おはようございます、こんにちは、こんばんは。デザイナーのまべです。夏の暑い日が続いていますがいかがお過ごしでしょうか?
昨今リブランディングの際に、オリジナルフォントを開発されているのを見かけることが多くなってきました。
特に海外ではAppleがSan Francisco、GoogleがマテリアルデザインのためにRobotoを制作したのに代表されるように、Netflix、Airbnb、YouTubeなどもいち早くその流れを汲み、日本でもメルカリ、Rakuten、asics、DENSOなど、グローバル事業を展開する企業がオリジナルフォントを使いブランドコミュニケーションを整えている印象があります。
また、ウェブデザインの95%はタイポグラフィという言葉もあるくらい、文字は情報の伝達、デザインにおいて重要なものです。また、文字は一つひとつに形状があり、それらを組み合わせた佇まいがそのものの印象を決めたりもします。
そこで、ブランドとタイポグラフィの関係性とは一体どのようなものか、という疑問について今回は様々な企業のブランディングを手がけているMIMIGURI(ex. DONGURI)でkatakata brandingというオーダーメイドでコーポレートフォントの制作を行うサービスを展開する今市達也さんと同チームマネージャーの五味利浩さんにお話を伺いました。
Profile
タイポグラフィックデザイナー : 今市 達也東京造形大学造形学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域を卒業後、新卒で株式会社DONGURI(現MIMIGURI)に入社。MIMIGURIではFurnaceチームに所属し、CI開発やグラフィックデザインを中心に制作。2020年にフォント開発事業「katakata」を開始。受賞歴:日本タイポグラフィ年鑑入選など。著書:『レタースペーシング タイポグラフィにおける文字間調整の考え方』寄稿:『+DESIGNING』vol.50、Adobe Plus Oneなど。 |
プロダクトデザイナー : 五味 利浩東京造形大学造形学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業。卒業後代表ミナベトモミと株式会社DONGURI(現MIMIGURI)を創業。Furnaceチームに所属しマネージャーを務める。消費財を中心に、VI制作からプロダクト・パッケージまで一貫したブランディングに携わる。 |
タイポグラフィックデザイナーの領域とは
まべ:今日はよろしくお願いします。まず今市さんの現在の業務の範囲を教えてください。
今市:アートディレクションからデザインまで状況に応じて担当しています。最近だと上流から入ることが多くて、ワークショップをしたりデザイナーが広く関わることは多いですね。
まべ:なるほど、教えていただいたCariotというモビリティ業務最適化クラウドサービスのリブランディングの案件は、ロゴからオリジナルフォントまで手がけていらしゃるということなんですね。
今市:そうですね、IoTを使った自動車のサービスで、CI分野の開発から始まり、1年ほど前から携わっています。当時ロゴ自体は既存のものがあったのですが、理念が反映されていない課題がありました。
また、サービスの転換機を迎えるタイミングでCIの見直しを行う相談を受け、ロゴから会社で使用するアイテム、オリジナルフォントまで制作を手がけさせていただきました。フォントはただいま開発中で、リリースの準備を進めています。
まべ:クライアントさんから「オリジナル書体を作りたい」といった単発の依頼は想像しづらいのですが、仕事はどのような依頼で来ることが多いのでしょうか?
今市:普段はCIの見直しからご相談をいただくことが多いです。今回の書体制作に関しては、CIの見直しの中でこちらから提案させていただきました。一般的にCIはシンボルマークが主役になるのですが、マークと合わせて複数のロゴタイプも提案したところ、ある案をとても気に入っていただけたんです。そこで、そのロゴタイプを軸にシンボルを制作していきました。
その気に入っていただいた案の6文字がCariotのマインドや人格をうまく体現した形になったので、それをブランドの声に起用できれば、世界観やイメージの刷新にも繋がると思い、オリジナルフォントも提案させていただきました。
まべ:シンボルマークをつくるかどうかの問題もあると思っていて、例えばMIMIGURIさんのロゴはシンボルがない形を取っていますが、そういった判断はどうされていますか?
