでしょうか。10年前と比べると、体感では30%から50%以上あがっている気がします。そもそも2010年ごろまでは、「広告運用者」という職業がまったく認知されていませんでした。新卒だといまだに知っている人はほとんどいません。認知されていない、人気もない、シビアに成果を求められる、そのわりに給料が高くない……という状況だったので、そりゃ離職率も高くなりますよね。

しかし今はだいぶ変わりました。昔は広告費の数%しかフィーがもらえないことも多々ありました。しかし現在では20%スタートが基本であり、お客様からしっかり対価をいただける分、運用者の給料に還元できるようになったんです。加えて、Webマーケティング業界において優秀な運用者は貴重な存在であることを、多くの方が知るようになったのではないでしょうか。

まこりーぬ:たしかに、私の周りでは運用者の採用に苦戦している会社がたくさんあります。運用者の存在感が増した20年だったんですね。

……運用型広告の歴史、初めて聞く話が多くとってもおもしろかったです! ありがとうございました! これらの変遷を踏まえたうえで、ここからは「成果を出す運用者となるためのポイント」について迫ってまいります。

成果を出す運用者となるためのポイント

成果を出し続ける運用者の共通点×9

まこりーぬ:まずは滝井さんが考える「成果を出す運用者の共通点」をぜひ教えていただけないでしょうか?

滝井:先日ちょうど弊社で高い成果を出し続ける社員の共通点をツイートして多くの反響をいただいたので、改めて整理してみました。

  1. 仕事が早い
  2. 逆境に強い
  3. 忍耐力がある
  4. とにかく勤務態度が真面目
  5. 体調不良による休みがほとんどない
  6. 変化に対して柔軟に挑戦する気持ちがある
  7. 見た目以上に熱いハートを隠し持っている
  8. 他者からの評価を素直に受け入れることができる
  9. ロジカルなだけでなく、共感力も持ち合わせている

滝井:ご覧のとおり、運用者どうこうというより、ビジネスパーソンとして大事な能力が多いんですよね。

まこりーぬ:これはリアルですね……! 「体調不良による休みがほとんどない」なんて非常にリアリティがあります。

滝井:このなかだと、「忍耐力」はとくに大事です。毎日管理画面に黙々と向き合う仕事なので、人と話すことが好きで瞬発力の高さが強みである営業タイプの方が広告運用をやってしまうと、かなりの確率で気が滅入ります。

まこりーぬ:大ベテランの滝井さんがそうおっしゃると非常に重みがありますね……! これから先さらに重要度が増すと思われる項目はありますか?

滝井:自動最適化の流れに伴い、今後は細かなチューニングスキルと同等以上にターゲットに刺さるクリエイティブを生み出すスキルが重宝される傾向にあります。よって「ロジカルと共感力のバランス」は大事ですね。

また、媒体の仕様変更を筆頭に移り変わりが激しい業界なので、「変化への挑戦」も引き続き強く求められると思います。……ただし、変化に対応してばかりいると「結局自分ってなにができるんだっけ?」という状況に陥りがちです。変化への挑戦が大事だからこそ、自分の仕事の哲学とも呼べるような、コアな部分をしっかり持つことも同時に求められていると感じます。

まこりーぬ:変化するからこそ、核となる自分の哲学をもつべきというお話、大変グサリときました(涙)。

成長させる秘訣は「心を折らせない」

まこりーぬ:成果を出す運用者を増やすために、キーワードマーケティングさんではどのような取り組みをおこなっていますか?

