「何があっても、全てを許そう」世界一を目指さないから、管理されたい人は腐る制作会社 | スタジオ・アルカナ

「何があっても、全てを許そう」世界一を目指さないから、管理されたい人は腐る制作会社 | スタジオ・アルカナ

小田直美

小田直美

(編集部注*2015年7月2日に公開されたインタビュー記事を再編集したものです。)

「誰にとっても、楽しく便利なおもちゃ箱」をコンセプトに、Webコンテンツの受託開発から自社サービスの制作を手掛けるWeb制作会社、株式会社スタジオ・アルカナ。代表を含めた社員数は17名という、少数精鋭のチームで開発を請け負いますが、メンバーが開発したいと思えるサービスに時間を充てるため、売上はプラマイゼロであれば良いというスタンスをもっています。

同社で代表取締役社長を務める鎌田学氏は「飲み会のお金も経費で落としてOK」と話すほど社員の主体性を重んじており、事業方針や社員の働き方からも自由な社風が感じられます。では、社員が自主的に「儲かるモノづくり」を目指すような会社づくりとは、どのようにして実現されているのでしょうか。今後の展望とともにお話を伺いました。

a5ed7c53f77790e3eb21065a56aebbd2 人物紹介:鎌田学
すすきの飲食店勤務からIT業界へ転向しようとしたが、数十社落ちたので、フリーランスエンジニアに転向。フリー時代は、Macのアプリケーション開発等に従事し、サミーネットワークス777Twon.net(PC版)立ち上げメンバーとして外注ながら参画。2005年にスタジオ・アルカナ創業メンバーとして参画し、2009年に同社の代表取締役に就任する。

「受託開発よりサービスで飯が食える会社になりたい」飲食店勤務のプログラマーほぼ未経験で東京に出てきた

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スタジオ・アルカナが創業されて5期目の2009年に代表取締役社長に就任した鎌田氏。創業当時からエンジニアやディレクターとして働いていましたが、もともとはWeb制作とはかけ離れた異業種の出身でした。

鎌田:2年間、専門学校でプログラミングの勉強をしていたんです。卒業後しばらくしてから、すすきの(北海道)の飲食店で働いていました。でも、やっぱりIT/Web業界で働きたいっていう気持ちは捨てきれなくて、飲食店の仕事を辞めて、あてもなく無職で東京に出てきました。
プログラマー未経験だったんですが、すすきのにいる間は趣味でHTMLを書いたり、PhotoshopやIllustratorを使ったりしていたのもあり「Macさえ使えればいい」という運の良い条件で、Macのアプリケーション開発の仕事を横浜で見つけることができました。最初はフリーランスとして2年間、下積み時代を過ごして、その後にスタジオ・アルカナの前身になったチアーズという会社に常駐して、そのまま正社員になりました。

スタジオ・アルカナの創業メンバーが偶然にも専門学校の同期だったことから、会社の立ち上げに加わることになった鎌田氏。前代表の石田氏から経営を引き継ぐことになった際に、たった1つ心を決めていたのは受託会社からの脱却でした。

鎌田:発起人ではあるんですが、僕はスタジオ・アルカナの2代目代表なんです。代表と交代したとき決意したのは、自分たちがつくったもので飯を食っていく会社に変えることでした。とはいっても、残念ながら今でもバリバリ受託開発やってるんですけどね。
過去に何度か、自社サービスの開発に携わらせていただいたことがあって。そのとき、月の売上がウン億っていう世界を初めて目の当りにしたんですよ。それで、やはり受託開発はあまり儲からないんだなと再認識した。

モノづくりをする会社では、特に「儲かるものをつくるかどうか」が命題となります。そして、モノづくりを愛するからこそ「世の中に需要がなくてもつくりたい」という気持ちと「儲かるものをつくっていたら、好きなものはつくれない」というジレンマを抱える方たちが、このIT/Web業界に多くいるのではないでしょうか。

鎌田:前代表の石田は生粋のエンジニアで、どんな開発でも楽しいというタイプの人間でした。僕も楽しくないわけじゃなかったんですが、やはり会社の方針としては、自分たちがつくったコンテンツとかサービスで飯を食っていくべきだと。そういう話をすることで、社員の意識を変えたかったんです。

最初の自社サービスはマネタイズ無視のずっと0円で「給料を払ったら口座の残高が500円ぐらいになった」

「受託開発ではなく、自社サービスで利益を出す会社に」という方針に変えてから4年後の2013年11月、スタジオ・アルカナ最初の自社サービス『SIGN』がリリースされます。

鎌田:僕らがリリースした最初のコンシューマー向けサービスがSIGNで、これはブラウザで使える議事録ツールです。2013年11月にリリースして、そこからずっと完全無料。ユーザーから一切お金は取っていない、マネタイズを無視したサービスなんです。

しかし“自社サービスで利益を出す”という当初の目標でサービスをつくったにも関わらず、利益が生じない戦略を選んだ狙いはどこにあったのでしょうか。

鎌田:今になってよく考えると、コンシューマー向けに公開したものを最初から法人向けに販売していればマネタイズできたかなと思います。でも僕たちにとって最初のサービスだったので、改修や運営体制の強化を重視するべきだと考えていました。
マネタイズは大事だけど、開発した本人たちが得たいリターンが情報だったり知名度だったり、ちょっとずつ違っても構わないと思っているんです。

自分たちでサービスをつくっていく会社になることを長期的に考えれば、1つ目のサービスであるSIGNは「運用ノウハウを得ることこそが利益になる」と考えた鎌田氏。ですが、運用やカスタマーサポートといった受託開発と自社サービスの差で苦労がありました。

鎌田:僕が代表になった直後からサービスをつくるための目標として「3年間は守銭奴になる」というのを設けて、バカみたいにお金を貯めたんです。お金が出る仕事を率先して受けるようにして。そのお金があったから4年目以降に少しずつ投資するような使い方をして、現状のサービス開発ができているんです。
同時にやってる受託開発とリソースは同じなので、注意深くアサインしたり、スケジュールを組むようにはしています。だけど自分たちでサービスをやるとなったら、リスクを取ろうという決意はありました。とはいえ、社員の給料を払ったら口座の残高が500円ぐらいになって、あれはさすがにヒヤっとしましたけど(笑)

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「エンジニアに萌えるお姉さん」として年間3,000人が訪れるテック系イベントスペースを運営し、企業のファンづくりを務めた。2015年からフリーランス編集者。IT・Web系企業のPR・採用事情を取材している。

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