うぬらこんにちは! 「STUDIO 池袋 by LIG」の壁画を描きました
画家の田中ラオウ(@raoutanaka)です。
今回は僕の地元、北海道で創作活動を続けられている日本画家の谷地元麗子(やちもとれいこ)さんへのインタビューの模様をお届けします。美術市場が都市部への一極集中傾向にあるなか、地方で創作活動を続けるその意味を伺いました。
日本画家:谷地元麗子(やちもとれいこ)1980年北海道江別市生まれ。江別市在住。北海道教育大学札幌校卒業後、札幌武蔵野美術学院勤務。道展会員。
北の日本画展、サッポロ未来展の実行委員を務めるなど、北海道を中心に活動し、「道展」を含む公募展や「北の日本画展」などのグループ展に出品を続ける。 道展会員となった2015年に「第14回サッポロ未来展 in Sakhalin」にて国際交流海外展に関わる。現地でサハリン州立美術館館長賞と、サハリン州政府文化大臣奨励賞を受賞。2016年の「第15回記念サッポロ未来展」ではサハリンから若手美術家を招聘(しょうへい)し、赤れんが庁舎、札幌時計台ギャラリーにて日露の若手美術合同展示を開催。同年11月在ブルガリア日本国大使館主催の日本画展に出展。2017年札幌児童福祉総合センターへ作品を寄贈。 |
地方にはそもそも画商がいない
――谷地元さんこんにちは。
ラオウくん、ご無沙汰しております。
――今日は谷地元さんに、おもに地方で画家として生きるメリットやデメリットを伺いたいと思います。まず率直に、我々画家は地方で創作活動を続けること自体がリスクと言われることがあります。それは画商、ギャラリー、画壇が都会に一極集中傾向にあるからだと考えますが、谷地元さんはどう思われますか?
一概には言えないけれど、おおよそその通りだと思います。
画商やギャラリーの取り扱い作家になって作品を販売する、というのが画家の作品販売の王道ですが、地方は画商がそもそもいないというのが現状なので、作家本人の創作以外の活動や作品の見せかたが重要だと思います。どのように自分の作品を知ってもらうかを考え、工夫しなければなりません。
見てもらえる頻度やチャンスの多さは首都圏にはかなわないけれど、逆に地方でしかできないやり方で成功すれば、そのリスクがパワーに変わり、唯一のものになると思います。
――今、北海道の美術界の状況はどのようなものなのでしょうか?
ひと言で言えば、厳しいです。北海道ではそもそも絵を買う人やコレクターさんが少ないため、活躍されている先生方も制作の拠点は北海道でも、販売自体は東京や海外に向けられている場合も多いです。
そして、若い作家が育ちにくい環境でもあるかもしれません。なぜかというと画家を目指すこと自体、親の理解を得られなくて断念する子が多いからです。絵一本で生きている作家が親の周りにひとりでもいれば意識も違うのかもしれませんが。
いいお客様を育てるのは美術家、いい美術家を育てるのはお客様
――谷地元さんはそのような状況を盛り上げていくために日々奮闘されていることと思いますが、北海道の美術界の状況がどのような形になることが理想的だと思われますか?
地産地消ではないですが、北海道の作家を北海道のお客様が育てる、というような流れができたら素敵だと思います。いいお客様を育てるのも美術家、いい美術家を育てるのもお客様、であるべきなんです。
生活の一部として「絵を楽しむ」「お金を使う」ということが、まだまだ特定の美術愛好者や美術家だけの世界になっていて、一般の人にまで広報が足りていないと感じていますので、もっと多くの方が美術を楽しめるように私たちも頑張らなければいけませんね。
理想にたどり着くための早道はないかも知れないけれど、たとえば北海道ブランドというか、「北海道と言えばこの作家」みたいな「スター」をつくるのもひとつの手かも知れません。北海道にいながら、北海道から発信できる仕組みとか、ネットワークづくりを地道にやって、相互作用がバランスよく取れたら理想的なんでしょうね。
――谷地元さんが北海道で創作活動を続けている理由はなんですか?
改めて聞かれると、はっきりしたことは言えないかも知れませんが、ここで培った人との関係や活動の理解者がそばにいたからという理由があります。
そしてもうひとつ、どう逆立ちしようとも一生自分の故郷が「北海道」で、この地の出身という事はずっと変わらないし、この地で育った経験が自分の作品に大きな影響を与えていると感じています。育ててくれた地元で活躍してみたいという気持ちと、絵で地元に貢献できたら絵描き冥利につきるなという気持ちが今もこの場所で制作を続けている理由かもしれません。
ただし、とくに北海道だけにこだわっている訳ではなくて、機会があればさまざまなところで発表はしたい。
創作現場は今のところ「ここ」でいいけれど、活動範囲を制限という意味ではないの。
美術とはなにか
――ちょっと唐突で申し訳ないのですが、そもそも美術とはなんなのでしょうか?
