こんにちは。LIGライターズの真崎(26歳/女性/独身)です。
数年前から見かけるようになった「個人の裁量が大きい会社です」「手を挙げる人にはなんでも任せます」という会社の求人情報で使用されるキャッチフレーズ。そういった言葉に惹かれて入社してみたら裁量権の「さ」の字もなかったという友人の嘆きを聞いて以来、私は「裁量権=まぼろしの釣り餌」と思うようになりました。
そんな私の卑屈なイメージを見事に破壊してくれたのが、今回取材した株式会社アプリボットです。同社は “世界を震撼させるサービスをつくる” という理念を掲げ、世界各国のApp Storeトップセールス1位に輝くゲームも手掛けています。
同社では言葉だけの裁量権ではなく、実際に「 “すべての裁量” を社員に任せる独自の制度」を実施しています。代表取締役社長の浮田さんと、実際にすべての裁量を任されているプロデューサーの佐藤さんと前田さんに、同制度や裁量権を持った働き方のリアルをお伺いしてきました。
人物紹介:浮田 光樹 大学卒業後、サイバーエージェントにエンジニアとして内定。内定者時代には、子会社のアプリボットに創業メンバーとして参画。2011年4月にサイバーエージェント入社とともに、アプリボット取締役に就任し、2014年4月に代表取締役社長に就任(現任)。2014年10月にサイバーエージェント執行役員に就任(現任)。 |
人物紹介:佐藤 裕哉 2010年サイバーエージェントに入社し、Amebaに配属。プロデューサーとしてタレント関連の新規メディア/事業を5つ立ち上げ、2013年子会社のアプリボットに異動。2014年10月より『グリモア 〜私立グリモワール魔法学園〜』の立ち上げを行い、プロデューサーを務める。 |
人物紹介:前田 貴文 2010年サイバーエージェント入社し、Amebaに配属。2012年に株式会社アプリボットへ異動し、『ジョーカー 〜ギャングロード〜』の前作である『不良道 〜ギャングロード〜』のプランナーを経てプロデューサーへ。同年App Storeトップセールス1位を獲得。2014年1月から『ジョーカー〜ギャングロード〜』のプロデューサーを務める。 |
すべての裁量を、社長ではなくプロデューサーが持つ「カンパニー制」とは
— 「世界を震撼させるサービスは、最高のチームから生み出される」というメッセージをホームページで拝見したのですが、そもそも “最高のチーム” とはどういうチームだとお考えですか?
浮田:いろいろとあると思いますが、成功イメージが共有できていることは大事だと思っています。「こんなことが実現できたらすごい」とか、「自分たちのサービスを世界のユーザーが使っていたらわくわくする」みたいなイメージを全員で描けているようなチームは強いです。
— 最高のチームをつくるために工夫されていることはありますか?
浮田:1つのプロジェクトを会社のように運営する “カンパニー制” を導入しています。現在社内には7〜8つのカンパニーがあり、それぞれ事業を進めています。
当社は、ベンチャー気質といいますか鼻息が荒いタイプが多いので「自分の組織を持ちたい」「自身の裁量を大きくしたい」「決定権を持ちたい」など、メンバーが持っている向上心や野心を最大限に引き出すことが、成功の重要な条件だと考えています。なので、各カンパニーのトップであるプロデューサーに、裁量権を全部持たせることは、成功確率をあげるためにも有効だと思っています。
— “全部” とは、一体どこまででしょうか?
浮田:人事権から予算運用まで、事業に関わるすべての裁量ですね。メンバーの採用も、プロデューサーが必ず最終面接をします。私が採用を決定することはほぼないです。
また、会社の経営状況は全社員が見れます。受け身ではなく「一緒に経営している」という意識を持ってほしいので。会社の状況を踏まえた上で、プロジェクトで責任を持てる範囲であれば、プロデューサーは「これだけの挑戦をしたい」と決めることができます。
— 社長である浮田さんは、全てのカンパニーを管理する役割という位置付けですか?
