こんにちは。エディター兼ディレクターのケイ(@yutorination)です。LIGではクライアントのWebメディア/サイトの編集・運営サポート、コピーライティング、それとLIGのYouTubeチャンネル「LIGちゃんねる」の制作を担当しています。
さて、僕はLIGで昨年度から、長野県信濃町の地域活性を目的としたWebサイト「ありえない、いなかまち。」の運営サポートをしているのですが、そのなかで「地域の魅力を発信する地元のライターを育成する」ことを目的としたライター講座を開催しています。
▼今年度の講座の詳細はこちらへ。 地域の発信力を高める!好評の「信濃町ライター講座」、今年も開催します。
ちなみに地方創生を目的としたライター講座は信濃町だけでなく、昨年は北海道・帯広でも開催しました。今回の記事では、これまで「地方創生×ライター」講座をやってみて感じた地方創生におけるWebメディアの活用可能性について書いてみたいと思います。
「東京一極集中」に対して、Webができること
突然スケールの大きな話をします! 抽象度の高い話をきちんと視野に入れておくことが意外と重要なので……。ということで書きますと……
90年代以降の日本では、「東京一極集中」が問題となってきました。都市の過密による満員電車や渋滞、家賃の高騰、住環境が改善されない、災害やテロ・(コロナのような)疫病の流行に対する密集リスク、そして何より、経済活動が東京に集中することによる地方都市の疲弊です。
今年のコロナの状況になってようやく、東京都への転入を転出が上回るようになりましたが(参考:人口飲み込む東京に変化の兆し 出社減、転出超過続く:朝日新聞デジタル)、まだまだ東京への「一極集中」は社会的な課題として存在し続けています。
課題解決のために企業が貢献できることは数多くありますが、ことWebの分野において可能なこととして、「東京ではない地方部に住み、働く」ということの魅力や現実がリアルに想像できるような「情報発信」が考えられます。
帯広でライター講座をやってみて感じたこと
帯広で開催した講座は、帯広地域雇用創出促進協議会主催の「発信力・宣伝力を上げるWEBマスター講座」の一環として、取締役のまことさんとともにおこなったものです。
▼ちなみに一昨年の様子はこちらの記事でレポートしました。 北の大地・帯広で考えた「Webを使ってどうやって情報発信するか」ということ
この講座は、信濃町の講座と違って1回かぎりなのですが、僕は4時間というなかなかの長い時間をいただきまして、前半の2時間はブログの書き方やSEO(検索エンジン最適化)とSNS活用の基本的な考え方をお伝えし、後半の2時間は「帯広・十勝地方の魅力をPRするWebメディアがあると仮定し、その企画を5つ考える」というワークショップを開催しました。
実際にワークショップをやってみて驚いたのが、帯広の市民のみなさんから出てくる企画が、どれも魅力的なものばかりだったということです。「帯広・十勝地方には本当はこんな魅力があるんだけど、うまく外に伝えられていない!」というリアルな思いが込められていました。
情報発信には「共創」が必要
これまでは「地域の魅力を発信したい」というとき、我々のような広告/Web制作会社に、コンテンツ制作をそのまま発注する、という発想が多かったかもしれません。
しかし帯広でワークショップをやってみて感じたのは、
「東京にいる我々よりも、実際にその地域に住んでいる方々自身が主体となって発信するコンテンツのほうが、よりリアルで説得的なものになるのではないか」
ということでした。
とはいえ、地域の方々が実体験をもとに企画をするだけでは、どうしても社会一般からの客観的な視点を欠いてしまいがちです。そこで、客観的な視点からレビューをし、「完成」「公開」まで持っていくべく記事コンテンツの制作をアシストする、我々のような「編集」を職能とする人間が関わる価値があると感じました。
最近、LIG社内ではよく「共創」という言葉が使われるのですが、地方創生PRのためにはあくまで私たちはサポートに徹する、を原則とすべきなのかなと思います。
発想を豊かにするために使える「ネガティブアプローチ」
「PRをしたい!」と思ったとき陥りがちなのは、「とにかく良いところだけを発信しよう!」というふうになることです。
