体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #01 紙媒体を学ぶ

体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #01 紙媒体を学ぶ

ヒロアキ

ヒロアキ

こんにちは、エディターのヒロアキです。

LIG のエディターとして務める傍ら、バイクに特化した分野でフリーライターとしての顔も持っておりまして、LIG メンバーのなかでは珍しい紙媒体出身のエディターでもあります。

J 田中 宏亮
フリーライター 兼 LIG エディター。業界新聞記者、編集プロダクション、出版社と、紙媒体が主な制作会社を渡り歩いてきた編集者。ハーレーダビッドソン専門ウェブマガジンの編集長を務めてから、ウェブの世界にも進出。現在、ウェブと雑誌の両方をこなすライターとして活動中。猫が好き。

 
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そんなキャリアを LIG のライター & エディターにフィードバックすべく、僭越ながら「社内向けライター養成講座」なるものを実施。ワークショップ形式で参加者に課題を出し、取り組んでもらっています。参加メンバーのほとんどが紙媒体未経験ということで、全員が四苦八苦しながら挑んでくれているところです。

 
どうして紙媒体を学ばなければならないのか?

紙媒体を学ぶことで、本当にライティングスキルがアップするのか?

 
そんな疑問に対してお答えするとともに、メディアという立場から見た紙媒体の存在意義、そしてライティングスキルの磨き方、取材における立ち居振る舞いなどなど、メディアのお仕事に関するノウハウを今回から連載形式でご紹介していきます。

本記事はあくまで「ライティングスキルを高める」ことが目的で、「バズる記事を書く」「数字が稼げるライターになる」こととは一線を画しております。ご了承ください。

 

メディアに求められるのは 情報を操るスキル

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「ウェブに特化したメディア」「雑誌を出し続ける出版社」「テレビ局」「新聞社」などなど形態は多々ありますが、メディアに求められる能力はいずれも同じ。

それは 入手した情報を操るスキル です。

例えば、なるべく早く伝えたいニュースが入ってきた場合、速報性という点では「ウェブ」が一番でしょう。あらかじめその場で何が起こるのかわかっている場合は、テレビやムービーによる「ライブ中継」「ライブチャット」も選択肢に入ってきます。

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一方、写真やデザインの性質を生かしたビジュアルメインの情報を伝えるなら、画一的なレイアウトのウェブよりも「紙媒体」の方が適切、という意見も出てくるでしょう。クルマやバイク、スポーツのようにアクションそのものが主な情報源となっているならば「ムービー」がベストということにもなります。

つまり、手に入れた情報を適切な手法で編み、適切なツールに載せて送り出すスキルが必須なのです。

ウェブや紙、ムービーなどは情報を載せる「ツール」(手法)で、情報そのものを扱うのは「人間」です。よく「原稿レベルは紙媒体が上」「ウェブのライターはレベルが低い」という話を耳にしますが、それは論点がずれているように思います。情報を発信する人間が手練れのライターであれば、紙やウェブといったツールで原稿レベルに差など生まれないからです。

その上で、より高いレベルのライティングスキルを身につけるというのであれば、やはり紙媒体は経験しておくべきです。それは、情報ツールとして長い歴史を持つ紙媒体にこそ、着実にライティングスキルを高めるためのノウハウが詰まっているからです。

 

ライターを鍛える紙媒体だけの制約 3 点

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冗長な記事は、読んでいても頭に入ってきませんよね。もっとも伝えたいことがぼやけた記事は結果的に駄作。逆に無駄が削ぎ落とされたソリッドな記事だと、読み終えたときに「なるほど」と感心することが多々あります。

無駄な脂質を徹底的に削ぎ落とした筋肉質な記事は、自然と良い記事として認識されます。そして筋トレのようなライティングトレーニングを行うという点では、ウェブよりもはるかに制約が多い紙媒体に一日の長があるのです。制約が多いからこそ求められるレベルも高く、それに伴ってクオリティも一段高くなります。