浮田:いえ、私自身もカンパニーを1つ持っていて、他のカンパニーは正直ほとんど見ていないです(笑)
私の社長としての役割は、「最終的な責任を持つこと」と、「会社のフェーズに応じて一番必要な動きをすること」だと思っていて。全体のプロジェクトを管理する役員もいますが、裁量権は各カンパニーのプロデューサーのほうが持っています。
— プロデューサーの裁量と責任は大きいんですね。では、プロデューサーに就くのはどんな人でしょうか?
浮田:「このプロジェクトを絶対成功させたい」という気持ちが誰の目から見ても一番強い人を選んでいます。「その事業領域が大好き」「この組織で大きな成果を出したい」「リスクをとって大きな勝負にでたい」などモチベーションの源泉はなんでもいいのですが、プロジェクトへのモチベーションが一番高い人をカンパニーのトップにするべきだと思っています。
裁量権には、いい意味で「自分で決めなくてはいけないしんどさ」がある
左奥:佐藤さん/中央:浮田さん/右前:前田さん
— 佐藤さんと前田さんの職種はプロデューサーとお伺いしています。すべての裁量を持つプロデューサーとして事業を進める中で、苦労されることは多いですか?
前田:苦労のほうが多いですね(笑)
佐藤:私も同じです(笑)
― お二人とも即答ですね(笑) なにが大変なのですか?
前田:手を挙げたらなんでも任せてもらえますが、自分でやるといった分、どんなことがあっても逃げないで向き合っていくということに対して大変さを感じることもあります。
佐藤:いい意味で「自分で決めなくてはいけないしんどさ」があります。カンパニーごとにビジョンも数字も戦略も考えて、プロデューサーは損益計算から人事権まですべてを任せてもらえます。正直迷うこともありますが、最後は絶対に自分が決めきらないといけない。そして、その選択をなんとか正解にもっていかないといけない。しんどいと感じるときもありますが、だからこそやりがいもあります。
浮田:業績が厳しくつらい時期だった2014年には、この2人のプロジェクトが社内の注力サービスで、ここがこけたら会社が危ない状況でした。利益が出ているカンパニーから2人のカンパニーに人を寄せたりもしていました。そういった決断は、社長である私しかできない決断。
人って逃げられそうなときは逃げようとしてしまうのですが、「もうこれにかけるしか未来がない」というところまで来ると、そこに立ち向かうしかない。ある意味、そういった諦めって重要だと思うんですよね(笑)
佐藤:あのときはもう必死でしたね。
前田:とにかく頑張るしかない状況でした。
同じ会社内で “別会社の社長たち” とアドバイスし合えるのがカンパニー制のメリット
— 前田さんと佐藤さんは、アプリボットの中でも特に大きな事業のプロデューサーをされていますが、おふたりが目指しているものはなんですか?
前田:私は「誰もが知っているような大ヒットタイトル」をつくりたいですね。
今は『ジョーカー ~ギャングロード~』というマンガもゲーム内で楽しめるゲームの担当をしているのですが、事業が伸びてきて人気の漫画やゲームなどとのコラボレーション企画のお話をいただく機会が増えてきました。今後は映画にしたいなとか、いろいろ考えています。
佐藤:私のカンパニー『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』(以下、グリモア)では、「社会現象になるムーブメントをつくる」と言っていますね。『グリモア』は2016年8月に2周年を迎えるのですが、それに向けて、この目標を掲げ続けながらさまざまな挑戦をしています。『グリモア』をチームメンバー全員が誇れるプロダクトにしたいと考えています。
— プロデューサー同士で、お互いの事業について話し合ったりすることはあるのですか?
