こんにちは! ライターのトギーです。
突然ですが、「ギフト経済」という言葉を聞いたことがありますか?
これまでの“お金を払って物を買う”という経済行動の概念ががらりと変わる、人の優しさで人や物、お金がまわる、“贈り合う”経済を指すのだそうです。
少し前に耳にしてからずっと心に残っていた「ギフト経済」について、その活動に関わる友人に話を聞いてみることにしました。
人物紹介:デニス・チア 1987年生まれのシンガポール人。2008年から日本に移住し、多文化共生と持続可能な世界を目指して幅広く活動中。最近ギフト経済という言葉を知り、その活動の一つである『カルマキッチン』に関わり始めた。 |
「ギブアンドテイ2ク」から「テイクアンドギブ」へ
—まず始めに、ギフト経済の仕組みについて教えてください。
今の経済って、なにか欲しいときにはまずお金を払いますよね。すべてがお金を介して取引されています。そういった貨幣経済とは異なる人の優しさで人や物、お金がまわっていく経済を「ギフト経済」と呼びます。僕も最近知った言葉で、まだ勉強している最中なんですけどね。
—優しさの経済とは、具体的にどんなものですか?
例えばあなたがカフェに行ったとします。カフェではまずコーヒーが提供されますが、それに対してお金を支払う必要はありません。ただ、ギフトとしてのコーヒーに感謝の気持ちを込めるとともに、次の人にも同じように楽しんでほしいという気持ちを込めて次の人にコーヒーをプレゼントします。次の人は自分のコーヒーにお金を払う必要がないので、次の人のためにお金を払います。そうやって優しさで物がめぐっていく経済、「ギブアンドテイク」ではなく「テイクアンドギブ」の仕組みです。
ちなみに、感謝の示し方はお金でなくてもいいんですよ。代わりに野菜を差し出してもいいし、食器洗いをしたっていい。ギフトの渡し方はその人なりの形で構いません。貨幣経済とは異なる世界なので。
ーどうして貨幣経済とは異なる仕組みが必要なのですか?
唯一お金だけが価値になると、必要以上に奪い合う世界になってしまうからです。
もし、お金に変えられない野菜があったとします。たくさん持っていると保管するのが大変だし、放っておいたら腐ってしまいます。だから、余分なものは人に配りますよね。食べる量以上の野菜は、自分で持っているよりも人に渡した方が価値があるということ。でもお金だと、腐らないし貯めても邪魔にならないですよね。だから、必要以上に貯める人が出てくるわけです。
お金を貯めることへの欲が高まると、競争が生まれます。競争が生まれると、生産過程のコストを下げようとします。その商品を生み出す労力は変わらないのに、誰かが誰かの得るべきお金を奪おうとするとするわけです。貨幣経済は合理的ですが、ちがう経済の仕組みもあってもいいんじゃないでしょうか。
—でも、価格が決まっていない取引というのは想像ができないんですが……
今では、見えない人が米や野菜を育て、知らない人が食材を運び、それを私たちが購入しています。知らない人が調理までしていることも多いですけど。でもそれって本来の姿ではないですよね。自分たちで食べ物を育てることから始まっていたはず。そこにはお金の取引はなかったはずですよね。
「支払うも支払わないも、あなた次第」優しさと幸せを生み出すカルマキッチン
—ギフト経済が理想的な形態だというのはわかるんですが、それって現実的なんでしょうか?
日本はもともとギフト経済が根付いていた国なんですよ。特に田舎には今も残っているかと。自分の畑で採れたダイコンを近所の人にあげ、もらった人はその日の夕食のおかずをお返しする。そんなことよく行われますよね。これは、貨幣を介さない感謝の贈り合い、ギフト経済の仕組みです。「里山文化」「きずな文化」「もったいない精神」もまさに、人、もの、自然を“ギフト”として捉えていると感じます。
他にも、部活動の仲間内でよく見られる先輩が後輩におごる文化もギフト経済です。「おごられた分は、来年新しく入る後輩におごってやれ」そんな会話がよくなされていますよね。おごられた恩は、未来の後輩に渡していく。ギフト経済って、実は日常の中に根付いているんです。
—デニスさん自身も、ギフト経済を実践することがありますか?
ありますね。旅をしているときや、いろんな活動しているとき、食事をおごってもらったりよくしていただくことが多くあります。その場面では僕は感謝を伝えることしかできませんが、身近な後輩にご飯をおごったりして恩を渡していきます。それに、ギフト経済ラボの『カルマキッチン東京』という活動を最近知り、参加するようになりました。
—カルマキッチンとは?
ギフト経済を形にしたレストランのことです。
レストランに行くと、まず食事が提供されます。それにお金を払う必要がありません。ただ、食べ終わったら感謝の気持ちを示します。お金でもいいし、他の方法でもいいんですが。もし「おいしくなかった」「不満だった」と思うなら、支払わなくてもいいんですよ。レストランで提供される料理やサービスの価値は、利用者自身が決めるんです。
—そんなことをするとタダ飯する人が現れませんか?
