こんにちは、LIGライターズの新川五月です。
「自社メディア」×「成果報酬型広告」のビジネスモデルで、デジタルマーケティング業界で急速に成長しているキュービック。社員数の3倍のインターンを抱え、そのインターンを最大限に活躍させることでも注目を浴びています。
「デジタルマーケティングと言いながらも、パソコンやスマホの向こうには必ず“ヒト”がいる。広告もWebも“ヒト”を動かすためのものです。数字やデータ、クリエイティブだけに目がいってしまうと本質を見誤る。その先にいる“ヒト”をどう動かすかというところに私たちの仕事のおもしろさがあると思っています」。
創業者であり代表取締役社長の世一英仁(よいちひでひと)さん。非常にデジタルかつロジカルなビジネスモデルを持ちながらも、超アナログに“ヒト”に向かう姿勢に、キュービックという会社の魅力がありました。
人物紹介:世一 英仁(よいち ひでひと)氏 1981年埼玉県生まれ。2005年に東京大学法学部を卒業。翌年、株式会社キュービックを設立し、代表取締役社長に。自社メディア型Webマーケティング事業を立ち上げ、金融・人材・美容・士業などの分野で複数のメディアを展開。コンテンツマーケティング、リスティング広告運用、SEO対策、ソーシャルメディアマーケティング、LPOなどのWebプロモーション全般を専門としつつ、ユーザーインタビューを含むフィールドワークを重視した独自のWebマーケティング手法を確立。 |
無名企業でも「インターン」なら優秀な学生の獲得ができる
―御社は学生インターンを多く抱えていることで有名ですが、創業時からこの形だったのでしょうか?
僕は学生時代に学習塾で非常勤講師のアルバイトをしていたのですが、起業当初に猫の手も借りたかった頃というのは、その教え子たちがちょうど大学生になった時期でした。マンションの1室で始めた会社なので採用もそう簡単にできない中、関係が既にできていた彼らの存在は貴重で、スタート当時から学生アルバイトばかり集めていました。
―現在のスタイルにシフトされたきっかけは?
「アルバイト」という呼び方を「インターン」に変えてみたら、集まる層が変わるのではないかと考えました。呼び方が変われば、自然と学生の意識も変わるんじゃないかと。新卒採用の市場に出ても、知名度のない会社に優秀な学生が集まるわけがない。だけど、ITベンチャーのインターンなら上位校の優秀な学生も集まりやすい。そして仕事のやりがいやおもしろさを共有できたら、関係はそのままに新卒社員として入社してくれる……この流れはいいことずくめだと気づいてからは、インターンの採用やその後の戦力化に注力しようとしっかり考えるようになりました。
インターンたちと向き合い続け、“成長の機会”を与えることが大事
―インターンという社会経験のない若い人材を即戦力に育てていく中で、工夫されていることはありますか。
まず、インターンを「労働力」と扱ってしまうのではなく、頑張りをきちんと評価し、成長をサポートしようという空気を社内に作っています。
例えば表彰制度として、月間MVP、四半期MVP、半期の優秀インターン賞、最優秀インターン賞、インターン新人賞などを設けています。また、インターンにも序列がつく「シニアインターン」という制度もあります。仕事で圧倒的な結果を出したインターンには、「シニアインターン」としてより社員に近い仕事やより大きな裁量を与えるなどし、成長機会を次々に提供しています。
大事なのは、インターンを一緒に働く仲間として認め、「期待」を伝えていくこととフィードバックを繰り返していくことだと思います。本人も会社や上司からの期待には応えたいという思いで頑張ってくれます。期待に応えることで自信をつけ、その自信が成長につながり、また成長が自信につながって、「もっと期待を集めたい」「仕事をまかされたい」とさらに成長していく。社員同様、本来の意味での仕事へのモチベーションはこうやって醸成されていくと思うんです。
