「破壊的イノベーションを起こす」成功体験を捨てたkintoneのグローバル戦略 | サイボウズ

「破壊的イノベーションを起こす」成功体験を捨てたkintoneのグローバル戦略 | サイボウズ

小田直美

小田直美

「グローバルへの挑戦に意気込みを感じて」ようやく自分のやりたいことにフィットした

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このようにグローバル戦略を組み立てる青山氏。しかし、サイボウズ入社後に起こした最初のアクションは、開発に対する生産性の改善だったそうです。

青山
最初に入ったのは『Garoon』の製品開発チームで、まず開発プロセスの改善に着手したんです。現場のプログラムマネージャーやUX/UIデザイナー、プログラマーと議論しながら新しいやり方でリリースを1つやってみました。

その後も他の製品を含めて開発プロセスを改善したら、その翌年は全社で年間80回の製品リリースを実現できました。さらに、その翌々年は144回リリースすることができて。ほぼ、3日間に1回のリリースですね。

最初は大体、みんなが「無理だ」って思うんです。でも、一度やってみると「あ、いけるじゃん」って感覚を共有できるようになる。そうすると、改善のフィードバックが来ても、また次のリリースのモチベーションになるから、開発を続けていくための好循環が自然と整ってくるんです。

グローバル戦略に留まらず、開発スピードの改善にも大きく関わっている青山氏ですが、なぜサイボウズにジョインすることを選んだのでしょうか。

青山
僕は14歳のときにプログラムを書きはじめて、独立して、受託開発や製品開発を行い、スタートアップ企業でプラットフォーム製品の開発と事業拡大もやっていたんです。Microsoftには12年間いて『Share Point』など、各製品のプログラムマネジメントを担当していました。

なぜサイボウズを選んだかというと、まずは国内のグループウェア市場においてトップのシェアを誇っているから。B to Bをやっていくには安定的な“シェア”、つまり事業の継続性が大事です。

2つ目は「グローバルな市場に挑戦していく。そして、サイボウズを日本が発信する世界一のB to B企業に育てる」という意気込みを代表の青野に感じたからです。日本発であり、世界一のB to B企業に育るという気持ちを強く感じました。まさに自分が理想にする、世界一に向けてチャレンジできる環境に入社したわけです。

しかし昨今は、少ない工数で開発できるコンシューマ向けWebサービスに目を向ける企業が増えてきているのではないでしょうか。そこで青山氏は、B to Bの魅力をB to Cと対比して説明します。

青山
B to Cは参入しやすい市場だけど、競争が多く、トレンドの変化も激しく、対象は個人ユーザーだから無償提供が多い。開発工数が低くてもマーケティング費用が高く、それなりのユーザーベースを取らないとマネタイズがむずかしいビジネスです。だからB to Cは、打ち上げ花火のようなものだと思っています。

B to Bは、B to Cと違って競合がそれほど多くはないし 、企業が毎日必要な業務で利用しているので、市場の息も長い。最初に参入するまではむずかしいけれど、一旦入れば中長期的に製品を改善しながらお客さまに価値を提供し続ける魅力がありますね。ちゃんとした軸で、製品をつくって提供することができる。

「10年前のUIですねと言われて」イケてるかどうかは、完全に客観的な手法で検証する

自分たちの製品をより良いものにしようと猛進する青山氏。そのため、製品を評価する際はとにかく「客観的な視点を重んじるよう、心がけている」そうです。

青山
客観的な評価をするために、日本だけではなく、米国などのターゲット市場において、ユーザビリティテストやフォーカスグループ、ペーパープロトタイピングなどの手法を使って検証を行います。「自分たちの考えていることが、常に正しいとは限らない」という認識をもつのが狙いなので。

例えば、kintoneのような全く新しいコンセプトの製品は、最初の参照データが少ないんです。だから、本当にイケてるかどうかは、客観的な手法で検証しなければなりません。

※フォーカス・グループ:グループ・インタビューを行うために集められた一定の条件を満たす人たちのこと

引用元:フォーカス・グループ

※ペーパープロトタイピング:紙で実際にアプリやサイトを「実装する」こと

引用元:fladdict:ペーパープロトタイピング入門 – 第1回 どうして紙でプロトを作るのか

そして「IT業界は、デザイン重視の時代になってきている」と話す青山氏。

青山
海外プロダクトであるTwitterやFacebook、iPhoneを使う国内外のコンシューマーユーザーが増えて、これらのUX/UIデザインに慣れてきた。昔はデザイン重視ではなかったGoogleも、最近はマテリアルデザインを出しています。いわゆるコンシューマライゼーションの流れで、今のB to Bの世界にも来ているんです。

※コンシューマライゼーション:企業の情報システムで一般消費者向けのIT製品やサービスを利用すること

引用元:コンシューマライゼーション 【 consumerization 】

では、kintoneはどのように“イケてる”海外プロダクトに勝負を挑んでいくのでしょうか。

青山
開発当初にkintoneをアメリカへもって行ったら「これは10年前のUIですね」と言われたことがありました。(日本は)会社や製品の知名度でものを買う傾向にあります。でも、アメリカの人々は新しいものが好きなんです。知名度に関係なく、いい商品であればすんなり入っていける市場。

kintoneは、アメリカを含めたグローバル市場においても、今までにない“ファストサービス(Fast Services)”という斬新なコンセプトの製品で、古いSI市場とコラボレーションを軸とした市場を崩していける製品です。

いわゆる、破壊的イノベーションを起こせると思っています。だからこそ、斬新な製品のコンセプトだけではなく、世界中で利用する人々にとっても違和感のないようなUX/UIデザインをつくって、kintoneの知名度を上げていきたいです。

※SI:企業の情報システムの企画、設計、開発、構築、導入、保守、運用などを一貫して請け負うサービス

引用元:システムインテグレーション 【 SI 】

※コラボレーション:コンピュータシステムを活用した多人数の共同作業

引用元:コラボレーション 【 collaboration 】

※破壊的イノベーション:イノベーションモデルの1つで、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうイノベーションのこと

引用元:破壊的イノベーション(はかいてきいのべーしょん)

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「エンジニアに萌えるお姉さん」として年間3,000人が訪れるテック系イベントスペースを運営し、企業のファンづくりを務めた。2015年からフリーランス編集者。IT・Web系企業のPR・採用事情を取材している。

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