こんにちは、エディターのmisakiです。
今月開催された世界三大映画祭のひとつ、カンヌ映画祭。監督のスティーブン・スピルバーグが「VR技術は伝統的な映画製作にとって危険な進歩になるかもしれない」(※)という言葉が印象的でした。
ゲームの分野で積極的に活用されているVR技術ですが、映画においてもVR技術の導入が進んで行く今日。毎年1月にアメリカ・ユタ州で開催される世界最大のインディペンデント映画の祭典・サンダンス映画祭では、約30本のVR映画が上映されたとのこと。
前回はフィルム映画の魅力に迫ってみましたが、今回は急加速しているVR技術によって映画における作り手・観客側にどのような変化があるのか迫ってみようと思います!
※引用元:スティーブン・スピルバーグ監督が「VR技術は伝統的な映画作りを脅かす」と警告
VR技術で当事者のように映画の世界を体験できる!?
VRとは、「Virtual Reality(バーチャル・リアリティ)」の略称で、「仮想現実」を表します。観客はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着することで、360度見たい角度から見ることができ、現実感のある空間を疑似体験することができるように。
VRの導入で考えられる映画の見方の主な変化は次のとおりです。
- 間接的ではなく、直接的に映画の世界を体感できる
- みんなでスクリーンを眺めるソーシャルな体験から、個人で楽しむ体験へ
これまで観客は、ストーリーや演技、カメラワークなどの演出ふくめ、作り手の意図とした平面の世界を眺めながら、想像力を働かせることで間接的に映画の世界を楽しんできました。一方、VRでは自分の見たいものを目にすることで、当事者のように映画の世界を体験できるように。
また、スクリーンに映る映像を大勢で共有していたこれまでの映画体験とは異なり、それぞれ見るものが違う、個人だけの映画体験へと変わりつつあります。
注目を集めているVR技術。映画製作ではまだまだ課題が多い!
迫力があり、リアリティのある映画が作れるVR技術は、映画化が難しかった作品の製作も実現できるようになるのが作り手のメリットといえます。
しかしながら、冒頭で触れたスピルバーグが警告するように、映画製作において下記のような点が懸念されています。
- 映画監督(作り手)が見せたいものより、観客が見たいものが優先される
- 視野の自由により、映画作品自体のストーリーが重視されなくなる
VRによって作り手は、観客が360度でもストーリーをつかめるよう演出などを工夫する必要、あるいは観客の視線を強制的に促すのではなく、どこを見てもおもしろいと思えるような世界観を提供する必要性を求められるように。
また、3D上映のように失敗するのでは? という声も。
2009年の『アバター』で火がついた3D上映ですが、2015年ドゥ・ハウスがおこなった「映画鑑賞」に関するアンケート結果によると、映画館で3Dを見る人は3割、通常版(2D)で鑑賞する人が4割と、通常版で見る方が多い結果に。3Dを選ばない人の理由としては、「酔ってしまう」「ストーリーの理解がおろそかになってしまう」という答えが。
3D上映の二の舞にならないためにも、VRにおける上映では上記課題を検討していく必要があると言われています。
VRを活用した映画プロモーション
まだまだ課題の多いVR技術による映画づくりですが、VR技術を活用した映画のプロモーションが増えています。ここでは一例を紹介します。
『ザ・ウォーク』
1974年に世界一の高さを誇ったワールド・トレード・センターに、命綱なしで空中歩行するひとりの男にフォーカスをあてたこちらの作品。
公開時は、映画公開を記念して、VRを使って空中闊歩を体験するイベントがおこなわれました。
『オデッセイ』
火星に取り残された宇宙飛行士の運命を描いた『オデッセイ』では、2016年年明けにラスベガスで開催された、「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」にてVR体験のデモが開催。
7〜8分の尺が一般的だった映画のVR体験が、『オデッセイ』では20分に渡って疑似体験が可能になったことでも注目を集めました。
『予告犯』
新聞紙の頭巾をかぶった謎の男にが巻き起こす事件をいろんな視点から描いた生田斗真主演の作品でも、VR技術の一種・360度動画を用いたプロモーションが公開されました。
実在する中野区の商店街を舞台に、ワンカット5分で収録されています。
※視聴環境:パソコンでは「Google Chrome」、スマートフォンでは「YouTubeアプリ(iOS、Android)」のみ
VR映画を楽しめる施設が展開中!
VR映画を楽しめる施設も続々と増えています!
世界初!VR専用シアター「THE VIRTUAL REALITY CINEMA」
2016年3月には、VR専用の初の映画館「THE VIRTUAL REALITY CINEMA」がオランダのアムステルダムに開館されました。館内にはヘッドマウントディスプレイと360度回転椅子が用意されています。
今後は、マドリード、ベルリン、パリ、ロンドンなど欧州の主要都市を中心に開館していく予定とのこと!
インターネットカフェで楽しめる「VR THEATER」
http://interpia.ne.jp/vr/theater/
日本でも2016年4月7日から関東31店舗のインターネットカフェで「VR THEATER」のサービスがスタート。
第1弾として、2014年から各地で開催されている『進撃の巨人展 360°体感シアター “哮”』を期間限定で公開、視聴料金は600円です。
第2弾に『攻殻機動隊 Virtual Reality Diver』の公開が予定されている「VR THEATER」は、年内に1,000店舗展開を目指しているとのこと。日本でもVR視聴が身近になっていきそうですね!
みんなで楽しむ映画体験から個人で楽しむ映画体験へ
今回はVR技術によって変化しつつある映画の世界を簡単にご紹介しました。
変わっていく映画体験、わくわくしましたか? それとも、映画はみんなで楽しむもんだ! と感じましたか?
ちなみに、現在のスクリーンに映像を投影し、多くの人が一度に映像鑑賞できるようになったのは、1895年のリュミエール兄弟「シネマトグラフ」の発明によるものでしたが、それよりも前の1891年にエジソンがつくった「キネトグラフ」はスクリーンに映写されるのではなく、箱の中に映る短い映像を覗き見るという形式だったとのこと。
そう考えると、個人の映画体験をうながすVRは、エジソンの「キネトグラフ」にわずかながら回帰しているのかも!?……しれません。