ユーザーテストをやってみよう
詳しい方の中には、「とは言っても、ユーザーテストって時間もお金もかかるんじゃないの……?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、準備から実施・分析までしっかりやろうとするとかなり時間もかかりますし、専門会社に外注すると数百万円以上のコストがかかる場合もあります。
しかしユーザーテストそのものはシンプルなので、コツを押さえれば誰でも実施することができます。身近な人に協力してもらい、30分程度で簡易なユーザーテストをおこなってみるだけでも、有益な発見を得られるはずです。その簡単なやり方をご紹介します。
※少し長めの説明となりますので、お忙しい方は「あとで読む」ということでこちらまで読み飛ばしていただいても大丈夫です。
※ユーザーテストの進め方についてより詳しく知りたい方は、次の記事をご参照ください。
【準備編】ユーザーテストで課題を発見するための基本的な考え方と5つの準備プロセス
【実践編】ユーザー心理とサイト課題を明らかに。ユーザーテストの進め方と観察のポイント
必要な人・モノ
簡易なユーザーテストは、次の人員とモノがあれば実施できます。
- PCやスマホなどのデバイス
- 被検者(なるべくターゲットユーザー像に近い人。1回のテストにつき1人。3~5人程度に実施できるのが理想)
- テストの進行者(1人)
ユーザーテストの流れ
ユーザーテストは次のような流れでおこないます。
1. 事前にサイトのゴールを明確にしておく
テスト実施前に、改めて「このWebサイトで、誰のどんなニーズを満たし、何を実現するか」を定義しておきましょう。これを明確にしておくことで、より成果に繋がりやすい発見が得られやすくなるはずです。僕がユーザーテストをおこなう場合は、最初にこのような表を埋めるようにしています。
家電通販サイトのコンセプト整理の例。実際はより詳細に記入します。
2. ユーザーの行動やサイトの課題を想像しておく
「ユーザーはどのような心理で、どんな行動をするのだろうか?」「現状のサイトにはどこに課題があるのだろうか?」などを予め仮説として持っておくと、更に発見の質が上がります。テスト実施時はそれらの仮説を検証するつもりで進めるのがポイントです。
ユーザーの行動や心理は簡単な「シナリオ」として想像しておくとより良いです。
3. なるべくターゲットユーザーに近い人を集める
ターゲットユーザー像に近い被検者を集めます。身内や知り合いに該当者がいるのであればそれでも大丈夫です。モニター会社を利用すれば、費用は掛かりますが身の回りにはなかなかいないような条件に合う被検者が見つかることもあります。
ピッタリな人は集められないかもしれませんが、簡単な条件を満たす人でも大丈夫です。
例えば、歯医者の情報サイトであれば「歯医者をインターネットで探したことがある人」、不動産賃貸サイトであれば「賃貸物件の比較をインターネットでおこなったことがある人」などの条件を満たす人を探してみましょう。
被検者は、3人~5人ほど集められるのが理想です。この人数でも、十分有益な情報を得られるはずです。
4. タスクを考える
ユーザーテストの基本的な流れは、「ユーザーにタスク(作業)を実行するように依頼し、ユーザーがタスクを実行する過程を観察する」というシンプルなものです。
- タスクの一例
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- 飲食店情報サイトの場合:「宴会幹事の前提で、20人が集まる宴会の会場を探して予約してみてください」
- 求人サイトの場合:「転職活動をおこなっているつもりで、自分が一番興味をひかれる求人を探して、見つかったらお問い合わせをしてください」
- 通販サイトの場合:「◯◯なスペックのPCを買おうとしているつもりでPCを探してみてください。気に入ったものがあれば購入を進めてみてください」
タスクの設計は最初はなかなか難しいものですが、次の2つのポイントを守れば発見に繋がりやすいタスクを作れるはずです。
ポイント1. サイトの目的・ユーザー行動のゴールを意識する
1つ目のポイントは、「サイトの目的やユーザー行動のゴールを意識したタスク」にすることです。
例えば、通販サイトで「自由にサイトを使って感想を教えてください」などをタスクにしても目的のない行動になってしまい、有益な発見は得られません。「このサイトで◯◯を探して、気に入ったものがあれば購入に進んでください」といった、サイトのゴール(この場合は商品購入) を前提としたタスクにすることで、ユーザーはどこでつまづくのか、なぜモチベーションを下げてしまうのかなどの発見が得やすくなります。
ポイント2. 被検者に合わせてカスタマイズできるようにする
2つ目のポイントは、被検者が「実際の利用状況に近い形で自然に利用できるようにする」ことです。
例えば家電通販サイトのテストにおいて、炊飯器が欲しいと感じていないユーザーに「好きな炊飯器を探して購入してください」といったタスクを設定しても、普段のユーザー行動になりにくくなります。
この場合は、テスト開始前に「最近欲しい家電はありますか?」などの事前ヒアリングをおこない、その答えに応じて、「では、その家電が買いたいと思っているとして、この通販サイトで商品を探してみてください」などのカスタマイズしたタスクにすると、被検者の行動もよりリアルになり、テストの質も高まるはずです。
このように、タスクはガチガチに決めるのではなく、被検者に合わせて調整できるような柔軟性を持たせておきましょう。
5. テスト環境をセッティング
テスト環境は、「実際のユーザーの利用シーン」に近づけるのが理想ですが、限界はあるので普段のオフィスやカフェなどでも大丈夫です。
PCやスマホを利用する被検者の横でテストの進行と観察をするようにします。可能であればビデオカメラなどで録画・録音しておくと、後の振り返りや共有に役立つはずです。また必須ではありませんが、記録のみを担当する人を用意しても良いでしょう。
ユーザーテスト実施時の配置例です。
6. ネットの利用状況や趣味嗜好を事前にヒアリング
ネットを普段どのくらい利用するか、どんなサイトを見るかなどのヒアリングをおこないます。その際に、タスクを決めるためのヒアリングもおこないましょう。先述したように、家電通販サイトのテストをおこなうのであれば、「今欲しい家電は何ですか?」などを聞きましょう。
7. タスクをお願いし、サイトを利用してもらう。思考発話をしてもらう
事前のヒアリング内容を踏まえてタスクをお願いし、被検者にサイトを利用してもらいます。
お願いする前に、次の2点を伝えておきましょう。
「できるだけ普段通り使うようにしてください」
実際のユーザーの普段の行動を観察することが目的なので、被検者には気楽にいつもどおり使ってもらうように伝えておきましょう。
「思っていることを口に出して言ってください」
「サイトを利用しているときの心理」を知るために、被検者には思っていることを都度ひとりごとのように発言(思考発話)してもらうようにします。
8. 適宜質問し、心理を引き出す
思考発話が難しい被験者もいるかと思いますので、適宜「今何を考えてますか?」「今何を探してますか?」「○○を見たのはなぜですか?」などの質問をかけて、心理を引き出していきましょう。
このような流れでユーザーテストは進めていきます。重要そうなユーザーの行動や発言ははメモしておきましょう。
事前に仮説を持った上でユーザーテストをしてみると、「こんなところでつまずいてしまうのか!」「見てほしいものが全然見られてない!」など、さまざまな発見が得られるはずです。