Web制作プロジェクトの成否は「要件定義」にあり。
この度、LIGブログと雑誌『Web Designing』、Webメディア『つなweB』(ともにマイナビ出版・Web Designing編集部が提供)とのコラボ連載企画がスタート! 「どうする要件定義」と題して、発注者と受注者が「あとでモメない」要件定義のポイントを紹介していきます。
第1回のテーマは「要件定義はなぜ必要か」。
なぜ要件定義をやるのかという大前提を、制作サイドの視点から解説します。
本記事は、マイナビ出版が発行する雑誌「Web Designing 2023年4月号(2月17日発売)」を元にしています(編集・執筆:小平淳一 イラスト:國廣稔)。本誌では、2人のキャラクターが登場し、発注側と制作側の双方の視点でノウハウを解説。Web Designing編集部が運営する『つなweB』では、「発注側の視点」の記事を公開中です!
本記事の監修者
原島 研一郎 2018年、WebディレクターとしてLIGに参画。コーポレートサイトやプロダクトサイト、大規模サービスサイトなど、さまざまなWeb制作案件にて、ディレクター兼プロジェクトマネージャーとして従事。 |
因幡 祐香 2011年にWebディレクターのキャリアを開始以来、大企業〜スタートアップ企業まで、業種問わずさまざまな企業のWeb開発プロジェクト80件以上に参画。とくにシステム開発を伴うプロジェクトの要件定義やディレクション、長期に渡る安定運用と事業展開を想定した情報管理や体制構築を得意とする。 |
要件定義はなぜ必要?
そもそも要件定義がなぜ必要なのか。
Web制作に慣れていない発注者や経験が浅い制作担当者の場合、こんなことがあるかもしれません……。
エーー、ご連絡ありがとうございます。 お見積もりの前に、お打ち合わせで詳しいお話をお伺いできますでしょうか。
Web制作の前に要件定義をまとめるのが、 弊社のルールになっとりまして…。エエ。
エーー、どうしてって…。どうしてしょうね? あれ?
認識の食い違いによって起きるダメージの深さを想像してみよう
要件定義書に含まれるもの。実現する内容のほか、費用や期間、人材といったもののコストも明示します
要件定義とは、実際の作業が発生する前に、プロジェクトの全体像を明らかにする工程です。技術的な仕様を決めることだと思っている人もいるかもしれませんが、それがすべてではありません。「そのWebサイトで何を実現するか」という枠組みを決め、関係者全員で認識を共有することが、要件定義における一番の目的です。
要件定義を行なっておかないと、発注側と制作側の認識のズレが見過ごされたままになり、思わぬトラブルにつながる可能性があります。たとえば、ECサイトの制作依頼を受けてフロントエンドの構築だと思って進めていたら、実は在庫管理などのシステムが丸ごと必要だった…というケースもあります。この場合、スケジュールと費用も大幅な見直しが必要になり、途中まで進めていた作業も仕切り直しになってしまいます。
要件定義のためのコミュニケーションをしっかりと行っておけば、こうしたトラブルを避けることができるでしょう。最終的には、制作会社が「要件定義書」という書類にまとめます。書面にすることで、打ち合わせに出席していない人も目を通すことができ、プロジェクトに関わるすべてのメンバーが共通の認識を持てるようになるのです。
「何を実現するか」が明確になると同時に「実現しないこと」も明確になるのがメリット
制作会社が草案をまとめ、発注側に確認します。やりとりを重ねてブラッシュアップを行ない、最終的には決定権のある人も含め関係者全員の合意を得ます
制作会社は、要件定義がまとまることで初めて正確な費用とスケジュールを組み立てられます。さらに、社内でどのような人材をアサインするかも考えられるようになります。
要件定義では、「実現すること」だけでなく「実現しないこと」も明確にしていきます。発注側は、限られた予算や期間の中でなるべく多くのことを実現したいと考えますが、優先順位や必要性を十分に精査できていないこともしばしば。要望をうまく言語化できず、想像以上の期待を抱いていることもあります。このような「優先順位が曖昧な状態」や「期待値のズレ」を放置したまま制作を始めてしまうと、プロジェクト進行中も要望が増えて、予算も時間も無駄遣いしてしまいます。
要件定義は、そうした問題の発生防止に役立ちます。プロジェクトの背景・目的・実現すべきことを言語化し共有することで、発注側と制作側が同じ判断基準を持てるようになるでしょう。
お客さんによっては、いきなり要件定義という言葉を出してしまうと、なんのことかわからず警戒されてしまう可能性もあります。「もう少し詳しい話をお伺いさせてください」などやんわりと切り出して、スムーズに要件定義へとつなげていきましょう。