こんにちは、外部ライターの日沼諭史です。
いきなりプライベートな話をしますと、昨年一戸建てを購入したのですが、人生でそう何度とない「家を買う」という大きな買い物をするに当たって、一番大きな悩みどころは住宅ローンでした。
可能な限り自分にとって有利な条件(低金利)で、しかも収入とのバランスを見ながら予算に合う金額を借りられる金融機関を見つけるのには、仮審査と本審査が必要なこともあり、大変な手間と時間がかかったのを思い出します。
そのような住宅ローンの審査申し込みを複数の金融機関に対して一括で行えるようにする「住宅本舗」、注文住宅の購入やリフォームの際の一括資料請求を容易にする「持ち家計画」といったWebサービスを展開しているのが、イッカツです。
多くの人が生涯に渡って頭を悩ませ続けることになる「住まい」について、計画的に考えるためのたくさんのヒントをもらえるイッカツのWebサービスは、どんな人たちによって作られ、運営されているのでしょうか。同社の創業メンバーの1人でもあるネットビジネス事業部 金融グループ マネージャーの山中 隆太郎さんと、システム企画開発部の部長を務める根元 誠さんに話を伺いました。
人物紹介:山中 隆太郎氏 大手人材会社、ネット広告代理店、WEB制作会社にて営業、ディレクター業務に従事。イッカツ社の前身であるネットメディア会社にて、住宅本舗を立ち上げ。イッカツ社では住宅本舗以外に金融サービスメディアのプロデュース業務に従事。 |
人物紹介:根元 誠氏 コンソールゲームの開発者としてキャリアを開始。加えて、業務用、PC、ガラケー、スマートフォン向けのアプリやWebサービスの開発に携わり、スマートフォン端末自体の開発も経験。2016年、株式会社イッカツに加わる。 |
3万枚のチラシを3人で配り歩き、成果はたった9人という時代も
— 御社のWebサービスでは、住宅ローンの一括審査申し込みや、注文住宅の一括資料請求だけでなく、ローンにかかわる知識が得られたり、ライフプランの考え方を学べるなど、さまざまなコンテンツが充実しています。これらのサービスは、どんな目的で運営されているのでしょうか。
山中隆太郎(以下、山中):僕らのサービスでは、家のこと、暮らしのことを扱っているわけですが、一括審査申し込みにおいては利用者の細かい個人情報をいただいています。メールアドレスや年齢だけじゃなくて、銀行での仮審査に必要な多数の情報、だいたい150項目に及ぶものです。
そういう詳細な情報を持っているのは、銀行と国と、僕らとあと数社しかありません。その貴重なビッグデータをもとにどういうサービスを提供すべきか、というのが常々考えていること。暮らしに関連した、利用者に役立つ新規ビジネスを立ち上げていきたいと思っています。
— 山中さんは創業メンバーの1人と伺っています。現在のような形のビジネスに発展してきたのは、どういう経緯からなのでしょうか。
山中:イッカツの前身は、とある上場企業の新規事業の一部でした。その事業を統括していたのが今の代表の鈴木敬なんですけど、彼が温めていた住まいに関する企画をWebで実現できないか、ということで自分に声がかかってスタートしたんです。
最初、ユーザーにアンケートを取ってみると、人生で一番大きい買い物である3000万円、4000万円するような住宅ローンを申し込む際に、1つの銀行か、もしくは不動産会社が紹介する金融機関しか見ていないことが分かったんです。意外にもみんな比較してないんですね。
ちょうどその頃、自分もマンションを買おうとしていた時期でしたから、それがどうしても疑問でした。だったら、複数の金融機関で審査を手軽に受けられて一括で申込みできるようなサービスがあればいいよね、ということで立ち上げたのが「住宅本舗」なんです。
サービス立ち上げは、銀行法などの関係で苦労しながらも半年ほどでオープンしましたが、2年くらいはずっと苦しい時期が続きました。それでも利用者は多くて、自分たちのサービスはニーズがあるということを実感しました。オープン直後の2011年には、2日間、朝から夕方まで雨の中「我々のWebサービスを使って比較して、ローン借換しませんか」という内容のチラシを社員3人でポスティングしたこともあります。3万枚配って実際にWebサービスを利用していただいたのはたったの9人でしたけど(笑)
— 根元さんは今年2016年に入社されたばかりだそうですね。入社のきっかけは何だったのでしょう。
根元誠(以下、根元):転職を考えていた時、最初は海外勤務の会社を探していました。でも、イッカツから声がかかった時にFinTechという新しい分野にチャレンジできることに加えて、ビッグデータを使ったAIで、特に金融に関する分野において、世の中を便利にしたいという話をしていただいたんです。自分もその分野に興味があって……と意気投合したのが大きかったですね。
前職は携帯電話のソフトウェア開発に携わっていました。それと、ゲームアプリを開発している海外企業の日本法人の立ち上げにもかかわりました。イッカツでも新しい部署を作るということだったので、やりがいがありそうでした。
— その新しい部署で、根元さんは今どのような仕事を?
