【東京宝島体験レポート】新島編(後編)コロナ禍のピンチをチャンスに変えた“珍”乗り物

【東京宝島体験レポート】新島編(後編)コロナ禍のピンチをチャンスに変えた“珍”乗り物

ツマミ具依

ツマミ具依

こんにちは、ライターのツマミです。

さて、前回の記事で新島の名所を紹介してきましたが、後編となる本記事では東京宝島事業の一環で新島が取り組む“ベロタクシー”プロジェクトについてご紹介したいと思います。

この取り組みは、東京宝島のプロジェクトによって始動し、住民ドライバーがベロタクシーと呼ばれる乗りものを使って島を案内することで、来島者が島民と触れ合いながら島の宝物である「ヒト・モノ・コト・バ」に出会えるという画期的な取り組みです。

今回は乗車体験するとともに、導入までの過程やそこに込められた想いを聞きました。

※事前にPCR検査で陰性結果取得のもと、感染拡大防止に努めて撮影・取材しています。

ベロタクシーってなに?

ベロタクシーとは、自転車版の人力車のような乗り物。前方がペダルを漕ぐ運転席で、後方に1人乗せられます。電動付きアシスト自転車と同じようにペダルを漕いで走らせる仕組み。

島内を周遊するベロタクシーの新島体験プランは、1回5,000円ドリンクつきで、十三社神社、羽伏浦海岸、新島港の桟橋の主に3つコースがあります。体験プラットフォーム「aini」から申し込みが可能です。

案内してくれる島の方

前編でもご紹介しましたが、改めて新島を案内していただくお二人をご紹介。

てるさん(左)
新島の地域コーディネーター。出身は荒川区で、21歳のときに手にした求人情報誌の「東京脱出」のコーナーをきっかけに、父島ではじめての離島暮らしを経験。新島生まれの奥様との結婚を機に21年前に移住。本名は「西胤輝之進(ニシツグ テルノシン)」、かっこよすぎる。

あつとさん(右)
新島出身。小5から素潜りを得意とし、シュノーケル、EFR一次救命処置、水難救助員などの資格を保有。現在は西表島でエコツアーガイドをしている。23歳とは思えない知識量と落ち着きの持ち主。

ベロタクシー乗車体験

icoわたし変わった乗り物が大好きなんですよ! しゅっぱ―つ! 
ico今日の風向きだと……、コーガ石の街並みを見ながら羽伏浦海岸のコースで行きましょう。
ico風向きを読んでいる!

icoベロタクシーなら車では通れないこんな細い道でも案内できるのがいいところです。ここの塀は全部コーガ石でできています。民家の7割は何かしらの形でコーガ石を使っているんですよ。
icoあのモヤイ像や新島ガラスのもととなった石ですね! たしかに石造りの家が多いなーと思っていましたが、やはりコーガ石でしたか。
ico昭和30年までは島民専用の採石場があって、島の人は山から石をカットして運んで、家の材料にしていたんです。コーガ石は、空気がいっぱい含まれてスポンジ状になっていて、のこぎりで切れるほどやわらかいので加工しやすいんですよ。
icoよく見るとブロックの形が一つひとつ微妙に違って、手作りの温かみを感じますね。

ico屋根まで全部コーガ石! 遺跡みたいでカッコイイ!
icoコーガ石は、耐熱性が高いので、冬は暖かくて夏は涼しい状態が保てるんです。防音性や除湿にも優れています。
ico天然素材なのに優秀すぎでは……? 
icoでも今は石が減ってしまって、こういった家をつくるのは難しいので、貴重ですよ。


ベロタクシーの時速は10kmほど。のんびりとしたスピードと穏やかな島の空気がシンクロします。さえぎるものがないので、島の風や空気を肌で感じられるのも気持ちいい~。

一般的に島は坂道が多いのですが、新島は比較的平らな地形なのでベロタクシーが可動できるんだとか。

icoベロタクシーの存在は島の人に徐々に認識されていて、見かけた子供が「あれ乗りたい!」って言ってくれたり、おばあさんに「お墓参りに行くんで連れてってくれ」と言われたり。でもタクシーとしては使ってないんですけどね。
icoあぁ、たしかに、ベロ“タクシー”ではあるんですけどね。いろんな乗り物があるなかで、なぜベロタクシーだったんですか?
icoそれについては話すと少し長くなるのですが……。
icoではのちほどゆっくり聞かせてください~!


島の人の話をいろいろと聞けるいい機会でもあり、新島の日常や歴史を感じることができますよ。

icoそういや新島って、昔、ナンパ島って呼ばれていた時代があったみたいじゃないですか。こののどかな雰囲気からは想像もつかないですね~。
ico70年代ごろですね。人口3,000人なのに、一日で1万人もお客がきてたこともあったみたいで、当時のことは“島バブル”って呼んでます。
ico住んでる人の3倍も人が来ちゃってたんですか!
icoそうなんです。若者がサーフィンしながらすごくはっちゃけてたみたいで、父親曰く「キレイな人がいたらナンパしないと失礼」っていう空気だったらしいですよ。
icoチャラい~(笑)


コーガ石の通りを抜け、空港横の道をまっすぐ突き進むと、ゆっくりと羽伏浦ブルーが見えてきました。

羽伏浦海岸へ到着です。車で行けばあっという間の道も、ベロタクシーならじっくり味わうことができますね。
 

羽伏浦海岸の青い海にベロタクシーの黄色い車体がとても映えて、写真をたくさん撮っちゃいました。ベロタクシー体験記念の写真撮影スポットとしてぴったりですね!
 