1, 文字制限がある

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ウェブと違って描ける空間が限られているため、当然文字数も決まったものになってきます。制限がないため より多くの情報が詰め込めるところはウェブの利点ですが、「たくさん書けるから」とダラダラ書いただけの記事ほど読みづらく、結果的に「何が言いたかったのか」がわからなくなることも珍しくありません。

逆に文字量が制限されている紙媒体だと、「この記事がもっとも訴えたいことは何か」をはっきりさせた上で情報の取捨選択を迫られます。それによって不必要な情報が切り捨てられ、無駄な脂肪がついていない筋肉質な原稿を書く力を身につけられるのです。

 

2, 入稿後の修正は不可

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一度印刷されてしまったら、もう修正はできません。ここもウェブの世界と大きく異なる部分で、比べると実にリスクが高く融通が利かない。その点についてはウェブの方が便利ですが、「校正(校閲)」や「校了」、「掲載」に対する感覚が甘くなるという側面も。この項目において紙媒体が秀でている部分は、文字に対する責任感 です。その温度感は間違いなく原稿にも表れます。

また、「掲載後の修正が可能」という側面から、とりわけ広告記事などでクライアントから何度も修正を言われるなんてこと、ウェブメディアのお仕事をされている方なら一度は経験があるのではないでしょうか。こうして作業工数が増えるのは、コストパフォーマンスという面から見れば最悪なこと。メディア側がしっかり気を張って締めていても、一般人であるクライアントも同様の集中力を持っているかと言われれば、否。そう見ると、「掲載後の修正が可能」というのは諸刃の剣だと思います。

エモーショナルな話ではありますが、「一度印刷されてしまうと、後戻りはきかない」ということを経験していると、自分の原稿に対する向き合い方も変わってきます。

 

3, 赤字入れによるフィードバック

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もっともライティングスキルを伸ばす方策がこれでしょう。「読者の目線を大切にする」ことを第一義とするメディアとして、自分の原稿を客観視できなければライターたりえませんが、これがなかなかに難しい。そのためには、「他人に原稿チェックをしてもらうこと」「他人の原稿をチェックすること」を繰り返す訓練が必要になります。自分の原稿に入った赤字や他人の原稿だからこそ目に付く誤植を知っていくことで、プロのライターとして知っておくべき作法が身につきます。原稿をチェックしてくれる人物が、経験豊富な編集者であれば言うことはありません。

 

徹底的に無駄を削ぎ落とした筋肉質な原稿を

「 5 W 1 H 」や「てにをは」、「トンマナ」といった要素を含んだライティングの作法をまず身につける。そのライティングとは、徹底的に無駄を削ぎ落とした、体脂肪率一桁台のような筋肉質な原稿を書くチカラ です。読者が読み終えたとき、記事が訴えたい要点がはっきりと頭に印象づけられ、「読んでタメになった」と充実した気持ちになってもらうこと。

そのライティングスキルを身につけるうえで、もっとも適しているのが紙媒体だというだけのこと。もちろんウェブをベースに制約を厳しくすれば同じようにできるやもしれませんが、取り仕切る編集部(編集長)が相当シビアにやらねば実現は不可能でしょう。

 

優劣はない どちらにも長所と短所がある

ウェブと紙媒体の違いを表にすると、だいたいこんな感じになります。

 

ウェブ 紙媒体
記事構造 主に縦スクロール型
横読み
主に左右からの横開き
形式次第で縦・横どちらも
記事制約 伸び続ける限り無制限 ページ単位で制約
文字数 編集部が定めない限り無制限 制限あり
入稿締切 守れなかったとしても損害は小さい 印刷に間に合わなければアウト
掲載後の修正 不可

 
紙媒体とウェブを比べても、どちらが優れているとかいうことではなく、単純に一長一短だということです。

情報内容によっては、たくさん詰め込めた方がウェブに載せた方がいいものもありますし、じっくりと練り込んでビジュアルをしっかり見せられる雑誌向きのものもあります。要は、その情報の性質をしっかり掴んで最適なツールに載せてアウトプットしてやれるスキルを身につけていること