また、非常勤のインターンばかりだからこそ、社内コミュニケーションは強く意識しています。事業ラインのチームを横断した「ナナメの関係」を強化することがここには有効だと考えており、例えば月に1度チームをシャッフルしてのランチ会を開催。また、会社全体を8つのチームに分けるようなかたちでチームメンバー同士をフォローしあう、いわゆるメンター制度もあります。事業ラインのチーム内では相談しづらいことも相談できる、直属の上司に言われるよりも刺さるアドバイスを得られるなど、家族のような関係だからこそ可能なコミュニケーションがそこには存在しています。他チームの取り組みも見えやすくなるので、そこから自分の業務へのヒントを得ることができたり、視座を高めたりすることができるというのもこの制度のいいところです。
インターンと働く上での組織課題を解決していこうという、「インターン大革命会議」もスタートしました。インターン出身の若手社員を中心に構成し、当時を振り返りながら、今の課題は何か、どうしたらその課題を解決できるのか、どうしたらインターンと一緒によりよい会社をつくれるのかと思考しています。当時はいいと思っていたことが、今は逆効果なこともある。すべてを前提にせず、ひとつひとつ見直す機会を持つことが大事だと思います。
当社では、事業で売上を立てること以上に、「組織」や「ヒト」と社員が向き合う時間をより長く取っています。こうした仕組みが積み上がってきたのも、インターンたちと向き合い続けてきたからでしょう。
―その中で、世一さんが苦労していることはありますか。
やはりインターンのコンディションや経験期間に応じた成長機会を提供し続けることは簡単ではありません。
誰しも最初は楽しくて、自分の入ったチームの成長とともに頑張るんですが、期間が長くなるほどにチームのアラが見えてきたり、仕事自体に飽きてきたりする。そんな時期の学生に「キャリア」という言葉は重いかもしれないけれど、あらためて本人の将来像をちゃんと作ってあげて、そこに向かわせる。当社で過ごす時間は、そのための成長機会として提供することが大事だと思っています。
通常業務におけるインターンとの接点は、20代前半〜中盤の若手社員になることがほとんどです。年齢が近く話しやすいのは入り口としてはいいのですが、学生をアトラクトし続けられるような骨太の経験が若手社員には足りないことが多い。こういうところは中堅社員や僕も要所で出て行かないといけないこともありますね。
先ほどの表彰制度のような「仕組み」のアプローチや「空気作り」のアプローチ、そして「接点」でのアプローチの3つのバランスが重要だと考えます。
若手社員に早くからマネジメント経験を積ませることができるのも大きなメリット
―とはいえ、100名近くいるインターンは非常勤ですよね。業務管理はやはり難しいのではないですか。
当社インターンの売りのひとつが、シフトが自由であること。いつ来て、いつ帰ってもいいんです。がちがちにシフトを組もうとすると管理の工数がかかるので、それはしたくない。それに、みんなの働きたいという思いは限りなく尊重してあげたいと思うので、シフトをカットするようなこともしていません。
実はこうしたシフトのフレキシブルさが学生に相当受ける(笑)。何か特別な事情がない限り月60時間は最低限の勤務時間を確保するというルールだけ守ってもらっています。まとまった時間数の勤務がないと大きな範囲の業務を任せてあげることができなくなるので。
学生を仕事漬けにすることはできません。授業もあれば試験もある、サークルもある、恋人もいる、旅行だっていきたい。仕事場にかわいい女の子がいると出勤が増えるし、その子と気まずくなると出勤が減る。仕事が楽しい、仲間が楽しいとなれば自然と勤務時間も増える。学生ってそういうものですよね。なので若手社員には、まず信頼関係を作ること、仕事がおもしろくなるように工夫することを考え抜き、実践してもらうようにしています。
学生は、仕事を任せる範囲を増やすとそれに比例して勤務時間が増えることも多いですね。任された嬉しさと責任感がそうさせるんでしょう。当社では入社1年目の若手社員にも、3人ほどのインターンという“自由な”部下がつきますからね。若いうちからマネジメントの経験が積めるのはメリットです。
—そういう会社は、他にないですね。