五味:Cariotの場合サービスであり、アプリなどいろんな局面で使われることが想定されるのでシンボルマークの存在は大きいですよね。
今市:そうですね、どういうところで使われるかということが判断基準となります。実際に表示されるエリアの広さなどです。アプリのような狭いエリアでも機能することが大切でした。
旧DONGURIのロゴタイプとフォントも制作しましたが、あのロゴはシンボルがなくても頭文字のDだけでシンボルになりうるといった作り方をしていますね。
まべ:実際の文字制作はどのようなフローで行なっていますか? Cariotのようにロゴタイプを作ってからデジタルフォントに展開するような流れが多いのでしょうか?
今市:ケースバイケースでCariotに関してはロゴタイプが先行しています。そのため、ロゴタイプとデジタルフォントの書体は正確には同じ形ではないです。
同じ形ではないのですが、「世界を滑らかにつなぐ」という先方が大事にされていた理念をいかに文字の形としてビジュアライズして伝達させるか、というコンセプトは同じです。
曲線の形やラインを空気抵抗が少ない流線型にしたり、小文字のiのドットを右にずらすことで、車に乗っている人のように見せる、といったイメージでデザインしています。
「Cariot」
まべ:そういったディティールはどこまでクライアントさんに伝えますか? 僕はフォントの選定に関しては、その書体の成り立ちや背景なども説明したりしていますが。
今市:細かな背景まですべて伝えるべきかは状況に応じて考えます。お客様が自分たちで説明できないといけないので、重要なところを優先的に伝えていますね。
ロゴタイプのときはIllustratorとGlyphs(グリフス)というデジタルフォントを制作するためのアプリケーションの両方を使用しているのですが、デジタルフォント制作はグリフスをメインで使用しています。
デジタルフォントは和文と組み合わせるのを想定していたので、小文字の高さが低くないデザインになっています。Glyphsは日本語対応もしていて、ここ数年ですごく普及しているソフトです。
ボイス・アイデンティティとは?
まべ:オリジナルフォント、タイポグラフィが、ブランドに寄与する部分とはどのようなものでしょうか?
今市:TVのニュースやバラエティ、ドキュメンタリーなどで、すべて同じナレーターがナレーションをしていたら、ブランドの差別化や世界観の構築ができませんよね。そういったことと同じだと思っています。OSにあらかじめ入っているフォントでも品質の高いものはありますが、毎回同じものを使うよりもその都度、最適化されたものを選ぶことが大切だと思います。
まべ:確かに番組のジャンルが違うのに同じナレーターだとトーンが合わないというか。
五味:ブランドがどういう人物なのかをよりわかりやすくするためのツールといったイメージですね。
今市:ブランドイメージに合わせて声優をキャスティングする感覚が近いと思います。面白いのは、オリジナルの声を作れることです。高い声や低い声、黄色い声がいいとかもう少し幼い声がいいとか、人間の声帯はオリジナルで用意することは困難ですが、文字としての声なら可能ですし、可能性の広さにロマンを感じますね。
まべ:katakata brandingのWebサイトにもにも「ボイス・アイデンティティ」という言葉があって、声も書体も音で伝えるのか、形で伝えるのか違いはありますが、言葉を伝えるという役割は同じですよね。
今市:文字を声で例える考え方は度々目にする考え方だと思います。自分の場合、本を読むときにも頭の中で音読するような感覚があるので、文字によって声色を想像しながら読んだりしています。
まべ:オリジナルフォントを作ったことで、印象的なエピソードはありますでしょうか?
五味:旧DONGURIのコーポレートフォント「CLOONEY」制作時の話ですが、当初メンバーが新ビジュアルに対するイメージがついていないタイミングで、今市がまず複数のロゴタイプに落とし込みの検証を行いました。背景ストーリーと紐づかせたロゴタイプをメンバーに見せた際、みんなのイメージや気持ちが一気にまとまり、プロジェクトが一歩前に進んだということがありました。
旧DONGURIのコーポレートフォント「CLOONEY」
まべ:フォントを見てプロジェクトの一体感が生まれたといったところでしょうか。
今市:ウチは結構みんなに理念が浸透しているのでスタートとしては基盤がしっかりしていたのですが、フォントを作ることによってタイプフェイスを制作した我々のチームが関わっていなくても自由にオリジナルのノベルティに活用するなど、自分ごと化して展開するきっかけになったと思っていて、コーポレートフォントを採用するメリットを強く感じています。
書体制作の学び方
まべ:少し趣向を変えたことをお聞きしますが、今市さん自身が、文字、フォントに魅力を感じるようになった体験はいつ頃でどのようなものでしょうか?
