おはようございます、こんにちは、こんばんは、デザイナーのまべです。
4月、新しい季節ですね。桜もとうに散ってしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。
突然ですが、インタビュー記事を書いていこうかなと思います。
というのも普段お問い合わせいただく企業様から、Webサイトリニューアルの依頼だけでなく、Webを起点にしたブランディングをしたいという依頼をいただくことが増えています。経営戦略としてデザインを取りいれたい、何をすれば良いのか一緒に考えてほしいという企業様に伴走することが多くなってきました。
そんな流れもあり、ただ案件のなかで企業ブランディングに携わるだけでなく、ブランディングやデザインに関わっているさまざまな方の話を聞きに行き、もっと知見を増やしていきたいという欲が生まれてきました。
そこで、昨年デザイン会社として初のIPOを果たしたことも大きな話題になった、株式会社グッドパッチ(以下Goodpatchと表記)のBX(ブランドエクスペリエンス)事業部の米永さんに取材のお声がけをしたところ、ご快諾いただきました。
緊急事態宣言も明けた3月末、デザイナーのななみんとGoodpatchさんのオフィスにお邪魔しました!
▲渋谷のオフィス、実は僕の通っていた専門学校の裏にあります。
クリエイティブディレクター 難波 謙太 イギリスロンドンにて14年間に渡り、デジタルを起点としたブランド体験のデザインや、クリエイター組織のマネジメントキャリアを経て2018年にグッドパッチにジョイン。ブランドエクスペリエンスチームのディレクターとしてマネジメントを務める。 |
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BXデザイナー 石井 翔太郎 イギリスロンドンにてデザインを学び、そのまま現地のデザイン会社でデザイナーとしてヘルスケアやスポーツ配信サービス等、幅広い分野のプロジェクトを経験し、2019年に帰国しグッドパッチにジョイン。BXデザイナーとしてVMV策定からプロダクトまで関わる。 |
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BXデザイナー : Kai Qinワシントン大学を卒業し、ビジネスSNSを主軸としたテック会社でUXとUIを学び、2017年にグッドパッチに新卒入社。デザイナーとしてプロダクトのコンセプトからUIまでに関わり、直近はブランドアイデンティティと戦略からビジュアルコミュニケーションデザインや写真撮影までを担う。 | |
BXデザイナー : 米永 さら沙デジタルプロモーションを主軸とした制作会社でWebデザイナーとしてキャリアをスタート。2017年からグッドパッチにジョイン。UIデザイナーとしてゼロイチのサービス立ち上げに複数関わり、直近はBXデザイナーとしてVMVの策定・価値の言語化など、主にコーポレートブランディング領域を担当。 |
BXデザインって何?
まべ:今日はよろしくお願いします。GoodpatchさんはUX/UIデザインのイメージが強いと思うんですが、BX(ブランドエクスペリエンス)事業部が立ち上がった経緯を教えてください。
難波:BXに特化したチームが立ち上がったのは、ちょうど2年前ですね。それ以前はBXデザイナーという肩書きはなく、全員UIデザイナーでした。その頃のGoodpatchは構造設計は得意だけど、ビジュアルがまだまだでした。僕はそもそもビジュアルよりのデザイナー出身なので、どうしたらビジュアルを強化できるかを考えていました。
海外では、ユーザが触れる「モノ」ももちろん大事ですが、そのサービスやプロダクトの背景にいる組織がどんな夢のもと立ち上がり、どんな歴史を歩んできたかなど、その組織ならではの「ストーリー」をすごく大切にしています。それらがユーザーの体験に反映されるのが当たり前なんですが、日本はまだまだそこが発展途上で、組織の思想やビジョンを言語化してビジュアルデザインに落としていくべきだという考えが発端でした。社内で似た思想を持った人たちが、自然にBXに集まってきた形です。
まべ:なるほど立ち上げは自然な流れだったということですね。
……失礼かもしれませんが、BX(ブランドエクスペリエンス)という言葉はUX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)に比べ、日本国内ではあまり浸透してない印象があります。海外ではよく使われる言葉なんでしょうか?
