ローカルビジネスの難しさって? 信濃の国で開かれた「LIG SHIP NAGANO #1」その舞台裏

ローカルビジネスの難しさって? 信濃の国で開かれた「LIG SHIP NAGANO #1」その舞台裏

まさくに

まさくに

人間には二種類います。

「信濃の国」を歌える人間と、歌えない人間です。

皆さんはどちらの人間でしょうか。僕は前者、僭越ながら歌える人間に区分されます。どうも。バックエンドエンジニアのまさくにです。

そもそも、みなさんは「信濃の国」をご存知でしょうか。長野県の県歌にして、その県民はなぜかみんな歌えるという噂のソウルソング。随所にパワーワードが散りばめられ、腰の強いビートを刻む故郷からの応援歌、それこそが「信濃の国」です。

ただ、僕も長野県出身者がみんな県歌を歌えるというのはにわかには信じられませんでした。皆さん、出身県の県歌なんか歌えます? 歌えないと思います。みんな県歌を歌えるなんて、そんなわけがない。そのため噂の真相を確かめるべく、長野県出身のLIGメンバー・づやさん、ずんさんの前で「信濃の国」を口ずさんでみることにしました。

ico 人物紹介:づや長野出身であるという片鱗すら見せない、東京に染まった弊社取締役。
ico 人物紹介:ずんこ同じく長野出身のデザイナー。長野オフィスに出社し、長野を愛する生粋の地域っ子。にも関わらずフットワークが軽く、あらゆる場所に出没する。Macのデスクトップをかついでどこにでも赴く姿はあまりに印象的だ。社内では「ずんさん」と呼ばれる。

するとどうでしょう。

すぐに鼻をクンクンと動かした彼らは「しなの……しなの……かえる……」とキーボードを激しく叩きはじめたではありませんか。「信濃の国」を長野県民はみんな知ってるし、相当に郷愁をかきたてる歌だということがうかがえます。恐るべし、しなの。

さて、さる6月16日のこと。

弊社では、この長野はしなのまちに位置するLIGのサテライトオフィス「いいオフィス野尻湖」にて、「地方ならではのデザインによるアプローチや仕事の仕方、地域との関わり方」というテーマを掲げて「LIG SHIP NAGANO #1」というイベントを開催しました。

本稿では、地元愛に溢れたそのイベントに感銘を受けた僕が、主催者であるずんさんにインタビューをおこない、イベントの内容を振り返りながら、そこに込められた思いや狙い、次回の予定などを深掘りしたいと思います。

地元長野でつながりをもっと広げるために

(以下、緑字:まさくに/黒字:ずんこ)

―もうずいぶん経っちゃいましたけど、長野のイベントは大盛況でしたね。

はい。たくさんの人が集まってくれました。無事に終わってよかったです。

―最終的に、どれくらいの人に集まってもらったんですか?

申し込みで言うと38名、実際には34名の方に来ていただけました。

―すげぇ。あんなにたくさんの人で埋まった長野オフィスも初めてでしたよね。嬉しかったなぁ。

そうですねぇ。

酒の力
主催者ずんこは緊張しいなので当日、酒の力を頼ることにしました。

―そもそもなんですけど、あそこでイベントをしようと思ったのはなんでですか?

私が長野にいて、あそこにオフィスがある意味を考えたときに、やっぱり地域に対して何かしら還元というか、「仕事をして返す」とか「地域の人とつながりを持つ」ということに興味があるし、意義もあると思ってて。

―うんうん。

で、たまたま4月に新潟に旅に行ったんですよ。ぷらっと。

―ぷらっと。

有給取って、沼垂(ぬったり)と燕三条っていうところに……。そしたら本当に偶然、その地域の制作会社の人たちに会って話をすることができて。

お互いにどんな仕事してて、どういう風に仕事取ってるんですかって話をしたときに、やっぱりうちとは全然違うアプローチをされてていて。それぞれの地域の特色を生かして仕事をされていたし、いろいろと自分にはなかった発想を知ることができたんです。私自身、そういった近隣他社の活動をもっと聞きたいと思ったし、長野オフィスに人も来てもらいたいし……、「じゃあ、ローカルビジネスのイベントをしたらどうだろう」って考えついたのが発端ですね。

