“誰か1人”のためのメディアづくり。〜メルカリマガジン編〜

“誰か1人”のためのメディアづくり。〜メルカリマガジン編〜

Yu Mochizuki

Yu Mochizuki

こんにちは、エディターのモッチーです!

2021年の初めからスタートした本連載企画も今回で3回目を迎えました。

これまでは、長く歴史のあるWebメディアに取材をしてきましたが、今回は視点を変えて最近スタートした新しいメディアに注目してみたいと思います。

日本最大のフリマアプリメルカリが運営しているメルカリマガジンの編集長 宮川さん、編集/Webディレクター 山岸さんにインタビューをしました!

メルカリマガジンのこれまでの軌跡を通じて、Webマガジンの立ち上げや運営に役立つヒントを探っていきます。

メルカリマガジン とは
2019年7月、株式会社メルカリが始めたライフスタイルWebマガジン。「好きなものと生きていく」をテーマに、さまざまな人の好きなものを通して、人生の楽しみ方や多様性を届けている。
https://magazine.mercari.com/
メルカリマガジン編集長 宮川直実さん
出版社勤務を経て、2018年メルカリにジョイン。猫3匹と暮らす。好きなものは、コーヒー、プロレス、海外文学、お買い物。
メルカリマガジン 編集/Webディレクター 山岸香織さん
コンテンツマーケティング支援会社勤務を経て、2019年メルカリにジョイン。好きなものは大河ドラマ、人情味あふれる街、器。

アプリ外での接点を作るために


モッチー:宮川さん、山岸さん、本日はよろしくお願いします!

メルカリは2013年からフリマアプリのサービスが始まっていて、メルカリマガジンは2019年の7月にスタートしたそうですね。なぜそのタイミングだったのでしょうか?

宮川直実さん(以下、宮川):2018年に会社が上場し、いろいろな状況が変化していく中で、お客さまとのタッチポイントをより増やしていきたいということから始まりました。メルカリはアプリのサービスなので、アプリを開いていない場面でお客さまとの接点を持ちづらいという課題があったんです。アプリの外の「場所」として、オウンドメディアを作りたいという思いがありました。

モッチー:アプリを開いているときではなく、開いていないときなんですね! 

宮川:アプリを開いていないときでも、メルカリを思い出してもらうきっかけになれたらと。さらに言えば、これまで一度もメルカリを使ったことのない方ともつながれるチャンスですよね。

サイトデザインのトーン&マナーは、サービス(メルカリ)のデザインにあえて寄せていません。なぜならすでに使ってくださっているお客さまだけではなく、まだ使っていない方にも生活シーン全般のコンテンツを通して楽しんでもらうことで、親近感を持ってもらいたかったんです。

モッチー:サービスもメディアも企業のトンマナは統一させることが一般的だと思いますが、分けていると。

宮川:はい、あえて距離をおいています。それは私自身の境遇も関係していて、私はメルカリに入社する前はアプリのヘビーユーザーではなかった。一見すると弱みにも思えますが、メディアを運営する上では強みだと思っているんです。

モッチー:というのは?

宮川:おかげさまで、メルカリはとても認知度の高いサービスに成長しました。とはいえ、その中で使っている人はまだ一部で、「知っているけれど使っていない」という方もたくさんいます。さらに多くの方にメルカリを使っていただくためには、そのような方々にこそ届けるべきだと思い、あえてアプリとは違う角度から設計しています。使っていない方から「自分には関係ないな」って思われないように。

山岸香織さん(以下、山岸):「売る」「買う」どちらでもメルカリの必要性を感じてくれたお客さまは、情報収集を積極的に行い、アプリをダウンロードして使ってくださります。一方で、使ったことがない方や必要性を感じていないお客さまに対しては、いつか必要になったときに選んでもらうためにアプリの機能的なよさだけではなく、アプリを使ったことで感じられる情緒的なよさをイメージしてもらいたい。だからこそ、生活者目線でのコミュニケーションを中心に据えて設計にしています。

モッチー:立ち上げでこだわったところや大切にしていたところはありますか?

宮川:大事にしていたポイントの1つに“メルカリを自分ごとだと思っていただくこと”がありました。そのためには何よりも〝信頼感〟がないといけない。サービスに紐付いているメディアなので、メルカリ自体の信頼を損なうことは絶対にあってはならなかったんです。

モッチー:具体的にどのように信頼感を表現したんですか?

