雑誌には雑誌の、WebにはWebの文脈がある。@DIME編

雑誌には雑誌の、WebにはWebの文脈がある。@DIME編

Yu Mochizuki

Yu Mochizuki

こんにちは、昨年より外部メディアコンテンツ制作チームのエディターに加わった、モッチーです! よろしくお願いします!

昨今の新型コロナウィルスの影響で、大きく変わったことの1つに、リアルからWebへの移行があります。これまで街や店舗、イベントなどリアルな場所で行ってきたサービスがWebへと場所を変えて行われるようになってきました。

情報発信もその1つ。SNSはもちろん、我々が日頃からサポートを行っている「Webメディア」にも注目が集まり、より力を入れようとする動きがあります。しかし、立ち上げや運営については、疑問や課題、不安が湧いてきますよね。

  • これから立ち上げたいけれど、なにから始めたら良いの?
  • 始めてみたけれど、スムーズに運営ができない。
  • どうやったらもっと多くの人に見てもらえるの?

そこで、世の中にあるさまざまなメディアの裏側を覗き見し、その運営の様子から上記のヒントを探っていこうと本企画を立ち上げました!

第1回目は「みんなのライフハック」をテーマにガジェットやツールをはじめ、世の中のトレンドを役立つ情報として発信している@DIMEへ潜入取材。安田統括編集長へインタビューをしました!

この取材は緊急事態宣言前に行われ、撮影時のみマスクを外しています
@DIMEとは
「みんなのライフハック」をテーマに最新のAVや家電ほか、デジタルギアをはじめ、さまざまなジャンルの製品の使い方や話題のサービスの活用法を、レビューを通してわかりやすく解説しているWebメディア。
https://dime.jp/whats-dime/
DIME編集室 室長 安田典人さん
在京FMラジオ局に勤務後、2005年小学館入社し、DIME編集部へ配属となる。2009年にDIGITAL DIMEを立ち上げ、2012年に@DIMEへリニューアル。現在は、雑誌DIMEとWeb版@DIMEの統括編集長を務めている。

既存のサイトをぶっ壊して始まった@DIME

モッチー:安田統括編集長、本日はよろしくお願いします! まず、@DIMEはどんなきっかけでスタートしたのですか?

安田統括編集長(以下 安田):2009年に@DIMEの前身となるDIGITAL DIMEを立ち上げました。DIGITAL DIMEはメディアサイトではなく、雑誌DIMEの情報を補足する立ち位置としてスタートしたもの。しかし、その頃は雑誌DIMEを隔週(月2回)で発行しており、その情報の内容や深さ・鮮度を、このサイトで十分に伝えることができていなかった。また、競合他社でもメディアサイトが登場し始めていたときだったので、メディアのあり方を見直し、@DIMEがスタートしました。

モッチー:スタートにあたって、どんな思いを持っていましたか?

安田:DIGITAL DIMEをぶっ壊して新しいメディアを作ろうという気持ちで始めました。雑誌を補足する立ち位置では今までと同じなので、独立したメディアを作るぐらいの気持ちでやりたい、という思いがありましたね。

モッチー:@DIMEはどんなテーマ・内容で始まりましたか?

安田:雑誌は商品情報が中心でしたが、@DIMEは編集者やライターによる一歩踏み込んだ本音の視点や選び方を大切にし、「みんなのお買い物ナビ」というテーマを掲げました。

DIMEは歴史ある媒体なので、なかなか本音を言いづらい。しかし、Webであればそれがやりやすい。スマートフォンが普及し、手軽に情報を手に入れることができるようになって、読者がネットに求めていることは、そこ(本音)じゃないかって思ったんです。

モッチー:雑誌とWebで編集方針の違いがあったんですね! どんなふうに記事を作っていたのですか?