そこで出会った二社がU・STYLEさんと、クーネルワークさんでした。

―すげぇ運命的。

株式会社U・STYLEさんの発表
多くのコミュニティに属し、この日も72枚という気合いの入った資料をお持ちいただいた株式会社U・STYLEの松浦さん。「ローカルライフスタイルをデザインする」という内容の発表をしてくださいました。「『生きる』ということを自分で作っていきたい」と強くおっしゃっており、さまざまなイベントを主催されているそう。ひとつひとつのイベントや活動に、言葉で表明できるテーマをちゃんとお持ちで、ブレない生き方があることに感銘を受けました。またそれらのイベントはすべて、人と自然に優しく接する静かで確かな営みで、これをビジネスに昇華させているという事実に驚きました。

株式会社クーネルワークさんの発表
こちらは漫才でしたね。株式会社クーネルワークの坂井さんと大橋さんの発表でした。「いやよいやよも好きのうち〜WEB×ローカルのおもしろさと難しさ」という内容で、ローカルだからなのかどうなのか、ITあるあるをヤンヤヤンヤと語ってくれました。

地方だと、「Webの必要性」を説くところから始めるようなことが多々あり、地方のWeb制作会社は厳しい戦いを強いられることが多いということでした。限られた予算の中でローカルビジネスを切り盛りすべく、作り手を大切にしたサービスを展開しているとのこと。農家さんの手間を限りなく省いて通販ができるようにした新潟直送計画での努力と苦労……、僕もECに携わっていた時期があるので他人事と感じられませんでした。

―あとの二社はずんさんから声をかけたの?

デザインスタジオ・エルさんは、長野県内でWeb制作でデザインをやってらっしゃるということで以前からずっと興味があって。地域に根ざした仕事をされているので、お話を聞きたいと思ってお声がけしました。

有限会社デザインスタジオ・エルさんの発表
有限会社デザインスタジオ・エルのハラさんの発表は、「ウルトラエルの自社ブランド戦略」がテーマ。サイトから受注を得るために「選ばれる」ことを重視していて、自社ブランドをどう展開するのか、ということをお話されていました。ハラさんの場合は、ご自身のライフワークを仕事と絡めて、周囲を巻き込みながら組織づくりを行っているそうです。とにかくブログを月に30本、100ヶ月続けているというのがすごい。インフルエンザのときとかどうするんでしょうか? 20年以上もWebに関わり、個人的にも有名サイトを運営していたご経験をお持ちで、歴戦の戦士という佇まいがありましたね。

「選ばれる」には機能的価値、もしくは情緒的価値があるかどうか、それが適切に自分たちのアウトプットとして表現できているかが重要とのこと。確かな実績と経験、知見から導き出される戦略がたいへん参考になりました。また残業ゼロを達成しているというのが、異世界のWeb制作会社の話なのではないかなと思いました。

それから、JBNさんは地域でセミナーを何度も開かれていて。Web制作会社が、セミナーやイベントでどんな風に地域と関わっているのかなっていうところで今回のイベントのテーマにも通じているし、お話を聞けたらって思ったんですよね。

株式会社JBNさんの発表
株式会社JBNさんの発表テーマは「制作会社にセミナー事業は必要か?」。Web制作会社としては特徴的なセミナー事業のお話でした。事業? Web制作会社でセミナーって事業になりえるんですね……。ローカルビジネスの事業のひとつとして、とても参考になりました。Web制作というものの認知を上げ、Webサイトを作りたい企業や担当者、Web制作企業、みんなが幸せになるように、県の事業の一つとして企業をサポートしていこうとセミナーを始められたそうです。まず、その事業を県に提案するのに骨が折れるんじゃないかと思ったのですが、そういった提案力にも優れているんだろうな、ということもうかがえました。

また、「一番やりたかったのは、企業のWeb担当者やWeb制作会社との交流を深めること」というご意見には僕も大いに賛同できました。「お客さんと受発注の関係ではなく話し合える」という関係値は、ものづくりにおいて非常に大切だとあらためて感じました。「共に育ち合う関係が作れた」というのが成果であるとおっしゃっていました。