いるでしょうね(笑)でも不思議なことに、これまでギフト経済ラボが行ったカルマキッチンでは、かかったコスト以上のお金が集まることが多いんだそうです。もちろん、ギフト経済に理解ある人が参加しているからだとは思うんですけど。
けどね、そうやって感謝で成り立つ空間にいると、すごく幸せな気分になるんです。温かいというか。そういう経験ができることがカルマキッチンの本当の魅力なんです。
だから極端な話、お金を払わない人がいたっていいと思います。お金をいっぱい持っている人が多く支払い、持っていない人は少なく払えばいい。そうすれば、社会の差や不公平がなくなっていって、幸せな社会になっていくはずなんですよね。
—でも、お金を持っている人はそれなりの努力の結果として手に入れたわけですよね。頑張った人が損をするような気がするんですが……
その通りです。ただ前提として、生命も、物をつくる原料も、すべて自然から与えられたものだという考え方もあるんです。お金を稼ぐ資本は、そもそも与えられたもの。それを再分配することも自然の行動だと考えてみてもいいんじゃないかなと思うんです。
だって、森林を伐採してたくさんの商品がつくられていて、水や空気なんかも商品化されてるわけですけど、これってそもそも自然のものなわけです。本来、誰かの所有物ではないんです。自然の資源に人為的に貨幣的な価値をつけ、誰かが儲けている。その状態のほうが、逆に不自然なことだって思いませんか?
理屈でなく、嬉しい気持ちが原動力。“恩送り”の精神とは
—ギフト経済の魅力は理解しました。ただ、やっぱり、今の社会で成り立つとはなかなか思えなくて。
理論的に考えないでください。ギフト経済の根本にあるのは、「ギフトを渡すと嬉しくなる」という気持ちが出発点です。
みんな一度は誰かにお誕生日プレゼントを渡したことがあると思います。そのときの気持ちを思い出してください。渡すとき、嬉しい気持ちや幸せな気持ちになりませんでしたか?
自分のためにお金を払って買ったらそれだけで終わり。しかし、物を贈り合えば、単に物を買う以上に、嬉しい気持ちまで生まれるんです。ステキなことですよね。
—たしかに、同じ物を買うとしたら友だち同士で買い合ったほうが嬉しい気分になりますね。
それです。たったそれだけのことなんです。ギフト経済でよく使われる言葉は、「恩返しでなく、恩送り」。英語では「pay back」から「pay forward」へ、という言葉が使われています。次の人へ、次の人へとを恩がめぐっていって、幸せの輪が広がっていくといいなあ、と。
—デニスさんは、いつか本当にギフト経済が世界に浸透すると思いますか?
もちろん、すべてがその仕組みで回ることは難しいでしょう。現実的にはあり得ないですよね。
ただ大切なのは、こういった考え方や気持ちを知ることなんですよね。奪い合うのでなく与え合うという考え方、与え合えば嬉しいという気持ちが生まれること、そういったことを知るだけで人の意識が変わります。その意識で、世界が一つ幸せになると思うんです。
インタビューを終えて
ギフト経済の話を最初に聞いたとき、正直私は「それって偽善じゃないの?」「現実にありえるの?」と半信半疑でいました。でも、ギフト経済を考えることは人の優しさを本気で信じることであり、偽善だとか非現実的だとか、そういう次元の話ではありませんでした。人の優しさを信じる、それだけで価値のあることだったんです。
もしかすると、家族や親しい友人関係を拡大することなのかもしれません。人は親に育てられますが、その恩をすべて親に返すなんてことは到底かないません。いずれ自分が親になり、自分の子供を育てることでかつての恩を返していく。そういった当たり前だけれど優しい感覚を、家族や友人だけでなく、もうすこし広い社会の中でもつことがギフト経済なのではないでしょうか。そうすれば、毎日がもっとハッピーになるかもしれませんね。
「今日はちょっと、まわりの人に優しくしようかな」そんなことを思えたインタビューでした。
ギフト経済ラボ主催『カルマキッチン東京』のお知らせ
デニスさんが参加しているギフト経済ラボ主催の第14回『カルマキッチン東京』が、来月7月に開催されるそうです。興味をもった方、ぜひホームページなど覗いてみてください。
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日時: 7月24日(日)
時間: 第1部 11:00〜13:00
第2部 13:30〜15:30(予定)
場所: Sign With Me(本郷三丁目駅から徒歩4分)
主催: ギフト経済ラボ、第14回カルマキッチンスタッフ
協力: Sign With Me*要予約。予約開始は6月中旬以降を予定しています。詳しくはFacebookページまたはホームページをご覧ください。
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