難波:イギリスを離れてもう6〜7年経つので今はわからないですが、当時はなかったですね。「ブランディング」に集約されていたと思います。
石井:僕が長く経験しているロンドンでは、「ブランドエクスペリエンス」という言葉を大々的に出しているわけではなかったのですが、界隈は自然にやっているイメージでした。
ただ、あくまでも主観ですが、Goodpatchのように組織の内側からゴリゴリやっているイメージはなかったですね。
まべ:ブランディングとブランド体験の違いとは、具体的にどのようなものでしょうか?
難波:消費者に向けたブランドのイメージを変える表層的な部分だけでなく、僕らはどちらかというとブランドの体験に重きを置いています。
どういった理由でこのサービスが誕生したのか、作った人たちの想いなどを組織のコアから体験に落としていくのが、僕らにとってのBXですね。ユーザーが触れるものすべてが一貫した体験であってほしいというのが共通思想です。Goodpatchはデジタルをメインにしている組織で、時代的にもデジタルに触れないブランディングはありえない。デジタルの時代だからこそ体験はなくてはならないものです。
▲頼れるアニキといった雰囲気の難波さん
まべ:御社のブログでBXD Foundationsというフレームワークを見つけました。あれはいつ頃作られたんですか?
難波:あの図は社内でも一番最初にできたもので、組織のコアから作り上げていくということがなんなのかを、みんなで考えて作ったフレームワークですね。
米永:Foundationsは考え方の共通認識。といったものですね。
各々、やりたいことが少しずつ違うけど、実現したいことが一緒なんです。毎週議論し、ホワイトボードで描きだしていった中で完成したっていう感じです。
ステークホルダーの想いを引き出しデザインしていく
まべ:ではデザイナー御三方の案件を見ていきながら、案件のバックグラウンドを聞いていきたいです。
米永さんは、Goodpatchさんが上場されたの際の目論見書のデザインや、FORCAS、Uniposなどインナーからアウターに発信するようなビジネス系のデザイン案件が多いように思います。
言葉とビジュアルのバランスが素晴らしいなと思いお声掛けしたんですが、仕事において大切にされていることはどのようなことでしょうか?
米永:私たちのステークホルダーは経営者、事業責任者などそのブランドに対して思いの強い人たちで、その人たちの想いを中から引き出すことが大切です。当事者の思いから設計することが一番大事だと思っています。
まべ:このBXデザインの取組みで、よく誤解されているようなことはありますか?
米永:BXデザイン=ブランディングというイメージが強く、ブランディングというとマーケティングの領域を想像されることが多いんですよね。キャンペーン施策などで印象や認知をコントロールすることもブランディングにおいて大切ですが、Goodpatchとしてやりたいのは内側のコアの部分をストレートに一貫してつなげるメッセージング作りの部分です。
“表層を整えたりキャンペーンを強みとしているのではない”という認知を啓蒙していきたいですね。
▲BXラジオなどでの発信も活発な米永さん
まべ:経営者と話していくとビジネス知識がかなり必要だと思います。かなり勉強されたのでは……?
米永:そうですね。前提として、クライアントが期待されているのは、事業の本質的な価値やコアな部分を見つけてほしいという依頼です。業界特性や競合と何が違うのか? を紐解いていくとき、ビジネスの知識がないとわかりません。期待を超えるためにいろいろと勉強しましたね。クライアントのビジネスに向き合っていったら自然とそうなりました。
最初のインタビューフェーズでは、いろんな職種の方にそれぞれの立場のお話を聞いて、業務内容を整理して理解して落とし込みます。あとは業界の本を読んだり、クライアントワークをやる中でさまざまな業界を見ていくと、違う業界や業種でも構造が似ている部分があるのを発見しました。そのあたりの知見が溜まってきたので、やればやるほど理解ができるようになってきました。
まべ:クライアントワークの特徴として、例えば医学や弁護士さんなどまったく知らない業界から問い合わせが来て、仕事になったりすると企業理解がなかなかハードだなと思っています。そのようなクライアントを担当する際はどのように企業理解をしていますか?