ただ、セミナー事業は利益が出にくいというのも現実であるそうですね。

―なるほど。そうした企業さんの中にずんさんも混じって、まぁ僕らLIGの日常の話をしたんですよね。

ずんこの発表
自分で決めたローカルビジネスのテーマの中で、「どこでも働けるLIGの事業ミックスの話」をする……、なんとも大胆な、我らがずんこの発表でした。LIGはWeb事業だけでなく、飲食事業や教育事業などを含む7つの事業を展開しています。それらをMIXして、どのようなバリューをローカルビジネスで出せるか、という話でした。僕自身も参加したことがあるのですが、「どこでもオフィス」などの企画を、社内の複数の事業を利用してパワフルに進めることによって、予想以上の相乗効果を生みだせるとのこと。それはこの「LIG SHIP NAGANO」を見ても実証されているなぁと感じました。

会社と社員が地域の一部になっているかという課題

―ちなみに、今回登壇された方々ってけっこう有名人だと思うんですけど、どうやって声をかけたんですか? テレアポ?

いや、それはもうメッセンジャーで。

―友達かよ(笑)。

もともと県内の制作会社のイベントに行きまくってて。とにかく横のつながりを作りたかったんですよね。それで、長野に戻ってきてからずっとあっちにこっちのイベントに行きまくってたら、「瞬間移動できる人」みたいに呼ばれるようになって、知り合いがとても増えたんです。

―いやぁ、そうなんだー。同僚として頭が下がるなぁー。月に何回くらい、長野のイベントに行ってるんですか?

今はそんなに行けてないけど、月イチくらいですかね。最近はみんな顔見知りになってきたので、あえてWeb制作とは無関係の飲食系のイベントに顔を出したりしています。

―いや、だって超忙しくない? 知ってるけど超忙しいでしょ?

はい、忙しいですね(笑)。

―凄いなぁー。

地域の仕事をしたかったのはもちろんあるんですけど、横のつながりを持ちたくて。その点、LIGって異質だと思うんですよね。

―というと?

LIGってたまたま首都圏に本社があって、東京の仕事を私もしてるけど、逆に言うとサテライトオフィスを持っているのに地域の仕事に対してはまだまだで。もっと地域の仕事に触れあっていきたいし、還元もしたいし……。そのあたりがもっと成長できるところだなって思ってて。

―そっか。たしかにその通りですね。

それが、長野に足をつけて働くなら普通のことだって思うんですよね。仕事の取り方とか、見積もりの出し方とかも学んでいきたいなって。だから今、私が聞きたいことを今回のイベントのテーマにさせてもらいました。

ローカルビジネスで直面する問題は各社で似ている

イベント中に開催されたクイズの様子
今回のイベントでは登壇者、参加者の境目を極力なくすため、登壇者に関するクイズをおこないながら交流を深めました。また、イベントに関するアンケートにも趣向を凝らし、参加者みんなが退屈せずに本当の意味で「参加」できるイベントをめざしました。

―今回のイベントは満員御礼だったけど、単純な技術のテーマと違って、わりと人を選ぶテーマだなって感じてて。喋る方も聞く方も。登壇者のお話を、ずんさん自身はどんな思いで聞いていました?

どうでしょうね……。私主導で、私が聞きたかったテーマで開いたイベントなので、私としてはちゃんと聞きたい話を聞けたというか。とても勉強になりました。アンケートの結果を見ても、ご満足いただけた方が多かったみたいでよかったです。

やっぱり、登壇していただいた各社にとっても、地域で仕事をすることで発生する課題は似ていて……、だからこそ情報共有で乗り越えられることも多いなって実感しました。テーマへの理解や発表内容はベースなんですが、横のつながりを作るイベントであったのは目標のひとつでしたし、できてよかったことですね。

ただ、時間が足りなくて。もっと突っ込みたかったのが名残惜しいです。座談会でもっと聞きたかった。あれはあれで面白かったですけどね。

懇親会を兼ねた座談会
登壇が終わったイベントの中盤以降は、参加者からのアンケートを募り、各登壇者に対する質問や、Webのトレンドに対する意見などを語らう場がもたれました。近隣のWeb製作者、あるいはローカルビジネスのキーマンへのさまざまな質問に、ざっくばらんな意見が飛び交いました。

―でも各社の特徴とかはちゃんと出てて、イチ参加者として聞いていても楽しかったです。最後のクーネルワークさんのイベントやばかったもんね。まさか漫才をしてくれるとは思わなかったし。あの人たち、あの資料、イベント前の午前中に作ってませんでした?

