「無い」という表記だけはやめてクレメンス……ブログ執筆で間違えやすい日本語を指摘させていただきます。

「無い」という表記だけはやめてクレメンス……ブログ執筆で間違えやすい日本語を指摘させていただきます。

中野 慧(ケイ)

中野 慧(ケイ)

こんにちは。LIGエディターのケイ(@yutorination)です。「LIGブログ」の編集と広報を担当しています。

以前、弊社ライターの佐々木バージニアがこのような記事を書きました。

この記事はおかげさまでネット上で話題になり、たくさんの方に読んでいただけたようです。

そしてこの際、正直にお伝えしますが、実はこの記事、がっつり僕が監修しております。

というのも、半年前に入社してLIGブログの編集を任され、月1本社員が書くたくさんの記事を捌いていたのですが、日本語の基本的な表記ができていない人がかなり多いと感じていたんですね。

過去にも表記ルールについて整理した記事はあったのですが、ちゃんと読んでいる人は少ないし、内容に古い部分やアップデートしたい部分もありました。そこで、「この際しっかりと網羅したものを作って、まず社員みんなに読んでもらおう!」と考え、バージニアに「表記ルールをまとめた記事を新しく書いてみて」とオーダーし、いろいろ相談に乗りながら仕上げたのでした。(バージニアは、LIGで出しているコンテンツはなかなか自由なものが多いですが、その反面頼んだことには120%で打ち返してくる気骨ある若者です)

もちろんLIGお得意のPay Forward精神、「自分たちで蓄積した知識や情報は社内でとどめておくのではなく、どんどんみんなにシェアしよう!」という意図もありました。実際、僕も前職で表記ルールを整理する際に、LIGの過去記事を参考リンクとして紹介したりもしていましたし、自分が縁あってこの会社に入った以上は改めてそれに取り組んでおきたいと思ったんですね。

ただ、効果としては限定的でした。相変わらず、社内から上がってくる記事には、「開く・閉じる」(ひらがな表記する・漢字表記する)の使い分けができていないものも多い……。

表記ルールの記事を出したのに響いていない悲しみ

というのも、今回のタイトルにもつけましたが、「そんなことはあるはず無い」というように、「ない」を「無い」と漢字表記する輩(やから)がまだいるのであります(軍人風)。

特に社長のゴウさん、マネージャーのよすけさんなどのえらい人が先陣を切って「無い」で表記した記事を上げてくる……。表記ルール記事、ちゃんと読んでくださいね……!

一応ですが、「〜ない」という表現に漢字を当てる表記は一般的ではありません。それは新聞・書籍にかぎらずWebとて同じことです。まあ15年くらい前の2ちゃんねるには「無い」と書く人はよくいましたが、いま「無い」という表記をすると古参ネット民感すら出るので、意図的でないとしたら注意が必要かと思います。「もまいら」「もちつけ」「漏れは〜」とかと同じくらいのひんやりとした温度感です。(ここで例に出した昔のネットスラングがよくわからないという人はググってみてくださいね)

PCで文字を打つとなんでもかんでも漢字に変換できちゃうので使いたくなる気持ちはわからなくもありません。ですが表記ルール記事に書かれているとおり、ひらがなを適切に使いこなすことで、文章はぐっと読みやすくなります。先人たちの知恵、「ひらがな」という機能をもつ日本語の特性を活用してほしいのですね。

なので今回の記事では、「無い」という表記は二度としないということだけ誓っていただければ直帰OKです。

以下は余談になります。

みんな「ひらく」ができない

僕はとあるプロ野球チームの20年来のファンなのですが、現在のチームの看板で、クローザー(勝ちゲームの最後に投げるピッチャー)を務める某Y投手がツイッターで

「有難う御座います!」

という表記で投稿しているのを見るたび、なんともいえず悲しい気持ちになります。(Y投手は約70万フォロワーを誇る人気ツイッタラーでもあるんですね。「ツイッタラー」という言葉も、今やなかなか低めの温度感になってしまいましたが……)

みんな、なかなか「ひらく」ということができないですよね……。

今はSNSなどの普及もあり、誰もが書き言葉で表現することが多くなっているので、表記ルールを知ることは誰にとっても重要なことではないかと思っています。

しつこいようですが、PCでキーボード打てば、スマホでフリック入力すればなんでもかんでも漢字変換できるからって、漢字ばっかりの文章を書いてしまうと、せっかくいい文章を書いていてもダサくなってしまうんです。「あくまでスタイリッシュ」に書いてほしい。ひらがなをうまく使った日本語の美しさ、楽しさを知ってほしい。そして文章を書くことのまた新たな楽しさに目覚めてほしいと、僭越ながら思っております。

もう一回、表記ルール記事のページに行って最低三回は読み直してみる!

日本語の本当の意味はこれだ!記事のウザさ

LIGの記事以外でも、よく「正しい日本語の意味」を解説した記事がバズっていますよね。かなり悪意を持って意訳すると、こんな感じです。

「役不足」っていう言葉の意味は、「俳優などが与えられた役に満足しないこと」「能力に対して、役目が軽すぎること」なんだぞー!(※1) 「自分は力量が足りておらず、そんな役割はこなせない」って意味じゃないんだぞ〜!

そんなことも知らないの〜? やーいやーい、お前の日本語間違ってる〜! お前の母ちゃん、で〜べそ!