でも、1人の読者としては「このメディア、PRばっかだな」と感じたら途端に興味がなくなります。いわゆる「宣伝臭」を感じてしまい、入り込めないのです。
「良いこと、人に言えることばかり発信する」というのはとても簡単で、それをやっていくと、いわゆる「提灯メディア」ができあがってしまいます。
そんな問題意識をもっていたため、帯広でワークショップをやった際に初めて試してみたのが、ネガティブアプローチという手法でした。
ネガティブアプローチというのは広告手法の1つです。
たとえばどういうものかというと、つい最近閉園となった東京の遊園地「としまえん」がかつて出した新聞広告が有名です。そこには「史上最低の遊園地。」というコピーが大きく踊っていました。遊園地といえば「楽しい」イメージがありますが、それを「不快!!」「来るんじゃなかった!!」 などのマイナスな言葉に、家族連れの険しい表情を合わせて、としまえんの「絶叫マシン系」遊園地の特性を上手く表現していたのです。(参考:谷山雅計『広告コピーってこう書くんだ!読本』宣伝会議、2007年)
ここまでバチッとハマったものでなくても、「あえて」地域の一見ネガティブな側面を自虐的に拾い出し、そこから発想していくのはアリだと思います。
たとえば帯広で行ったワークショップのケースであれば「ココがイヤだよ十勝地方」「帯広に住んでいてつらいと思うことあるある○選」といった、ややネガティブな色合いのある企画も考えてみましょう! とお伝えしたところ、受講生の皆さんからたくさんの面白いアイデアが出てきました。
ネガティブアプローチは発想法の一環です。まずネガティブな側面を見ると、その裏返しとして「良さ」が見えてくるもの。
もしWebメディアで成果を出したいのであれば、いいことばかりではなくネガティブな側面も含めて、読者が気になる、潜在的なニーズを捉え、企画に落とし込んでいかねばなりません。むしろ、そこにこそ創造性が発揮される余地があるのだと思います。
信濃町の移住促進サイト「ありえない、いなかまち。」での取り組み
帯広の講座は単発で、実際には帯広の地域情報サイトがあるわけではないため、実際の記事制作・公開まで行くことはできませんでしたが、長野県・信濃町で行った連続講座「信濃町ライター講座」ではそのアイデアを実行することができました。
実際に移住促進サイト「ありえない、いなかまち。」の制作をLIGが担当しており、記事制作・公開までサポートしたのです。全7回の講座の様子はすべて、LIGブログ上でレポートしています。(レポート記事はこちらへ)
受講生のなかからも、ネガティブアプローチを発想のヒントにした企画が生まれ、それらは実際に公開になりました。
消防団って入らないといけないの? 信濃町消防団員の思い|ありえない、いなかまち。長野県信濃町の移住者支援サイト
地方移住の際に気になるのが、いなかまち特有の人間関係です。「町内会の活動に参加しないと村八分になるのでは……?」という懸念もあるのではないでしょうか。
では実際に町内でのコミュニティ活動はどうなっているのかを、「消防団」に着目して、受講生ライターのAyaco*さんが取材・執筆してくださった記事です。
雪道・坂道・けもの道!信濃町交番に、いなかまちの道路事情を聞いてみた|ありえない、いなかまち。長野県信濃町の移住者支援サイト
こちらは受講生ライター・松下美恵子さんの記事です。信濃町の冬は非常に大量の雪が降ります。そんな信濃町の交通事情はどうなっているの? という発想から、「じゃあ交番に取材してみましょう!」という記事が生まれました。
松下さんから「記事のアイキャッチはどういうものがいいですか?」という質問があったとき、私は「そうですね、交番だったら、警察だから、拳銃の写真とかですかね?」と答えました。もちろん本気で言っているわけではありません(笑)。
でも、何かを発想するとき、脳みそのブレーキをできるだけ外してあげるのが重要です。「いや、それはダメだろ」となることでも、みんなの前で口に出してみると、その場にいるみんなの発想の大枠自体が広がり、そこからだんだんいい塩梅の企画におさまっていくものです。
実は他にも受講生の方が書いてくださった記事を紹介したいのですが、今回は「ネガティブ・アプローチ」の手法を使って企画した2つの記事に絞って、実例としてご紹介してみました。