今市:デザインを学び始めた美大生の頃に、写真やイラストは誰が撮った、誰が描いたものかわかるんですが、フォントに関しては初めからパソコンに入っているので、出所がわからない。その背景がわからないものをデザインに使うことに対して、疑問を抱いて調べ始めたという感じですね。
まべ:お話を聞いているとタイポグラフィックデザイナーというキャリアを自然に歩んでいった印象ですが、どのような学習をしていきましたか?
今市:やりたいことのために、フォントを研究しているという感じですね。文字周りの学習に関しては、基本的には本から学んでいきました。ただ独学だと自信がなくて誰かと話をする場の必要性を感じたので、講演会にいったり、勉強会に参加するといったコミュニケーションを大事にしています。
また、字游工房の書体設計士、鳥海修さんのもとで1年間和文の書体設計について学ぶ「文字塾」という私塾に通ったり、コロナ前までは月1くらいで勉強会に行ったりしていました。
勉強会は青山ブックセンターで開催している、TypeTalksというイべントによくいっています。「TypeTalks」は、登壇者が一方的に教えるセミナーではなく、登壇者と会場の参加者が交流しながら楽しく学べるトークイベントで、とてもお勧めです。
まべ:それは僕もぜひいってみたいですね。普段からしていることや、日常的にしていることはありますか?
今市:最近よくしているのは、街にある看板の文字とかをみんな撮っていると思うんですけど、僕は声色目線で、(そのフォントが)人間に例えたらどんな人でどんな声なのかっていうことを考えています。
どういった形がどういう声色になるのかなっていうところを考察していって引き出しが増やせれば、もっと面白い文字が作れるかなと。
まべ:僕も古い看板の写真は撮ったりするんですが、そういったことは考えたことがないですね。
五味:ちなみに、カリグラフィとかはやっていたんだっけ?
今市:カリグラフィは少し勉強しているくらいです。タイプデザイナーが全員カリグラフィを通っているかというとそうではないようです。
ただ、文字は筆記具の形にも左右されますよね。例えば大文字のAは左の線が右の線よりも細いんですけど、何でそうなるのかって実際に平筆で書いてみないとわからないので、タイプデザインをする上で必要な感覚を得るために勉強しています。
五味:カリグラフィはあまり普通のデザイナーはやらないのかなと思います。はたから見てると結構実体験に基づいて作っている印象がありますね。
今市:昔の古地図などに出てくる銅版彫刻系書体という欧文のスタイルがあって、それがとても繊細で美しいんです。和文でもその印象を感じる書体がないか探したのですが見つけられずでして、結果自分で作ることにしました。
イタリアに行ったときに、銅版彫刻の印刷物がたくさんある古い古書店に行って、そこで見つけた古地図がすごくかっこよかったんです。そこからインスピレーションを得て「あかがね明朝体」という書体を作りました。
「あかがね明朝体」
まべ:なるほど、そういった画面のなかのデザインだけでなく、フィジカルなアプローチも大事にしているということですね。書体制作に興味がある方へ、お勧めする書籍や学習方法があれば教えてください。
今市:小林章さんの本『欧文書体のつくり方 美しいカーブと心地よい字並びのために』がオススメです。
今市:これは、欧文のタイプデザインにフォーカスした本です。例えば目の錯覚に対する処理や大文字のPを作るときの線の引き方など、小林さんが普段どういう視点で文字を見ているのかが学べます。
また、タイプデザインはA–Zの文字を作れば完成ではなくて、それらの文字がきれいに組めるかを検証する工程があります。つまりタイプデザイナーにもグラフィックデザイナーと同様に、美しい組版技術のスキルが求められると考えます。欧文の場合、髙岡昌生さんの『欧文組版: タイポグラフィの基礎とマナー』がお勧めです。
和文だと、大熊肇さんの『文字の組み方―組版/見てわかる新常識』がとてもわかりやすいです。和文の組版から平仮名の作りまで、幅広く大事なポイントが学べます。
まべ:好きなフォントデザイナーや目標にしている方はいらっしゃいますか?