宮川:どの記事も基本的には取材ベースでの情報ソースとし、寄稿の場合は書き下ろしのオリジナルコンテンツにこだわりました。ファクトを踏まえ、正確性には特に気をつけています。メディアの基本中の基本ではありますが……。

モッチー:信頼感って何となく意識としてありつつも、最近はwebの手軽さゆえに、薄れてきているようにも感じます。

宮川:読者の方はもちろんですが、社内の信頼を損なわないようにという思いもありましたね。あとデザイン面でこだわったのは、メルカリマガジンのサイトデザインは写真以外に色を入れていないんです。ベースは無地だけど、登場する人や内容で色が付いていくイメージで作っています。こちらから押し付けるのではなく、フラットな視点で見ていただけるように。

“好きなもの”を掘り下げ伝えていく


モッチー:メルカリマガジンのタグライン『好きなものと生きていく』はどんな思いから生まれたんですか?

宮川:メルカリを使っていない方にも伝えられる、それでいてメルカリのフィロソフィーを表しているメッセージは何だろう、という考えから生まれました。メルカリマガジンは、いまあえてターゲットを絞っていません。音楽好き、釣り好き、アイドル好きなどいろいろな方が読者になりうる。メルカリのアプリは万人に開かれたサービスでありたいという考えにも結びつくものなので、そのフィロソフィーをメディアにも反映させたかったんです。みんなの好きを応援していくような。

モッチー:いろんな好きを応援しているからだと思うんですが、メルカリマガジンの記事はいろんな切り口があって。一見メルカリとどう関係あるのかなって思っても読んでいると自然と納得するんです。コンテンツを作るうえで、大切にしていることはなんですか?

宮川:一見メルカリと関係ないと思われるものでも、“間接的な発見”を大切にしています。『あの作品の“モノ”を徹底リサーチ』のように、映画やドラマの“モノ”にフォーカスすることでメルカリの世界観と結びつけができるんです。

山岸:私も宮川も、“記事を読んだ人が生活をしていくうえで、ポジティブな気持ちになる”という読後感を重視して企画をしています。メルカリのサービスを使って楽しめることと、読み手の関心の接着点は料理も映画も音楽など、さまざまな角度から考えられます。人が生活を豊かにするツールの1つにメルカリが存在する、という示唆として提案しています。

モッチー:なんでもコンテンツになりうるがゆえに、編集しがいがありそう……。人の生活と結びつけるためにどんなことを意識していますか?

宮川:それは、初期に公開した『好きなものと生きていく』というコンテンツがベースになっていて。さまざまな著名人の方に好きなもののお話を聞くという企画なんですが、ただ好きなものを聞くだけではなくて、“その人のライフストーリーが見えるインタビュー”、“人生と好きなものとの関わりを掘り起こすこと”を意識していました。表面的な話ではなく“好きなものがある人生”をきちんと伝えられるように。

メルカリではただ好きなものが見つかるだけではなく、“自分の暮らしや人生に寄り添うものが見つかる”サービスなんだって感じていただけたら嬉しいなという思いがあって。

モッチー:手軽に買えるけれど、もしかしたら自分の人生に関わるものが見つかるかもしれない。そう思うと夢があるし、買う意識も変わりそうです。

山岸:確かに、人が欲しい物を買うまでのプロセスを分解してどんなストーリーがあるかを考えています。買い物をしたり、手放す瞬間って、お客さまの暮らしのバックグラウンドが影響しているので。

宮川:人には“自分の好きな作品やものに助けられながら生きている”みたいな側面がありますよね。そういう瞬間にスポットを当てるのがメルカリマガジン的なのかなって思います。

共感を呼ぶコンテンツの作り方

モッチー:今まで公開した記事で印象に残っているものはありますか?

山岸:しいていうのであれば「意外だった」ということで挙げると2021年1月末に佐渡の名産品を紹介する記事を公開しました。旅をしたくてもできない時期だからこそ、名産物を通じて旅情を感じて欲しいという思いで公開したのですが、パンデミックが起こっている時期に読み手の方が「佐渡に行きたいのに行けない」と不完全燃焼にならないか、不安もありました。ただ、公開してみるとSNSでは「佐渡に行きたくなった」「佐渡愛のあふれるいい記事だ」というポジティブな声を多くいただいたんです。リアルな旅の体験ができない時期だからこそ、旅の追体験ができるコンテンツを出すことに意味があると実感しました。

宮川:あの企画は玉置標本さんが本当に佐渡が好きだからこそ伝わる記事になったと思います。誰かの本当に好きなものを紹介するっていうところは大切ですよね。Web上では書き手の存在がわからない記事もありますが、“人”が見えることで信頼が生まれると思っています。

