こんにちは、エディターのヒロアキです。
第 1 回「紙媒体を知る」では、ウェブと紙媒体の長所と短所を明確にしたうえで、より高度なライティングスキルが求められる紙媒体の特性をご紹介しました。
▼第 1 回「紙媒体を知る」記事はこちら 体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #01 紙媒体を学ぶ
続く第 2 回では、実際に雑誌や冊子といった紙媒体がどういう流れで作られているのか、そして紙媒体で書くうえで知っておきたい作法について、実際に私が手がけているバイク雑誌『ヤングマシン』(内外出版社 刊)の連載企画を取り上げながら、ご説明します。
目次
実際に紙媒体の作り方を追う
まずは雑誌などの紙媒体が、どういう工程を経て出来上がってくるのか。その制作過程をご紹介していきましょう。
1, 台割作成と担当割り振り
「台割」とは、雑誌の設計図。まずその冊子が何ページ構成なのかが決められ(紙媒体は基本的に 8 ページ構成からなり、16、24、32……と倍数化して決まります)、「記事ページ」か「広告」か、「 4 色(カラー)」か「単色(モノクロ)」か、さらに「担当編集」「ライター」「カメラマン」などが割り振られます。この台割をもとにスケジュールが決まり、製作が進行していきます。
記事ページに関しては、「イットク」(第一特集)、「ニトク」(第二特集)、連載モノ、定型企画などが組み込まれていきます。最近は売れ行きが芳しくない雑誌などが奇をてらった構成で出してくることもありますが、ムック誌(最近は新企画雑誌という意味合いを持った単発雑誌)を除くと定型化する傾向にあります。連載モノや定型企画は決まった担当がいて、大型企画は編集長+スタッフ(複数の場合も)という組み合わせが主。持ち込み企画は、その持ち込んだ編集者が担当するのが常ですね。
2, 取材の段取り
自分の担当ページが決まったら、取材の段取りです。まずは取材先への打診とスケジュール調整、取材場所の調整を行い、それから外部スタッフ(ライター、カメラマン、その他スタッフ)のアサインです。全員の都合がつく日程が決まれば、さらに必要な機材(取材用の車や撮影機材、その他諸々の準備)を整え、取材に臨むことになります。
私が外部ライターとして連載を請け負っている『ヤングマシン』「ハーレーダビッドソン・スポーツスター カスタムマシン紹介」のコーナーだと、編集担当 S さんから「うち(ヤングマシン)のテイストに合うカスタムハーレーやショップの候補ってありますか?」と連絡が来るので、僕から候補をいくつか挙げ、編集担当者に採用の是非を判断してもらったうえで取材の段取りを組んでいきます。
バイクに関する情報を全方位的に取り上げる『ヤングマシン』において、「ハーレー」「スポーツ系カスタムバイク」という要素を核とする本企画については、この分野を得意とする私にその選定を一任していただいています。
3, 取材
いよいよ本番! 撮影時には、あらかじめ「どんな写真が必要なのか」をカメラマンに伝え、撮影に立ち会うライターならびにエディターはカメラマンのサポート(助手)として全面的にバックアップしていきます。この写真だと、左側のエディター S さんがストロボを構えているのが見えるかと思います。主役は「被写体」と「カメラマン」と認識しましょう。
ヒアリング取材では、実際に記事でどんなことを書くのかイメージしながら、その流れに即した話を引き出すよう努めます。当初想定していた内容と違った展開になっても、軌道修正の意識を忘れることなく、インタビュイーに気持ち良く語ってもらえる場の流れを作っていきましょう。
4, 素材まとめ
取材後、エディターはカメラマンにデータ納品予定日を、ライターに原稿の締切日を伝えます。まず写真データを受け取り、記事に用いる写真を選定してレイアウトをイメージしていきます。
5, ラフ引き
続いては「ラフ作成」。このように、方眼紙を段分けしてレイアウトを描いていきます。基本的にエディトリアルデザインは雑誌のサイズやテイストに合わせて「 3 段」「 4 段」「 5 段」といった感じで分けられ(上の画像は、エンピツで 5 段に分けられているもの)、ブロックを積み上げるように組んでいきます。
6, デザイン入れ
こちらが実際に編集者が描いたラフです。ヤングマシン編集部 S さんのラフは相当丁寧な方ですが、ここまでしてもらえるとデザイナーとしては有り難いでしょうね。
ラフに数字が打たれていますが、これは画像の指定です。この赤い数字ごとに入稿する写真データが番号でネーミングされ(編集業務では「合番」と呼びます)、「ラフ」「画像データ一式」「ある程度のテキストデータ」と一緒に、制作してくれるデザイナーに手渡します。