今市:本当にたくさんいらっしゃるのですが、字游工房の鳥海修さんです。文字塾では文字を作る技術や視点だけでなく、文字作りへの心構えや向き合い方も教えてくださりました。
書籍『レタースペーシング タイポグラフィにおける文字間調整の考え方』について
まべ:今回レタースペーシングに関する本が7月に発売されるということでそのお話も伺いたいです。この『レタースペーシング タイポグラフィにおける文字間調整の考え方』は、以前作られた同人誌が元になっているということですが、スペーシングに特化した本を作る経緯はどのようなものでしょうか?
今市:新人時代に勉強のためにまとめていたノートの中のひとつに、レタースペーシングのノートがありました。スペーシングは人によって心地よいと感じる感覚が異なり、また時代によっても変わるものです。そこが面白いと思い、同人誌では自分の覚書のような形で好きにまとめさせてもらいました。
まべ:同人誌と今回の書籍の違いはどのようなものになりますか?
今市:今回執筆した本はより読者に重きを置いたものになります。前回は自分の覚書としてまとめたものなので、自分が思い出すために作ったのですが、今回は新卒のデザイナーやスペーシングに自信がない方に向けて書いています。
まべ:僕はまだ同人誌の方しか拝見させていただいていないのですが、とても驚いたのは、参考文献の多さです。かなり古い本までリストアップされていたのですが、スペーシングの練習でオススメの上達方法はありますか?
今市:とにかく世の中にあるロゴタイプのレタースペースをたくさん観察することです。自分がなぜ良いと感じたのかを言葉で説明する練習をすることで、スペーシングの感覚が少しずつ磨かれると思います。僕も普段からよく観察して考えるようにしています。今回の本ではそのなかでも僕が良いと思うロゴタイプを考察とともに掲載させていただきました。本の最後には練習問題もあるので、ぜひチャレンジしてみてください。
参考文献はタイポグラフィのものはあっても、レタースペーシングに関するものはほとんどないんです。スペーシングにフォーカスして言語化された本は、当時僕が見つけたもので海外と日本を合わせて2冊の薄い冊子のみでした。あとはデザインの本の中で数ページ紹介されているものがあるくらいでした。
まべ:ということは、これを読むのがオススメということになりますね(笑)。
今市:新卒時代の自分が欲しかった本を作りました。当時、スペーシングに対して正解がわからなくなっていた時期があったんです。とある名刺を作っていた時に複数の先輩から異なるスペーシングの赤字をいただいたりしました。人によって異なることをきちんと理解していればここまで思いつめなかったのですが当時は気がつきませんでした。
また考え方の示し方がないので、学校などでも「ここが狭い」「空いてる」とか感覚的な部分でフィードバックが終わってしまうケースが多くて、なんで詰まって見えるのかなどといったところまで深掘りした議論の機会って意外に少ないんじゃないかなと。
本書がきっかけでスペーシングにもっと興味を持つデザイナーさんが増えたり、各々が持つスペーシングの感覚を見せ合うようなワークショップのきっかけになれば嬉しいです。
まべ:表紙や特設サイトのメインビジュアルのイラストは五味さんが手がけられているということですが、写研やHelvetica Nowなど最近話題のフォントトピックが盛り込まれて面白いと思いました。これは、五味さんのアイデアですか?
五味:表紙に描かれているフォントトピックについては前作の同人誌に引き続き今市のアイデアです。
今回のキービジュアルでは前回のネタをさらに進化させる気持ちで描いています。具体的には、人物たちの世界観をもう少し広げる意味合いで2点透視図法を使い構図に変化を与えています。構図が広がることで結果的に前述したフォントトピックも盛りだくさんにすることができました。
また前回同人誌のビジュアルとの共通性を持たせると同時に、書店におかれる書籍として、手にとって読んでいただきたい方々のことを想像しながら今市と一緒に丁寧に絵柄やキャラクター、モチーフを細かく設定していきました。
まべ:なるほど、細部にまでお二人のこだわりが詰まっているビジュアルということですね。特設Webサイトも、字詰めがされていくアニメーションなどを取り入れて、玄人好みのギミックが盛り込まれていてとてもユニークですよね。
執筆だけでなく、本文に使われている書体のデザインもされているということですが、こだわったポイントなどを教えてください。
本書籍用に製作された和文書体「グロテスク(仮名)」
今市:ゴシック体は正方形に近いフォルムのものが多いのですが、本書体は本文用の明朝体に見られるようなそれぞれの仮名らしい形を意識してデザインしてあります。そうすることでそれぞれの文字の視認性が高まり、長文を読んだときの読み疲れが軽減するのではないかと考えました。字面が小ぶりの書体は横組みだとパラついて見えがちなので、行間を少し広めに設計することで解消しています。
まだまだフォントの話は尽きない。。
まべ:ところで好きなアルファベットはありますか?