山岸:あと、私が担当した『メルカリ食堂』というコンテンツを公開したのち、SNSで記事中に登場したグラタン皿に反応してくれた方もいました。「私も実家でこの皿を使っていました」という声をはじめ、ご自身の体験にまつわる感想をたくさんいただいたので嬉しかったです。みなさんの食卓の記憶を思い出してくれたみたいで。

モッチー:いい話ですね! ものが記憶が呼び起こすきっかけになったんですね。

宮川:そうそう、メルカリとノスタルジーってとても相性がいいんですよね。

「いま“90年代しぐさ”に心ざわつくワケ「ギャル男」「ヴィヴィ子」「趣味:人間観察」」という記事は、読者から「私もギャルだった」とか「これ持ってた!」とかいろんな声をいただきました。ノスタルジーで誰かと繋がる、思い出を共有するって盛り上がりますよね。メルカリには一時流通の市場にないものも売られているので、“あの頃”との親和性も高いんですよね。

モッチー:なるほど、メルカリだからこそ、記憶や感情を伴う伝え方ができるんですね。

宮川:モノにはいろんな文脈があります。懐かしいものとか、物語の中に出てくるものとか、モノのいろんなコンテキストに光を当てたかったんです。

山岸:仮にメルカリマガジンで「何かを買う」「何かが欲しい」って記事をつくり、基準を設定するときは、誰にとってのどのような設定なのかは明文化したいですね。

モッチー:コンテンツを作るにあたり、トレンドの取り入れ方で意識していることはありますか?

山岸:取り扱うアイテムのトレンドももちろんそうですが、ライフスタイルやインサイトの変化も積極的に捉えようとしています。例えば、外出自粛が続くの状況で、いま世の中の人たちは「楽しいのか」「退屈しているのか」考えたうえでどんな物があったらちょっとでもポジティブになれるか考え、どうコンテンツに落とし込んでいくか、ということを考えています。そのうえで、言葉遣いについても厳密に配慮するように心がけています。

モッチー:なるほど。お2人にとって思い入れ深い記事のお話を聞きましたが、ここで、僕が気になっているコンテンツを。このモノガタリというコンテンツなんですが、錚々たる方々が出ていて、すごいなって思っていました。これ、どうやって実現したんですか?

宮川:ありがとうございます。私が前職で小説の編集者をしていたので、そのときお世話になった作家の方や編集者の方に助けられて実現した企画です。実はこれ、Twitterで連載するという流れに決まったはよかったものの、運用する人がいなくて……。そこで、Webの知識が深い山岸が加わって実現したものです。

山岸:宮川はさらっと言っていますが、作家さんから企業担当者が直接原稿をいただき、適切な取り回しをすることは稀な例だと思います……。

宮川:メルカリでオリジナルの小説を書いていただくことは前例がありませんでした。なので、なぜメルカリがこの企画をしたいのか、意図や見え方を丁寧に説明し、『人から人へものが渡ることで生まれるドラマを書いてほしい』という我々の思いを伝えて、あとは作家の方に自由に書いていただきました。

モッチー:反響はどうでした?

宮川:2020年のGW前の、ちょうど最初の緊急事態宣言直後のスタートだったのですが、当時本屋さんが閉まっていたり、外に出られないタイミングだったので、好きな作家さんの新作を読めることへのポジティブな反響を多くいただきました。

数字ではなく、ユーザーの変化を追っていく

モッチー:一つひとつの記事にいろんな裏話があって、作り手の思いが詰まっているんだなぁと感じました。コンテンツはどんな流れで制作・公開しているのでしょうか?

宮川:私と山岸で週一で編集会議をやって、テーマや書き手をブレストすることが多いですね。Slackで情報交換しながら進める感じですね。社内でのメンバーは2人しかいないですし。

モッチー:運用・編集は2人だけなんですか?

宮川:あと、社内で関わっているのはデザイナーですね。執筆は外部のライターさんが担当したり、ときには自分たちで書いたり。

モッチー:月何本ぐらいのペースでUPしていますか?

宮川:だいたい10〜15本ぐらいですね。おおよそ、1〜2ヶ月前に取材した記事を順次公開していくような流れです。

モッチー:2人でそのボリュームを毎月やっていくのは、かなり大変そうですが……。何かスムーズに運営するコツはあるんですか?

宮川:んー、管理しない! っていうやり方ですね(笑)。管理しすぎると逆にまわらないっていうか、他の仕事もしている中で、キッチリ決めすぎてしまうと崩れてしまう。2人しかいないのを強みにして、コントロールしすぎないようにしていますね。

山岸:責任感がある2人だからこそあえてマイクロマネジメントが必要ないと感じています。お互い公開すべき記事本数の目安を認識しているし、状況把握もしやすいので。

宮川:私が忙しいときは自然と山岸が進めてくれているし、山岸が忙しいときは私が率先して記事をUPしたり……阿吽の呼吸というか(笑)。

モッチー:メディアがローンチして1年半ぐらいの今は、この組織の規模で十分やれるんですか?

