文章力を向上させたいエリー(@__erI_)です。
いつも気になっているのは、一体どこで読点を打てばいいんだ?ということ。
義務教育では「呼吸のタイミングで」とか「読みやすいところで」などと教わってきました。正解はない、というのが真理かもしれませんが、それにしても教えが曖昧すぎやしませんか。
いろいろな文献を漁って、わたしなりにまとめてみました。
読点(テン)が多すぎるとよくない理由
「よくわからないから、いっぱい打っちゃえ」と振り切りたいところですが、テンが多すぎるとよくない理由が2つあります。
1. 誤読をされやすくなる
国境の長い、トンネルを抜けると、雪国であった。
『雪国』川端康成
川端康成『雪国』の書き出しです。原文より多くテンを打ってみたところ、長いのが「国境」だと誤読されそうな文章になりました。実際に長いのは言わずもがな「トンネル」。
ここまでおかしな打ち方をすることは少ないと思いますが、テンの場所によって文の意味が変わってしまうことがあるのです。
2. 単純に読みづらい
ある朝、グレゴール・ザムザが、気がかりな夢から、目ざめたとき、自分が、ベッドの上で、一匹の、巨大な毒虫に、変ってしまっているのに、気づいた。
『変身』フランツ・カフカ
いつもより多めに打ってみました。ひとつひとつのセンテンスが短すぎて、読んでいるだけで息切れしそうです。これはもう単純に読みづらい。
読みやすく正確に伝えるために、適切なテンの打ち方を覚えたいものです。
読点(テン)を打つとき12パターン
一体どこでテンを打っていけばいいのか。打つタイミングは大きく3つあります。
- 意味の切れ目に打つ
- 誤読されそうなところに打つ
- 「間」をとりたいところに打つ
そしてその3つを具体的に落とし込むと、ざっくり12パターンになりました。
1. 原因と結果、理由と結論のあいだ
あらゆる方向からのバイクの光で、逃げ場がないことを知った。
『土の中の子供』中村文則
「あなたが好きだから、Twitterをフォローした」「Twitterをフォローした結果、想像と違っていた」など、後半に結果がくるパターン。結果の手前にテンを打つことで、BeforeとAfterが視覚的にわかりやすくなります。
2. 前提と結論のあいだ
背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。
『蛇を踏む』川上弘美
「もしわたしのことが好きだったら、なにも言わず100万円を出してください」など、前提のあとに結論がくるパターン。こちらも構造が視覚的にわかるようになります。
3. 「場の説明」と「そこで起きていること」のあいだ
目を覚ますと、隣で姉の体がベッドからだいたい十五センチくらい浮いている。
『みんな元気。』舞城王太郎
「あなたの部屋に行くと、知らない女の靴があった」など、場所・状況の説明から「そこで起きていること」の説明に切り変わるパターン。テンが入ることで、視点が変わったことがわかります。
上の例文も「目を覚ますと隣で姉の体が、ベッドからだいたい十五センチくらい浮いている。」だと、イメージをするのにちょっと時間がかかる気がしませんか?
4. 逆接に変わるところ
カナは十七歳だけど、もう男の人とベッドに入ることを日常にしている。
『放課後の音符』山田詠美
「あなたのことは好きですが、他にもっと好きな人がいます」など、後半が前半の内容に逆らうパターン。対比がわかりやすくなりますね。
5. 2つのものを対比するとき
実務家の弟と比べ、彼にはいささかの空想癖があった。
『語り女たち』北村薫
「無償でだれかを愛したい気持ちとは裏腹に、年収1,000万円以下の人は愛せない」など、前半と後半で対比になっているパターン。A対Bを明確に見せます。
6. 修飾語と被修飾語の関係がわかりづらいとき
高校に入学してから一人また一人と、クラスの女子が処女でなくなっていく。
『ここは退屈迎えに来て』山内マリコ
「死ぬほどかわいいメガネの女の子」など、死ぬほどかわいいのはメガネなの?女の子なの?と混乱させてしまいそうなときにテンを打ちます。「死ぬほどかわいい、メガネの女の子」なら女の子だし、「死ぬほどかわいいメガネの、女の子」ならメガネになります。
上の文章もテンを抜くと「高校に入学してから一人また一人とクラスの女子が処女でなくなっていく。」になり、「一人とクラスの女子」と誤読される可能性があります。
7. よく使われる別の意味の表現と区別したいとき
歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である。
『潮騒』三島由紀夫
「彼とある店に行った」など、「とある」の部分がつづけて読まれてしまう可能性があるとき。「彼と、ある店に行った」と、テンを打つことで回避します。