そうですね。マネジメントの経験がなく、よほど尖ったスキルもないとなると、これからの世の中では食べていく場所がなくなると思います。機械に仕事を取られない人間にならないといけない。
チームで大きな成果を生んで、いろんなタイプの人間を束ねて前に進むことは、機械には簡単にまねできないことです。人をマネジメントすることに若いうちから関わることができるのは非常に大きな経験になりますし、その有無で年収も大きく変わります。それが得られる環境であるのは、当社の強みでもありますね。
中堅になると、社員10人とその下にインターン30人ぐらいがいるチームをまとめる機会もあります。影響範囲や任される範囲が大きくなりやすいのも、当社の特徴。裁量権をもって働きたい人には、チャンスがたくさんある会社だと思います。
—御社で働く大きなメリットですね。
最先端のテクノロジーを、スマホネイティブの時代の学生たちは使いこなしています。そういうのを目の当たりにすると、ここから先もいろいろ変わるんだろうなと実感できますね。学生たちは常に時代の最先端にいるんだから、いっしょに仕事をすると気づかされることがたくさんありますよ。そういうおもしろさもあります。
―御社がいちばん大事にしていることは何ですか。
「クライアント・ファースト」とか「ユーザー・ファースト」という言葉がありますが、当社は「ヒト・ファースト」を理念にしています。
もちろんクライアントやユーザーは大事にしています。「取引先企業」としてのクライアントや「データ」としてのユーザー行動ではなく、そこにいる担当者やパソコン・スマホを使う生身のユーザー、つまり一人一人の「ヒト」に向かおう、という意味です。
事業の内容は時代の変化とともに、5年、10年と経っていけば変わっていくもの。「事業として何をやるか」より、「誰とやるか」を重視しています。だから、業務内容、ビジネスモデル、報酬をファーストプライオリティとして求める人には当社は合わないかもしれません。むしろ、風土や人を大事にしたい人に向いていると思います。
採用時も、「何ができるかわからないけど、なんか会社にすげー合いそうだな」「こういうスキルはすぐに役立つわけじゃないけど、はめこんだらワークしそうだな」とか、今必要なスキルより、人柄やカルチャーフィットを優先しています。スキル100点・カルチャー30点の人材より、スキルは70点でもカルチャーも70点でフィットしてくれる人材の方が入社後は圧倒的にワークします。
そしてここも重要なのですが、デジタルマーケティングの会社、webメディアの会社が無数に存在している中、当社がここまで成長できているのもやはり「ヒト」に向かう姿勢なのです。データとばかり向き合うのではなく、画面の向こう側にいる一人のユーザーの悩みや課題に寄り添うというマインドセットを持つことで、マーケティング成果は驚くほど上がります。
事業領域に新規性もなく類似企業も多い中、会社の魅力をどこにつくるか・独自性をどう発揮し求められる存在になっていくかを考えたときに、やはり「作業」よりもコミュニケーションを重視したいと考えています。社内だけでなく、むしろ対社外においてもです。そういう仕事は何より楽しいし、そんな会社でありたいと思っています。
インタビューを終えて
当面の目標は、売上1,000億。しかしインターンの比率を維持しながら成長拡大するなら、インターン数100人では到底足りない。世一さんは「そうすると、どうするんですかね」と他人事のように笑いながら、「半分冗談、半分本気で、学校をつくるというレベルじゃないとできないかなと思います。そこにどんなハードルがあるのかはまったくわからないけれど」とサラッと語ります。思いつきと言いながらも、学校をつくって学生を募集し、その授業のコマが空いたら働いてもらう……そんなイメージは、明確に世一さんの頭にあるようです。
「学生インターンを社会人と同じかそれ以上に活躍できるよう戦力化することは、労働人口を増やすことにもつながり、社会経済的にも意義がある」と語った世一さん。ブランド力や採用力に乏しいITベンチャーの新しい組織作りのあり方として、もっと発信していくことに意欲を見せていました。