安田:当時は、7割が雑誌の記事の転載で、残りの3割がオリジナル記事を公開していましたね。1日に公開できる記事も5本前後と今と比べて少なかった。初めは、雑誌で執筆しているライターさんに依頼をしていて、みなさん他の仕事の合間に協力してもらうケースも多く、1日に公開できる記事も限られてしまっていたんです。

モッチー:その時あるリソースを活かしながら運営していたんですね。当時、@DIMEの編集部はどんな体制でやっていましたか?

安田:僕1人でやっていました。それまで僕自身Webメディアの経験はなく、当時は会社内でも実績がありませんでした。そのため運営方法や組織作りも参考になるものがなく、本当にイチからつくりあげていきました。

1日の業務量にも限りがあり、記事作りもなかなか進まなかったですね。

モッチー:1人ですか!? それは大変ですね。メディアとしての広告収入はどうでしたか?

安田:DIMEは来年35周年を迎えるのですが、当時も歴史ある雑誌としてブランド力がありました。そのおかげで1年目からたくさんの広告スポンサーさんが付いてくださり応援してくれていたんです。とても感謝しています。そのおかげもあって、思いっきり自由にできましたね。

試行錯誤と変化の日々

モッチー:応援してくださる方の存在がある一方、さまざまな苦労もあり、その後どのように変わっていったのでしょうか?

安田:1年経って、ちょっとずつPVは上がってきましたが、やっていて手応えがなかったんです。

雑誌の記事を転載していても、Webならではの速報性・柔軟性・機動力を生かした運営ができていないって気が付いたんです。それに、雑誌の記事自体も一度は世に出ているもので、やっぱり鮮度がないんですよね。

根本的に見直し、メディアとしてやっていくならオリジナル記事を中心にして、DIMEの雑誌とは別軸で考えてやっていかなければ、と思うようになりました。そこから、少しずつオリジナル記事を増やしていきましたね。

モッチー:オリジナル記事を増やしていくにあたって、どんなことをしましたか?

安田:それまでは雑誌をやっているライターさんにお願いしていましたが、Webをやっているライターさんへシフトしていきました。雑誌には雑誌の、WebにはWebの文脈があるんですよね。Webメディアの特性にあったライターさんに文章を書いてもらうようにしました。

また、初めはガジェットなどのお買い物ガイド・バイヤーズガイドのような選び方や買い方にフォーカスしていましたが、働き方改革や社会の変化に合わせて、ライフハック・生活の知恵・コミュニケーションなどターゲットとしている30〜40代が役に立つ情報も発信していくようになりました。それも、決して堅苦しくない、Webならではのライトな感じで、通勤途中に読めるような内容に。結果的に、ユーザーの共感を得られましたね。

モッチー:そこから現在のテーマでもある、「みんなのライフハック」に繋がっていったんですね!

安田:はい、我々はモノ情報だけでなくもっと幅広いジャンルを発信していて、こういうメディアは他になかったので、その幅広さを売りにしようと思って。結果、いろいろな業種のスポンサーさんに応援いただくようになりましたね。

モッチー:特化するのではなく広げていくことで、ファンの増加に繋がったと。その後は順調に成長していったんですか?

安田:オリジナル記事が増え、立ち上げから2〜3年目ごろには形になっていき、サイトも成長していきました。

しかし、3年目で数字の伸び悩みを感じていました。オリジナル記事の割合は増えましたが、公開できる記事の本数に限界を感じていました。競合のWebメディアでは、速報性を重視し、1日にたくさん記事が公開されていましたが、@DIMEは雑誌ありきの編集部のため、Webへの人員を増やすわけにもいかず……。

そこで、僕自身雑誌での業務は一部のみ関わり、Web専任となり本数を少しずつ増やしていきました。

モッチー:成長しているものの、1人でやっていくことで気持ちが折れそうになることはなかったんですか?

安田:休みもほとんどなかったですし、とても大変でした。

でも、成長していくこと自体が楽しかった。自分1人の力で大きくなっていった達成感もありましたし、応援してくださるクライアントさんも増え、目に見える成長がやりがいに繋がりましたね。

進化を遂げる@DIME

モッチー:しかし、規模が大きくなって1人でずっとやるには限界がありそうです……。いつ頃から体制が変わりましたか?