特別にベロタクシーの運転も体験させてもらいました。スワンボートのように脚を伸ばしてペダルを漕ぐとゆっくり車体が動きます。踏み込むと少しアシスト機能が働くような仕組み。面白い! アクティビティ的な魅力があったので、参加者が運転体験できるようにゴリ押ししておきました。

icoドイツ製なんで日本人だと脚の長さがちょっとキツイんですよね(笑)
icoなるほど。無駄に傷つくとこでした。


夕暮れどきなら、新島港の桟橋コースがおすすめ。ベロタクシーなら夕日の黄金の輝きにゆっくり浸れるでしょう。

新島の課題解決と未来

ベロタクシー体験を終え、宿に戻ってきた一行はお二人に「ベロタクシー」を活用したプロジェクトについてインタビューさせていただきました。

icoベロタクシー、とっても楽しかったです! 改めてお聞きしたいのですが、ベロタクシーの導入はどんな経緯だったのでしょうか?
icoまず、島の課題を楽しく解決したいという思いが東京宝島のプロジェクトにありまして、それが二次交通の課題でした。
ico二次交通というと、島に到着してからの交通手段ってことですか。
icoそうです。新島って島までのアクセスは船や飛行機があっても、島内の交通手段が全然足りてないんです。タクシー会社は1社で、行政バスも本数が少なくて、レンタカーはありますが運転できない方の移動手段が少なく、実際、港でバスに乗り切れなくて困っている人を見かけたこともありました。
icoなるほど。島に着いたはいいけれど……、ってことですね。

icoそうなんです。それに、今は宿泊事業者が基本的に港や空港にピックアップしに行ってるんですがその負担が大きくかかっていて、船や飛行機のすべての便を合わせると一日10回以上往復しなくちゃいけないんですよ。その間に宿泊の準備もしなくてはならないのに。採算が取れないと廃業に追い込まれる要因にもなりかねない。

でもダメなものを目くじら立てて批判してもしょうがないじゃないですか。そこで解決方法として、ライドシェアでのモビリティサービスを検討してたんです。島の人がクルーとして自家用車で送迎できたら、二次交通の課題が解消されるのではないかと。
icoたしかに! とてもいいアイデアですね!
icoそれがコロナをきっかけに計画が流れてしまったんです。車の中は密だし、感染リスクを考えると他人を乗せるなんてできないですから。
icoあぁーーここにもコロナの影響が……。

ベロタクシーがぴったりな理由

icoそれでも、この交通の課題を島で共有して問題提起していくことを考えて、別の手段を探していました。それで楽しく移動できて通気性がよくて……と。タイのトゥクトゥク、シクロポリタンとか。で、日本の観光業を調べていたときにベロタクシーを知ったんです。
ico葛飾区の柴又でベロタクシーに乗れると知って、行ってみて機能性について教えてもらいました。換気の問題もクリアしているし、ガソリンも使わないので地球にも優しい、メンテナンスもそんなに大変じゃない。これは一番いいのではないかと。
icoなるほど! あの窓がない開放的なつくりはコロナ対策にもなっていたわけですか。
ico何より、ドライバーと乗客が話せるのがいいなと思いました。宝島プロジェクトでは「新しい、でつながる島」というブランドコンセプトを掲げています。島に点在する宝(魅力)をめぐるなかで、島に訪れた人と、島に住む人が新しい仲間となる関係をつくって新しい価値を生み出してほしいという思いが込められています。ドライバーの島の人と乗客との交流が生まれるベロタクシーは、その点でもぴったりでした。
icoコンセプトにもマッチしたということですね。コロナ禍でもこうやって形にできたことは、苦心の賜物ですね。

icoそうですね。コロナ禍で何もできなかった、で終わらせず、課題解決のシンボリックなツールを生み出せたことは本当によかったと思います。交通の問題は、島の人の生活にも関わってくるんです。いまは自分で車を運転できても、僕らも年を取ればそうもいかない。そうなったときのためにも、自家用車のドライバーさんがたくさんいればお互いハッピーなれると思って。

ですが、いきなりライドシェアを訴えても島の人にはあまりピンと来ないと思うので、理解を得られるためには段階が必要になる。だからベロタクシーは収益化が目的ではなく、きっかけづくりに有効だと考えています。

宝島プロジェクトでは、毎週火曜日にウラシマ会議と名付けてフランクに話し合っていて、そこでベロタクシーの新しい活用方法なども検討しています。最近は、PR映像をつくってベロタクシーの認知を広めようと取り組んでいて、これからいろんな可能性があると期待しています。


ベロタクシーで出迎えてサプライズに使ったり、足腰の弱いおばあちゃんを送迎したり……。村長も「通勤で使おうかな」なんて言ってくれました。リップサービスですが(笑)
ico村長のお墨付き! ベロタクシーの今後の可能性に期待ですね!