上の例文では「千四百周」とつづけて読まれる危険がありました。
8. ひらがなばかり、漢字ばかり、カタカナばかりが続くとき
確かにつぐみは、いやな女の子だった。
『TSUGUMI』吉本ばなな
「確かにつぐみはいやな女の子だった。」にしてしまうと、どこからどこまでが人物名なのかパッと判別ができなくなります。ひらがな・漢字・カタカナなどおなじ属性の文字がつづく場合はテンを打ちましょう。
9. 強調したいとき
きょう、ママンが死んだ。
『異邦人』カミュ
「ふたりでは、会わないようにしていた」など重要な箇所のうしろにテンを打つことで、その単語が強調されます。
10. 「てにをは」(助詞)を省略したいとき
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
上の例文には「祇園精舎の鐘の声」と「諸行無常の響きあり」のあいだに、「には」が隠れています。「祇園精舎の鐘の声には諸行無常の響きあり。」。「てにをは」を省いても意味が通るのが日本語のおもしろいところ。
リズム的に「てにをは」を外したいときは、代わりにテンを打ちましょう。
11. 呼びかけのあとに
「なあ、おれ、ワープできんねんで。すごいやろ」
『ショートカット』柴崎友香
「うん、ねえ、そう、さあ、はあ」などなど。「なあ。」でマルを打つとぶつ切り感が出てしまいますが、テンであれば一文を終えることなくなめらかに雰囲気を維持できます。
12. 長い主語・述語・目的語のあとに
初めての夏を通り越して来たその赤ん坊は、もう既に灼けている。
『色彩の息子』山田詠美
「初めての夏を通り越して来たその赤ん坊はもう既に灼けている。」だと、主語が「赤ん坊」だとわかるのに時間がかかって構造がかなり掴みづらい……。主語・述語・目的語にかかる要素が多いときは、そのうしろにテンを打ってあげましょう。
読点(テン)が多くなったときの対処法
これらのパターンにのっとってテンを打っていても、なんだかテンが多くなってしまった、そんなときは以下の2つを試してみましょう。
1. 一文を短くする
こういうある種アイマイな挨拶から始まるのも、この番組は昼夜を問わずあなたの想像力の中でだけオンエアされるからで、月が銀色に渋く輝く夜にそのままゴールデンタイムの放送を聴いてもいいし、道路に雪が薄く積もった朝に起きて二日前の夜中の分に、まあそんなものがあればですけど耳を傾けることも出来るし、カンカン照りの昼日中に早朝の僕の爽やかな声を再放送したって全然問題ないからなんですよ。
『想像ラジオ』いとうせいこう
長い! いとうせいこうさんだから許されるような文章です。
この文章も「こういうある種アイマイな挨拶から始まるのも、この番組は昼夜を問わずあなたの想像力の中でだけオンエアされるからです。」などで一文を短くすることができます。小説やポエムなどの創作的な文章以外は、できるだけ簡潔なほうが伝わりやすいです。
一文で多くのことを伝えようとすると、ひとつの文章でたくさんのテンが必要になってしまいます。「一文一義」を心がけましょう。
2. 語順を変えてみる
言葉の並びを変えてみると、テンが必要なくなる場合もあります。
というハートフルな文章があったとき、雨に濡れていたのは柴犬なのか子猫なのか判断に迷います。濡れているのは子猫であることを明確にするためにテンを打つと、
となります。しかし、ここでは言葉の並びを入れ替えてみましょう。
そうすると……
となり、「びしゃびしゃなのは子猫やー!」と、テンがなくても意味が通じるようになりました。
そのテンは本当に必要か?言葉の並び替えはできないか?と考えると、不要なテンを削ることができます。
さいごに
「読点って文章で絶対に必要なのに、使い方がよくわからない!」と気づいて、あらためて勉強をしてみました。わたしもまだ覚束ないですが、なにかしら参考になれば幸いです。
ただ、ぜんぶ小説の書き出しを例文にしようと思ったら、その例文を探すのにめちゃくちゃ時間がかかりました。その工数だけが心残りです。
最後はやはり例の名文で終わりたいと思います。
完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
『風の歌を聴け』村上春樹
それではまたよろしくお願いします。
参考文献
▼図書
- 『【新版】日本語の作文技術』本多勝一
- 『文章添削の教科書』渡辺知明
- 『日本語とテンの打ち方』岡崎洋三
- 『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』唐木元
- 『句読点おもしろ事典』大類雅敏
- 『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける87の法則』山口拓朗
- 『文章力の基本』阿部紘久
▼記事