※1 「役不足」の意味解説についてはコトバンクを参照させていただきました。

 

「不毛」の一言に尽きると思います。

前述の表記ルール記事にも書かれているとおり、「言葉はつねに変化していくもの」なんですね。

文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」によれば、「役不足」について誤用のほうを正解と思っている人の割合は51.0%、正しい意味を理解している人は41.6%です。(参考:文化庁「平成24年度「国語に関する世論調査」の結果について」

誤用が広がっている場合、単純に間違いを指摘してマウンティングするよりも、「本来の意味はこうだよ、でも一般的には誤用のほうが広がっているから、今後はもしかしたら誤用がスタンダードになるかもしれないね」というぐらいの言い方が適切なのではないかと思います。

「昔から使われていた日本語の書き方が未来永劫、つねに正しい」のであれば、日本の正史としては最古のものである『日本書紀』(8世紀に完成)の表記に従うべきですが、『日本書紀』はすべて漢文で書かれています。

学校の古文の授業でよく取り上げられる平安時代の小説『源氏物語』にしても、現存する写本に関しては漢字かな混じりで書かれているわけですが、現代に生きるわれわれは古語の文法や語彙を習得しなければ、意味すらわからないですよね。

ここで挙げたのは極端な例かもしれないですが、言葉はそれぐらい時代とともに変化し続けるものです。それに対して「もともとの日本語はこう! お前は間違っている!」とマウンティングしたり、Webメディアが読者に対して「うわっ、私の日本語力、低すぎ……?」と思わせるような煽り記事を出してPVを稼ぐ、といった行為に対しては、そろそろ批判的な観点を加えていってもいいのではないか、と思うのです。

もちろんLIGブログでも「日本語の書き方」をテーマとした記事は今後も出していきたいのですが、無為に読者の危機感を煽ってアクセスを稼ぐような行為に関しては、厳に慎んでいきたいと思います。

編集者/ライターという日本語のスペシャリストとしては、日本社会における言葉の使われ方について世論調査なども注視しつつ、書き言葉について柔軟に考えていきたいものです。

最近気になる日本語:「い抜き言葉」、「延々と」「永遠と」

最後に、最近僕が気になっている日本語の使われ方について書いておきたいと思います。

まず、「い抜き言葉」について。

「ら抜き言葉」はよく知られていると思いますし、それに対するわれわれの見解は前述の表記ルール記事に載せました。

一方、「い抜き言葉」というのは、「食べてる」「走ってる」「仕事してる」といった用法のことを指します。「ら抜き言葉」と同様、日常の「話し言葉」としては完全に定着していますよね。

ただ、「書き言葉」としてはどうなんだろう……と思って「い」ます。

たとえば上記の記述で、「思ってます」と書いてしまうと、途端に文章として軽くなってしまう印象を、僕は受けます。ビジネスメールなどのフォーマルな場でも、「い」抜きをしたら「もっと丁寧に書きなさい」と、上長から指導が入ることが多いのではないでしょうか。

「い抜き言葉」に関しての世論調査は現在のところ見当たりませんが、僕個人としては「話し言葉、SNS、チャットツール等で使う場合はOKだが、多くの人の目に触れるようなフォーマルな場では、書き言葉としてはまだ許容しないほうがよいのではないか」と考えています。みなさんはどう思われますでしょうか?

そしてもうひとつ気になっているのが、「延々と」「永遠と」です。

たとえば現在MLBのシカゴ・カブスに所属するダルビッシュ有投手は、2010年に下記のようにツイートしました。

「延々と」のほうが日本語としては正しいのですが、ダルビッシュ投手にかぎらず、「永遠と」と発音・表記する人は増えています。

「ずっと〜〜している」ということを強調したいときに、たしかに永遠(Forever)という言葉を使うほうが、「ずっとやってるな〜〜〜」感は伝わると感じます。この表記についても将来的にはもしかしたら「永遠と」のほうが定着していくかもしれない、という予感があるのです。

LIGブログとして、社員が書いてきた記事に「永遠と」が入っていたら、よほどの意図が感じられないかぎりは「延々と」もしくはひらがな表記して「えんえんと」に直しますが、話者のキャラクターや文体に合わせて柔軟に対応していく可能性はあります。

われわれが日常的に使う「話し言葉」と、「書き言葉」の使い分けは、複雑かつ微妙な問題です。ますますSNSが普及し、話し言葉が文字化されてみんなの前に現れる頻度が高まれば、日本語の書き方・表記はどんどん変わっていくのでしょう。僕がこの記事のタイトル(〜してクレメンス ※2)に使ったり記事本文でも用いた「ネットスラング」も、日本語のかたちに大きな影響を及ぼしていくはずです。

まとめというほどのものはないのですが、表記を考える際にまずは「話し言葉」「書き言葉」という2つの概念を使って考えていく必要があると思います。

※2 なお、「〜してクレメンス」というのは野球好きが集まる「なんでも実況J(ジュピター)」という2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)の掲示板でしばしば使われるネットスラングで、「〜してくれ」という意味です。MLBでレジェンド級の活躍をした「The Rocket」ことロジャー・クレメンス投手に由来しています。

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エディターのケイです。 これまでWebや書籍の編集・ライティングをやってきました。 政治・宗教・野球の話が得意です。 アイドルと一緒にネット番組に出たこともあります。 現在は「暴力」というものについて、 理論的な理解を深めるべく日々研究しています。 知識欲や考える力の強い人たちとチームを作って、 よいコンテンツを世の中に出していく仕事をしたいと思っています。

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