「施策のフィルターを外せ」。神楽坂のbarで出会ったツイ廃おじさんから、古くて新しい、マーケティングに大切なことを教えてもらった話。

「施策のフィルターを外せ」。神楽坂のbarで出会ったツイ廃おじさんから、古くて新しい、マーケティングに大切なことを教えてもらった話。

Mako Saito

Mako Saito

みなさんこんにちは、マーケターのまこりーぬ(@makosaito214)です。

今回は、後輩のなりちゃんと訪れた神楽坂の隠れ家イタリアン「TREES」で起きた不思議な夜のお話をしようと思います……。



なりちゃん:まこりーぬさん、最近めちゃめちゃLIGブログで取材記事書いてますよね! 本当にお疲れさまです。

まこりーぬ:ありがとう〜(涙)。何気なくはじめた取材活動だったけど、今後はLIGのマーケティング施策の一貫としてもっといろんな記事コンテンツを作って、「LIGが発信する情報はいいなぁ」と思ってくれるファンを増やしていきたいんだよね。

おじさん:マーケティング施策としてファンを増やす、か……

まこりーぬなりちゃん:
 

おじさん:こんばんは。質問してもいいかな。あなた自身がついついお金や時間を使ってしまう「ファンなもの」って、たとえばどんなものがある?

まこりーぬ:……うーん、そう聞かれると、このファン! ってものはあまりないかもしれませんね……。しいて言うならパンですかね。あとはコーヒーも好きです(誰だこのおじさんは……)。

おじさん:なるほど、パンとコーヒーね。僕の場合は、サッカーチーム「ベガルタ仙台」の大ファン。サポーター歴21年で、外出自粛になる前までは地方のアウェイ戦も応援にいってた。あとはラルフローレンと古着、それぐらい。

自分がファンなものってさ、10個もないよね。僕もそう、あなたもそう、お隣の方もきっとそう。人には可処分所得と可処分時間があるから、一度にたくさんのファンにはなれないんだよ。これから野球チームのファンになってくれって言われたって僕は無理だもん、そんな時間はない。

じゃあ、「ファンを増やします」って言ってる企業は、いったいどうやって限られた可処分時間・可処分所得に入り込もうとしてるんだろうね?

まこりーぬ:……!

おじさん:ファンっていうのはたしかに存在する。僕なんてベガルタ仙台にいくらお金をつぎ込んだかわからないほど熱狂的なファンだ。でもそんな奇特な人間を狙い撃ちで増やすことって、相当難易度が高いと思わない?

それなら、企業としては新規顧客を増やす方に労力をかけたほうがいいんじゃないかな。結果その中からファンは生まれるわけだしさ。……あくまで僕の意見だけどね。
 

まこりーぬ:……!!! あの、このほんの少しのやり取りだけで只者ではないことを察したのですが……もしかしてホットリンクいいたかさんベイジ枌谷さんアナグラム阿部さんとも親交の深い、Twitter界隈で有名なあのjigen_1さんではないですか……?

J:僕はね、ただのツイ廃。今日はJって呼んで。

まこりーぬ:あ、はい……(絶対jigen_1さんやん)。

施策のフィルターを外し、まず自分に問いかけよ

J:「ファンマーケティングは有効だ」みたいな施策の話って山ほどある。でも、本当にそうなの? って、まず自分に問いかけることは大事だよね。
 
※テーブル席へ移動しました

まこりーぬ:たしかに、自社のファンを増やしたいっていいながら、自分がどこかの企業のファンなのか? それによって購買行動を起こしているのか? っていう視点がすっぽり抜けていました。お恥ずかしい……。

J:自分に問いかけて仮説を立てるって、たとえ山奥で電波がなかったとしてもいますぐに誰にでもできることなんだよね。だけどそれじゃあサンプル数が1だ。自分の意見は大切だけど、バイアスは必ず疑わなきゃいけない。だから次に必ず第三者に聞くのよ。「あなたはどう?」ってね。

たとえば、「テレビCMでブランディングすることは有効だ」って言われているけど、僕はテレビ番組をTVerでしか見ないからCMをきっかけに商品を買わない。あなたはどう? そもそもお店に置いてある商品のCM、覚えてる?