▼ちなみに、受講生ライターが企画・執筆してくださった他の記事は下記のとおりです。
- 信濃町の野尻湖国際村と須坂市、北信州で2拠点生活を送る翻訳者の暮らしとは?(執筆:水橋絵美さん)
- 【都会で消耗したら】信濃町にあるフィンランド式サウナ「The Sauna」が最高におすすめな件【ととのえよう】(執筆:諌山未来雄さん)
- 55歳で早期退職、東京→信濃町へ移住。旅行業と不動産業を起業した柏原章宏さんに取材しました(執筆:松下美恵子さん)
- 静かな場所で大切な人と丁寧な暮らし。「OND WORK SHOP」「サユリ美容室」(執筆:諌山未来雄さん)
「編集権の独立」がなぜ必要か
地方自治体や企業のオウンドメディアは、成り立ち自体が「PR」を目的としているため、どうしても「いいところだけPRしよう」という発想になってしまいがちです。
ですが信濃町の「ありえない、いなかまち。」は、確かにサイトの運営主体は信濃町役場なのですが、
- 役場の方々が企画内容のジャッジをLIGに任せてくれる
- 記事の企画・執筆自体は、市民ライターが主体である
という条件が揃っているため、「いいところだけPR」の「宣伝臭」のするメディアにならずに済んでいます。実際、「ありえない、いなかまち。」のPVは前年比15%ペースで成長を続けており、目的である「信濃町への移住促進」に対しても効果を上げることができています。
私たちLIGの編集者は、クライアントである信濃町役場と、市民ライターの間に立つ存在です。もし両者が直接やりとりをしたら、市民ライターの側も「役場の意向に沿わないといけないのかな」という、「忖度」の雰囲気が不可避的に生まれてしまうのではないかと思います。そうなってしまったら、すぐにでも「提灯メディア」になっていってしまいます。
しかし、私たちが「編集」として立っていれば、記事の独立性を担保することが可能になります。
そう、これは、「オウンドメディア」という言葉が生まれる以前から、メディア業界で重視されている概念、「編集権の独立」というものです。
既存の多くの新聞社・出版社では、基本的に「編集権の独立」が守られています。もし仮に、株主や経営陣、または広告主がコンテンツの中身に介入してしまうと、メディアとしての信頼性が揺らいでしまい、読者が離れ、長期的にメディアビジネスが立ち行かなくなってしまう――そのことを、歴史あるメディアの人たちは経験的に知っているのです。
今は「ブランドジャーナリズム」という言葉もよく使われるようになっていますよね。オウンドメディアに求められるのは、運営主体の利益につながること(コンテンツマーケティング)だけでなく「社会にとって価値あるコンテンツ」を出していくことでもあるのです。
メディアは誰でも見られる状態で公開されている以上、半分は公共物です。「オウンドメディアは運営主体(企業や地方自治体)のもの」というのは、それは一面では事実ではあるのですが、そういうことばかりを考えていたらむしろメディアの影響力は伸びません。
「メディアとしての価値を伸ばしていくためには、できるだけ編集権が独立していたほうがいい」という原則は、広く理解されていく必要があります。
もっといえば、そのためにこそ、私たちのような「編集者」という存在の価値があるのだと思っています。私たち編集者は、「メディアの価値を守り育てる」ということを第一に考える職業だからですね。
まとめ
やや抽象的・概念的なことを書きすぎたかもしれませんが、まとめます。
実際にオウンドメディアで効果を出すためにぜひとも考えていきたいのは、
- 「共創」
- 「ネガティブアプローチ」
- 「編集権の独立」
この3点です。これらの基本概念を押さえてメディア運営をすれば、よい結果を出せる確率は格段に高まります(なお、今回の記事では「地方創生」を主題に書きましたが、企業が主体となるオウンドメディアも原則はまったく同じです)。
「地方創生にWebを活用したい!」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ私たちLIGに、お気軽にお問い合わせください。「予算は決まっていないけど、とりあえず話だけでも聞いてみたい!」というご相談でもまったく構いません! 今回書いた話も、より詳しくご説明させていただきます。みなさまからのご連絡、お待ちしております!