PRの起点は“私”ではなく“あなた”に目を向けること LIG x PR TIMESが語る、企業発信の秘訣

PRの起点は“私”ではなく“あなた”に目を向けること LIG x PR TIMESが語る、企業発信の秘訣

Yu Mochizuki

Yu Mochizuki

2008年にスタートし、度重なるリニューアルを経て、今年で14年目に突入したLIGブログ。
スタート当初は、オウンドメディアを運営している企業は限られていましたが、近年、PR活動において、オウンドメディアはなくてはならない存在へ変化しました。

今回は、LIGの代表 大山が業界のオピニオンリーダーと対談を繰り広げる連載企画の第2弾として、「PRとメディア」をテーマに対談をしました。お相手はPR TIMES代表の山口拓己さん! 旧知の間柄である2人のお話から、企業の情報発信における変化や秘訣をお届けしていきます。ぜひ、日頃のPR活動やメディア運用の参考にしてみてください。

山口拓己
株式会社PR TIMES
代表取締役
大学卒業後、證券会社、コンサルティング会社勤務などを経て、2006年株式会社ベクトルに入社。取締役CFOに就任し、上場準備責任者として陣頭指揮を執る。2007年PR TIMES立ち上げ。2009年PR TIMES代表取締役就任。2016年東証マザーズ上場、2018年東証一部へ市場変更。7万社利用のプレスリリース配信サービス「PR TIMES

起源に遡って見つけた、プレスリリースの価値

大山:お久しぶりです! 数年ぶりの再会ですね。本日はお話しできること、楽しみにしていました。

山口拓己さん(以下、山口):こちらこそお会いできて嬉しいです。よろしくお願いします!

大山:はじめてお会いしたのは約10年前。ベトナムのホーチミンで、私がエボラブルアジアの代表を務めていたときですね。当時、山口さんが株式会社ベクトルに在籍されていた時に、エンジニア採用をお手伝いさせていただき、大変お世話になりました。

山口:懐かしいですね。当時の大山さんのバイタリティ溢れる姿がとても印象に残っています。ロジカルにお話をされる目の奥には、野心的な思いが溢れていました。

大山:そのような印象を持っていただいていたなんてうれしいです! 山口さんはベクトル社の取締役を退任しPR TIMESにフルコミットしていて、まさに「PR TIMESを拡大させていくぞ!」というタイミングでしたね。CEOとして冷静でありながらも、力強く挑戦される姿が印象に残っています。

改めて、山口さんがPR TIMESをスタートさせたときのお話を聞かせていただけますか?

山口:2005年に株式会社ベクトルがリリースした「キジネタ.com」というプラットフォームを活用し、プレスリリースの次の時代のフォーマットをつくりたいと思い、PR TIMESをはじめました。

プレスリリースは、もともと郵送による手渡しからはじまり、FAXヘ移行し、その後メール配信へと発展。メール配信によって一気に世の中へ普及していきました。メールは一斉送信でもコストがかからないので、宛先を追加するほどパフォーマンスが高まります。しかし、当時主要な受け手であるメディアからすると、自社とは無関係なプレスリリースを受け取る機会が増えていたため、迷惑なものとして扱われていました。そんな敬遠されていたタイミングでPR TIMESをはじめたのです。

大山:世の中にとってマイナスな印象をもたれていた、と。逆境のなかでも挑戦しようと思ったのはなぜでしょうか?

山口:もともとのプレスリリースのはじまりは、1906年にアメリカ・ニュージャージー州で起きた列車事故がきっかけです。

当時のアメリカでは列車事故が度々起こっていたのですが、カメラが普及しておらず、伝達手段も限られていたため、事故が隠蔽されていたのです。しかし、事故が起こり、遭遇する人が増えていくと、国民の間に不信感が募ってくる。その不信感解消のために、あえて列車事故をプレスリリースとして公開したのです。世界ではじめて配信されたそのプレスリリースは、ニューヨークタイムズに原文が掲載されました。

その起源からわかるように、プレスリリースのスタートは宣伝ではありません。隠蔽されていた情報を国民のために公開したものであり、開示の手段として求められていました。さらに、新聞に原文が掲載されたことから、一般の人や生活者にも有益なものだったことがわかりました。当時のプレスリリースの役割に改めて価値を感じ、この事業をスタートしました。