まこりーぬ:ま、まったく覚えていないです……。

J:だよね。他の人に聞いても僕のまわりはほぼ同じだ、可処分時間をソーシャルメディアに使っている人が多いからね。地方の人はテレビをよく見ていることが多いから、CMをきっかけに商品を買うこともある。ただね、たいていの商品は、たまたまその場にあったから買われているんだ。多くの顧客はCMを見たから選んでいるわけじゃない。店頭の棚割はCMの広告出稿量とPOSデータ(売上)で決まることが多いから、CMを出している商品が店頭で目に止まりやすいだけ。もちろん露出が最大化された数日は売上がスパイクするけどね。

※ 棚割:商品をどこにどれだけ陳列するかを決めること

まこりーぬ:たしかに、ほとんどの商品は目の前にある、家の近くにお店があるから買っているものですね。わざわざ遠出してブランド買いする商品なんてとても限られていました……!

J:ファンマーケティングもブランディングも広告もSEOもソーシャルメディアも、施策ありきでマーケティングを語ると見誤っちゃう。正当な評価ができないよね

たとえば僕がポジショントークをすると「Twitterは有効だ」という話になる。でも、地方の居酒屋でまわりのお兄さんお姉さんに声かけてみなよ。「Twitterはやってない」「Instagramは鍵アカ」「使うのはほぼLINEだけ」なんて人たちばっかりだから。言葉をひねり出して一生懸命ツイートしているのなんて僕たちだけで、地方におけるソーシャルメディアの使い方は、親しい人との連絡網に近いんだ。

「なんでTwitterしないの?」って聞くと「Twitterでつぶやくことなんかない」と言われてしまう。僕も地方出身だからわかるよ。週末はイオンで買い物してイオンで映画観て公園でサッカーして、犬を連れて海で散歩して、試合があればスタジアムに行く。行きつけの飲み屋は決まっていて、都会のような移り変わる刺激はなかった。そんな状況じゃ、趣味のアカウントは別としても、メインのアカウントでツイートするネタなんて普通ないよね。

まこりーぬ:私も地方出身なのでよくわかります!(涙) 行く場所も触れるものもかなり固定化されちゃいますよね。

J:そう。東京と地方とでは、可処分時間や可処分所得の使い方が大きく異なる。だから持論は徹底的に否定するんだ。そして地方ではどうすべきか? を再考する。僕はもう何十周も持論の自己否定をしているし、反論がくるたびにその意見も踏まえてさらに再考している。そこまでやっていない人たちから安易に「Twitterはフォロワーが多い方がいいでしょ!」とか言われちゃうともう、疲れちゃうよね。

まこりーぬ:徹底的な、自己否定……。
 

J:マーケターって「市場調査やグループインタビューの結果こうなりました」とよく言うよね。だけどその調査対象、恣意的に選んでない? その回答、質問で誘導してない? と想像できるものばかりだ。施策のフィルターを外してマーケットを知るためには、まず絶対的な存在である自分がどうかを問いかけて仮説を立てる。次にその仮説を検証するために身近な人の話を聞く。こんな簡単なステップを踏むだけでも、見えてくるものは違ってくる。

ただ、もちろんこれだけではサンプル数が足りない。だから僕はベガルタ仙台の応援ついでに全国の居酒屋で現地の人に話しかけるし、ブランド名でエゴサーチして口コミを見る。Twitterを通じて全国津々浦々のいろんな人の声を直接やりとりして聞く。ここまでやってから、ようやく施策の話だ。

まこりーぬ:まさか、jige……いや、Jさんがツイ廃なのは……いろんな人の声を聞くために……!?

J:適切なマーケティング施策を見極めるためには、いろいろな人の声を聞くっていう原始的な活動がどうしたって必要なのよ。だけどそれをぜんぶリアルでやるとえらい時間がかかるので、僕の場合はTwitterを使う。マーケティング、ベガルタ仙台、サッカー全般、ファッション、映画、グルメ……と興味関心軸で15のTwitterアカウントをもっていて、1アカウントにつき15リスト、年齢別に作っている。このリストを使って、施策のフィルターを通すことなくリアルな声をヒアリングしてる。

まこりーぬ:リストが15の2乗も! Jさんクラスであってもここまで地道にユーザーの声を聞かれているとは……。いったいどうしてそこまで徹底するようになったのですか……?