安田:4〜5年目には、サイトも大きくなり、自分1人ではまわらなくなりました。そこで編集部から1人加わり、そこから2人体制に。異動してきたスタッフはWebの重要性もわかっていたので、一緒に成長していくことができました。

モッチー:2人体制になってどんな変化がありましたか?

安田:2人体制になってさまざまな面でグレードアップしていきました。記事が増えていき、増えていくほどPVも上がっていく。PVが上がれば、自分たちのモチベーションも上がり、記事のクオリティUPにも繋がりました。するとライターへのリクエストが変わっていったり、新しい書き手に参加していただいたり、文章へもより力が入るようになりました。

モッチー:成長がクオリティUPに繋がった。分かちあえる存在ができたことも大きいですよね!

安田:さらに、不思議なことが起き始めたんです。

サイトが成長していくことで、新たにメディアに参加してくださるライターさんのレベルも上がっていったんです。基本、我々は来る者拒まずのスタンスでいる中で、面白い記事を書いてくださるライターさんが門を叩いてくれるようになり、いい形で編集部が進化を遂げていきましたね。

モッチー:サイトが成長していくにつれて、ユーザーの変化はありましたか?

安田:雑誌の読者の平均年齢が下がってきています。雑誌の読者は高齢化する傾向がありますが、3〜5歳ほど若返っているように感じます。男女比率も、当初雑誌は男:女=8:2、Webは男:女=6:4でしたが、最近雑誌の比率がWebに近づいている。Webを見た人が雑誌も見てくださっているのかもしれませんね。

また、相互間でユーザーの行き来が見られるようになりました。当初から雑誌とWebのユーザーは一致していなかったのですが、雑誌からWebへ、Webから雑誌への誘導が生まれ、互いが宣伝ツールとなり成長していくようになりましたね。Webは年々成長し、現在のUUは1500万ほど、雑誌も右肩上がりで成長し前年比で1.2倍ペースで伸びています。

モッチー:紙とWebがあることで相互作用があり、変化も見えやすくなっているんですね。

安田:立ち上げ当初は、社内外から「雑誌の記事の価値が下がるのでは」とか「互いの読者を取り合ったりするのでは」という意見がありました。

しかし、当時から形式に囚われずファンを作っていかなければならないという気持ちが強く、さまざまな仕掛けをすべきだと思っていました。結果的に、雑誌とWebが結びつき良い結果を生み出すようになりました。

編集部の日常、DIME流編集術

モッチー:これまで、過去のいろんな苦労や変化を聞いてきましたが、今の@DIMEについて聞かせてください。現在は何名で運営していますか?

安田:雑誌は6人、Webは4名(うち1名は兼業)です。理想は全員が両方のメディアに関わるようにしたいのですが。

モッチー:それはなぜですか?

安田:バズらせたり、仕掛ける場合に、雑誌とWebの連動は重要です。どちらかの知識・経験よりも双方が必要になります。

たとえば、雑誌の編集は限られた範囲内で情報をまとめなければならなく、取捨選択・編集力が問われます。また、紙ならではの表現力・デザインはWebでも必要なスキルになってきますから。

モッチー:双方のメディアをやっていることで、互いが関わりやすい環境にあるのはとても理想的だと思います。現在、編集部にはどんな人たちがいますか?

安田:トレンドメディアなので、新しいもの好きや、得する情報・トレンドに敏感な人が多いです。あと、なにかしら好きなものがある人ですね。お茶でもカメラでも、なんでもいい。なにか1つ好きなものがある・突き詰められるものがあるのは強いですよね。

モッチー:DIMEの記事を見ていると“好きだからこそ”のおもしろさを感じます! それぞれの記事はどんな流れできているんですか?

