「ITバブルよりも、目の前のデザインに必死だった」Web黎明期以前から走り続ける制作会社| 株式会社テイ・デイ・エス

「ITバブルよりも、目の前のデザインに必死だった」Web黎明期以前から走り続ける制作会社| 株式会社テイ・デイ・エス

田中雅大

田中雅大

1年半で挫折したアプリ開発。それでも社員を縛りつけない企業風土

2000年代中頃には売上げ面からみても、Web事業部は社内で重要なセクションとして機能していました。シンプルなコーポレートサイトだけでなく、撮影が必要な編集系サイトや体験版ムービー、タレントのアサインも手がけるランディングページまで、Webサイトの在り方が多様化するとともにクライアントのニーズも複雑化していきます。そこで品質を左右するのは、作り手の柔軟な対応力と提案力です。

池田
Web事業部に限った話ではありませんが、弊社は自由にものを言える社風が特徴です。ちょうど2005年に私は1年間の契約社員を経て入社したのですが、社員同士で意見が言い合える風通しの良さが気に入りましたね。
緒方
たとえばプロジェクトの人員配置について、途中で回らないなと思ったら社長に相談して、すぐ了承を取るということもしました。社長はいつも「やるなら徹底的にやれ!」という考えですが、それだけでなく「万一ダメだったら振り出しに戻るだけなので深く考えるな」という人なんです。だから、のびのびと自由にできる環境が整っているのだと思います。

しかし、事業が多岐にわたるにつれ、ノウハウの応用が利かず失敗に陥るリスクも高まります。同社の場合も、成功だけでなく過去には途中で頓挫した悔しいプロジェクトもあったそうです。

緒方
スマホやタブレット向けのアプリ開発チームを起ち上げたんです。なかなか前に進まず1年半でチームは解散してしまったんですけど、きちんと制作部署を作って専任メンバーも配置していました。リスクを考えると経営判断はなかなか難しかったと思うのですが、部署起ち上げのときは社長も背中を押してくれたし、1年半やらせてくれた。

正直言うと、当時はかなり悔しかったです。でも、弊社じゃないと、この失敗の経験すらできないし、良い勉強にはなったなと今では思えます。

とはいえ、同社では失敗を恐れて社員の仕事のやり方を管理しすぎることはないそうです。不定期に社内セミナーを実施したり、動画研修を行ったりと、個人のスキルアップのための仕組みはありますがその方法を強制することはありません。「個々のスタイルを尊重し、各個人やチームに任せることが多い」と池田氏は話します。

池田
大切なのはクライアントのニーズに応えて、満足度を高めること。で、弊社内では品質のために社員の提案を優先してくれるというか、仕事の進め方や方法を強制しないところが良いところですね。

たとえばデザイン要件が重要なプロジェクトだったら、打ち合わせに初回からデザイナーを連れて行ったりもします。ディレクターだけが打ち合わせに出るより正確性も上がるし、効率もいいじゃないですか。デザインカンプが進行の妨げになると思ったら、素組みだけで業務を回すことを提案できるとか。そういった改善提案を個々の判断に任されているところは、弊社の特徴かもしれません。

何のため、誰のためのデザインか。確かめるために日帰りでも日本中駆け回る

TDS様_記事004

自由な気風が特徴の同社ですが、会社として品質管理は欠かせません。そのため、独自の社内テストや共有ルールを設けているようです。

池田
弊社のクライアントは大手企業も多いので、品質管理は徹底して行っています。そのため外部のプロの校正者さんを呼んで作業をおこなっていますし、もちろん社内でもチーム体制で校正はかけています。それに、校正力を維持するために定期的に独自テストもおこなっていますね。なかには追試を受けさせられる者もいますよ。
緒方
もし事故やクレームが起こると、全社メールが回るんです。担当者がうやむやにするんじゃなくて、全員でその事故の原因を把握して、再発防止のノウハウを共有しています。

世間的には「さらし者になるのはイヤだ」って思われるかもしれないですけど、ヒヤリ・ハットとして機能させることが重要なんです。

では、デザイン会社として、同社がとくに力を入れているところは何なのでしょうか。

緒方
我々の目指すデザインは、情報設計だと思うんです。いかに伝わりやすくまとめるのかっていうところに、価値があると思っていて。使いやすさとか生活への密着度や親近感とか、そういうものも含めてデザインなので、アート的な捉え方とは違うかもしれないですね。ただし、センスは必要だと思います。
池田
そのためヒアリングは非常に重要。遠方のクライアントでも極力対面で話を訊きに行くように心がけています。

さらに、CIやVIを手がける同社は、一時的な流行に捕らわれることにも注意を払います。

池田
もちろん流行のデザインに寄せた要望があるときは、それを踏まえた提案をします。ただ会社を象徴するロゴデザインやコーポレートサイトは企業理念やバックグラウンドまで調査して、その情報をデザインに変換する作業になります。ですので、2、3年だけでなく、普遍的なデザインというストックを持っておかないといけないですね。

また3年、5年先と長期的な視点で見た場合、その時点でのデザインを維持できるか?という点も考慮します。たとえば画面解像度も長期的にみると今後も向上することが予想されるため、あえて情報量を増やして設計してみるとかね。デザインに関わるところは、すべてフォローしておかないといけない。

緒方
結局は“何のため、誰のためのデザインなのか”っていうことを考えないと、価値の良し悪しも分からないと思うんです。

社内の企画案を製品化。受託制作が多いからこそ、発想力を育てるシステムを大切にする

TDS様_記事03

同社は2006年に、社内の企画案を製品化する「リプラグ(Replug)」というブランドをスタートしています。その起ち上げの背景には、「自分たちが作りたい物を世に出す」というコンセプトがありました。

緒方
基本的に弊社のスタッフは有形無形問わず、モノ作りをしたい人たちが集まっています。普段は受託制作が主な業務ですが、自分たちでコンセプトも含めてゼロから作るという工程を大切にしたくて、起ち上げました。

「自分の手でイチからモノを作る」この社内プロジェクトの目的は、同社が考える仕事への取り組みや、求める人材像にもつながっているようです。

緒方
デザイン広告制作会社として、今後どうやってアピールするかを考えたときに「自分で新しい何かを作る」という行動力や発想が必要だと思うんです。たぶん10年後や20年後って、今やっている事業と同じことをしているとは限らないじゃないですか。

デザインで価値を提供するという理念は変わらないもの。ただ、その出口がどこにあるのかは、Web制作起ち上げがそうであったように、今後もいろいろな分野にチャレンジした結果変容していくと思っています。

池田
実績を積み重ねていくと、「前と見せ方がかぶったり、自己模倣になったりしないんですか?」と聞かれることもあります。ただ、デザインや広告業界は同じモノを繰り返すと、驚くほど古くなってしまうんです。

だからそもそもテンプレート的に使い回しで手を抜くみたいなことはできないし、やるつもりもありません。個人的には新規に提案して、コアとなるサービスを新たに広げていってくれる人と働きたいですね。

Web制作セクションが発足してから、すでに20年。走り続けることができた理由は、「毎回汗をかきながらチャレンジしてきたから」と緒方氏は話します。

情報が的確に設計された上質なデザインを通じて、商品やサービスの価値観を正確に、かつ楽しく伝える。時代に応じてアウトプットは変わっても、同社の持つデザインの価値提供は20年後も変わらず続いているかもしれません。


furture_bnr

この記事のシェア数

商業雑誌のほか、PRツール、販促カタログなど紙メディアを中心にコンテンツ制作を行う(株)ペロンパワークス所属。

このメンバーの記事をもっと読む
働き方インタビュー(エンジニア編) | 16 articles