大山プレスリリースの起源をたどっていったことで、価値を見出したのですね。長年存在していたサービスを今の時代にアップデートしていくのではなく、起源に戻るという視点はとても参考になります。

世の中の変化に向き合い、サービスを進化させる


大山:その後、PR TIMESのプレスリリース事業はどのように成長していったのでしょうか。

山口:スタート当初は、なかなかうまくはいかなかったですね。コンセプトはあったものの、見てもらう工夫・仕組みがなく、まず1,000社の企業様が利用してくださるのに、約2年かかりました。

しかし、インターネットにおけるモバイルの普及とSNSの登場によって、プレスリリースの閲覧者が一気に広がっていきました。インターネットのデバイスが、パソコンからスマートフォンへシフトしていくなかで、かつては限られた時間・場所で検索をしていた状況から、時間や場所を選ばずに検索できるようになりました。さらに、SNSの登場によって、プライベートな情報を広く世の中に投稿し、シェアする風潮が高まっていきました。その流れのなかで、プレスリリースをシェアする機会が増えていきましたね。

加えて、サービスの改修もしました。PR TIMESを立ち上げたときは、世の中で受け入れられるか不安な気持ちもあり、できる限り機能を盛り込んでローンチしていたのです。リリース後には、不要な機能が多数見えてきたことから、機能を削ぎ落とし使いやすさを追求していきました。当時のPR TIMESのWebサイトはデスクトップ(PC)表示のみだったのですが、スマートフォン対応したことで、さらに拡大していきましたね。

大山:スマートフォンやSNSの可能性を感じると、他の事業やプロダクト開発へ目を向けがちですが、PR TIMESに注力された姿勢をとても尊敬します。そして、変化を見逃さず、緻密な改善を繰り返していったことが成長にもつながっていったのですね。

山口:その後の東日本大震災も大きな転機でしたね。

震災のタイミングでは一時的にマーケティング活動が止まったため、プレスリリースもストップすることが予想されました。そのため、プレスリリースの役割を見直し、利用企業様に向けた2つのメッセージを世の中に公開しました。

・これから発表しようとしているプレスリリースが本当に今必要な情報か否か、検討してほしいこと
・震災に関わる情報であれば無償でPR TIMESのプレスリリース配信を利用できること

すると、震災に関する情報や支援活動に関する配信が増えました。その瞬間、プレスリリースがマーケティングツールから、世の中に必要な情報を届ける情報インフラになる可能性を強く感じました。それは、プレスリリースの起源ともリンクしていたのです。

大山:世の中の動きに対して、自社の在り方や役割を真摯に考えていらっしゃるからこそ、サービスのさらなる価値が見出されたのですね。

行動の積み重ねが企業価値を高める

大山:PR TIMESさんは、プレスリリース以外にも、さまざまなサービスを運営していらっしゃいます。ビジネスツールなども提供しているようですが、PRとどのようなつながりがあるのでしょうか。

山口:我々が提供しているビジネスツール「Tayori」「Jooto」は、PR TIMESを運営するうえで必然のツールなんです。

Tayori…「フォーム・受信箱」「FAQ」「アンケート」「チャット」の4つの機能を提供するカスタマーサポートツール。
Jooto…カンバン方式のタスク・プロジェクト管理ツール。直感的に使えるレイアウト、親しみやすいシンプルなデザインが特徴。

「Tayori」を立ち上げるきっかけは、PR TIMESへ寄せられたクレームがきっかけでした。あるとき、PR TIMESのWebサイトの改修に伴い、全ページ上段に弊社の電話番号を載せました。すると、多くのユーザーから弊社に連絡をいただいたんです。プレスリリースの発表元企業様への問い合わせ先が見つからないと。多くのユーザーが、企業様の問い合わせ先を探すのに苦労していたことがわかりました。我々は新たなつながりを生み出したいと思っているものの、まだまだサポートできていないと痛感しました。そのような出来事からカスタマーサポートツール「Tayori」を立ち上げました。

大山:ユーザーの声をきっかけに、サービスの改善点を見つけ出したのですね。

山口:「Jooto」を買収してでも展開したかった経緯は、我々のミッションと深く関わりがあります。

PR TIMESのミッションは、「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」です。私たちはPRにおいて、行動こそが事実であり、とても重要だと思っています。行動は、企業活動そのものであり、さらに細分化していくと、日々のプロジェクトの積み重ねです。よって行動の積み重ねが企業の価値を高めていくと信じています。そのため、プレスリリースを発信する一歩手前をサポートし、行動を後押しするようなサービスを展開したいと思ったので、プロジェクト管理ツール「Jooto」を2017年に買収しました。

