©️ 2018 菅原康太
日仏友好160周年記念共同制作・ジャポニスム2018公式企画「トリプルビル」。
先日、横浜赤レンガ倉庫1号館ホールにて日本での公演(Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018)を終えました。
前回の記事はこちら。

LIGデザイナーが”踊り手”としてブレイクダンスのヨーロッパツアー公演に参加します。
長いようであっという間の4日間。ありがたいことに全日程、満席で迎えることができました。
多方面から嬉しいお言葉をいただき、このあと2ヶ月にわたるフランス・スイスツアーも自信を持って踊ることができそうです。
こんなにブレイクダンスが格好いいと思った事がない
コンテンポラリーとストリートの融合?なんてお題目どうでもよくてとにかく素晴らしかった
あまりの興奮にさっさと日本大通りから帰るつもりが桜木町まで歩いた
まだしばらくこの高揚感に浸っていたくて#トリプルビル#DANCEDANCEDANCE— ac.t.sy (@18aqr_06equ) September 5, 2018
『YŌSO』『Reverse』の5名のダンサー達!
素晴らしかった‼
もう一度観たいと思う素晴らしいダンスだった!#トリプルビル#YŌSO #Reverse #Jona #Hayate #Katsuya #Sakyo #Takasi https://t.co/94Zb3gH1a7— n ⠒̫⃝n’a (@softcreammichi) September 4, 2018
昨日観てきたけど、breakin’の印象がガラッと変わったなぁ。コンテンポラリーとアート、演出家の方々の感性、それを表現できるダンサーのポテンシャルが半端ない。あのインターバルで2幕連続って!(超好み)#トリプルビル https://t.co/Ekzvis0ySq
— いろは (@iroha_0123) September 5, 2018
同じ舞台に立つ東京ゲゲゲイ(@tokyogegegayinsta)さん。
主宰のMIKEYさん含め、みなさん見た目によらず明るく優しい人たちで安心しました笑。
一緒にツアー周ります。仲良くしていけたらなぁと!
©️ 2018 菅原康太
この記事では、2ヶ月におよぶ稽古期間と横浜公演の様子についてレポートします。
今回私は3作品ある中の、フランス人振付師が振付をする2作品に出演しています。
フランスのダンス界では知らない人はいないと言われるほどの振付師たち。
コンテンポラリーダンスとストリートダンスを巧みに融合させ、まったく新しい世界観の舞台を作り上げます。
「Reverse」 ジャンヌ・ガロワ作品について
ジャンヌ・ガロワは、ストリートダンスの身体性に注目しつつ、現代社会を鋭く切り取るダンスを作り出す異才です。
©️ 2018 菅原康太
ジャンヌの作品は、20分間、床から頭をいっさい離さないという縛りがありました。
想像すると滑稽ですが、頭をつけたままダッシュしたり、三点倒立で手足を動かしたり、頭だけで滑ったり。頭をついていてもできる動きを緻密に組み合わせることによって作品を仕上げました。
宇宙空間に迷い込んだと錯覚するような、摩訶不思議な作品です。
©️ 2018 菅原康太
過酷な稽古でした。
頭皮、首、肩周りがとにかく痛い笑。
出演者全員、慣れるまではヒィヒィ言いながらやっていました。
振付師のジャンヌがキュートなのでなんとか頑張れましたが。
午前中はストレッチとヨガ、体幹トレーニング、そして身体をパーツ単位で細かく動かすエクササイズなどを行います。
B-boy(ブレイクダンスを踊る人のこと)はだいたい運動神経もいいし筋力もありますが、柔軟性や体の細かい部分を動かしたりすることが苦手な人が多いです。
ジャンヌが教えてくれたヨガやエクササイズは最初しんどかったのですが、慣れると自分の身体の末端にまで神経を集中させることができるようになり、動きの繊細さとしなやかさが増しました。
昼ごはんを食べたあとはみんなで床で大の字になって目をつむって15分休憩。
そのあと体を慣らして、頭を床につけて動く練習のはじまりです。
踊り手が即興で踊って動きを出し合い、そこからジャンヌがインスピレーションを得て振付にしていきます。
振付師だからといって、振付師自身がすべて作るんじゃないんです。
踊る側も自主性をもって稽古に参加し、発言し、一緒に作り上げていきます。
作品づくりってこうあるべきだよなぁと、個人的に理想的な手法だったので感心していました。
彼女はフランスの大学で物理学を専攻していたらしく、最初はバラバラで曖昧だった部分も、翌日までにノートに細かいところまで書き出し、整理してすぐに形にしていきました。1人1人の踊り手に対して、秒単位の動きを丁寧に書き出して共有してくれるのです。よくもまぁたった一晩でこんなに細部まで考えてくるよなぁと毎日驚かされました。
