みなさんこんにちは。外部メディアコンテンツ制作チームで編集者をしているやぎです。
GWはすでにはるか彼方──。すっかり仕事仕事の毎日を送っている方が多いのではないでしょうか。平日を忙しく過ごしていると、せっかくの土日も疲労感から無下にしてしまって、1日の終わりに後悔する、ということもあると思います。人間、心に余裕がないとなかなか感性を磨くための行動ってしないものですよね。仕事はある程度ルーティン化しないと効率良くさばけないので、オートマティックにこなしているうちに、ふと気づくといつの間にかなんだか感性が鈍っているような気がする……なんてこともあるはず。
それを仕事のせいにしたくなるところですが、昭和から平成にかけて活動していた詩人の茨木のり子が、『自分の感受性くらい』という作品の中でこう言っています。
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志しにすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
出典:茨木のり子詩集 (岩波文庫)
つまり、感性が鈍ってきているとしたら、それはまぎれもなく自分のせいなんですね。「ばかものよ」と叱責されると目が醒めます。というわけで、眠りかけの感性を刺激してくれる本を5冊紹介します!
目次
“創造性”ととことん向き合ってきた作家が書いた一冊
全世界で累計1,200万部を突破した小説『食べて、祈って、恋をして』の著者である、エリザベス・ギルバートが書いたエッセイ本です。『食べて、祈って、恋をして』は、ジュリア・ロバーツ主演で映画化され、2010年に日本でも公開されました。
私は映画も原作も見たことはないのですが、世界各地で開催されている講演会「TED Conference(テド・カンファレンス、テッド・カンファレンス)」でエリザベス・ギルバートが「創造性をはぐくむには」をテーマにスピーチした動画を見たことがありました。聴講者の感性に訴えかけるような話と語り口がとても印象的で、その後何年か経ってから書店でこの『BIG MAGIC 「夢中になる」ことからはじめよう。』を見かけて迷わず購入。
著者が作家人生を通して自分の中の創造性と向き合う中で、抱いてきた疑問や苦悩、感じていることや考えが、本人と周囲の人たちの具体的なエピソードで綴られています。本の中では、「アイデアは誰のものか」「完璧さにとらわれてはいけない」「精神的な苦痛は必要か?」「作ったものを神聖視しすぎない」などのテーマで書かれていて、ものづくりとの向き合い方がわかるだけでなく、その欲求が芽生える本です。
日常が非日常的にみえる歌がそろった一冊
KADOKAWAが発行している文芸情報の月刊誌、『ダ・ヴィンチ』の「短歌ください」という連載の、第1回から第30回までをまとめた本です。「短歌ください」は、毎月読者から送られてくるテーマに沿った短歌の中から、歌人の穂村弘さんが掲載する作品を選び、解説とコメントを添える読者の投稿コーナー。短歌は五・七・五・七・七の限られた字数で情景や心情を詠うもので、そのぶん表現の難易度は上がります。ですが、投稿者が一般の人にも関わらず、ありきたりではなく独自性があって、かつしっかり想像させる歌が多いのが魅力です。
たとえば、下記のような歌が載っています。
ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる
逢うたびに君の葬儀の挨拶を考えながら覗く横顔
読んだ瞬間どきっとしてあとに残るのは、説明をし過ぎない短い文で想像の余地を多分に残しているからだと思います。短歌しかり広告などのコピーしかり、短い文ほど少ない情報量で読み手に伝わるように考え抜かれていることが多いので、より印象に残るのかもしれません。
また、作品を通して作者の感性や想像力だけでなく、解説を通して穂村さんの想像力や洞察力も味わえる、二度美味しい本です。
感性を絵とストーリーで体現した一冊
『25時のバカンス』を描いたマンガ家の市川春子さんは、まさしく感性の塊のような方です。この本には、表題作の「25時のバカンス」と「パンドラにて」、「月の葬式」の3作が掲載されています。なかでも私が好きなのは、深海生物圏研究室に勤務するワーカホリックの姉が、休暇を取って久しぶりに再会した弟に、身体が貝に侵食されたことを打ち明ける「25時のバカンス」。
どの作品も、抽象度が高く柔らかい線の絵柄と童話のような世界観のようでいて、妙にリアリティーのある会話が特徴です。切なさがあるけれど後味は悪くないストーリーと、不思議な世界観がくせになります。
中身は深いのに軽く読めるので、ちょっと現実逃避したいときにオススメのアーティスティックなマンガです。
ものづくりへの欲求を受け止め後押ししてくれる一冊
『好奇心を“天職”に変える空想教室』は、株式会社植松電機の専務取締役である植松努さんが、先ほどもでてきた「TED Conference」でしたスピーチの内容をもとにつくられた本です。植松さんは、経営する町工場からロケットや人工衛星を打ち上げ、さらには世界でもNASAとドイツにしかない無重力状態を再現する実験塔を、メンバーの中心となってつくった方。
小学生のときに紙飛行機の本に出合ってから、学校の先生から「くだらない」と言われても、ペーパークラフトや板金の勉強を独学で続けたそうです。そのおかげで、「平面の部品から立体を作る方法」を学んだのだとか。周囲の声や思い込みに囚われず、「つくりたい」という純粋な気持ちを捨てずに貫いた植松さんの経験や考えが、優しい語り口とイラストで表現されています。
どちらかというと学生に向けて書かれている印象ですが、大人が読んでも勇気づけられる内容です。私は読んだあと、中学生のころに出合っていたら、また違った人生になっていたかもしれないなぁ、と思いました。
手紙に勝る読み物はなし。想いが心を揺さぶる一冊
『注目すべき125通の手紙:その時代に生きた人々の記憶』は、イギリスの文筆家のショーン・アッシャーが収集している、歴史上の人物たちの手紙やはがき、電報、ファックス、メモなどを、125通にわたって紹介した本です。エリザベス二世やメアリー・ステュアート、ダーウィン、切り裂きジャック、ルイ・アームストロングなどが実際に書いた手紙の写真とともに、その翻訳文や書き手がどういう人物だったのかがわかる解説文が載っています。
私はこの本を、ロバート・ファルコン・スコットという南極探検チームのリーダーが、南極で死を覚悟したときに妻にあてて書いたメモが載った記事をネットで読んで、購入しました。まだ公開されているので、ぜひ読んでみてください。
「いとしいきみよ、どうか取り乱さないでくれ」。死を覚悟した探検家が、妻と息子に残した手紙
どの手紙も特定の人物に対して思いを込めて書かれているからか、生きる時代も国も違う部外者の私が読んでも、心を揺さぶられます。かなり大判の本で重いのですが、一生手元に残しておきたいと思うほど、構成などつくりも含めて素晴らしい本なので、興味のある方はぜひ購入してみてください。
さいごに
仕事をオートマティックにこなしつつも、ときどき心の琴線に触れるような作品で感性を刺激して、人間的成長や仕事に活かせたら、きっと人生が豊かになるはず……!
アートや映画以外にも、創造力を高め、感性を磨いてくれる本はたくさんあります。あなたにとって最適な本を、どうぞ見つけてみてください。
さいごに、LIGブログでは、エディターやデザイナーなどさまざまな職種のクリエイターたちが、クリエイティブにまつわるテーマで記事をたくさん書いています。きっと何かヒントになる記事があると思うので、ぜひほかの記事ものぞいてみてくださいね!