ひと言で答えにくい、難しい事を聞きますね~(笑)。
描く、創るという根源的なこともあるでしょうけど、文化や歴史につながる事とも言えるのが美術だと思うので、この時代にどのように関われるのかまだ美術のほんのひと欠片しか垣間見ていないので、正直分からないです。受け手と作り手でも美術に対する意識が異なると思うので・・・。ほんと、美術ってなんなんでしょうね。
癒しもあれば、大きく時代や人を動かすパワーもある。筋書きも正解もないから求めて追い続けるのかな。美術を分かっちゃうと、つまらないような気もしますね。
――たしかに。答えにくいことをお聞きしてすみませんでした(笑)。
作品制作について
――次は谷地元さんの作品について伺います。創作で心がけていることはありますか?
素直に描きたい対象を、素直に描くこと。
描きたいものでなければ創作は楽しくならないし、たとえ自分が描こうと思ってなかったモチーフやテーマ作品依頼をされたとしても、モチーフやその対象を理解したり好きになったりする時間を作らないとモチベーションが保てない。おそらく私はデザイナーにはまったく向いてないでしょうね(笑)。
制作モチベーションは作品のクオリティにも大抵比例するので、そこはできるだけ自然にモチーフを選んだり素直に描きたいもの確認して絵作りしています。
――モチーフへのこだわりはありますか?
私の場合は、自分の生活の中とか身近なところから持つ興味で描きたいモチーフが決まるようです。愛猫だったり、女性だったり。
こだわりというほどのことではないけれど、描きたいものしか描けない私のような不器用な絵描きは、モチーフに対して強い愛情とか、制作意欲を掻き立てられる出会い、とか日常的な事情があるのかも知れません。
――画材を選ぶ基準などがあれば、教えてください。
やりたい表現に合うか合わないか、自分の感覚に合うか合わないか。だと思います。
美術系の大学では、基本的な画材や素材を使用したり、多角的な視点で創作する授業もあり、好き嫌いに関係なく美術の基礎的な経験を積みますから、知らない画材に触れて色々やってみた上で、なおかつ日本画の画材の特性や岩絵具の持つ圧倒的な魅力にすっかり魅了されました。
奥深さに感動し、価値と伝統に驚き、この画材の面白さに翻弄され、「もっと上手く扱いたい、知りたい」となって、この画材でやっていこうと選ぶに至ったなと思います。
これからの画家に伝えたいこと
――谷地元さんはサッポロ未来展などで若手作家と積極的に関わっていたり、後進の育成なども意識されて活躍されているように思いますが、これからの画家に伝えたいことはどんなことでしょうか?
自分がどうしたいかが大事だと思います。
どうしたいのか向き合って考え、決断するのがどのタイミングかは人それぞれですけど、私は10代~20代前半の進路選択に関わる仕事をしている事もあって、しばしば背中を押す状況になったり、お尻を叩いて促すみたいな事に出くわします。
背中を押すのは自信をつけて欲しいから。お尻叩くのは失敗して欲しくないから。
たとえば美大受験、その先の制作環境、発表のアシストや紹介、プロの現場の仕事との関わりなど、さまざまなタイミングで年とともに出会いやチャンスがあると思いますが、決断してやらなければ始まらないし、続けてこなければ次のステップに行けないし、同じ土俵に上がってくれないと伝えられない、というか伝わらないこともあると、今は分かります。
自信を失ったり、失敗の繰り返しのなかで、恩師や、先輩、仲間などに自分が散々背中を押されていた事に気付いたんですよね。結果が出て一番喜んでくれたのも恩師や先生だった。そういった人たちがいたから今の自分につながっていると思うんです。
でもその人のために絵を描くわけではないから、美術活動を続ける覚悟みたいなのがなければ続かないわけだけど。結局自分で決める。
だから最終的には自分がどうしたいのか。なんでしょうね。そして、周りの状況に感謝しながらやろうと伝えたいです。「やれ」ではなく「やろう」ですね。自分もそう思っているし、視野が狭くなりすぎないように心がけることが大事だと思います。画家は周りの協力なしでは生きられませんから。
――「感謝」と「覚悟」ですね。身が引き締まるお話です。最後に谷地元さん個人の今後の展望をお聞かせください。
北海道の美術の文化を上げていける一端を担いたいです。
「絵描きとして」という気持ちはもちろんあるけど、企画や仕事の上でも、方法はなんでもありなんだと考えます。そのためには、目の前のことからコツコツ積み上げていくことが必要だと思います。
たとえば自分の関わってる展覧会をちゃんとやるということもそうですし、今を丁寧に向き合うことが大切だと思っています。
「誰か」は決して分かりえないけど、「誰か」が必ず見てくれているものだと、信じています。
――谷地元さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
蝦夷猫舎|日本画家 谷地元麗子
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