J:若いころ、とても偉い人に教わった。その人はテレビに出るような大手商社のワシントン支局長だったんだけど、僕は最初それを知らずに、依頼される雑用をぜんぶ引き受けていた。するといつしか朝食やランチに誘われるようになったんだ。

彼は今どきの若者の生態を根掘り葉掘り聞いてくる人だった。「なんで僕ごときの話に興味があるんですか?」と尋ねると、「全国の老若男女、立場の違いに関わらず、市井の人々の声を聞いているんだ」と言うんだ。そして僕には、世界の話をたくさん教えてくれた。

世界で活躍する人の、こうした市井の人々の意見に傾聴する姿勢に感銘を受けて、僕もいつかこういう大人になろうと思ったわけ。だから、口コミを見るのは楽しいね。

まこりーぬ:な、なんとステキな……! 私もそんな大人になりたい……!!!

お客様がお客様を呼ぶ「口コミ」を活用しない手はない

J:ちなみに、全国津々浦々のリアルな声を聞ける「口コミ」って、これからのマーケティングにおいてとても重要なんだ。

ここでファンの話に戻ろう。自社商品のファンになってくれる人はほんの一握りで、狙って生み出すのは難しい。顧客自体を増やし、その結果確率論的にファンを増やすというのが現実的だ。さらに顧客はつねに入れ替わるから、顧客を増やすためには認知を広げ続けなきゃいけない。

……認知を広げ続けるってさ、年間何百億と広告予算がある大手企業ならテレビCMドン! 新聞広告バン! でいいわけだ。でもそんなお金、中小企業にはないよね。このコロナ禍だよ? 支出にはますます慎重だよね。だったらお客様に口コミを出してもらって、お客様がお客様を呼んでくれたほうがいい。だって0円だし、企業が発信している情報よりも信憑性があるしね

口コミによって認知が広がり広告費がおさえられれば、商品開発にもっとお金をかけられるようになる。そうするとますます商品の評判が上がる、口コミはさらに増える……っていう、よい循環が生まれるよね。

まこりーぬ:たしかに……! たとえばLIGだと、長野でやっている「The Sauna」は大変ありがたいことに口コミが絶えず、全国から集まるサウナファンでつねに満員御礼です。広告費いらずですね。

J:いいね、その調子でまず自分に問いかけるのが大切だ。

いまのマーケティングってさ、昔よりもいろんなことをやらなきゃいけない。テレビはコロナ禍でも健闘しているとしても、新聞・雑誌・ラジオは縮小しているし、可処分時間はTwitterを見てYouTubeを見てLINEを見て……ってどんどん細切れになっている。

そこで聞くけど、あなたはTwitterもYouTubeもLINEもfacebookもInstagramもTikTokもPinterestもTumblrも使いこなすプロですか? ……そうじゃないですよね。ソーシャルメディアマーケティングを仕事にしている僕ですらもう網羅できないんだよ。僕のInstagramやTikTokなんてそんなに見たくないでしょう? でもそれぞれのソーシャルメディアを使いこなしている人は何万といるわけだから、その人たちから口コミを出してもらえばいいじゃん、っていう話なんだ。

というかね、そうしないともう無理なのよ。Twitterの企業アカウントに100万人フォロワーいたって数足りなすぎでしょう。広告で情報を届けるとしても、地方のユーザー少なすぎ。ソーシャルメディアっていったって実質プライベートグラフ(顔がわかる知人の範囲)でしか使っていない人の方が多いわけだし、自社アカウントからの発信だけでは全国津々浦々に情報は行き渡りませんよ

まこりーぬ:……まさに私の姉はプライベートグラフでしかInstagramを使っていないんですが、たとえば「イケウチオーガニックさんのタオルめっちゃいい!」と私が口コミを出すことによって、彼女たちにも情報が伝播しています。実際に買っていますし。たしかに企業アカウントからの発信だけだったら、彼女たちは購買には至ってませんね。

J:イケウチオーガニックさんのタオル、いいよね。あなたがそう思う、僕もそう思う。こうして口コミが重なると、なにより説得力のある情報になっていくよね。
 

まこりーぬ:Jさんすみません、せっかくなので具体的な施策についてもお聞きしたいのですが……これから自社商品の口コミを増やしていきたい企業がまず取り組むべき一歩目はなんでしょうか?

