伝えたいことは、情報よりもエピソード。デイリーポータルZ編

伝えたいことは、情報よりもエピソード。デイリーポータルZ編

Yu Mochizuki

Yu Mochizuki

こんにちは、エディターのモッチーです!

地の時代から風の時代になり、情報発信の方法にも変化が出てきそうな今日この頃。2021年はClubhouseが早くも注目を集めていますね。

我々が日頃からサポートを行っている「Webメディア」でも日々いろんな相談が寄せられています。しかし、立ち上げや運営については、疑問や課題、不安が湧いてきますよね。

  • これから立ち上げたいけれど、なにから始めたら良いの?
  • 始めてみたけれど、スムーズに運営ができない。
  • どうやったらもっと多くの人に見てもらえるの?

そこで、前回に引き続き、世の中にあるさまざまなメディアの裏側を覗き見し、その運営の様子から上記のヒントを探っていこうと思います。

▼前回の記事はこちら

今回は、世の中のトレンドに流されず、自分たちが楽しいと思うもの・興奮するものを全力で紹介しているメディア、デイリーポータルZへ潜入取材。林編集長へインタビューをしました!

デイリーポータルZとは
2002年、ニフティ株式会社が運営する@niftyのコンテンツとしてスタート、現在は東急グループのイッツ・コミュニケーションズが運営。あまり知られてない場所や料理、自分で考えた工作作品など、世の中の気になる様々な事柄を編集者やライターがおもしろがって紹介をしている。
https://dime.jp/whats-dime/
デイリーポータルZ 編集長 林雄司さん
1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。 編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。

カップ味噌汁のレビューからメディアが始まる

▲画面左:モッチー、右:林編集長

モッチー:本日はよろしくお願いします! デイリーポータルZといえば、「原稿料値切ったりとか、契約のやりとりするの僕いやです。おもしろいことやらせてください」と上司に言ったことから始まったそうですが……(Wikipedia参照)。やはり、裏側には強い思いや野望があったのでしょうか?

林編集長(以下 林):野望なんてないです。当時は旅行のサイトをやっていたけれど、なんかおもしろくないし、「こういうの辞めたいです」って言って。

モッチー:あ、そうなんですね(とっても素直だ……)。

林:そしたら会社での仕事がなくなりました。完全に干されてましたね(笑)。

モッチー:いきなり仕事がなくなることからスタートするとは(笑)。

林:その後、会社(ニフティ)からウィークリーポータルの担当をやれって言われてやることに。でも週に1ページぐらいしか更新することがなくて、すごい暇でした。そのうちに、自分で勝手に記事を書き始めたことが今につながるきっかけです。だから、こういうメディアを作りたいとかはなかったですね。

モッチー:当時はWebメディアが登場し始めた頃ですか?

林:そう、他社でも手探りでいろいろなメディアが出始めたときだったし、ニフティは当時、健康や車などいろんなテーマを掲げてメディアを始めていました。

モッチー:まさにこれから広がっていく時期だったんですね。

林:検索エンジンブームがあって、それから情報を集めて発信していくポータルブームになっていく。当時のメディアというと、自分たちで記事を作ることはしていなくて、新聞社とか出版社から記事をもらう・買うという流れが多かったですね。

モッチー:そんななかでなぜ自分で書いていたんですか?

林:過去に個人サイトをやっていたので、こういうことをやればウケるって感覚はあり、その手法で始めました。ウィークリーポータルは、ニフティが運営する各メディアのダイジェスト記事を掲載していて、真面目な感じ。その記事の隣にいつも食べていたカップ味噌汁とか缶詰のレビューを書いていたなぁ。

モッチー:え、カップ味噌汁!!??

林:そう、毎日食べていたし。会社へは、「各メディアの入り口になる場所だから独自のコンテンツがあれば、ユーザーが集まって、自然と流入していきますよ」って言い訳して。それに、味噌汁のレビューって個人サイトだとウケてたから。

モッチー:(笑)。でも、今ではユーザーレビューっていろんなところで取り入れられていますよね。

林:そう。でも、当時はどこも真面目な記事が多くて、なんかインターネットらしくないなって思っていて。個人サイトが流行っていたので、生々しい文章がウケるって感じていたし、そういうのを表現していましたね。

モッチー:今でもSNSで“個人の生々しさ”に共感が集まりすよね。ユーザーの反応もよかったんですか?

林:実際にPV数も伸びていました。で、それを会社に見せて、夏休みの期間は毎日更新しようって提案し、2002年の7月に夏休みの自由研究というサイトが始まりました。

モッチー:大人の自由研究ですね。

林:49日間やって、ここでも日々見てくれていることが数字に表れていました。夏休みが終わったタイミングでその成果をまとめて資料を作って、会社にプレゼンしたんです。これはレギュラーでやるべきだと。2002年の10月からデイリーポータルが始まりました。

しれっと1人で運営してきたメディアが拡大していく


デイリーポータルZ 18年の軌跡年表

モッチー:すごい、個人的な食べ物レビューからメディアが成長していくなんて。個人サイトで培った手法で始めたとはいえ、なにかPV数を伸ばす工夫はしていましたか?

