はじめまして! デザイナーの杉原ミシェル(@michellesghr)です。普段はLIGブログのアイキャッチ・バナー・背景ジャックなどを、日夜せっせとこしらえております。
- 自己紹介
- 「頭の中で流れる映像を表現できる技術が欲しい!」と考え、大学では映像を勉強していました。
大学卒業後はフィリピン・セブ島の映像制作会社で、撮影アシスタント・動画編集・アニメーション制作などと言った映像から、Webデザイン・ロゴデザイン・DTPデザインなどのグラフィックまで、さまざまなクリエイティブを経験しました。
ここ最近、Webデザインの中に動画が組み込まれているものが多く見らるようになりました。Webデザインをディレクションしていく中で、こうした映像領域のディレクションも必要になった方もいるのではないでしょうか。そこで、「映像ディレクションのはじめの一歩」として、映像制作の基礎の一部をご紹介します。
目次
映像の表現技法用語
「映像」とひと口に言っても、その表現方法は多岐に渡ります。映像の表現方法の特徴と伝えたいことがうまく合わされば、視聴者の心をしっかり掴むことができるでしょう。
実写
あえて説明する必要もないかも知れませんが、映像分野においては、実際にカメラで撮影された映像のことを「実写」と呼ぶことが多いです。
こちらは最も古いとされる実写映像で、1895年に公開された『工場の出口』(La Sortie de l’usine Lumière à Lyon)と言うフランスのモノクロ無声ドキュメンタリー映画です。現代の映画と比べるととても短い約50秒の映画ではありますが、フィルムの長さは17mに渡ったそうです。
アニメーション
アニメーションには様々な表現技法が存在し、それぞれにあった魅力があります。
フル・アニメーション
写実的なものから抽象的なものまで、動くべきところを省略せずに忠実に表現する技法のこと。
例:ロトスコープ(『白雪姫』など)etc……
リミテッド・アニメーション
フル・アニメーションに対して動きを大幅に簡略化した技法のこと。日本では『鉄腕アトム』が代表的です。手塚治虫はリミテッド・アニメーションの技法を用いて作業を簡略化することで、日本で初めて、一週間に30分のアニメーションを 1 本書きあげて地上波で放送し続けることを実現しました。
これによって完成された『鉄腕アトム』は、現代の日本のアニメにおいて大きな影響を与えています。
例:日本のアニメ(『鉄腕アトム』など)etc……
ストップモーション・アニメーション
静止しているものを 1 コマずつ動かしてながら撮影し、それを繋げて動いているように見せる技法。こちらの技法は実写によるアニメーションだと言えます。
例:クレイアニメーション(『ニョッキ!』など)etc……
モーション・グラフィックス
従来のグラフィックデザインに動きと音を加えた、動画表現と静止画表現の中間とも言えるアニメーション技法。データを視覚的に伝えやすいので、企業の紹介やサービスの案内などに用いられることが増えています。
こちらは『奇妙な国、日本』と言う、株式会社ドラフトのデザイナー・田中ケンイチさんの大学卒業制作の作品です。10分と長めの作品ですが、その時間を忘れて没頭できるほど面白い表現で興味深くデータを見せています。
映像の構図
撮影の際に少し構図にこだわることで、映像をドラマティックに演出することができます。シーンにおける環境や登場人物の感情といった些細なニュアンスも、構図を工夫することで言葉ではなく目で見て説明することができます。
ロングショット
ロングショットは状況や環境を説明するときに効果的な構図です。被写体の全身を映すフルショット、被写体の膝から上を映すニーショットなどがあります。
ミディアムショット
ミディアムショットは被写体の上半身の動きや表情を見せたいときに効果的な構図です。被写体の腰から上を映すウエストショット、被写体の胸から上を映すバストショットなどがあります。
アップショット
アップショットは被写体の会話や細かな表情を移すときに効果的な構図です。被写体の顔を画面いっぱいに映すアップ、被写体の目元や口元・手元などといった注目させたい部分を画面いっぱいに映すクローズアップなどがあります。
三分割法
画面を縦と横で三分割し、構図のバランスをとる技法です。分割した線と線が交わるところに被写体や注目させたいものを持ってくると、視聴者の目の動線がそこにいきやすくなると言われています。
イマジナリーライン
イマジナリーラインは、対話している 2 人の被写体を結ぶ仮想の線(想定線)のこと。この線を意識することで、カットの切り替えと共に映っている被写体が変わっても、人がしっかり対話しているように見えます。