米永:深く深く知っていくというよりは、広く構造とか抽象度を上げて理解するっていう手法で私はやりくりしています。最近は特殊な業界の方もYouTuberとして発信されている場合もあるので、弁護士さんってこういうこと考えているんだ、と参考にしています。本が苦手だからというのもあるんですけど(笑)。
まべ:理解が大変な企業ほど、知らないことを知っていく楽しさや魅力ももちろんありますよね。
米永:本当のコアな部分の知識はクライアントさんに頼りますね。業界の第一線の方のお話をお伺いするのはとても興味深いです。
▲学術的な例えも交えて話してくれた、ブランドコンセプトの方向性・ストラテジーが得意なカイさん
まべ:ブランドコンセプトの方向性・戦略の組み立てが得意なカイさんは、どのようなことを心がけていますか?
カイ:Goodpatchのビジョンである「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」と繋ぐと、僕は世界を前進させるブランドやブランドエクスペリエンスは、以下の3つを重要視していることが共通点だと思っています。
- – Social significance and impact(社会的意義・社会的影響) ブランドがビジネス、社会、コミュニティ、環境など、周りに重要かつ新たな価値を届けているのか。
- – Socio-cultural authenticity(社会的・文化的真正性) エクスペリエンスの届け先となる人々の事実や精神に、ブランドが真摯に向き合っているのか 人の感情に刺さるか。
- – Purposeful direction and strategy(方向性・戦略の根拠) 意味のある理由と強い根拠(Why)をもとに、世界を前進させるアクションプラン(How)を実現し続けているか。
有名な例としてはApple、Disney、NIKE、Netflix、Starbucks、Nintendoなどがわかりやすいと思います。デザインパートナーシップの場合はブランドと関わるどの案件においても、ビジネスを含めて、「社会と文化」という文脈が意識できるように視座を変えて、そのなかで、あるブランドの本質的な意義に向き合うのがこの時代には必要だと思っています。
まべ:案件の中で、僕はUNICORNさんの8 TRUTHSを含めた「カルチャーデック」というブランドナラティブの設計やデザインが素晴らしいなと思いました。コピーはカイさん自身が作るんですか?
カイ:ブランドナラティブの文章を書いたのが、案件を並走してくださった素敵なコピーライターでした。
僕はBXデザイナーとして、UNICORNさんのブランドナラティブのストーリー設計、ブランドコンセプトの方向性や戦略の策定、カルチャーデックのデザインやアートディレクションなどを狙いました。さきほどの3つを大事にして、「UNICORN」という唯一無二のブランドに向き合いました。
「8 TRUTHS」は、UNICORNさんのブランドナラティブのなかにある一つのチャプターで、「UNICORN」の本質的なアイデンティティが社内外に伝わることがゴールです。なので、コピーライター、UNICORNさんのメンバーやリーダー、多くの方と何度も対話を重ねて共創してきました。
▲長めの髭が特徴的な雰囲気の石井さん。
まべ:ロンドンでの経験が長い石井さんは、サントリーさんのヘルスケアアプリ「SUNTORY+(サントリープラス)」を担当されていて、昨年グッドデザイン賞を受賞されていましたね
石井:Goodpatchに入ってから、ずっと担当させていただいている案件ですね。新規事業としてゼロイチの何を作ろうかというところから、今はグロースまでを担当しています。
まべ:立ち上げとグロースでは仕事の内容も違うのではないでしょうか。石井さんはどちらが好きですか?