根元:4月からできたこの新しい部署で、僕は全社の開発プロジェクトのマネジメントをしています。開発におけるフロー整備や、採用の担当でもあります。3月まで開発は外注にお願いしていた部分が多かったので、既存システムの理解を進めつつ、今後別のデータセンターにサーバー類を移設するにあたって、どんなインフラを構築するか詰めていくのがメインの仕事になっていますね。また、新しいプロジェクトとして、機械学習でユーザー様に新しい体験をしてもらうような仕組みを作ろうとしているところです。
改善サイクルは1週間単位のスピード感。「できない」を「できる」に変える力が必須
— チームにはどんなメンバーがいらっしゃいますか。また、そのスタッフにはどんな能力が必要とされるのでしょうか。
山中:僕が所属するサービスの企画・運営をおこなうネットビジネス事業部では、1つ1つのサービスごとに、ディレクター、営業、マーケティングの担当がいて、まさしく三位一体で動いています。なかでもディレクターの仕事は、既存サービスの機能改修などもあるんですが、どちらかというともっと大きな視点で、ユーザーの流れやクロスセル・アップセルを考えたうえでのUX/UI設計と、PDCAサイクルを適切に回すことが求められます。根元がいるシステム企画開発部と連携する役割もありますが、必ずしもシステムについて詳しく知っている必要はありません。
根元:システム企画開発部は、業務委託で来てもらっている人がほとんどです。社員は自分以外に1人しかいません。サービスごとに担当を決めて、山中がいる企画・運営チームからの要求をこなしながら開発と運用をおこなっています。既存サービスの追加開発やサーバーの運用業務に加えて、AI開発については内部でもそのノウハウを吸収できればと。コーディングスキルは必須で、統計学などの学問的な知識よりは、ITの知識がないと難しいと思いますね。
— 仕事の具体的な進め方を教えていただけますか。
根元:企画・運営チームで「こういうことをやりたい」というのがある時は、月曜日までにそのやりたいことをまとめてもらって、仕様書を作ってもらいます。月曜日の朝に開発陣で打ち合わせをするので、そこで設計などの細部を詰めて、タスクに分解し、上司の承認が得られれば実際の開発を進めることになります。機能追加や改善などは、基本的に1週間のサイクルでこなしていきます。
— 1週間という短期間で何かを完成させるには、仕事を円滑に進めるための工夫が必要なのではないかと想像します。
根元:重要なのはルール作りですね。まだ完全に徹底されてはいないんですけど(笑)、月曜日にまとめてもらっているのも、週の途中に機能追加や改善などこまごまとした依頼や要望が割り込まないように、という理由からです。割り込みが多いと、テストの効率にもかかわってきますので。
山中:ただ、途中で仕様が変わらざるを得ないこともあります。企画・運営チームは毎日PDCAを回しているので、少しでも何か気付いたことがあると「これがやりたい!」という要望が出てきてしまう。そこはもう、相談して随時柔軟に対応していく感じですね。その都度要望を実現しようとするとキリがないので、ある程度線引きが必要ですが。
— 柔軟に対応できる人が望ましいということですね。では、お2人が一緒に働きたいと思えるような人は、それ以外にどんな能力がある人でしょうか。
根元:何かしら「やりたいこと」がある人と一緒に働きたいですね。自分の意見をガンガン言ってきてくれるような人。言われるまで何もしないような人ではなく、「僕はこういうのが作りたい!」という意思がある方がいい。もちろん僕らが今やっているサービスからかけ離れた内容でも問題ありません。現在は金融・不動産関連のサービスがメインですけど、じゃあ次は何をやるか、という時期は必ずやってくるので。