そのうえで、「ウェブの世界のみで生きていく」のか、「いやウェブも紙媒体も扱えるようになっておく」のかを自身で選びましょう。当然ながら、後者のように両方が扱えるハイブリッドなライターが重宝されるのは言うまでもありません。これはエディターも同様。「これは自分にはできない」と決めつけるのではなく、まずはやってみる。食わず嫌いは、クリエイターとして致命傷となることがあります。

現在、このライター養成講座に参加してくれているメンバーはほとんどが紙媒体 未経験者です。正直なところ、氷河期を迎えている紙媒体の世界に求められるスキルの伝承が必要かどうか悩ましいところでしたが、参加してくれている LIG メンバーの声や「ベテラン編集者による赤字添削を受ける機会がもっと欲しい」というウェブ業界の声を耳にして、立ち上げることと相成りました。

 

実戦形式のワークショップ

LIG で雑誌を作る−−。大変興味深くはありますが、いきなりそこに飛び込むにはちょっと全体の経験値が足りないところ。なので、実戦形式で取り組むワークショップでの講座としました。

そこで、こんな課題をつくってみました。

 
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雑誌の フルカラー/ 2P (見開き)のカンプです。
文字はすべてダミー。
ここで指定している文字数に合わせて、原稿を書いてもらいます。

 

原稿指定テキスト
・サブキャッチ(20W)
・リード文(75W)
・本文(16W x 52L)
・写真キャプション
1, 九寨溝 五花海(50W)
2, 黄龍(25W)
3, 九寨溝(50W)
4, 九寨溝(50W)
5, 黄龍(40W)
6, 黄龍(40W)

 

ペルソナ設定は以下。

 

想定媒体

旅行パンフレット誌(旅行代理店が発行)

ペルソナ

50 〜 60 代の団塊世代

紙サイズ

B5 フルカラー / 4 段組( 1 ライン 16 ワード)

テーマ

中国の世界遺産 九寨溝と黄龍

年配のエンドユーザーをターゲットとする旅行雑誌をイメージし、観光地として名高い中国の世界遺産「九寨溝(きゅうさいこう)」と「黄龍(こうりゅう)」に関する紹介ページとして作成しました。目的は、この世界遺産へのツアー参加の促進。読んで「ここに行ってみたい!」と思わせられるような原稿を書くことです。

 
本ライター養成講座の参加メンバーはこちら。

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これが初の紙媒体をベースとした執筆だというメンバーも多く、この課題に四苦八苦していた模様。

なんとか課題原稿を提出できた人には、まず私が赤字添削をしたものを返し、さらにメンバーの誰かの文字が流し込まれた校正紙を手渡して、実際に他人の原稿に赤字校正を入れてもらいます。誰の原稿かはもちろん知らせずに、です。

ライターを目指す方でご興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてください。で、「自分の原稿を添削してみてほしい」と思われた方は、こちら から田中宛にお問い合わせください。適宜対応いたします!

 

実際に取り組んでみて学ぶ

継続は力なり。

場数(経験値)こそが磐石な力となるこのライティング & エディティングという仕事。シビアな経験を積んだ分だけ自分のなかにノウハウが蓄積され、多少の無茶ぶりが来ても動じずに対応できるようになっていきます。メンバーにはこのワークショップ型ライター養成講座で経験を積んでもらい、もうワンランク上の仕事がこなせるようになってもらいたいです。

第 2 回からは、今回課題として出したカンプを作るまでの一連の作業や取材時のマナー等についてご説明していきます。では!
 

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関西生まれのチャラフォーエディターです。 バイク関係や旅行関係などの媒体編集者として15年以上やってきました。 アメリカやヨーロッパ、アフリカ、アジア、中国などいろんな国に行きました。 愛車はハーレーダビッドソンとホンダ リトルカブ。 なんでもサッカーに例えて話そうとする悪癖あり。 後悔は少なめのMy Life。

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