林:個人サイトを持っている人にライターとして参加してもらっていたので、更新すればするほど、アクセスは伸びていましたね。2003年に土日も更新して毎日更新にもなって。当時はずっと1人でやっていて、冗談でウェブマスターって名乗ったりしていました。

モッチー:当時はどんなふうに企画をつくっていたんですか?

林:初めは僕が考えた企画をライターさんにやってもらっていたけれど、その人のモチベーションも上がらなくて、なんかうまくいかなかった。なので、ライターさんに企画から考えてもらって、やりたいことをやってもらっていました。

モッチー:お任せで企画の方向性はブレたりしなかったですか?

林:当時は頻繁に企画会議をやっていて、あーでもない・こーでもないとお互いのやりたいことを尊重しながら着地点を決めていました。終わって、酒飲みに行って仲良くなっていくと、僕のやりたいトンマナも理解して、その後はスムーズでしたね。

モッチー:関わる人も増え、徐々にデイリーポータルが広がっていく。その後、メディアの変革期になるような出来事はありましたか?

林:2004年6月にBBフェスタという、ブロードバンドに関する展示会をニフティが主催して、そこにデイリーポータルもブースを出したんです。記事で取り上げたものとか展示して。少なくとも人は来るだろうと予想していたら、200人ぐらいお客さんがきたんです。

モッチー:ユーザーの姿がリアルに見えた瞬間ですね。

林:そうしたら会社の見る目も変わりました。それまでPV数とかはぜんぜん会社には響いていなくて、リアルに人が集まったことにすごさを感じていたみたいですね。あらためて「生の人が見えるのは強いなぁ」って実感しました。周りからは、なんかあるんじゃないかって期待感も沸くようになって、その後、イベントをやったりしましたね。

モッチー:リアルでの活動をいろいろやっていますよね。組織自体も変わっていったんですか?

林:2008年にニフティが規模拡大のため、編集部にも人が増えて、しっかり運営しないとなって思い始めましたね。それまでは1人でしれっとやっていたけれど、そうもいかず。

モッチー:しれっとやれてこれたのがすごい(笑)。

林:ちょうどその頃に、会社から利益をだせっていう圧力もあって。ずっと理由をつけてごまかしていたけれど、単体で儲けろっていう話になり、記事広告を考えたり、会員制度をつけたりしましたね。

モッチー:それまではどうやってやりくりをしていたんですか?

林:それまではお金を使い放題(笑)。収益もゼロ!

モッチー:それで会社を納得させていたのはすごい(笑)。でも、メディアを通じてニフティさんの認知拡大に繋がっていたことは間違いないと思います。記事広告を導入することでスポンサーさんはどうやって集めていたんですか?

林:ニフティの広告営業が他の媒体と一緒に案内していたこともあったけれど、クセが強くてぜんぜん駄目だった(笑)。クライアントがデイリーポータルを知っているファンであれば、スポンサーになってもらいやすかったので、もっとサイトが人気になることを目指しました。

モッチー:知っている人であれば刺さりやすそうです。

林:2012〜13年頃からスポンサーさんが増え始め、安定して応援してくださっています。クライアントさん曰く、他の媒体では接点ができない、エッジが立ったユーザーに届けたいそう。

モッチー:組織もメディアも成長していく中で、ユーザーの反応はどうでしたか?

林:SNSが登場してからはそこからの流入が増えて、記事が広まっていきました。でもTOPページを知らない人が多くて、デイリーポータルZかどうかもわからず見てくれていた人が多かった。記事単体で見た読者からは「役に立つことかと思ったら、ふざけてんじゃないか」って声もありましたね(笑)

モッチー:たしかにメディアそのものを理解せず、記事だけが一人歩きすると伝わり方が変わりそうです。

伝えたいことは、情報よりもエピソード。ネガティブよりもポジティブを。

モッチー:ここからはコンテンツづくりのお話を聞かせてください。記事を書くときにデイリーポータルZが意識していることポイントはありますか?

林:“情報よりもエピソードを書くこと”ですね。情報を書いてもおもしろくないし、そこで起きていた出来事を書こうって決めています。うまくいかなくてもいいし。でも最近は、情報・役立つ要素が出てきてしまう。

モッチー:無意識に情報を書いてしまいがちですし、情報は手元にあれば簡単に書けてしまいますよね。

林:あと、「楽しい気分になるものしか載せない!」っていうのはずっと変わらないですね。自分が興奮すること、楽しいことを伝えることが基本姿勢です。

モッチー:以前上がっていた、おもしろがり方という記事はとても参考になりました。これはデイリーポータルに関わっている人はみんな意識していることですか?

林:そうですね、最初からおもしろいものを見つけるのではなく、こう見るとおもしろいっていうことです。難しく考えがちだけど、簡単なのは最初におもしろいって言ってしまうことですかね。言っちゃってから考える。そうすることでネガティブな要素を排除していく。

モッチー:なるほど。その“おもしろさ”が、さらに読者に伝わるにはどうしたら良いのでしょうか?