そうやってトライ&エラーを重ねて見事に作品が創り上げられていきました。
残念ながら映像を掲載することができないので、写真でお楽しみください。
©️ 2018 菅原康太
よろしければぜひ一度、振付師のジャンヌが踊っている姿を見てください (前回の記事にも掲載しましたが)。人間らしさはあるのに、精密機械のようにも見えます。すごい。
「Yoso(要素)」 カデル・アトゥ作品について
カデル・アトゥは、カンパニー「アクロラップ」を主宰、2008年からラ・ロシェル国立振付センターを率いています。ストリート系初の国立振付センター芸術監督であり、アーティスティックなヒップポップ・ダンスのスタイルを代表する振付家です。
カデルの作品は、ジャンヌの作品に相反して、出演しているB-boy 5名の個性を存分に見せるようなものです。
©️ 2018 菅原康太
©️ 2018 菅原康太
©️ 2018 菅原康太
稽古もジャンヌと相反するように、特別なエクササイズやストレッチなど一切行いませんでした。
「これから1時間でソロの振付を作れるだけつくって」
「2, 3人で流れるような組み技を作れるだけつくって」
このような要望を毎日投げかけてきます。
一見、野放しのように思えますが、われわれが生み出す動きに対して、後からちょっとしたアドバイスをくれます。
そのアドバイスもまた曖昧で抽象的なものばかり。これをもとに、動きを見直して「良いね」と言われるまで何度か繰り返すといつのまにか一連のいい動きができあがっています。
ディレクション能力が本当に素晴らしい。
彼からは舞台での在り方、立ち振る舞い、周囲のメンバーと一体化するためにどうするかなど、誰も教えてくれないような心構えを日々の練習の中で地道に仕込んでもらいました。
もっとも印象に残っているのは、例えばただその場に立っているだけ、まっすぐ歩くだけ、走るだけ、ジャンプするだけ、などどんなに簡単な振付でも自分の動きを信じ切っていれば、いい動きになってしまうということです。
普通は「こんな簡単な動きで大丈夫か?」と不安に思ってしまうところですが、その疑いすらもない状態にして、ただ立つ、ただ歩く、その1つ1つを自分のペースでわがままに、堂々と、大胆にやり抜くということです。
この信念は、自分たちが経験したことのない難しい振付を作ろうとするときも同じです。「この振付、ちゃんと良く見えてるのかなぁ」と思いながら作るのでなく「必ず良くなるから、堂々とやる」という力強さで作れば、本当に良くなります。
同じ動きでも、自分がどう思いながらやっているかで見え方がまるで変わってしまうんですよね。
陽気でおふざけが好きで、いつもふわふわしているおじさんですが、やっぱりすごい人です(笑)。
カデルの過去の作品もぜひ一度ご覧ください。
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横浜公演について
ブレイクダンスでショーをするなら3〜5分で完結させるのが一般的です。しかし今回の作品はジャンヌの作品が20分、カデルの作品が30分、計50分とかなりの長編になっており、体力的に大丈夫だろうか……と不安でしたが、真夏の暑い稽古場で何度も踊ってブラッシュアップしつつ体力をつけ、なんとか最後までやり切れるほどになりました。
そして迎えた横浜・赤レンガ倉庫での初演の日。とてつもなく緊張していました。お客さまにとってもおそらくブレイクダンスのショーを50分も見るのは初めてだろうし、作品自体が斬新すぎて、しっかり伝えられるだろうか…と、いろんな不安がよぎりましたが、稽古場でカデルから学んだ力強い信念とともにやりきろうと決めました。
ショーが始まると、自身と周囲のメンバー、そして音楽や会場の空気と一体になることに集中していました。あっという間に本番が終わって、我に返ります。ぜぇぜぇと息切れした状態で5人で深々と礼をすると、大きな拍手と歓声が。
終始お客さまの真剣な視線を感じ、何かを感じ取ってもらえたんだなぁと心から嬉しく思いました。やってきてよかったという充実感が押し寄せてきました。
見にきてくださったみなさま、本当にありがとうございました。
日本での公演は終わってしまいましたが、2018年9月〜11月の間、フランスとスイスでツアー公演があるので、もし旅行などでヨーロッパにお越しの方は見にいらしてください。
次回はフランスはパリ、リヨンなどの主要都市における公演の様子についてレポートします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
デザイナー、踊り手のJona(@jona_yawaraka)でした!