(笑)。たしかに、あれはうっかり出会えてよかった人ですね。長野は真面目な人とか喋りベタが多いイメージがあって、盛り上がるかも未知数だったので。

―たしかに。テーブルがなかったからかもしれないけど、PCを開いている人も少なくて、「ちゃんと話を聞くぞ」って姿勢で臨んでくれている人が多かったですよね。

そうですね。東京のイベントだとまぁ、よくも悪くもみんなPC開いてメモ取ったりしてますからね。県民性なのかもしれません。

次回イベントで考えているテーマについて

―さて、当然第2回も計画していると思うんですが、次のテーマは何を考えていますか? ちょっとだけ教えてください。

そうですね……。最近、「編集」って言葉に興味があって。流行り言葉に乗っかっちゃってるみたいで不本意ではあるんですけど、「編集」について、人が集まったらやりたいなって思ってます。

―編集? 流行り言葉なの? 知らない……。

地域の素材があって、それをどうやって集めて、切り口がどこかを考えて、どう見せるかとか、どうやって料理をするかっていうことですね。意識的、あるいは無意識的にそういうことをやっている人に声をかけて開催できればな、と。

―へぇー。

集まっていただけたらいいな、ってレベルですけどね。たとえば地域の観光資源に対してどうやって編集しているのか、どうやってアウトプットしているのかっていう話ができたらいいなって思っていて。パッケージデザインとか動画とか観光、あとは実店舗とかにも声をかけたいなって。

―マジかよ。ちゃんとその地域で活動している姿、尊敬します!

デザインに対する考え方

―じゃあ最後にひとつだけ。最近、ずんさんはめちゃくちゃ勉強してるイメージがあって、活動がWebデザインに留まっていないなって感じるんですけど、ずんさんにとってデザインって何ですか?

うーん……。

課題を解決してあげるひとつの手段でしょうか。さっきの「編集」じゃないんですけど、「あるものをどう美味しく出すか」であって、アーティスト的なデザインに留まらず、売上が上がったり問い合わせが増えたりする方に興味があります。「上手く言ってくれた」みたいな……。そうですね、「喋りベタな人の言葉を上手く言ってあげる」みたいな、それがデザインじゃないかなって今は思ってます。

―なるほど、勉強になります! また次のイベントにも行きますので!

ぜひ!!

実際にイベントに参加してみて

以上が、「LIG SHIP NAGANO #1」の主催者であるずんさんのイベント後記インタビューとなります。

ところで、ここまで長野県をフィーチャーしてきた僕から、唐突に伝えなければならないことがあります。どうでもいいんですが、僕は静岡県出身なので元来「信濃の国」なんて県歌は知らないのです。なぜ僕が「信濃の国」を歌えるかと言うと、長野の農家へホームステイをするという中学校の伝統行事を通して習ったからでした。

ああ、ホームステイ先のおばさんが別れ際に泣いてくれていたな……なんてことを、イベントを見ていてなんとなく思い出し、イベントのあたたかい雰囲気と相まって、非常に豊かな気持ちになりました。

今回のイベント、それからずんさんのインタビューからもわかることなのですが、ローカルビジネスという一括りの中には「愛する地域で働きたい」という人々の熱量が必要不可欠なのだと気づくことができたように思います。

第2回となる「LIG SHIP NAGANO #2」は9月か10月ごろに開催予定。小さなオフィスなので、もしかしたら参加者の皆さまには窮屈な思いをさせてしまうかもしれませんが、次回も思いやりとアイディアを集めたイベントにしたいと画策しています。またお知らせさせていただきますので、ぜひともオフィスから臨む野尻湖の絶景を見にいらしてください。

ちなみに、本イベントの全登壇はこちらの動画からご覧いただけます。

それでは! バックエンドエンジニアのまさくにでした。

LIGはWebサイト制作を支援しています。ご興味のある方は事業ぺージをぜひご覧ください。

Webサイト制作の実績・料金を見る

この記事のシェア数

まさくに
まさくに バックエンドエンジニア / 伊藤 正訓

漢字で書くと正訓。バックエンドのエンジニアです。静岡と石川に住んだことがあり、現在は千葉に住んでいます。誰かが作ったシステムに対しては、正常系だけを通るように並列処理やデッドロックが起きそうな処理を避けて操作する職業病があります。好きな色は紫、好きなキーボードの位置は「i」、好きなご当地ヒーローはセッシャー1です。

このメンバーの記事をもっと読む
デザイン力×グローバルな開発体制でDXをトータル支援
お問い合わせ 会社概要DL