山中:衣食住の「住」という人にとっての根源的なサービスを提供しているので、「やりたいこと」がどんなことでもまったく当てはまらないというのは考えられません。必ずどこかでつながっていると思います。だから、「できない」ではなく「どうしたらできるか」を考えられる人、考え抜ける人が必要です。3万枚のチラシを配ったという話をしましたが、僕らの会社の成り立ち自体、「できない」ようなことを「できる」に変えてきたところがあるわけで、そういう気持ちがないと当社はつまらないのではないでしょうか。
人の要望を予測して注文する、時間軸の概念が入ったAIシステムを作りたい
— ところで、イッカツというのはどんな雰囲気の会社なのでしょう。気に入っているところがあれば教えてください。それと、お休みの日はどんなことをされていますか。
山中:何かやりたいことを提案すると、とりあえず「じゃあやってみれば」と言われる環境だとは思います。手を挙げて「ダメ」と言われることはほとんどありませんね。そのチャレンジが失敗したとしても問題はありません。むしろ小さな失敗はどんどんした方がいいと思っています。ただ、失敗は想定しておいて、じゃあ次にどうするのか、というところを考えておかないといけません。
根元:システム開発をしているこちらは失敗しちゃだめなんですよね(笑)。失敗しないようにしっかり準備しておかないと。僕としては、何かを「やろう」と決まってから、みんな実際に手を動かして開発を始めるまでがすごく早いと入社してから思いました。あと、サッカーJ1リーグの湘南ベルマーレのスポンサーになっていることもあって、ホームの試合を無料で見られるところにも惹かれました(笑)。
休日は、100%子供と過ごしていますね。息子が3人いるんですけど、そのうちの誰かと一緒にどこかへ出かけることが多いので、家にはあまりいません。子供がサッカーチームに入っていて、メンバーのお父さんたちの間でもサッカーチームを作っているので、その活動に加わることもあります。
山中:休日はほぼ飲み歩いています(笑)。通い詰めているお店があって、著名人もよく来るんですけど、そういうところでいろんな人脈を作ったり、どんどん人の輪を広げていっている、みたいなところはあります。
— 今、特に気になっているようなこと、興味をもっているようなことはありますか。
山中:5月に自分の担当しているWebサイトをリニューアルしました。「UX」と言葉で言うのは簡単ですけど、こちらが何かを変えた時にユーザーがどう思って、どう動くのかの予測が難しくて、すごく興味深いなと思っています。自分自身、人が好きなんだと思いますね。HCD(人間中心設計)については体系的に勉強したいなとずっと考えていて、論文を書かなければいけないなと思っています。
根元:自社サービスで個人情報などを扱っているので、そのデータを基に、ユーザーが1クリックだけで注文が終わっちゃうような、そういう仕組みを作れたらいいなと思っています。例えば、ユーザーが「ピザが食べたい」と思った時に、住所や電話番号を入力せずに、ピッとボタンを押すだけで注文できちゃうような。
山中:補足すると、今ピザが食べたいからピザを注文する、というのではなくて、「あなたは明日の3時に絶対ピザが食べたくなるから、先に頼んでおきました」というのを作りたいですね。時間軸の概念が入ったAI機能付きのリコメンドシステムみたいなものでしょうか。
最近、代表の鈴木と話していると、時々コンシェルジュという言葉が出てくるんですね。Webのコンシェルジュというのは、単なるリコメンドに止まらないものになります。そういうWebならではのことを考えていかなければと思っています。
