第56話

遺す者と、遺される者たちの物語『女の子が死ぬ話』(※ネタバレ含)

けいろー


遺す者と、遺される者たちの物語『女の子が死ぬ話』(※ネタバレ含)

どもども。外部ライターのけいろーです。

一般的に「好きな漫画」と言えば、複数巻にわたって続く作品を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。さらに、ネットでよく目にする「おすすめ漫画ランキング」などを見るかぎりでは、少なくとも5巻以上のボリュームの作品が人気漫画として挙げられている印象があります。

もちろん、あまりに長過ぎると読むのが大変ですし、読者に飽きられてしまう可能性も出てきます。とは言え、ある程度の尺があってこそキャラクターに愛着が湧くのでしょうし、物語の波があってこそ、最後まで読み終えて、印象に残る作品となるのではないでしょうか。

だからこそ、1冊でひとつの物語を語り、うまくまとめきって、さらにそれを読み終えた読者に何らかの感慨を呼び起こさせ、記憶に残そうとするのは……かなり難しいのではないかと。かなりのインパクトが必要になりますし、読者の納得の行く形でまとめきる物語構成も大変です。

その点、今回ご紹介する1冊は「すごい」の一言です。1巻のみで完結している漫画作品。単行本1冊で完結している漫画もいろいろと読んできた覚えはありますが、その中でも特に印象深かった作品です。

(以下、ネタバレを含みます)

意味深な表紙と、ド直球なタイトル『女の子が死ぬ話』

51PGK5BvzvL._SX342_BO1,204,203,200_
女の子が死ぬ話(アクションコミックス)

まず、タイトルが『女の子が死ぬ話』ですよ? 全力でネタバレしているようなものじゃないですかー! やだー!

そして次の瞬間、こうも思います。「その“死ぬ女の子”というのは、この表紙の娘なのかな?」と。舞い散る花びらと桜は「死」の比喩に見えなくもありませんし、制服姿であることからファンタジーだとは想像しにくい。となれば、その白髪は「病気」によるものなのかしら……などなど。

ページをめくる前の時点であれこれと考えさせられる漫画って、意外と見当たらないんですよね。それだけ気になってしまえば必然、AmazonのKindleストアでこの『女の子が死ぬ話』をポチっていました。

主人公は「死ぬ女の子」ではない

本作を一口でまとめるならば、「遺す者」と「遺される者たち」の物語。前者は当然、表紙の女の子。後者は、死にゆく彼女の周囲の人間。その中でもメインとなるのは、幼なじみの男の子と、高校に入学して出会った女の子の2人となっています。

読み始めてすぐに驚いたのが、本作の語り部で主人公というのが「死ぬ女の子」ではなく、高校に入学して出会った女の子であること。主人公は高身長、色黒、体育会系ながら自分の容姿にコンプレックスを抱いていて、色白に白髪、病弱で小柄な「死ぬ女の子」とは対照的に描かれています。

かわいい女の子に憧れていて、褒められると素直に受け止められなくて、あうあう照れちゃう主人公。その様子はとても愛らしく、イケメンの幼なじみにコロッと惚れる感じは初々しくてたまらんです。

一方で、白髪で目立つ風貌のせいもあり、これまであまり周囲と打ち解けられなかった「死ぬ女の子」。自分が長く生きられないことを知りながらも、たくましくてかわいらしい主人公に好意を抱き、イケメンの幼なじみも合わせて3人で仲良くなる。ここから始まる、高校生の青春模様!

ドラマチックで感動的な展開? なにそれおいしいの?

ところがどっこい。仲良くなってから半年と経たずして、タイトルどおりに彼女はあっさり死ぬ。

おなじみの三角関係が始まることはなく、お見舞いに行くこともなく、亡くなるその瞬間まで病室で手を取り支え合うような感動的な描写は一切合切ないまま。主人公の知らないところで話は進み、最後にもたらされたのは、憧れた親友の死。ただそれだけ。

「タイムリミット」という余命をストーリーの根幹として、限られた時間をともに過ごしていくような作品は王道で感動的なものです。けれど本作では、主人公目線では欠片たりともそのような「過程」を見ることはなく、大きな盛り上がりもなく、容赦なく別れという「結果」だけが叩きつけられます。

断片的に病状の悪化などは示されてはいたものの、思っていた以上に唐突に死んでしまったので、主人公目線で読んでいた自分はポカーン状態でした。マジか、おい……と。

遺す者と、遺される者たちの物語

ここまでで、ちょうど全体のページの半分ほど。そして後半が本作のおもしろいところで、彼女の死を経た「その後」と「その前」が、順々に描かれていくという構成になっています。

まず、大切な人がいなくなった「その後」の物語。虚脱感に見まわれ、感情の行き場を失い、衝突する主人公と幼なじみ男子の2人の関係性。それがどことなく現実味を感じられるやり取りで、読んでいて胸にキリキリと迫るものがありました。結末としては無難というか、しっくりくる形には収まるのですが。よかったよかった。

え……ここで!? 一転する時間軸

そのまま「その後」と、さらにその先の「未来」が語られてハッピーエンド……かと思いきや、一転して物語の時間軸は「その前」まで遡る。語り部となるのは、死んだ女の子に替わるのです。

本作の最後で描かれるのは、死んだ女の子と、幼なじみの男子の物語。本来であれば、序盤で主人公を務めていた彼女との友情模様が繰り広げられてもおかしくなかった病院を舞台に、どうしようもない感情と、互いを想っているからこそやるせない、辛く苦しい問答が展開されます。

そこにはテンプレート的なお涙頂戴展開はなく、見えるのは結末が見えているがゆえの暗鬱たる空気と、ほんのちょっとの救いのみ。それが正しいのか、正しくなかったのかは物語中では言及されないし、そもそも「正しさ」とは何ぞやというところにまで思考が及びかねないほどに、モヤモヤがMAXになる展開でした。

もう半分くらいはネタバレしちゃってるので今更ですが、どうか最後の部分はぜひ実際に読んでいただければと思います。そして僕のようにモヤモヤするがいいさ! ふーははは! ……はぁ。

それでもひとつだけ、はっきりとした救いも用意されていることが、この作品を好きになった理由のひとつであり、また「漫画」という媒体ならではの魅力だと思います。祝福は、カバー裏にあった。

まとめ

この『女の子が死ぬ話』という1冊の漫画は、何よりも物語展開の「構成」が独特で印象に残った作品です。

言ってしまえば、タイトルどおり。それ以上でもそれ以下でもない話なのに、うまい具合に時系列と視点をいじることによって、読者の心情をあっちゃこっちゃへと揺さぶってきます。

1人の人間の「死」という重いテーマではあるものの、そこから炙りだされる複数の視点は他の作品ではなかなか読めるものではなく、新鮮に感じられるものでした。最後まで読み終えた人に、きっと何らかの感慨を残してくれるはずです。

例えるなら、口にした食べ物の後味に首を傾げるとか、歯と歯の間に何かが挟まっているような。じわじわと効いてくる毒のようなものであり、下手な感動話よりも響くものがある。いつまでもいつまでも耳に残響音が残るような、ちょっと切なく、だけど前向きになれる漫画です。

皆さんもぜひご覧ください。

けいろー
この記事を書いた人
けいろー

外部ライター

関連記事