今市:そうですね……ちなみに、まべさんはどうですか?
まべ:僕はRが好きですね。感覚的な理由ですが、非対称で丸みと尖のバランスがかっこよくて、シェイプがすごくいいなと。
今市:どの書体のRが好きなんですか?
まべ:GaramondとかAktiv Groteskが特に好きですね。右下の斜めの線がまっすぐなほうが。
今市:好きでいうと、Bは好きですね。個性が出やすい気がしていて。作りやすいのでいうとHですね。難しいのはSかな。
五味:今市さんはSに厳しいよね(笑)。
今市:全部に厳しいかもしれないです(笑)。Sが一番アラが出ますね。何か厳しいエピソードありましたっけ?(笑)
五味:ここの太さはこういうふうに書いたらこうならないとか、真ん中の線が外側のラインより太いのはちょっと、みたいな指摘を受けたことがあります(笑)。
今市:そういえば、そんなこともありましたね(笑)。Bの話に戻るのですが、Bは二つの楕円が交差するところの高さを変えるだけでも個性が出ます。
あえて上を大きくしたり、幅を変化させるのでも、HよりもBのほうが中の空間が狭い分、変化が大きく見える気がして変化のつけ方が面白かったりします。
線のつけ方も曲線が2個あるので、平筆で斜め30度で書いたときに、右上は太くなって下に降りるほど細くなるんですけど、そこらへんの線の太さでも個性が出て、面白いところがたくさんありますね。
まべ:すごく聞かれる質問だと思いますが、好きなフォントはありますか?
今市:フォントでいうと「Nicolas Cochin」かな。銅版彫刻系のフォントで一つ前のクリスチャン・ディオールが、ロゴに使っていましたね。印刷技法で銅版に文字を手で掘っていくのですが、当時の印刷物を元に作られた書体です。だから正確にいうと銅版彫刻ではなくて金属活字なんです。デジタルフォントでもリリースされていますが、金属活字とは形が違っています。金属活字のNicolas Cochinがすごく綺麗です。
まべ:日本語だとありますか?
今市:日本語だと「游ゴシック体」がやはり好きですね。ゴシック体って記号的で無機質になりやすいスタイルなのですが、游ゴシック体は払いの先端が少し平筆のような処理になっていたりとアイデアが盛り込まれているんです。特有の温かみも感じてそのバランスがすごく心地よいなと思っています。
まべ:游ゴシックは何気なく使っていますが、そこまで考えたことがないですね。最後に今後やってみたいことや展望についてお聞かせください。
今市:今回執筆した本でもオリジナル書体を使っていて、情報の読みやすさや声色をより意識しているので、それをファウンダリーで出せればいいなと。
まべ:それは楽しみですね。ぜひ使ってみたいです。今市さん、五味さん今日はありがとうございました!
あとがき
今回はタイポグラフィ編ということでいかがだったでしょうか。
編集では残念ながら割愛させていただきましたが、以前の新幹線の書体の話やユニバーサルフォントの話、書体のバックグラウンドや様々な書体デザイナーの話など、様々なお話を聞くことができました。
また、お二人の話から滲み出てくるデザイナーとしてのクラフトマンシップにとても良い刺激をいただけました。個人的には和文より欧文書体の方をつい収集してしまっていたのですが、インタビューの後、和文の面白さを再認識し、教えていただいた写研のウェブサイトをくまなく見ていました(笑)。
そして何より、ブランドのメッセージをオリジナルフォントという声に乗せて届けると、よりブランドのメッセージが正しく深く伝わる、という考え方がとても興味深く、冒頭に記載した昨今の企業フォントの流れには、こういった背景があるのかもしれませんね。
インタビュー後に発売された書籍を読ませていただきましたが、非常にわかりやすく多くのデザイナーの方の手助けになる内容となっているので、ぜひ読んでみてください!
それではまた次回お会いしましょう!
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