根元:あと僕は「マリア・モンテッソーリ」という幼児教育にも興味があります。子供がサッカーをやっているという話をしましたが、今までは監督の手足みたいに動くよう指導する感じだったのが、最近は「自由にやらせましょう」という風潮が出てきました。モンテッソーリ教育も、子供が自由にやりたいことをやって育っていくのを上手に観察できる人が良い、という考えなんです。このモンテッソーリ教育が、いろんなところにつながるんじゃないかと思っていて、僕らのサービスにも活かしたいという願いもあります。
— お2人の仕事におけるポリシーは何でしょうか。
山中:先ほども言いましたが、「できない」じゃなくて「できるにする」、というのがポリシーですね。シンプルに考えると何かしら解決策が見えてきますから、常にフラットな考えでいます。サービスを企画する時も、シンプルに「今回はそもそも何をやりたかったんだっけ」とか「何が目的だっけ」というように、常に考えながら仕事をしています。
代表の鈴木も、よりフラットでシンプルな考え方をしていると思います。仕事で質問される時、僕らとしては一瞬戸惑うこともあるんですが、よく考えると、どんな時も根本的なところを見ている。そこだけは外してはいけない、というポイントをズバッと指摘してもらえるので、そこから僕らとしても改善すべきところを学んでいる感じですね。
根元:昔も今も、自分は実力を常に上げていきたいと考えています。要求されたことに対して時間をかけず、難しいことでもパッと動いてやり遂げること、そういう思いで仕事をしていますね。
— 最後にアピールしたいことがありましたら。
山中:企画・運営を担当するディレクターに関しては、自社サービスなので、どうしたら利益が出るか考えるのももちろん大切ですけども、どうしたらユーザーが使ってくれるサービスになるか、というところを一番大事に考えてほしいと思っています。
僕らの会社では、新しいサービスを立ち上げるのはすぐにできる。営業、プロモーション、ディレクターの3つの役割がありますが、この中ではディレクターが企画の中心にくるので、プロデューサー的な感覚でサービスを作り上げていくという考えがうちの会社には合っているかなと思います。
根元:楽しい開発をしたいですね。つらい開発ってあると思うんですけど、そうじゃない開発をするために、組織なり、プロセスなりを一緒に作っていきたいなと。僕らのサービスは一般のユーザーに向けたBtoCのビジネスで、作ったものを本番環境に公開したら、すぐに何万人にも影響してしまう。そういう意味でのやりがいや喜びみたいなものがあります。そいうことも含めて、一緒に楽しみながら開発できたらなと思います。
インタビューを終えて
会社規模としては決して大きくはなく、少数精鋭で多数の事業やサービスを展開しているイッカツ。お2人の話を聞く限りでは、企画・運営やシステム開発、その他部署のメンバーで“ポリシー”や“目指すところ”が正しく共有され、サービスをより良いものにするため一体的に、着実に前進しているように感じました。
それは、今回のインタビューの中では触れませんでしたが、「自然発生的に、社員同士の社外活動が行われるなど、全員とても仲が良い」というコメントからも伺えました。提案すればなんでもチャレンジさせてくれるという環境も、やりがいを求めている人には魅力的ではないでしょうか。
一方で、山中さんが必須条件として挙げた、「できない」を「できるに変える」という考え方は、決して生やさしいものではないとも感じます。常にそういった考え方で取り組むこと自体を楽しめるかどうかが、イッカツで面白く仕事できるかどうかの分かれ目かもしれません。