例えば、左側にいるAさんを 1 カメで撮影したカットから、右側にいるBさんを 2 カメで撮影したカットに切り替えても、しっかりお互いが対話しているように見えます。
しかし、左側にいるAさんを 1 カメで撮影したカットから、右側にいるBさんを 2 人を結ぶイマジナリーラインを超えて 3 カメで撮影したカットに切り替わると、対話しているように見えなくなってしまうのです。
これは、映像にとどまらず漫画などにも言えることで、多くの人は無意識にイマジナリーラインを認識して漫画を読んだりドラマを見たりしてます。かの有名な今敏監督の『パプリカ』でも、主要人物のひとりである粉川利美警部が「イマジナリーライン超えちゃってるよ!」って言うわけですね。
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つまり、イマジナリーラインを超えると視聴者は感覚的にその違和感を感じてしまうので、それが効果的な演出方法でない限り、控えた方が良いとされています。
また、スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』の中に、複数人で円卓を囲んで話すシーンがあります。しかし、複数人でもうまくイマジナリーラインを活かしてきれいに収まっているので、興味のある方はぜひ確認されてみてください。(※暴力的なシーンが多いのでご覧になる際はご注意ください)
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映像の撮り方
映像の構図を工夫することでシーンの説明を演出できるように、その撮り方もまた、重要な役割を担っています。基本的にはフィックス(固定)での撮影がベースと言えますが、意図的に計算して画面を動かすことで、映像の魅力をさらに発揮することができるでしょう。
ズームイン・ズームアウト
言わずと知れたズームイン・ズームアウトは、被写体に寄ったり(ズームイン)引いたり(ズームアウト)することです。
画角の大きさを変動させるレンズを使用したズームと、画角を変えずに実際に被写体に近づいて大きさを調整するのとは、背景の写り方が変わってきます。理想の構図通りにうまく被写体と背景が収まらない場合は、レンズを使用するか、実際に近づいたり離れたりするかを試してみるといいでしょう。
ドリーイン・ドリーアウト(トラックアップ・トラックバック)
移動する被写体をカメラが追従しながら撮影する、移動撮影のこと。特別な機材が必要ですが、手軽なものだと台車などでも代用できます。
- ドリーズーム(めまいショット)
- ズームインしながらドリーアウト、ズームアウトしながらドリーインすることを、ドリーズームと言います。アルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』(1958年)で初めて使われた技法で、通称・めまいショットと言います。絶望感を表現したい場面でしばしば見かけます。
アルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』のワンシーン(2:15〜) マイケル・ジャクソンの『Thriller』のワンシーン(8:26〜)
パンライト・パンレフト
カメラを三脚などで一点に固定して、水平方向に左右に動かす撮影方法。パノラマのように風景を見せたいときに有効な方法のひとつです。
ティルトアップ・ティルトダウン
カメラを三脚などで一点に固定して、垂直方向に上下に動かす撮影方法。建物など高いものを見上げたり、建物から人物にフォーカスしたりすることで、サイズ感や距離感、憧れや圧迫感などを表現できます。
映像の音
映像におけるサウンドの効果は絶大です。映像とサウンドの相乗効果によって視聴者の心を揺さぶるような演出ができることもあれば、「サウンドがなかったら見るに耐えられなかった」なんて映像の評価もしばしばあるものです。かと言って、ミュージックビデオなどではない限りは、サウンドにすべてを持っていかれてしまうような映像は避けたいですよね。サウンドの種類をしっかり把握して、映像が引き立つ音響効果を狙っていきましょう。
背景音楽/BGM(Back Ground Music)
背景に流れる音楽のこと。劇中での伴奏であることがら、劇伴とも呼ばれます。つい最近LIGブログで公開された、劇伴作曲家の得田真裕(とくだ まさひろ)さんのインタビューが記憶に新しいですね。被写体の感情を表現したり、その環境の雰囲気を表現するのに、BGMは大きな効果をもたらします。場合によっては、「この音楽を聴くとあの映像作品を思い出す」と言われることすらあるぐらい、とても重要な役割を担っています。
効果音/SE(Sound Effect)
動作を強調したり、表現するためのサウンドのこと。実際には鳴らないような音を用いて演出することも多いです。