石井:0→1の最初の部分が好きですね。ただ、そこだけやって成果が出なかったら意味がないので、作って実装まで一貫して実施できていることが良いことだなと思います。
僕が大事にしていることは、思いをきちんと体験に落とすという意味でのアウター寄りな部分です。そのためにしっかりとビジョンにずれがないかなどのすり合わせをするイメージです。
プロジェクトが長くなってくると、少しの認識のズレがどんどん大きくなってしまいます。ズレているのであれば、もう一度考えましょう、と都度立ち帰るような声掛けや場作りは意識していますね。
まべ:そういったことで何か印象に残るエピソードはありますか?
石井:プロジェクトの序盤に、ビジュアルを進めていく上で、コアである思いをきちんと把握しないと体験に落とせないので、最初にプロダクトのビジョンを作ります、という提案をしたことがあります。
最初はクライアントも「わかりました。」という淡白なテンションだったんですが、プロジェクトを進めていくうちに先方も(そこの大事さを)体感していってくれたようです。始まって一年後にクライアントの方から全員で(20人ほど)集まって、今一度ビジョンミッションの再確認をしたい、と提案してくれたのは印象的でした。
忙しい時期に時間をとって実施しましたね。プロジェクトに人が増えてくると少しずつ認識のずれが顕在化してきたことをクライアントが感じていて、実プロジェクトの進め方などにも影響が出てきた時期だったんです。コアな部分に立ち返り、同じ方向を向いて組織としてどう作っているかに、クライアントと一緒に向き合えたことが、心に残った出来事です。
デザインパートナーとしてのプロジェクトの進め方
まべ:ブレない核の部分を作ることってほんと大事ですよね。一般的な案件の進め方についてお伺いさせてください。案件によってさまざまだとは思いますが、プロジェクトにはどれくらいの期間で入るんでしょうか?
難波:初期は2ヶ月程度のプロジェクトが多かったけど、今は最短で3〜5ヶ月です。一番長くて先ほど石井からもあったSUNTORY+で、2年半ほど。グッドパッチのすべてのケイパビリティをフル活用した現在進行形のパートナーシッププロジェクトですね。
まべ:どのように案件の依頼をいただくんでしょうか?
米永:タイミング的には組織のフェーズが変わる前に依頼されることが多いですね。
人数が増えていくときに共通認識が揃っていなかったりするので、ストラテジーや、カルチャーデックが必要になってきます。まずはフラットに組織課題を見ていきますね。お医者さんの問診のように、現状の課題や雰囲気を聞いていきます。
まべ:例えばロゴを作りたいとか、Webサイトを作りたいという具体的な依頼から発展していくわけではない……という感じでしょうか?
カイ:Goodpatchがこういうアウトプットが得意ので一緒にこれを作りたい、という、アウトプットが決められている依頼もあれば、ありがたいことに単純にGoodpatchを信じるから一緒に何かやりたい、という、可能性が広がる依頼もあります。
難波:最近いただくプロジェクトのお題は様々です。組織課題が入り口のものもあれば、BXとプロダクト開発が並走する案件もあります。後者の場合は、新しい事業やプロダクトの価値を組織全体に理解してもらい、人々の行動を促すようなプロジェクトだったりします。
UNICORNさんの案件では、最初VMVを定義したうえでCIを作り直した後、一年ぐらい止まっていたことがありました。そこから時間を置いて再度声をかけていただくなんてこともあるんですよ。企業が急成長し社員が増えたところで、一度立ち止まって社長の想いを改めて言語化し、全社員に向けたメッセージングの支援をさせていただきました。そして次が、今現在走っていてヨネが担当している「組織内の体験向上」と言った、何段階かに分けて関わっていくようなこともありますね。
まべ:まさに事業部の名称にも表れていますが、デザインパートナーといった感じの関係性でしょうか。
米永:そうですね。プロジェクトやアウトプットベースではありつつ、長期的なお付き合いをして行きたいですね。
カイ:そのペットボトルの水(グッドパッチ ウォーター)にあるロゴも、Goodpatchの「d」と「p」が合体しているところもそういう繋がりを表現していますね。
まべ:パートナーもPですからね。
カイ:すてきです。「d」と「p」が「design partner」と捉えるのもアリですね(笑)。
ななみん:お客様と長期的かつ段階的におつきあいをしていく場合は、最初の段階でそのような過程を踏むと設計し提案するのでしょうか? それとも、企業から信頼されて何ヶ月後かに依頼されていくものなのでしょうか?