滝井:あまり表立って語られていませんが、運用者ってなんだかんだ経験年数がものすごく大事で、2〜3年も続けていると誰でもしっかり成果を出すようになります。しかし残念ながら、成果が出ず1年ぐらいで心が折れてしまう人が約5割ほどいるように感じます。あくまで僕の感覚ですけどね。

よって会社としてはいきなり高い目標を渡さず、クリアできる目標からスタートすることを意識しています。まずはいただいた予算をしっかり使い切ってミスがない運用をする。それができたら分析やチューニング、お客様との折衝が必要な案件を1つずつ渡す。こうやって成功体験を積んでもらい、徐々に高い目標へシフトしていきます。

弊社では教育にとても力を入れているので、入社後は1年半ほどかけて約30以上のテーマの研修をしっかり社内で教えていきます。ただ、こうした教育制度だけでなくメンバーの心が折れてしまった、折れてしまいそうなときの対処法を言語化しておくことも、育成において極めて重要だと思っていますね。

まこりーぬ:心が……折れる……!(震) 広告運用という仕事のハードさが伝わるエピソードですね。

「強みがない」は「やるべきことをやっていない」

まこりーぬ:運用者自身が成長するために取り組むべきことは、いったいなんでしょうか?

滝井:運用者に限らない話になってしまうんですが、うちの会社でもよく言っているのはWill Can Mustの話です。まずはMust、やらなきゃきけない仕事をしっかりやる。その次にCan、強みを活かす。強みは自分で把握することが難しいため、上司に自分の強みを聞いてみるとよいでしょう。きっと意外な言葉が返ってくるのではないかと思います。

※ Will Can Must:Will=やりたいこと、Can=できること、Must=やらなければならないこと。自己分析に使われるフレームワーク。

新卒はとくにそうですが、強みが見つからない人も正直います。それは単純にMustの量が足りていないだけなので、まずは目の前の仕事をしっかり遂行することが大事です。

僕の経験上、強みって1年ではわからず、2年3年やってようやく見えてくるんですよね。だからこそ、最終的にはやっぱり忍耐力が最も重要なんです。3年続ければ間違いなく強みも見つかるし、スキルも上がる。強みがなにかわからないうちに辞めちゃうのが、一番もったいないですよね。

まこりーぬ:忍耐力の大事さをひしひしと感じるとともに、目の前の仕事にしっかり取り組んでいけば、成果を出す運用者に近づけるということでもありますね。一層気を引き締めてがんばります!!!

大ベテランから若手運用者へ伝えたいこと

まこりーぬ:さいごに、大ベテランの滝井さんから全国の運用者……とくにこれからますます仕事をがんばりたいと考えている若手運用者へ、メッセージをいただけないでしょうか。

滝井:運用型広告って、地球上でもっとも発展しているグローバル企業が持つテクノロジーの真髄に触れられる仕事なんですよ。みなさんはふだん、一般の人は見ることができないGoogleの貴重なデータベースと向き合って仕事をしているんです。そんな経験が市場から評価されない、なんてことは決してありません。運用者の価値は年々高まっているため、ぜひ自信をもって続けていってほしいと思います。

「AIによっていずれ運用者の仕事はなくなる」なんて情報に不安を感じる方もいらっしゃると思いますが、運用者の仕事は減るどころか増え続けている一方です。どこかで聞いたそれらしい情報ではなく、目の前の現実を見てください。運用者の仕事は増えている。価値も上がっている。きっと、明るい未来が見えてくるのではないでしょうか

まこりーぬ:滝井さん、アツいメッセージを本当にありがとうございました!!!

さいごに

広告運用に携わるようになって数年経ちますが、正直なところ「広告運用は自分に向いてないかも……」と思うタイミングが多々ありました。それに定量的に成果がはっきり出る分、プレッシャーも常に感じています。

しかし今回滝井さんのお話を聞いて、なんだか自分のなかで「広告運用」という仕事の捉え方がポジティブに変化した感覚があります。目の前のことに忍耐強くしっかりと取り組んでいけば、お客様に提供できる価値も、自分自身の価値も、もっともっと高まっていくはず。……そんな希望を持つことができた取材でした。

当記事が、私と同じように広告運用の仕事に携わるみなさんの背中を押すものとなれば幸いです。

以上、まこりーぬでした!

この記事のシェア数

Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

このメンバーの記事をもっと読む
マーケターの大先輩に取材しました! | 16 articles
デザイン力×グローバルな開発体制でDXをトータル支援
お問い合わせ 会社概要DL