林:おもしろがっている自分を表すってことかなぁ。文章で書いたり、写真で撮ったり。おもしろさそのものを書くのは難しいので。なんだろ、隣の席でうまそうに食っている人を見ると、その食べ物がおいしく見える。そんな感じかなぁ。

モッチー:おぉ、わかります! 伝染していく感じに近いというか。

林:あと照れるなってことを言いますね。おもしろいことをやっていて照れたら台無しになる。誰もやっていないことやっていて、その人がおもしろがっていないと意味がない。

モッチー:やり切ることかぁ。わかっていても難しい……。ちなみに、ネタの良し悪しはどうやって決めているんですか?

林:まずは怒られないこと。あとはその人が本気でおもしろいと思っているかどうか。世の中で話題になっていたとか、他で取り上げられていたことはダメ。その人が心底思っているか、それがないと嘘がばれますから。

モッチー:世の中に合わせたものになってしまう。世の中を見過ぎていると逆に難しく考えてしまいそうです。

林:そう、プロのライターさんは意外に難しく考えてしまうかも。今流行っているから、っていうプロの視点はいらない。いろんなものに興味を持っている、その人なりのおもしろさを見つけられるかが大切です。

モッチー:具体的にどうやって導き出すのですか?

林:僕は声のコミュニケーションを大切にしています。直接話して、長時間やりとりしてもなんかしっくりこない。でも最後にこれどうかな? っていうものこそ、おもしろい。字を書くとくだらないことが伝わりにくいし、チャットだとそれが出てきにくいですから。

モッチー:本題ではないところにヒントがあると。

林:そう、最初にライターがプレゼンする内容はきれいにまとまっているじゃないですか。でも最後に絞り出されるものは、個人の歪みや好きな気持ちがあって、それを待ちます。

モッチー:企画を出す方はプレッシャーだなぁ。

林:僕は、長期的には、変わった記事の方がサイトのファンになると思っていて。思考や日常をかき乱される記事がファン化に繋がると思っています。

20周年へ向けた、デイリーポータルZの宣言

モッチー:コンテンツ作りの極意、とても参考になりました。次に、メディアをやっていると気になる収益について、現在どんな状況ですか?

林:今年はコロナの影響で激減ですが……、2年ぐらい前から収益をしっかり考えていくようになって、右肩上がりで伸びてきました。それまでは記事広告を中心にやっていて、広告が入れば伸びるけど、なければ下がって不安定だった。そこで、バナーを入れたり個人会員の金額を見直したりすることで安定収入に繋がりました。

モッチー:「デイリーポータルZをはげます会」ですね。

林:全体の収益に対して15%ぐらいですが、安心に繋がりますよね。おもしろいことを書けばお金に繋がる。

モッチー:お金を意識しすぎると、お金を出してくれる人(クライアントやユーザー)に向けた記事になってしまわないですか?

林:意識しすぎちゃうとPVを稼げる企画になったりしちゃうかも。でも日々の更新される記事の中でよくわかんないものがあってもいいと思っているので。

モッチー:メディアをやる上でお金の悩みは尽きないですね……。最後に、メディアとしてこれからやっていきたいこと、どんな姿を目指していますか?

林:んーーどうなったらいいかなぁー。

んーー。
んーーー。

お金は儲かりたいなって。

きちんとやりたいことをやってお金を生み出せるようになりたい。

モッチー:(切実な悩みだ……)

林:とりあえず、お金の話はやめておきます(笑)。

真面目に。おかしいことをしたい人は世の中にいっぱいいて、でも、メディアは文章にできる人じゃないと参加できないっていう現状があると思うんです。そうではなくて、世に出ていないおもしろさを救いたい。もっと簡単に表現できる方法を見出していけたらと思っています。デイリーポータルZも19年やっていて規模が拡大してきて、みんな身構えてきているところがあるので、よりつまらない記事をたくさん載せるサイトにしたいですね!

モッチー:つまらない記事をたくさん載せるサイトにしたい」ってすごい宣言だ(笑)

林:最後に、他のメディアさん、デイリーポータルから良いライターをとっていかないください! さらに良い原稿料で頼むのはぜひやめてほしいです(笑)。

モッチー:人材流出問題……。

林:あと最近、1、2年ですぐにオウンドメディアをやめるケースが見られるけど、やめない方が良いです。それにメディアが終わって記事を消すこともよくない。

あ、そうだ。もしメディアをやめるなら、その記事をぜひデイリーポータルへください! 

モッチー:デイリーポータルさんらしい締めのお言葉をいただきました(笑)。

本日はありがとうございました!!

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アパレル企業にて販売員を経験後、編集プロダクションにて、エディターとしてのキャリアをスタート。雑誌編集、アパレルブランドや商業施設の販促物・Webコンテンツ・店頭装飾物・ビジュアル制作などに関わる。2020年7月にLIGに入社し、さまざまな企業のオウンドメディア支援に携わる。2022年7月より広報チーム所属。

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