難波:基本は後者ですが、前者をやっていきたいと考えています。これからはもっと長期目線で、ロードマップをしっかり立ててコミュニケーション設計していこうね、という話をチームでしています。
ななみん:半年後にここやろうといってもお客様のお力添えがないとできないこともあると思います。
難波:企業の自走する力が大事ですね。僕らができることは限られているので、そのための道筋やメッセージングを一旦整え、経営者の思考がクリアになります。そうすると、また壁に当たりそうなときに相談いただけたりします。
ななみん:道を教えることはできるけど、歩むのはクライアントさん自身ということですね。
本当にクライアントさんがその道が見えるよう、サポートするイメージでしょうか?
難波:一緒に考えていきますね。持ち帰ってこうしますではなく、接点を密に持ちながら一緒に答えを見つける。結局は決めるのも先方、僕らはそれを支える役割です。
だから内側にある本質的なものじゃないといけなくて、僕らが外から押し付けても意味がないんです。
ななみん:なるほど、クライアント自身でマインドとしてこう進みたいって思ってもらわないと続かないというか、コーチングのようなイメージですね。
まべ:仕事の進め方としてはある程度型のようなものがあって、それをクライアントの性質ごとにはめていく感じでしょうか?
米永:決まっているのはリサーチして、言語化して、アウトプットの3ステップ、ということだけ。その中身は組織の状態によって変わってくるので型化できなくて、そこが課題の部分にもなっているなと感じています。
まべ:コミュニケーションの取り方も様々だと思うんですが、ワークショップやヒアリング、その辺りの設計はどうされていますか?
米永:場合によって使い分けていますね。その人のコアの部分、言語化できていないもやもやを引き出すのはデプスインタビューで、対話形式で問を立てて引き出したり、組織を巻き込んで意見を発散したい時はWSを設計するなど、どういうインプットをこちらが得たいかによって引き出し方を変えています。
最初のヒアリングはマストでやっていて、個別の意見を広く収集した中で、どういった着地に収束していこうという相談はプロジェクト内でクライアントと議論しながら決めていきます
まずは話を聞かないと進め方が決まらないですし、クライアントさんが課題と思っていることも、ヒアリングすると本質的には違うところに課題があることもありますね。
カイ:違う職種に例えると、人類学者とセラピストです。
人類学者が状況や環境を観察し、さまざまな課題を提示します。セラピストはそれらをクライアントから引き出す役割なので、その二人の掛け合わせですね。
まべ:僕自身にもプロダクトは好きだけど、メッセージにあまり共感できないなと思う企業があります。社会的にもっとブランディングの価値を感じてほしいなと思っています。
マーケティング観点の思考が日本は強いと思っているんですが、プロジェクトの効果測定などはどうしていますか?
米永:抽象的な課題なので定性的な評価にはなってしまいますね。プロジェクトが終わって数ヶ月後、代表の土屋がクライアントインタビューにいってプロジェクトや組織の変化などをヒアリングしています。今後は一年後インタビューとかはやってみたいですね。定性的な評価になったとしても定期的にやった方がいいと思っています。
石井:プロダクトになると、ブランドにファンになってもらうという目的のもと、継続率などで定量定性どちらも結果が見れるところがありそうです。
ただ数値で測れない部分に着手しないと、最終的な成果物でハートを揺さぶる箇所が作れません。数値だけ見ていると、ハートを揺さぶる手前で止まってしまいます。難しいと思っていますが、そこを乗り越えてやっていきたいですね。
難波:僕らのクライアントは経営者や事業責任者が多く、その方たちが効果を「感じてくれる」ことが一定の成果にはなると考えています。先頭に立つことってきっと孤独なポジションなんだろうなと想像するんですが、そんな彼らの思考をクリアにしてエンパワメントすることはとても価値があるけど、それって定量化できない。ここはもう少しわかりやすくしなければいけないなと思いますね。
まべ:デザイン会社がブランディングをした会社が上場したニュースを見たりすると、デザインの価値が世の中に伝わったのと思って僕も嬉しくなります。
僕自身も上流から案件に入ることは大事だなと思ってはいるんですが、作るまでの期間が長いと早く手を動かしたくなってしまうときがあります。みなさんはそういうことってありますか?
