南仏にいくなら〜!
「次はどこの国にいきたいですか?」
「え、えーっと……」
「南仏」
「お任せください」
はやい。わたしに選択の隙を与えない作戦だな。
いや、いいですよ、いいです。南仏もたしかに行ってみたいです。
だって南仏っていえば、コートダジュールとかでしょ? もし映画だったら、のんびりバカンスに来て「あ〜、仕事疲れたなぁ」と海をぼんやり眺めているのに、携帯がぶるっと震えて仕事の連絡がひっきりなしにきちゃったりして「もぅ、わたしにもリゾート気分味わわせてよー!」とか怒っちゃうキャリアウーマンならではのシーンあるでしょ絶対。
完成です!
ナッツさんの着ている花柄シャツもいい感じ。わたしが着たゆるいニットも、一点ものだそう。
南仏まできたのに着信がピロリロリン。「あ〜あ、どこいっても仕事から逃げられないのかぁ」とか思った矢先、後ろを通り過ぎたイタリア人がぶつかってきて、携帯が手から飛び出て、非情にも海へ……ぽちゃん!
「うそでしょっ!?」
「ごめん……(イタリア語で)」
ああ……どうしよう……仕事できない……。と佇むわたしに慌てて駆け寄ってきたイタリア人の彼。
「ほんとに悪かった……(イタリア語)」と覗き込んできた彼の瞳が淡い緑色で、一瞬で吸い込まれちゃうんですよ。
「あっ……」
「あ……もしかして……僕たち昔どこかで会いました?(イタリア語)」
って、ううんって首は振ったけどもう目が離せなくて、わたしたちは見つめあって、彼の手がそっと伸びてきて指先が頬に触れてアーッ!!!
「わかります! わかります! 最高です!」
「そういうのそろそろやめない?」
「すみませんでした」
ノルウェーにいくなら…!
「次はどこの国にしましょうか」
「う〜ん……」
「わたし、星が見たいんです」
「星なら日本でもいいじゃん。やっぱシティがいいよ、シティ」
「うるさい」
「星、いいですね! それではノルウェーなんかいかがですか?」
「最高、神」
北欧はきっと寒いはず。冬はオーロラが見えるくらいだもんね。そういうわけで、寒さ対策を一番に考えたコーディネートをしてもらうことに。
はいっ、完成です!
もしノルウェーに行ったら、星が綺麗に見えるところまで電車にガタガタ揺られていって、凍ってしまった湖の横に座ってあったかいココアを飲みながら星について語り合うんだもんね。それで、なんてことない言葉をポツポツと交わしたりしちゃって、あたりは葉っぱたちがこすれるような音しか聞こえないんだきっと。
そのとき、彼がなにか小さな声で言って、「え?」って聞き返した途端風が強く吹いて、「なんて言ったの?」「なんでもない」とかハニかんだりして。「え? なになに? なになになにー?」「もー、いいんだって。うるさいなぁー」とかってきゃっきゃしてたら、フクロウが「ホー」って鳴いて一瞬の静寂の間にわたしたちは言葉にできない何かを共有しあってそれで……
「最高ですね。いや、素晴らしい!」
「2人ともうるさいな!?」
「はい、大変申し訳ございませんでした」