例えば、バラエティ番組で言ってはいけないような言葉を発した時に上から被せられる「ピー」と言う音や、某国民的青いたぬきが持ち前の腹部の大きなポケットから立派な秘密の道具を出すときの「パッパカパッパッパーッパッパー!」と言う音など、動作を大げさに表現することによって、意味のある行動に演出することができます。
環境音/ES(Environmental Sound)
その場の環境によって自然に発生する音のこと。セミの鳴き声、静かな雨音、川のせせらぎ、街中の雑踏……被写体がどのような環境にいるのかを表現するのにとても有効です。人間の耳は実はとても敏感にできています。例えば、まったく何もない環境で無音の状態だったとして、そこにサウンド効果を一切いれないと、少し違和感を覚えます。そんな時は、わざと無音の状態で空気の音を録って挿入することも、効果的な環境音だと言えるでしょう。人は空気の流れる音を常に感じとっていると言われているため、このような工夫がされることがあります。
映像撮影のフロー
プロフェッショナルの映像現場では、たくさんの職種のプロが集い、ひとつのチームとして映像が制作されます。今回はごく簡単ながらも、映像制作のフローをご紹介いたします。
打ち合わせ
映像制作でクライアントがいる場合は、クライアントとの打ち合わせが必要になります。Webデザインと同じように、訴求したい内容やターゲットなど、しっかりとヒアリングをおこないます。クライアントの意向を汲み取りながら、それを映像作品に落とし込めるよう、一緒に制作をするチームでより効果的な表現を意見しあえると、さらに魅力的な映像になるかもしれません。
シナリオ制作(プリプロダクション)
まずは映像のおおまかな流れをプロットに落とし込み、クライアントと確認をとりながら、細かなシナリオ(脚本)を作成していきます。シナリオ制作はこの後の映像制作の主軸がぶれないための大切な作業なので、クライアントと認識を擦り合わせていきながら、何度か修正を繰り返して完成させていきます。
絵コンテには撮影するショットの構図を図で表しながら、シーン番号、カット番号、撮影内容、秒数、サウンド効果など、詳細な指示を記していきます。それをもとにあとの工程でカメラマンが撮影をおこなったり、撮影した映像を編集で繋げたり、タイミングを合わせて音を挿入したりします。絵コンテをそのままスライドのような動画にして、ナレーションをいれてみたり正確な時間を計ったりして、絵コンテムービーをつくり、より具体的にイメージを起こしていきます。
撮影(プロダクション)
もし外で撮影する必要がある場合は、事前にロケハン(ロケーション・ハンティング)をおこないます。公的な場所を使用する際は、事前に許可が必要な場合があるので注意しましょう。インタビューの撮影の場合は、出演者に事前にインタビューの内容を渡して答えを用意してもらっておくと、スムーズに撮影をおこなうことができます。
撮影する映像の種類にもよりますが、セーフティーとして何度も同じものを撮影したり、絵コンテにはなかったようなカットも撮影しておくと、のちの編集で役に立つことがあります。
編集(ポストプロダクション)
動画編集ソフトを使って編集をしていきます。Adobeだと映像素材を繋ぎ合わせるのが得意なPremiereや、動画加工やアニメーション編集に特化したAfter Effectsがあります。AppleがMacやiPhoneなどで無償で提供しているiMovieも、かなり本格的な動画編集ができるはずです。他にも様々な編集ソフトがあるので、自分にあったものを探してみるのもいいかもしれません。
これらの編集ソフトを用いて、映像素材を繋げたり、Photoshopで写真をレタッチするように動画をカラコレ(カラー・コレクション)したり、サウンドを挿入したりします。編集の作業もシナリオ制作と同様に、何度も修正していきながら完成へ持っていくのです。
納品
ついに完成した映像作品を納品します。映像は様々な媒体で見られているので、DVDに焼いたり、データとしてサーバーにあげたりなど、それぞれにあった用途で納品します。
まとめ
映像ディレクションのはじめの一歩、いかがでしょうか?
今回ご紹介したものは本当にごく一部で、映像はもっと奥が深く、また今回ご紹介した基礎の型を破るような作品ももちろんあります。
こう言ってしまうと映像制作は少し敷居が高いと感じられるかも知れませんが、今やスマートフォンひとつで動画撮影・編集ができるようになりました。何より映像はどこにでも溢れていて、知らず知らず毎日のように目するものです。きっとみなさんそれぞれ、「こんな映像が好きだ」と言うものがあると思います。
その「好き」を、今回まとめた映像の基礎を参考にしてより具体的に表現できるようになっていただければ、この上ない幸いです。