米永:作らないフェーズでも楽しめるし、それもある種アウトプットはあるんですよね。どの領域でも対象が違うけど作ってはいるので、早く作りたいなとは思ったことはあまりないかな。
難波:一方で、僕自身早く作るのは間違いではないと思っていますよ。典型的なBXプロジェクトは情報が揃わないとデザインしないんですが、それがすべてだとは思っていないです。ビジュアルを発散することにより、それがヒントになることもあるんですよね。
言葉の空中戦になったときに、ビジュアルが持つパワーで突破できることもあります。
石井:先にビジュアルつくっても最終的に(思想が反映されて)それが循環すればいいと思います。完璧なものを作る必要はなく、アップデートされるものとして進んでいければ良いかなと。都度見直したり、バリューをアップデートなどしながらがいいと思います。
米永:Goodpatchはプロトタイプ思考が強いので、とりあえず作るという思考はあります。なのでその思想をBX領域に生かせないかなとは思いますね。例えば、会社の紹介資料や事業の価値整理のマップをつくってしまうとかはありなんじゃないかなと思います。
BX事業部のカルチャー
まべ:新しい事業を会社の中で作っていくのは、人を巻き込まなきゃいけないのでかなり大変だと思います。その辺りのコツを伺いたいです。
難波:市場でも分かりにくいし、社内でもわかってもらえない部分もあったので、まずは少ないメンバーの中で考えを揃えないとね、というところからですね。
そこからどう発信するか? というところで土台ができて、イベントやネット上で少しずつ発信していきました。
米永:ありがたかったのは、PRチームが案件事例を積極的にリリースしてくれてたことです。クライアントさんからの声を直接いただいて発信するのが、社内外への価値訴求に一番繋がりました。PRチームがいてくれたこそ成長できたとも言えると思います。
難波:本当そうだね。僕ら発信下手なんですよ、ヨネ以外は(笑)。
カイ:最近は事業部内で、チームのみんなが大臣みたいに役割分担をしています。
発信大臣:米永
体験大臣:石井
ナレッジマネジメント大臣:カイ
大臣:難波
難波さんは素の大臣です(笑)。
難波:発信大臣は、コピーライターの佐藤さんが内部広報大臣として社内に広げてもらい、ヨネさんは外部広報大臣、みたいな感じです。
まべ:大臣制度は負担が軽減できていいですね。発信大臣のお陰で僕もこうやって僕も取材することができました(笑)。事業部の立ち上げから社内に浸透していくまでに、どんなことをしましたか?
米永:今も浸透したかわからないですが、コーポレートBXから始まってプロダクト改善の案件に繋がったり、領域をまたいで続く案件が増えることで、一緒に組んだメンバーが増え、そこからまた広まっていくっていうことを繰り返しています。
カイ:BXという言葉がわかりづらいというのは今でも課題ですね。ブランド、エクスペリエンス、デザインという言葉はどれも、聞く人によっては謎が多いはず。
想い、体験、設計という風に解釈していけば伝わりやすいと思います。
まべ:それでは個人の成長に対して質問をフォーカスさせてください。ブランディングのスキルを向上させるために普段勉強されていることなどあれば教えてください。
カイ:
僕はニュースと時論に触れる事がいいと思っています。社会問題や経済環境に対する様々な意見の記事や、社会に対して変化があってそれを見るのが、世界を前進させるブランドエクスペリエンスのデザインにとって本質的かなと思います。
例えば、非常に柔らかく言うと、アメリカでは黒人が力を持っていなかった歴史があり現状があります。力のある人とない人に分かれていますね。それで社会と文化の思想の違いがある。
ブランドというのは社会の歴史と現状、文化の思想と強い関わりがあります。マイノリティの声や人を大事にする企業は、写真を撮るなら過去と違って、いろんな人種の写真を撮ることで代表されるようにしています。製品を作るなら、いろんな体の形や自由度に合わせられるようになっています。さきほどの社会的意義や文化的真正性ということにつながる内容です。
まべ:かなり深い内容ですが社内でそういった視点や考えのシェアなどされていますか?