同じ島でもこんなに違う

icoあらためて新島の魅力って何だと思いますか?
ico新島って“ちょうどいい島”だなって感じてます。
icoちょうどいい島? どういうことですか?

icoほかの島に暮らすことで、わかったことがあるんですよ。今、沖縄の西表島で自然ガイドとして住み込みで働いているのですが、人口が新島とほぼ同じで2,000人くらいで。


でも、土地が大きいので集落が点在して、どこにどんな人が住んでいるのか全然わからないんです。新島は、顔がわかる関係で距離が近くて優しい。土地の大きさで、こんなにも人間関係が変わってくるんだって衝撃を受けました。
icoベロタクシーで島内を案内してもらっているときも、バッタリ島の人と遭遇することが度々起きてましたよね。なんだか大学のキャンパスを思い出しました。友達や知り合いがすぐ近くにいる安心感がありますね。
ico逆に島が小さすぎると生活の不便さが目立ってしまうこともあります。新島は観光資源もあるし暮らしのインフラも整っているし、新島って住みやすかったなってつくづく思います。
ico生活圏がまとまっているので、時間が有意義に使えるところも気に入ってます。それに人との距離感が近いと趣味の仲間も見つけやすいんですよ。海もすぐそこなのでサーフィンのクラブがあったり、ウォータースポーツはもちろん音楽好きは一緒にライブを開催したりしてますね。

新島の未来を担う若者

icoあつとさんは今は新島に住んでいないそうですが、今後戻る予定はありますか?
icoはい。2年後をめどにUターンする予定です。もともと新島のツアーガイドをやることを計画して、ほかの島でガイド業に就いていました。新島にはツアーガイドをしている人が誰もいないので、じゃあ僕がやろうかなと。
ico修行に出ていたわけですか。はぁ~志が高い!
ico僕だけなくて、最近はUターンする人も増えている印象です。昔は「島にいても仕方がない」という考えが強くて、島から人が離れてしまったみたいなんですが、その反省からか今は島のことをよく考える人が増えたと思います。
ico会社を退職してUターンで自分の好きな店を開く人もいますし、コロナでリモートワークが進んで移住者も増えてきました
ico新島のガイドでは、二種の船舶免許を取得したので、お客さんを船に乗せて海から見るガイドもやっていきたいと考えています。白ママ断崖という火山灰の白い地層の絶壁があるのですが、道の落石が多くて今は行けなくなっているんですよ。こういった観光客が自分では行きにくい領域も案内できたらなと。

icoあとは、魚突きとかで魚を捕るのが趣味なので、漁業権を取得して魚を卸すこともやっていきたいです。

温暖化の影響で捕れる魚の種類が変わってきているんですが、漁業ではなじみの魚しか扱わないので、せっかくおいしい魚もあるのにもったいないなと思っていて。ガラスアートをやっている友人も賛同してくれているので、一緒に副業でやることを考えています。


ほかにもメディア展開とか、やれてないことっていっぱいあるので、新島の魅力はもっと開拓できると思っています。
icoあつと、ずいぶんと具体的じゃないか~! 頼もしい! 島の将来のことでモヤモヤした不安があったんですけど、あつとの話を聞いて晴れましたよ。
ico私も感心してしまいました。こんなに頼もしい若者がいてほかの島も羨むんじゃないでしょうか。“1島に1あつと”ほしいですね(笑)
ico勘弁してください(笑)

お土産にはやっぱり……

いよいよ、お別れのときです。お二人は新島空港まで見送ってくださいました。最後まで温かいおもてなしがありがたいです。

icoお土産にどうぞ。
icoこ、これは……?

icoくさや型のアルミ製洗濯バサミの“HOSSY”です。

最後までくさや押し! くさや未経験でしたが、すっかり思い出の品になりました。

“ちょうどいい島”の意味

新島は、アットホームな雰囲気や豊かな自然がまとまっていて、コンパクトシティならぬ“コンパクトビレッジ”でした。インタビューで聞いた「ちょうどいい島」というフレーズがじわじわと腑に落ちるようになりました。

そして、今回つきっきりで案内してくれたお二人。取材先だけでなく、食事や移動時間も共に過ごすことで、観光面だけでなく、新島の穏やかな暮らしや和やかな雰囲気も感じさせてくれました。そこにビジネスライクな印象は一切なく、とても真心を感じるものでした。これはきっとお二人に限ったことではなく、環境が人をつくることを考えると、新島の風土を表しているように感じます。

ベロタクシーに乗れば、そんな観光名所や住民の人柄がまるっとわかっていただけるはず。新島に行ったときは、ベロタクシーから島の魅力を体感してみてくださいね。

新島についてもっと知りたい方はこちら

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