名ゼリフに見る『ワールドトリガー』の冷静と情熱 太刀川さん篇vol.2

名ゼリフに見る『ワールドトリガー』の冷静と情熱 太刀川さん篇vol.2

ほあし

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「負けた方の気持ちはショボかったのか」

太刀川さんが「気持ちの強さは関係ない」と言ったのは、別に強い気合がこもった勝負が嫌いだからとか、気持ちとか想いとかいちいち暑苦しいからとか、そういう理由ではなかったんですね。

むしろ「勝つのは気持ちが強い方で、負けるのは気持ちが弱い方だ」という、敗者の気持ちを一方的に貶めるかのような理屈が嫌いだから、といった感じです。

一見、熊谷をはじめとした那須隊の勝利への想いを軽んじているかのように見えたセリフですが、実は結果的に勝とうが負けようが、そこに乗った気持ちの強さや尊さは左右されないはずだという、人の気持ちというものを非常に重んじる考え方から出たものだったわけです。

そしてこの「負けた方の気持ちはショボかったのか」というセリフ、少年漫画をよく読む人ならかなりドキッとするのではないでしょうか。
「たしかに、自分も少年漫画を読んでいてそういう風に思ったことがある……」と。

『ワールドトリガー』に漂う「アンチ少年漫画」的アツさ

つまり、このセリフもまた、よくある「気持ちの強さで戦う」タイプの少年漫画へのアンチテーゼになっているんですね。しかも、今度はそれが一種の「アツさ」に繋がっています。キャラクターの気持ちに大きくフォーカスし、尊重するように物語が作られているわけですから、そりゃ「アツい」に決まっていますよね。

これまで述べてきたように本作においては、そのキャラがどれほど強い気持ちで戦いに臨んでいるかは、勝ち負けに関係しません。「主人公であるはずの修が悲しくなるほど弱い」というのが良い証拠です。

だからこそ、あるキャラクターがどこかで負けたとしても「ああ、コイツの気持ちはここで負ける程度のショボさだったんだ」という残酷な結論にはならないんですね。どんなに必死の想いで戦っても負けるときは負ける。でもその気持ち自体は勝敗に関係なく尊いものだという、すべてのキャラクターへの愛情というか救済というか、優しさのようなものが通底している作品が、この『ワールドトリガー』なのだと思います。

まとめ

というわけで、太刀川さんの名ゼリフを皮切りにして『ワールドトリガー』の「冷静」と「情熱」についてお話ししてきましたが、いかがだったでしょうか。「クレバーでアツいSFバトル漫画」という言葉の意味が、より分かっていただけたのではないかなと思います。

お読みくださり、ありがとうございました。

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関西に住む、少年マンガをこよなく愛する男。とりわけ『BLEACH』については尋常ではない思い入れがある。 ブログ:Black and White(http://hoasissimo.hatenablog.com/)

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