カイ:そうですね、基本定例会議と飲み会で行っていますね。歓迎会などもあります。
米永:定例がフリートークスタイルで、案件の相談からとある業界の社会的背景について話したりするんですよ。
最近BXチームのお泊まり合宿で、自分の好きなテーマに対して1日みっちり議論し合うのはすごいよかったですね。
難波:今年の2月にBXの領域を、“インナー”、“プロダクト”、“デザインシステム”、“アウターコミュニケーション”の4つに分けました。それぞれ担当者がいるんですが、この4つがつながって理想のBXが完結するというイメージです。
米永:私は、インナーブランディングから入ってどうやって採用やカルチャーデックの領域に広げられるかシェアしたんです。カイはフューチャービジョンの話をしてたよね。
石井:僕はなぜアウターに落とすのが大事なのかとか。個人で地方創生などもやっているので、そこもビジョンを立てて、どうやって体験に落としていくか。という話をしましたね。
難波:来れなかったメンバーもいたのでZoomを繋ぎながらやりました。早く終わらせて飲もうって言ってたのに……気付いたら6時間くらいたっていたんです(笑)。
ななみん:それぞれが得意な領域があって、そこのピースがバランスよくはまっていったのは奇跡的ですね。意図的に足りないところを補うように採用していったんでしょうか?
難波:慎重に採用していったからというのもあります。あとは皆の得意・興味領域を最大限に活かすとこういう結論になった、とも言えますね。今ここにいるメンバーで言うと、米永→カイ→石井の順でつなげていくと一貫したBX体験の提案ができるんです。組織の内側から入り→戦術→プロダクト→アウターに落とすというような流れをとれる、良いチームです。
▲みなさんの言語化スキルに頷くしかない筆者
まべ:いや、それはすごくバランスがいいというか強いチームですね。
ななみん:社内の中でUI/UXチームとBXチームがいるからこそ実現できることが、かなりありそうですね。
難波:そうですね。結局BX単体の価値やできることは限られています。だからエンジニアによってプロダクトに落としこんでもらって、すべてが繋がったときに、Goodpatchの価値が最大化されると思っています。
まべ:なるほど、やはりさまざまな専門家同士の共創、掛け合わせによって強いプロダクトが生まれていくということですね。この辺りは偉大なプロダクトは偉大なチームがつくるという、Goodpatchさんのバリューにも繋がるところかなと思います。
本日はありがとうございました!
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あとがき
今回初めて1時間半にわたり取材させていただきましたが、デザインパートナーとしてさまざまな企業に伴走する姿勢や、コミュニケーションの取り方、思想の伝達力やアウトプットに対するこだわりなど、多様な角度のお話のなかで、ヒントになることがたくさんありました。僕自身にとっても非常に良い刺激となり、もっともっとハートを揺さぶるデザインを作っていきたいなと思っています。
今回取材のコミュニケーションをメッセンジャーでやりとりしていたんですが、さりげなくグループチャットの名前を”LIGpatch”という名前に変えてくれました。そういった細やかなコミュニケーションにも、ホスピタリティが現れてるのかなと思いました。
Goodpatchのみなさん、ありがとうございました!
それではまた次回お会いしましょう✋🏻
All photo by ななみん
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