我々は「行動者」という言葉をとても大切にしており、商標も取っています。それは、言葉を制限するのではなく、言葉を普及させるために取得しました。

行動者…事業や活動を前進させようと行動を起こす、働く一人ひとり。大企業の社員やスタートアップ経営者、地方地域で事業を営む方々や地方自治体の職員など、業種や職種で限定されない。

大山:商標までとるとは、驚きです! 行動者というワードは身近でありながら、新しさを感じます。伝わりやすいですよね。企業として、メッセージをどう発信するか。その大切さを感じました。

PR、メディアにとって大切なLOVE YOUの思い

大山:ここまでサービス立ち上げからの歩みを伺ってきましたが、山口さんはサービスに対してもお客様に対しても、一貫したブレない姿勢で向き合っていることが伝わってきました。そんな山口さんが自社のPRで大切にしていることはありますか?

山口:誠実であることですね。人が見ていても、見ていなくても、同じ行動をとること。

以前、プレスリリース配信サービスのPR TIMESが、接続障害により一定期間使えない状態になったことがあります。PR TIMESは、お客様の大切な情報をいつでも好きな時間に配信できるサービスです。しかし、障害によって、そのときに情報を出そうと決めていたお客様に迷惑をかけてしまいました。そこで、我々はこの出来事をPR TIMESサイト上だけでなく、東証の適時開示情報伝達システムでPR情報として世の中に発信しました。

一般的に東証のPR情報はアピール情報であり、本件のような問題はお客様だけにアナウンスすべきという意見もありました。しかし、自分たちが起こした問題が社会にとって重要だと感じたら、世の中に知らせる必要がある。それはお客様だけでなく、その先には、情報を受け取る人がいるから。発信者だけでなく情報を受け取る人たちも、我々にとって大切な存在です。大切な人たちに私たちの言動を誠実に伝えたいんです。その根底には、プレスリリースが宣伝だけではなく、不都合なことも知らせるという起源があるからです。

大山:誠実であることは簡単なようでとても難しいと感じます。それを組織として実行されていることはとても素晴らしいです。

近年は、SNSやオウンドメディアの発展により、企業はPR活動をしやすい状況にあると思います。そのような時代に、経営者はどのような意識を持つべきだと思いますか?

山口:あるPRの教科書に、「広告はBUY ME、PRはLOVE ME」という言葉が書かれています。

しかし私は、「PRはLOVE YOU」という意識がとても大切だと思います。身近な人に対して、「私を愛して(LOVE ME)」と伝えるのではなく、想像力を働かせて「あなたを愛すること(LOVE YOU)」が大切だと。たとえば、ある企業が自社サービスに新機能を追加し、プレスリリースを配信するとします。そのときに、2つのメッセージが考えられます。

1.「私たちは、こんなすごい機能を作りました!」
2.「私たちは、あなたにとってこんな利益がある機能を作りました」

同じ機能でも、メッセージによって伝わり方も変わりますよね。この考え方はあらゆるPR
に通ずることだと思います。

大山:我々もLIGブログを長年運営してきましたが、「LOVE YOU」の思いはメディア運営でとても重要だと感じています。

LIGブログは、ユニークなコンテンツを積極的に発信してきたことから、おもしろさを求めている読者が一定数いらっしゃいます。一方で、近年はコンサルティング、デザイン、テクノロジー、マーケティングなど我々が培ってきた知見を求める方が増え、読者も広がってきました。そんな応援してくださる人たちに正しく情報を届けるべく、数年かけて少しずつ軌道修正をし、今年メディアをリニューアルしました。

時代の変化に応じて、YOU(読者)への伝え方を変えていくことは大切ですね。

山口:そうですね。もちろん、「私を愛して!」「 私を認めて!」という思いは誰もが持っています。私自身も仕事中に思いが溢れて、「私を認めて」と言いたくなることはありますよ(笑)。そういう時は、PR担当者にうまくコントロールしてもらっていますね。

大山:SNSをはじめ、自分をアピールする・注意を引き付けることが増えていますが、企業PRにおいては気を付けたいですね。PR TIMESの社員のみなさんは、仕事柄SNSを発信する機会も多いと思いますが、どのような心構えでやっていますか?