J:まずは現時点で口コミが出てるか出てないかを見ましょう。出てるとしたら口コミの数が多い、エンゲージする人が多いカテゴリを洗い出し、それをテーマにした情報発信を強化していくっていう流れかな。

このとき「エゴサーチしてただ漫然と自社ブランド名を見る」という失敗が起きがちなんだけど、データは仮説をもって見なきゃ意味がない。だから何度も言うけど、まずは自分に問う、その次身近な人に聞く、そしてソーシャルリスニングへと広げていくことが大事。

※ ソーシャルリスニング:ソーシャルメディア上に書き込まれている生活者の投稿を、マーケティングや改善活動に活かしていくこと。

口コミが出ていない場合は、考えられる原因が3つある。1つめはそもそも商品がよくない、2つめは広告を一切かけておらず商品がまったく知られていない、3つめは口コミも指名検索も出にくい商品属性であるパターン。たとえば脱臭剤とかカップ麺とか、コモディティ化された商品がこれに当たるね。3つめの場合は正直なところ口コミを増やす取り組みはうまくいかないから広告費をかけざるを得ないかな。

まこりーぬ:しょ、商品がよくない場合は商品力を磨くしかないわけですね……。ちなみにB2BはB2Cよりも口コミが出づらい印象ですが、どう工夫したらよいでしょうか?

J:たしかに顧客数が数十数百と少ないうちは口コミが出づらいので、コンテンツマーケティングを仕掛けるのは手だね。「あの記事おもしろいよね」という口コミに可変させれば数を増やすことができる。まこりーぬさんの出番だよ。

B2Bこそ、口コミは大事。商品が高額で1人では決裁できないわけだから、社内で上申するうえで「あの会社も使っていて評判がいいらしい」という情報は担保になるよね

僕も昔SaaSを売ってたことがあって。最初はテレアポも飛び込み営業もやったけど、使ってくれるお客様が増えて評判が広まるにつれて「親戚が似たような商売やってて〜」とどんどん紹介してもらえた。紹介でモノが売れていくって、最強の営業だよね。

まこりーぬ:なるほど……。お客様への価値提供も、コンテンツマーケティングも、が、がんばります!(涙)

さいごに

J:……じゃ、おじさんはそろそろ。今日伝えたかったのは、施策のフィルターを通さずにマーケットを知ろうってことね。1.自分はどうなのかを問いかける、2.その仮説をもって身近な人に話を聞く、3.さらに多くの人の口コミを見て内実を把握するという3ステップが超大事。施策の話はそれからよ。

あとは、認知を広げて新規顧客を獲得し続けるためには、いまの時代口コミを活用しない手はない。いい商品を提供して、お客様を幸せにして、全国津々浦々で口コミが自然発生し、お客様がお客様を連れてきてくれる状態を目指す。これが理想。……ね、シンプルでしょ。

まこりーぬ:ま、まとめまで……! jigen_……いや、Jさん! 今日は本当にありがとうございました!!!

J:こちらこそ付き合ってくれてありがとう。ここ、いいお店でしょ。ぜひたくさん食べてってよ。コロナ禍でお客様減っちゃってるからさ。じゃ。



まこりーぬ:……いやぁ、不思議な夜だったね……。

なりちゃん:はい……和柄のシャツがとてもステキでした……。

※ お話いただいた内容は、ノンフィクションです。

 
 
▼撮影にご協力いただいたお店のご紹介
TREES イタリアン&バーラウンジ 神楽坂食べログ
見てのとおり、シックなお店の雰囲気が神楽坂の夜を盛り上げてくれるのはもちろんのこと、料理もとってもおいしかったです! おすすめはお肉の盛り合わせ。ちなみに後輩のなりちゃんは「ここのカシスオレンジ、いままで飲んだなかで一番おいしいです」と言ってました。私はとりあえずビールしか飲めていないので、またお邪魔します! ご協力本当にありがとうございました!!!

この記事のシェア数

Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

このメンバーの記事をもっと読む
マーケターの大先輩に取材しました! | 16 articles