7, カンプ作成
そしてデザイナーが制作してくれた「カンプ」がこちら。
- カンプとは
- 広告や印刷などの制作において、制作物の仕上がりを具体的に示すために作られる見本のこと。
盛り込んだ写真要素はこんな感じです。
- 写真要素
- ・メインカット
・サブカット(イメージ性をもう一枚)
・スタイリングカット(真横から見たカット)
・ディテールカット(特徴的な部位)
・ベースモデル写真
・インタビュイー写真(カスタムビルダー)
・マシンを手がけたショップ紹介枠
キャッチの位置やキャプションの配置などが変わっていますが、それは実際に組むデザイナーの裁量。ラフと見比べると、その違いがはっきり見て取れていい勉強になりますね。
これはウェブメディアの記事でも同様ですが、メインカット( LIG ではアイキャッチ)は記事の顔であり、他の何よりも力を注ぐ部分。当然カメラマンも相当気合を入れて取り組んでくれます。この記事で取り上げたバイクは「レーシーなカスタムハーレー」がコンセプトの一台で、全体的にブラックなボディでありながらギラッと光るクロームメッキのマフラーなどが特徴的だったので、あえて暗いトンネルのような場所を選び、背後と横からストロボをあてて見せたい部分を光らせて強調する、という撮影手法を用いました。もちろんレタッチもしていますが、狙いどおりのインパクトある一枚が撮れました。
このカンプの段階で、気になるところに赤字入れをします。タイトルに入っている車種名が間違えていたこと、ディテールカットの一枚が打ち合わせたものと違っていたこと、バイクの車体に背景が映り込んでいたこと、車種名を入れること、など。「後で言おう」で忘れたりしたら、出版物だと大事故のもと(いわゆる誤植印刷)。気づいたときに言う が鉄則です。
8, 原稿執筆
カンプができたことで、テキスト要素の字数が明確になりました。赤く囲んだ部分を項目として見ると、以下のようになります。
- テキスト要素
- ・メインキャッチ( 15W )
・リード文( 73W )
・本文前の小見出し( 11W x 2L )
・記事本文( 16W x 44L )
・カスタムビルダー紹介( 55W )
・ショップ情報(店名、住所、電話番号、営業時間、定休日、ウェブサイト URL )
紙媒体の場合、リード文やキャプションは全文字数でカウントしますが、段落に落ち着く記事本文は 一行の字数 x 行数 でカウントします。この企画だと、一行の字数が 16 ワード( W )で、行数が 44 ライン( L )なので、16W x 44L という表記になります。
原稿はワードで作成します。このとき注意しなければいけないのは、実際にカンプに流し込まれると縦書きになるか横書きになるか を見ておくこと。ワードだとすべて横書きですが、カンプを見ると記事本文は縦書き表記。とすると、
-
・数字は一桁なら全角、二桁なら半角、三桁以上なら全角で連ねる
・アルファベットは全角( km、cm、kg などの記号は半角 2 文字まで)
・「 ’98 」「 ’03 」なども一文字枠内で収まる書き方にする
といった書き方にしておかねばなりません。ここは紙媒体特有の設計ですね。
そのうえで、ワードに原稿を打ち込んでいくのですが、記事本文が 16W x 44L という設計なので、そのワードの本文部分を 16W で改行されるように設定します。こうしておいた方がいい……その解説は後ほど。
9, ゲラ校正 → 修正反映
原稿をカンプに流し込んだものがこちらの初校紙、通称「ゲラ」です。ここに赤字を入れていきます。
- ゲラとは
- 「ゲラ刷り」の略。校正刷。組んだ版をゲラに入れたまま、校正用に刷ったもの。
編集部に赤字校正を戻す際は、こんな感じで Photoshop で赤字を入れたデータを戻します。というのも、カラープリントした用紙に赤字が載りにくいからです。ただし、実際の校正は必ずプリントアウトして行います。パソコンのモニターで見るのと、用紙を細かく見ていくのとでは校正の精度に差が出るからです。
10, 入稿、そして製本
ライター、編集担当者、校閲、そして編集長の目が通って何度も修正が加えられ、全員が OK を出したところでデータ入稿となります。もちろんこのページだけでなく、最初にお見せした台割で建てつけられた記事 & 広告ページがすべて揃ってから、です。
印刷所に入稿され、印刷された用紙が製本、そして全国の書店へと出荷されて、販売に漕ぎつけます。
これにて全業務が終了……ではなく、製本されたサンプルが何十冊も届くので、取材でお世話になった方に「掲載のお知らせ」として郵送せねばなりません。ここでようやく全業務が終了!