山口:私たちはSNSを自由度高くやっており、特に強制も禁止もしていません。社内のメンバーから情報発信の依頼があったときは、個人の裁量で発信をする。ルールの範囲内であれば問題ありません。
ただ、“発信したくなる”という思いにさせることが重要だと思います。

我々は2018年から、広報・PR担当者向けコミュニティイベント「PR TIMES カレッジ」を開催しています。


「PR TIMES カレッジ」開催風景

過去のイベント開催中に、「PR TIMES カレッジ」というワードがTwitterでトレンド入りしたことがあるんです。特に投稿アナウンスはしていないのですが、話を聞いていて投稿したくなったという参加者が積極的に呟いてくださいました。イベントに参加したり、組織に属していて“発信したくなる”という思いにさせることは重要ですよね。私たちとお客様が良好な関係を築けていてきたことは1つの要因だったと感じており、改めて日頃の関係性が大切であると感じました。

大山:「発信したくなる」という気持ちは、日々の積み重ねから生まれますよね。

最近、LIGはCIをリニューアルしました。リニューアルのお披露目の日に、背景を含めてSNSで発信しました。すると、社内のメンバーだけでなく、LIGブログの読者やお客様、さらには過去に退職したメンバーまで、たくさんの人たちがSNSで反応してくれました。メディアとして、これまでさまざまな記事を発信してきて、みなさんとのつながりを改めて実感しました。そして、みなさんが「発信したい」と思ってくださったことは、とても喜ばしいことでした。

山口:「発信したい」という気持ちは、関心を寄せている証拠です。そして、自分たちが想像している以上に、人はいろいろなことに関心を持っている、と認識することが大切です。

たとえば、人事情報をプレスリリースとして出すことに対して、「誰も関心がないのでは」という声を聞くことがあります。しかし、かつて仕事でお世話になった上司や同僚、取引先の担当者のことを思い出し、関心が生まれる瞬間はあるでしょう。一見誰も関心がなさそうな情報でも、求めている人は必ずいるので、どんどんプレスリリースを発信してほしいですね。

今後のPR・メディアの行方とは


大山:近年、時代の変化とともに、メッセージの伝え方は急速に変わってきています。特
に、コロナ禍の影響からも企業発信の在り方が見直されてきたと思います。山口さんは、今後PRはどのように変化していくと予想しますか?

山口:これからのPRにおいては、長期的なトレンドを捉えることがとても大切だと思います。近年の企業活動では、サスティナビリティやソーシャルグッドといった言葉が当てはまりますね。

これまでのPRにおいて、企業はクリエイティビティを発揮し、多くの人に認知を広げていくことが求められていました。これからは、具体的に行動して、その様子を伝えることが求められていく。

たとえば、国際的な問題・課題に対して、企業が自社サービスやプロダクトを通じてどう向き合うか。表明するだけでなく、その考えをビジネスプロセスに反映させる。最近、海外工場を展開する日本企業は、現地の人権問題への向き合い方を迫られており、ビジネスプロセスを変更するケースも見られました。

注目を浴びるからやるのではなく、当たり前にその過程を発信していくことが、選ばれる理由になるんです。

大山:サービスの機能やデザインではなく、企業の姿勢が選ばれる理由になると。

その考えは、メディアの運営でも大切にしたいことですね。オウンドメディアで、企業の情報発信をする際、自分たちの強みを一方的に発信するのではなく、社会的な課題に対して、自分たちがどう向き合い、企業活動やサービスに落とし込んでいるのか。その背景と行動を正しく伝えることが重要だと感じています。

本日は山口さんとお話をさせていただき、共通の思いを感じながらも、参考になるお話をたくさん伺うことができました。ありがとうございました。

株式会社PR TIMESの情報はこちら

この記事のシェア数

アパレル企業にて販売員を経験後、編集プロダクションにて、エディターとしてのキャリアをスタート。雑誌編集、アパレルブランドや商業施設の販促物・Webコンテンツ・店頭装飾物・ビジュアル制作などに関わる。2020年7月にLIGに入社し、さまざまな企業のオウンドメディア支援に携わる。2022年7月より広報チーム所属。

このメンバーの記事をもっと読む
LIG CEO TALK SESSION | 5 articles
「LIGブログ」のノウハウを活かしたコンテンツマーケ支援
お問い合わせ サービス詳細/実績