宮川:今後のメディアの成長を考えたときには、さらに強化する必要を感じています。もっとメルカリのアプリの中で起こっている面白いこともコンテンツにしていきたいですし、リソースは必要だなと感じています。メルカリというサービスの中で起こっているユニークなことや社会の縮図のような示唆深いことを、メルカリマガジンを通じて発信していくこともどんどんしていきたいですし。

モッチー:コンパクトな人員でもやり方次第で運用はでき、よりメディア拡大のためには組織づくりを考えていく必要があると。ちなみに、数字面ではどのように成長してきていますか?

山岸:『モノガタリ』のプロモーションを集中的にやったこともあり、ローンチから1年弱の間で大きくPV数が伸びました。その後一旦プロモーションをおさえ、PV数は落ち着きながらも緩やかに上昇しています。

宮川:メディアを成長させたいというビジョンはありますが、まだ、数字だけを追いかける段階ではないかなと。今は、コンテンツの充実やメルカリマガジンらしさを大切にしていて、リピーターの増加・記事を読んだ方の変化に注目しています。

山岸:PVは目標ではなく、指標にしています。数字に執着しすぎず、定性的な評価を重要にしています。例えば、マーケティング会社さんに依頼し記事ごとの好感度調査をやっていて、どんな影響を与えているのか情報を得ながらコンテンツ作りに活かしています。

モッチー:指標はこれまで変化しているんですか?

宮川:基本的には変わっていませんが、会社のスピード感も早いので、そこに寄り添えるメディアにする必要がありました。この1年はメルカリマガジンをタッチポイントとして、そこから、どれぐらいパーセプションチェンジ(認識変容)が起きたかを見ていくという指標がありました。

山岸:オウンドメディアの役割は企業によってさまざまあると思いますが、おおよそ企業・サービスのありたき姿を投影し発信していくものであると思っています。運用しPDCAをまわしてはじめて実感したところも加味しつつ、メルカリマガジンのメディア価値を最大化していきたいです。

“みんな”のためはつまらない、“誰か1人”のためがおもしろい


モッチー:ここまでメルカリマガジンの裏側を聞いてきました。最後に、これからメディアを立ち上げる方・既にメディア運営をしている方々への参考に聞きたいのですが、どんな組織作りが大切だと思いますか?

宮川:そうですね、1つは“多様性”を重視しています。いろんなバックグラウンドの人たちとチームを組むこと。メルカリ自体が多様性を受け入れているサービスですし、前職からの経験でも良いコンテンツを作るうえで外せない要素だと感じています。

あとは、自分がプロだなと思う方と組むことでしょうか。ライターさんやデザイナーさんをはじめ、社内の山岸もそうですが、自分がリスペクトするスキルを持っている方に敬意を持ってお願いしています。

モッチー:では、今の時代メディアをやるうえで、大切にした方がいいところはありますか?

宮川:現代のメディアって固有のアイデンティティーをすごく問われていると思うんです。読者の方にどんな価値を提供したいのか、漠然とした気持ちだと生き残るのも難しいと感じます。そのうえで、いろんな人に届けたいと意識はしていますが、誰か1人のために届けることは意識しています。

モッチー:特定の1人ですか?

宮川:はい、“みんなのため”っておもしろくないんですよね。メディアに限ったことではないですが、“誰か1人のために”作られたものの方がおもしろいなと思うことが多くて。今の時代は個人的な話が一番パワフルだし、私自身もそういうコンテンツからたくさん刺激をもらっています。

モッチー:メルカリマガジンがさまざまな人の“好き”にフォーカスしている理由がとてもよくわかりました! メルカリにはいろんなもの・人が関わっている中で、そこにいる一人ひとりに目を向けているのだと。
裏側の話を聞きながら、ものを買うときの意識やものとの向き合い方をもっと考えてみようと思うようになりました。今日はありがとうございました!

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アパレル企業にて販売員を経験後、編集プロダクションにて、エディターとしてのキャリアをスタート。雑誌編集、アパレルブランドや商業施設の販促物・Webコンテンツ・店頭装飾物・ビジュアル制作などに関わる。2020年7月にLIGに入社し、さまざまな企業のオウンドメディア支援に携わる。2022年7月より広報チーム所属。

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