安田:驚かれますが、基本自由です(笑)。編集会議もほとんどしないですね。編集者が作りたい・ライターが書きたいと思ったネタを書いてもらっています。

モッチー:意外です! 定期的にネタの精査をしているのかと思っていました。

安田:もちろん、世の中で求められている情報を見極めて、こちらから記事をオーダーすることもありますが、基本は、自由に書いてもらっています。

ただ、編集者・ライターにお願いしていることが1つあります。それは、新商品を取り上げる際、表面的に褒めるのもいいけれど、悪いところを付け加えたり、活用術や裏技など+αを付け加えること。それらがライフハックですから。

リリース記事も出していますが、他の商品との比較・ユーザーへのおすすめ理由などまで落とし込むと役立つ記事になるんです。情報が、ユーザーのためになる・役に立つ・得をする、この3つを意識するようにしています。

モッチー:その他に、ネタを記事化する際のポイントやこだわりはありますか?

安田:新商品や新サービスの案内が来てもすぐに記事化することはないです。必ずしも即効性を意識してやっていく必要はなくて、それは、他のメディアがやること。

一歩引いた視点で世の中の反応も踏まえ、自分たちの中で噛み砕いて、+αを踏まえて提案するんです。ユーザーも即効性あるニュースで食いついたあと、冷静に判断するときが来るので。

モッチー:たしかに! ニュースとして知ったあとに、一歩深く知りたくなるときがあります!

安田:そう、そのタイミングで情報を出すことで、本当に役に立つ記事として届けることができます。速報性で勝負する必要はないんです。トレンドは定着しないとトレンドっていえないですから。

モッチー:なるほど、とても参考になります! ところで、現在は1日に30〜40本近い記事を公開しているようですが、円滑に運営していくためにどんな工夫をしていますか?

安田:チーム内での役割分担ですね。記事の選定や管理者をする人、記事チェックをする人など業務分担をしています。また、サイトの分析をする部署は別にあるので、メディアの傾向について意見をもらいながら検証・改善をしていっています。

モッチー:今メディアとして課題に感じているところはありますか?

安田:編集者が足りていないですね。メディアを運営する際、編集を外部に委託することもありますが、我々は自社でやるようにしています。そうすることでコントロールできますし、ノウハウも蓄積していきますから。

@DIMEから生まれる新たな可能性

モッチー:これからの目標やチャレンジしていきたいことはありますか?

安田:メディアとして成長段階であり、やるジャンルを広げたり、動画にも力を入れていきたいです。

毎年「DIME トレンド大賞」というイベントを行っていて、今年は初めてオンラインで配信しました。自分たちのアイデアをTVの制作チームとやり取りしながら、TV番組を作るような感覚でカタチにしていきました。初めての経験でしたが、まだまだやれることがたくさんあると感じましたし、新しい可能性を感じましたね。

モッチー:さいごに、Webメディアを運営していくにあたって一番大切なことはなんですか?

安田:目的をはっきりさせることですね。メディアを通じてECまでつなげる、イメージを伝える、など目的をはっきりさせることが大切です。

まとめ

安田統括編集長の情熱をきっかけにスタートし、さまざまな苦難を乗り越え、試行錯誤を繰り返し、多くのファンに支持され続けてきた@DIME。常にユーザーの姿を思い浮かべ、「みんなのライフハック」を目指してメディアとユーザーが一緒に歩んできたことも、今に繋がる大きな要因だったのでしょう。

さいごの言葉が示すように、どんなメディアにも発信をするうえで目的があると思います。そこに立ち返ることはメディアを成長させる1つのきっかけになるのかもしれません。

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アパレル企業にて販売員を経験後、編集プロダクションにて、エディターとしてのキャリアをスタート。雑誌編集、アパレルブランドや商業施設の販促物・Webコンテンツ・店頭装飾物・ビジュアル制作などに関わる。2020年7月にLIGに入社し、さまざまな企業のオウンドメディア支援に携わる。2022年7月より広報チーム所属。

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