……と、雑誌の編集業務をざっと見ていきましたが、今度はそんな紙媒体で執筆するための作法をご紹介します。
紙媒体特有の原稿の書き方
上記「実際に紙媒体の作り方を追う」項目 8 「原稿執筆」でさらっと流した作業を細分化してみました。
1, 読者層(ペルソナ)の明確化
ウェブ媒体同様、絶対にブレてはいけないのがここ。
私のこの「カスタムハーレー」企画を例に考えてみましょう。ハーレー専門誌ならペルソナは「すでにハーレーを所有しているハーレーオーナー」「ハーレーを買いたくて積極的に情報を集めているアクティブな読者」となるので、ある程度の専門用語(エンジン名、カスタムスタイル、パーツのメーカー名 etc……)についてはさらっと書いてしまえますが、特定のメーカーに特化しない全方位バイク雑誌『ヤングマシン』だと、「チョッパーカスタムって何?」「ショベルヘッドエンジンって何?」など、ハーレーに対して深い興味や知識を持ち合わせているわけではありません。
そのうえで、そんな読者のページをめくる手をとめさせるには? を第一に、「企画の骨子」はもちろん、「写真」「キャッチコピー」「記事の流れ」を練る必要があります。『ヤングマシン』でこういったレーサースタイルのカスタムハーレーを紹介するのは、攻めた乗り方が楽しいスポーツバイクやレーサーバイクに興味がある読者が多いことが前提 としてあり、そんな読者に「速く走れないと思われているハーレーでも、こんなカスタムをすればスピードライドが楽しめるんですよ」というメッセージを含んでいるから。
なので、「お、こういうハーレーなら面白そうだな」と手をとめてもらうマシン選び、そして原稿の書き方が重要になってきます。そういう企画の骨子を確立するうえで、やはりペルソナ設計は重要なのです。
2, 盛り込む情報の書き出し
いきなり書き出す前に、盛り込まなければいけない情報の洗い出しをしましょう。これ、取材前にやっておき、取材時にしっかりヒアリングできるのがベスト。
この作業のポイントは、取捨選択の場であること です。カンプにあったとおり、16W x 44L ということは、ワード数にして 704 ワード。1,000 ワード以上書くことが多いウェブ記事から見れば「少なっ!」って思いますが、ええ少ないです。
文字数が少ないから、書けることに限りがある。
だから、難しい。
難しいというのは、高いレベルを求められていることでもあります。
ということは、これができれば 他のことは何なりと対応できるようになる ということ。
ここで情報の洗い出しをし、記事に必ず入れなければいけない項目に優先順位をつけ、記事の展開を設計していきます。ここがきっちりまとまれば、できたも同然!