佐藤:私と前田のカンパニーは、朝の始業1時間前にお互いのアイデアのたたき合いみたいなことをしています。客観的に見てもらって叩かれたほうが確実にクオリティを上げられて、ユーザーにもより良いサービスが提供できます。今朝も前田と叩き合って、ちょっとカチンときたけど(笑)的確な指摘をもらえました。
前田:おい(笑)
浮田:プロデューサー同士で気付きを伝え合うプロジェクト経営会議もあります。
メンバーは年齢も考え方も若くて、失敗を恐れない勢いがあるので、「こうしたほうがおもしろい」と前向きな意見交換も行なわれますが、自分では気づかないリスクや問題点をお互い気づく場としても非常にワークしています。
— そうやっていろいろな意見を聞きつつも、最終的な決定は社長ではなくプロデューサーがするのですね。
前田:そうですね。確かにいろんなアドバイスや意見をもらいますが、「これをやりなさい」と指示されたことはないです。
佐藤:もう1年半くらい浮田からなにか言われた記憶はないですね(笑)
ただ、ときどきフラッと席に来て、メンバーに「最近どう?」とか話しかけてくれることはあります。私の立場では客観的にプロジェクトメンバーの状況は見られなかったり、メンバーも本音を言えていない可能性もあるので、浮田がメンバーの状態を気にして声をかけてくれるのはありがたいです。
熱い想いを持った社員たちと世界を震撼させたい
— 御社では “世界震撼” をビジョンに掲げられていますが、どういう状態になると「世界が震撼した!」と言えますか?
浮田:「海外でパッと隣の人を見たとき、その人が自分たちのサービスを使っていたら、それって最高だし、世界震撼だよね」とメンバーにはよく話しています。「ダウンロード数●●」などの定量的な目標よりは、「こうなったら嬉しい」といった状態目標のようなものを共有し合いたいですね。
以前、私たちのゲームが海外App Storeトップセールスで全米2位、カナダ、ブラジルはじめ複数の国で1位になったことがあります。ブラジルで自分たちのゲームをやっている人がいると思うと、世界震撼どうこうよりは、単純にすごい嬉しかった。
前田:背中にカードイラストのタトゥーをいれて、海外から写真を送ってきてくれた方もいました。
浮田:ありましたね。こうなったらポスターを印刷してプレゼントしてあげようと社内で盛り上がり、ポスターをつくってその方に送りました。
佐藤:そうしたら送ったポスターとタトゥーを一緒に写した写真をまた送ってきてくれるという。
前田:あれはおもしろかったね(笑)
浮田:制作したゲーム内で結婚しているカップルもいます。分かるだけでも、アメリカで3組くらい。まさかそんなことが起こると思っていなかったので、嬉しかったですね。
― 自分たちのサービスが世界のどこかで誰かの人生を変えているって、すごいことだと感じます。世界を見据えてガンガン進んでいく仲間が集まっているんですね。
浮田:そうですね。あとは忍耐力が強いかな(笑)
前田:間違いないですね。
浮田:2人も言っていたように、日々の業務は正直しんどいことのほうが多い。それでも希望を持って忍耐強くやれる人が合っている環境だと思います。私たちは“世界震撼” とか、普通に考えたら、成し遂げられないようなことを言っているので、それを「絶対成し遂げよう」「この会社なら狙える」と思っているメンバーが集まっていると思います。
佐藤:口だけではなく、意見も言いつつ実際に行動を起こしている人にはどんどん裁量も仕事も回ってきます。短期スパンで仕事の規模が大きくなったり自分で事業をするチャンスが回ってきたり、そんな機会がアプリボットには多いです。
浮田:アプリボットは、ゲーム会社ではないんですよ。世界に広がる可能性のあるものだったらなんでもやるというスタンスです。だから、成し遂げたいことがあって、それをアプリボットというリソースを使って死ぬ気でやりたいと思う仲間と一緒に世界震撼を目指したいです。
インタビューを終えて
「大きな裁量を持つことは、決して楽なものではない。でも、つらいからこそやりがもある。」そんな裁量権に関するリアルが、プロデューサーのお二人からは伝わってきました。そして役職や年齢に関わらず、社員全員がフラットな立場で意見を言い合える風土は、今回取材した3名が談笑する姿からも感じ取ることできました。