3, 起承転結を決める
上記の洗い出し同様、大切なのがこれ。どんな記事にも物語性があり、起承転結が背骨として入っていなければ、作品たりえません。とりわけ「起」と「結」(最初と最後)がしっかりしていなければ、言いっぱなしの原稿となって、読者に「で、何が言いたいの?」と思われてしまいます。
その記事をどう結べるのか にライターとしての技量が出ると言っても過言ではありません。特にこうした専門知識が求められる記事ほど、そのライターがどれだけの知識と経験を持ち合わせており、なおかつオピニオンを確立できているか。それがなければ、読者に納得と満足度を与えることなどできません。
4, 項目をブロックで分ける
「情報の洗い出しと優先順位づけ」「起承転結」がまとまれば、その原稿がカンプ上でどう展開されるかを決めましょう。ここではカンプの記事項目部分を図形として捉え、大体のイメージを固めてしまいます。
『ヤングマシン』のカスタムハーレー企画では、
-
・どんなところが特徴的なカスタムバイクなのか
・カスタムのテーマは(どんなスタイルを目指したのか)
・なぜそのスタイルを目指したのか(ビルダー語り部分)
・どんな遊び方が楽しめるバイクか
を項目立て、記事に落とし込んでいくことにしました。
5, 粗書き
頭のなかのイメージ(ブロック分け)ができたところで、いよいよ書き出しです。前述の項目 8 で「ワードの設定を 16w で折り返せるようにする」としました。この段階でも書き込むワード書類はその設定にしておきます。
そのワードに直接書いていっても結構ですが、慣れていないと 16W で折り返されるたびに行数や折り返しを意識してしまい、イメージがブレたり揺らいだりすることが多々あります。
なので、ワード原稿は一旦脇へ置き、行数を気にせず書けるテキストエディットを開けて、一気に書いちゃいましょう。ものすごく書きすぎるかもしれないし、全然文字数が足らないかもしれませんが、そのときはそのとき。多ければ優先順位に従って削ればいいし、足りなければ「情報の洗い出し」の要素を書き足せばいいのです。
まずは、自分の頭のなかにできたイメージを勢いよくテキスト化すること。調整は後でどうにでもできます。大事なのは 記事にかける熱量を冷まさないこと。その熱量を高める意味でも、熱い気持ちを込められる原稿を書く = 自分だけの得意分野を持つ ことが重要なのです。
6, ワードに流し込み & 行数調整
粗書きし終えたら、16W での折り返し設定にしているワード原稿にテキストをコピペ(流し込み)しましょう。「ツール > 文字カウント」でチェックすると、書いた文量が何行か分かります。行数がオーバーしていれば、優先順位に従って削っていき、足りなければプラス要素を書き足していきます。ここは商業ライターとしての職人仕事ですね。
この際、注意しなければいけないのは 前後に同じ言葉遣いを入れてしまっていないか です。特に後から付け足したりすると、「〜ということだそうだ」「〜かもしれない」「〜と言われている」などの結び言葉かカブることが多々あります。行数が足りたことで満足せず、こうした細かな点にも気を配って、スラスラと気持ち良く読める原稿をまとめられるよう 心がけましょう。
7, 読み返し
書き終えたら、今度は一気にクールダウン。ニュートラルな目線で読み返し、自分の原稿の粗い部分を整理していきます。いわゆる自分校正(校閲)ですね。
校正スキルが高くないと、読み返しをしても問題点に気づけません。「じゃあ校正の力を高めるにはどうすればいい?」と言われると、自分の原稿を校正してもらう、そして他人の原稿を校正する機会をたくさん設け、場数をこなすこと となります。そのためには高い校正スキルを持った人のもとで経験を積む必要があり、その場所と言われれば新聞社や大手出版社の名前が挙げられます。
ある程度の作家性をともなったライターを目指すのであれば独自のライティングを突き詰めるべきですが、不得手なカテゴリーの案件でも 60 点以上の結果が出せる万能型ライター(商業ライター)を目指すのであれば、いずれかのメディアに属して校閲の機会を得ることが必要になるでしょう。
「校正する」「校正される」を繰り返すと、次第に自分の原稿ですら他人が書いたもののようにチェックできるようになります。これによって、徹底的に無駄を削ぎ落とし、なおかつ要点がはっきりとしたソリッドな原稿を仕上げることができるのです。
ウェブメディアでの書き方にも流用できる理由
文字数制限がなく いくらでも書けるウェブ記事は情報量という点でメリットは大きいですが、その感覚で冗長に書くクセがついてしまうと、要点がはっきりしないダラダラした記事になる傾向があります。それだと記事そのものが伝えたいことが読者のなかに残らず、記事の存在意義そのものが薄れてしまいます。
そのためには、「記事として言いたいことは何なのか」という要点をまとめる能力と、限られた文字数のなかできちんと物語を紡げるライティングスキルが重要になります。ご紹介した紙媒体特有の作法は、その 2 つの能力を高めるための要素が盛り込まれているのです。それによって、前回の記事から続くテーマである 無駄を削ぎ落としたソリッドで筋肉質な原稿を書く力 へと結びつけていくのです。
紙媒体を経験してきた私ですが、一方でウェブメディア特有の書き方、まとめ方を今まさに学んでいるところ。ウェブと紙媒体、この両方を操れるようになるべく、未熟者として日々精進あるのみ、です。プロのライターとして、どんな媒体に携わるとしても しっかりと読者の心に届く記事が手がけられるようになりたいですね。
では!
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